これも皆様の応援のおかげです!!
どうもありがとうございました。そのおかげとして予定より早く書きあげました。
楽しんでいただけると幸いです。
血の気が引くのが分かった。
人間に見つめられ、パーツと見られ、心の内を逆に視られたような気分。
地面に下ろした視線を上にあげられず、地面とキス寸前まで近づいている。
「おやおやどうしたのかな?さとりちゃん」
全身を舐められるような気持ち悪さが声に篭っている。
逃げろ逃げろと全身が警鐘をするため身体を震わせる。ビクビク─ビクビク、陸に上げられた魚のように小刻みに。
そんな中でもアレは近づいてくる。
一歩近づくことに身体から滝のように汗が流れる。抜けた腰ももう戻ることは無い。
ニゲラレナイ
「それ以上行かせねぇよォォ!!」
龍が吠える。
その声に安心したのか身体の硬直が緩み、上へ顔をあげられる。
「大丈夫かさとり。ちっと待ってろよ、すぐ片づける──龍人化」
左右の手を胸元で交差させて呟く。その呟きに身体から光の粒子が漏れ始め、天高く上がっていき全身から粒子が出る頃には全身が変化している。
爪は長く鋭く伸び、腕から肩、首、顎にかけて龍の鱗が発生する。瞳には縦に金色の一線が入り、眼光は常時の数倍以上に鋭い。
歯は全てが牙のように鋭く変貌し、口から漏れる蒸気は体内の温度の高さを示す。
「素晴らしい!素晴らしい!あぁ今宵はなんていい日なんじゃ、こんないいパーツが転がっているなど」
「誰がパーツになるかよ、なるのはてめぇだ」
身を微かに屈め突撃の構えを取る。道満は笑っているだけで避けようとしない。
「ふッんん!」
地面を吹き飛ばす。
地面深くに沈んだ足跡だけを残し身体は光より速く加速する。普段であればこんな速度を出せば肉体は一瞬で肉片と化す。
だが龍人化した状態ではそうはならない。
龍が人間へと姿を変るのには利点がある。
巨体の時と比べ動きは速くなり、被弾率も回避率も上がる。
燃費が良くなり大量の供物をひつようとしなくなり、それこそ人間と同じ量で十分事足りる。
しかし、利点ばかりとはいかない。
殆どデメリットは無いが一つだけあるのだ、それは放出魔力量の低下だ。
例えならば龍の状態では太い筒に水を一気に流している状態であり、水の量は大量に流すことが出来る。
だが一度人間になればその肉体に収まるように筒のサイズは小さくなり、流れる水の量は激減する。そのため、人間体では本来の力を発揮できない。
そこを克服するために巌は肉体の一部を龍に戻す事により放出魔力量を格段に上げる事が出来た。
肉体の基礎防御力も上がり妖怪の中でもトップと言っていい力を得た。それでもオーフィスに挑んだらあっさりと負けてしまったのだが......
その話は相手がオーフィスであったからであり、人間相手であれば苦戦どころか余裕で潰すことが出来るはずだ。
「なッ─」
「きしししし、勝ったと思ったか?残念じゃな...その程度小指で十分」
渾身の一撃を苦もなく小指一つで止めた。
ありえない。そんな事を考える暇なく地中から触手のような物が腕を切断する。
空に飛び上がる右腕に咄嗟に反応し噛み付いて、後方へエクエス達の元へ戻る。
腕を切断した気色の悪い化け物を睨みつけながら、切断面同士をくっつける。
「巌大丈夫か?」
「ぺっ...問題ねぇ。こんな屁でもねぇよ」
「そうか......ならいがみ合っている場合ではないな小娘」
「なんだと、どういう事だ!」
巌の働きにより二人も肉体硬直が解け自由に動き回れるようになる。
現戦況を鑑みるにこれが最優の手だろうと、意識を外した瞬間に殺そうと剣を構えている少女へと声をかける。
突然声をかけられた事に驚いたのか声を荒らげながら聞き返す。
「このままで居れば四人とも、あそこの人間のように殺されるぞ。それではお前の復讐は叶わんぞ?」
「だったら今ここで殺す」
「ならば、俺はあそこに突っ込み死ぬがいいか?」
復讐に取り憑かれた少女に自身の肉体を人質に交渉という名の脅しをかける。
その答えに苦虫を噛み潰したような表情を取り、俯いて肩を震わせること数秒...覚悟を決めたのか顔を上げ剣先を向ける相手を変える。
「...い......だ」
「ん?」
「今だけ協力してやると言っている。全てが終わったら貴様の首を掻っ切ってやる」
「いいだろう、首なしの私の首を掻っ切れる物ならな」
「うるさい」
今まで向き合ってしかこなかった二人は始めて肩を並べ一人の敵と向き合う。
「気をつけてください。後ろのあの化け物は生きた妖怪の集合体です。下手に切れば死んでしまいます」
「めんどうな事してくれたなあいつ!」
くっついた切断面から煙が立ちがあり、接着待ちをしている巌はさとりの説明に怒りを露わにした。
エクエスが自身の肉体を人質に取ったように、道満は大勢の妖怪達を人質に取っている。そのくせ人質はこちらを攻撃してくる。
倒すに倒せない邪魔がいるのだ。邪魔くさくて仕方が無い。
「なるほどな、となれば分かっているだろう小娘」
「指図をするな妖怪風情がァッ!」
「全く血気盛んな小娘な事だ!」
頭をさとりに持たせてから動き出したので、少女のスタートから少し遅れて接近する。
「うがァァッッッツ!」
狂戦士は三度唸る。目に理性はなくあるのは殺意のみ。
背筋が凍る殺意を全身に浴びる少年は微笑む。まるで子を包み込む母のように。
だからなんだ。罠があるのか?カウンターがあるのか?そんな物関係ない。出来るのは剣を振るうことのみ、それが出来なければ私の価値は無いのだから。
胸元にある三種の神器が一つ【八尺瓊勾玉】が紅白い輝きを放つ。
【八尺瓊勾玉】の効果はその土地の恩恵を受けることが出来るもの。地脈と繋がり霊力を高めるのが本来の使い方だが、この場所においては違った。
妖怪達のみに授かるはずの祠の恩恵をシエルは人間でありながら受け取っていた。
そのおかげでエクエスとの殴り合いでも不死身のような立ち上がりを見せ、自身より強くなっていたエクエスに喰らいついていた。
【蛇腹剣】には全身の霊力が込められ防御を捨て諸刃の剣の一撃だ。
「あの子を狙えないならワシを狙うと...いい判断だが、いささか考えが甘いぞ!」
防御の失った少女を見逃すはずもなく影に霊力を込め四本の刃と化して切り返す。
鋭い影が少女に接近するも避ける素振りひとつ取らない。それは無謀のように見えるがある確信があるからだ。
「まったく使い方が荒いな!」
四本の影刃はエクエスの一薙に容易く四散する。
それはいがみ合っていた者達から考えればありえないコンビネーションだった。
そもコンビネーションをす戦闘で行うには何十年も一緒に特訓を続け、相手の癖・性格・能力を理解して尚且つ信用しなければ生まれるはずがない。
熟年のコンビでも失敗する事は多く、成功する確率はかなり低い。だが、この二人は違った。
─私の標的ならばこのぐらい余裕。
─小娘ならばこうするだろう。
いがみ合い研究に研究を重ね続けた二人だからこそ、相手の実力だけは信用し安心して背中を預けられている。
見事という他にない完璧なコンビネーション。攻撃を防がれた事に驚き回避が遅れた少年に刃が─
突き刺さらない。
【蛇腹剣】は根元からへし折れ、手にはまるで鋼鉄に素手で殴ったような重さが残る。
「きししししし、言ったろうに...その程度勝ったつもりかとのぅ」
再び影の刃が切りつける。
今度は四本などと少ない数ではなく、数えるのすら馬鹿らしくなる量だ。
捌ききれないそう判断したエクエスの動きは迅速で、シエルを抱き抱え護るようにし影刃を全身に受ける。