そして、遂に第一章がこの話で完結しハイスクールD×Dらしい現代へと移ります。
しかし残念なことにここから先オーフィスさんの影が薄くなり、サブ主人公が主人公ばりに主張を始めると思いますのでご了承ください。
陰陽師兼芦屋道満襲撃事件から三日が経った。
一つの山は植物の生えない死んだ土地と化し、妖怪の中にも多数の被害者が出ている。それでも幸いなのは大妖怪の中に死者はおらず、絶滅したと思われていた九尾などの少数妖怪を救えたところだろうか。
されど、あの惨劇を見た妖達の心の中は穏やかにはなれず、戦争の惨さを改めて思い知らされたのだった。
「しかして、妖怪の肩身は未だ狭しか」
妖怪全てを束ねる位置に座っている朧花はこの日までの疲労を飛ばすために酒を大量に飲み干していく。すでに十個以上の容器が転がっているのだが、その程度ではまだ満足には程遠い。
それも仕方がない。なにせ、この日までいくつもの問題が積み重なっていたからだ。
妖怪達にとっての宿敵とも言える安倍晴明の合流に、大量にいる中でどこの誰が死んだのかの確認、食糧難や備蓄不足などなど今後に生きていくのに重要な事柄が一気に押し寄せてきた。
その半分をどうにか片付けこうやって酒を飲む時間短い時間をしっかりと堪能しているのだ。
「う、ぅ...ここは」
「やっと目覚めおったか」
眠気を含んだ声を上げたのは布団で横になっている巌だ。
顔は僅かに艶やかで服は下着以外何もつけていない。その鍛え抜かれた厚い胸板が、窓から差し込む星の光に照らされ輝く。
襲撃時に受けた傷は初めから無かったように消失し、切られた腕は見事にくっっている。
自身の復活した腕を眺めながら眠い目をこする。
「どんぐらい寝てた」
「二日だよ二日。あまりにもぐっすりなもんだから、ほれ」
朧花は自身の頬を軽く小突いいてアピールする。
最初は首をかしげていたが自分の頬を触って初めてそのメッセージに理解した。二日間も寝ていたせいか口元が緩くなっていたらしく、ヨダレが垂れていた。
慌てて両手で拭い何も無かったかのように朧花に視線を戻す。
「そんなに寝たのいつぶりだよ」
「お前が初めてここに来た時じゃないか?」
二人はあの日─初めて出会った数百年前を思い出す。
巌が初めてこの山にやってきたのはまだ朧花が産まれて十五年経った頃だ。当時朧花は神童ともてはやされ周りから期待を集めていた。
戦闘ではまず負け無し、妖をまとめるカリスマ性あり、頭もよくすぐに切り替えて行動できる。まさに妖のトップに相応しい妖怪だ。
だからこそ、飽きていたのだ周りの期待に。誰も自分の理想についてこず、理解しようとせず、ただおだて持て囃すだけだった。
そんな少年時代を過ごせば当たり前のように性格は拗れ、周りに一切期待をしない少年になる。
『おーい何か暇そうだな』
『暇じゃない』
『そうかそうか、よしやろう!』
『話を聞け』
第一印象はお互いに最悪。
しかし、この後流れるように戦闘が始まりそこで互いが互いを意識するようになる。
龍という妖怪の中でも絶対的な力を持つ希少種。
妖怪の中でも歴代トップの天才。
その二人は互いにライバルだと認め、最強の親友と定めた。
戦闘は三日三晩に及び結局引き分けで終わり気絶するように二日間も寝た。
「懐かしいな」
「全くだ」
恥ずかしくもあり忘れられない夢のような一時。そんな日いらい久しぶりの二人での対話の時間かもしれない。
「そう言えばどうやって治したんだ?俺そこそこ耐性有ったと思うんだが」
「それなら心配いらない。自然回復待つのも癪だったからな、地脈を強引にねじ曲げてお前に集めたからな」
いとも容易く言っているが地脈をねじ曲げるなど普通にやればその土地自体が消滅してしまう。
だが、紫に安倍晴明。普通とは外れた規格外達の協力により被害ゼロでねじ曲げ、龍の巌へと地脈の魔力を当て傷を治した。
小竜や弱龍などは普通に治す事ができるが、ある一定以上の龍になると種類によって多くの耐性がつく。巌も例に漏れず耐性が付きそれは、他者からの状態異常への耐性だ。
そのため回復などかけられても治せるかはかけた者の実力次第となる。そんな彼だが否応に治す方法がたった一つだけある。それが全ての生命の生みの親─地脈へ繋げること。
地脈が先に生まれたのか地球が先に生まれたのか定かではないが、それでも地脈があったからこそ生命が誕生したのは事実であり、現に巌が治ったのだから万々歳だ。
「死んだらどうすんだよ」
「お前が死ぬ?ありえないな。お前は俺より長生きする気しかないよ」
「はっ、絶対俺の方が長生きしてやるよ!お前の死に様笑ってやるわ!!」
「「くくくくはははははははは!」」
二人はこの罵りあいも懐かしいと顔を見合わせて爆笑する。
笑い終わるとすぐに巌が酒を水のように滝のみし始め、負けれるかと朧花が後を追う形で飲み始める。
勝負は二時間にも及び、最初から飲んでいた朧花が負け顔をトマトのように赤く熟させる。
「ずいぶんとぉぉ弱くなっぁたなぁ」
「うっせえ」
つまみに持ってきていた干しイカと肉は無くなりそろそろお開きにしようかと朧花が片付けを始めながら口を開く。
適当に返事を返し何を考えるでもなく、ただぼーっとしているとある事を思い出す。
「そう言えばオーフィスはどうしたんだ、二日間寝てたから会ってない訳だが」
「...そうだったな。お前は今起きたばかりで知らないんだったな...」
朧花の言葉に何処となく虚しさが混じっているように感じていた。
◼◼◼
妖怪の大事な場所とされる祠にて、二人の影が薄暗い火に影を揺らしている。
ひたすらに奥へ奥へ足を進め、途中二つに道が別れるも男の方はさも分かっているかのように戦闘を進む。
そして、祠に入ってから数時間。やっとその最奥へとたどり着いた。
そこは大きく円を描いてくり抜かれていて、天井の方に伸びる光を闇が喰らってしまう底なしの闇が天井にいる。
二人は向き合い頭を縦に降ると中心へ向けて歩く。
中央に
祭壇であろう台座には金や赤の装飾が施されていて、その上に鎮座している黒い宝玉。これこそが二人が探し求めている代物である。
「ありましたね」
「口伝や古文書を読み解いて推測したのだもの、無い方がおかしいわよ。で、貴方などう感じるの?博麗さん」
嫌味ったらしく博麗と言われた旧姓安倍晴明はあんたが決めたんだろとアイコンタクトを返す。
源姓博麗清明とし、妖怪達の中にも打ち解けかけている。
ふっ、紫はあまりに子供じみた返答に鼻で笑うと清明は舌打ちを返す。
「あら?」
「どうした?」
「......まぁいいわ。こんな所長居しても気分が悪くなるだけ」
「それには賛成だね。邪気が高すぎる─大妖怪クラスでは無いと妖怪でも耐えられそうにない」
「そうね、ならここは侵入禁止にしましょうか」
扇子を軽く振って開き笑う。その表情─紫の本性を知る清明に取っては寒気がしてしまう。
多少言葉を投げかけ合いながら祠から出て、新鮮な自然の空気を大きく吸い込む。
祠のように空気は重くなく、出た瞬間から一瞬で空気は軽く温かくなる。
「ふぁ...眠いな」
「寝てもいいわよ?ちゃんと守るから」
「その守るが怪しすぎて眠れないよ」
明朝から強制的に拉致され連れてこられたせいで清明の眠気は高まるばかりだ。それに、前日に色々とナニをしていたので余計に眠気は強い。
襲撃後生き残った清明とシエルは付き合うより早く結婚をする事になった。二人が愛し合ったと言う側面もあるが、実際は紫が後押しをしたことが大きい。
襲撃いらい我関せずだった妖怪達の思考はガラリと変わり、人間と敵対したくない、死にたくない。
簡潔にいえば争い事を避けたいと意見する妖が増えていった。無論大妖怪達もその事に乗り気であり、どうにか人間と共存していく方法は無いかと模索し、人間に慣れてもらうため住処の中に人間達の村を作り慣れようと言う新たな作戦が建てられた。
その作戦の根幹は幻想郷プロジェクトであり、現在製作中の清明と紫が何とかするために奔走し疲労が溜まりに溜まっている。
「あともう少し...やはり結界を何とかしないとな」
「頑張ってちょうだい、私は私で色々するから」
「了解。正直もう一人ぐらい人手がな」
「無理よ、私達についてこれるのは他に言えばお母様だけ。けど、お母様はもういないのよ」
紫は悲しそうに言葉を吐き出す。それに同調するように清明はだよなと返す他なかった。
日付は一日前の襲撃後に戻る。そう、そこでは一人の幼女が頭を悩ませながら布団でゴロゴロしていた。
『ワシは序章にしか過ぎん!』
『貴様の身体を狙う者は数多くいる』
確かに芦屋道満はどうにかなったがその全ての元凶はオーフィスなのだ。
山で放った魔力攻撃により、安倍晴明と芦屋道満が反応し襲いかかってきた。もしそれが無ければ─いやそれは
重要なのはここに居ればまた敵が来る可能性があるという事だ。
──それだけは嫌だ。今やっと妖達は立ち上がろうとしているのに、それを壊すのは嫌だ。
この先の選択肢は少ない。このままここに残るか出て行くかの二択。どちらを選んでも茨の道なのは揺るがない。
けど、どちらの方が特かそう言われたら......
「お母様どこかへお出かけですか?」
人工的な明かりは蝋燭の火だけで淡い光に照らされた夜道を一人歩いていると、背後から愛娘が心配そうな声をかけてきた。
「大丈夫も─」
「いいえ。心配です...お母様の顔がそんなに悲しそうなんですから」
言われて気づいた。
誰にも合わず出ていくのならば狭間を使えばいいのにそれをせず一人夜道を歩く。多分誰かに止めて欲しかったのだ。
人知れず出ていけば自分の存在が消えてしまう。そんな錯覚をしていたから。
不意に水滴が目元から流れ落ちる。
空を見上げるも雨は降っていない。降っているのは心の雨だ。
「お母様」
「大丈夫...我...決めたから......出て行く...ここを」
「だっ......分かりました。こっちは私が何とかします、それとたまには顔を見せてくださいね」
「うんわかった。ありがとう─紫」
娘の記憶の最後に泣き顔を残すわけにいかない。男の心であっても紫にとっては偉大な母なのだ。
だからこそ泣き顔なんて無様な物を残さず、屈託ない満面の笑みで返す。
紫は今すぐにでも泣き崩れたいが母の前でほんな無様な真似は出来ないと、歯を食いしばって無理やり笑う。
頬がひきつりわざとらしく見えてしまうかもしれない。それでもそれしか紫にできることは無いのだ。
オーフィスは最後に軽く見てまわろうと狭間を使わずに、歩いて別れることにし身を翻し闇へと身体を溶かしていく。
「あぅ...ぁ゛ぅ゛ぅぅ...うう゛ぁぁぁぁ」
オーフィスの身体が完全に見えなくなった所で膝から紫は崩れ落ち、声を抑えながら年齢そのもののように泣き出した。
一時間かけ一通り見終わると離れたくないと言う気持ちも強くなったが、この世界を壊したくないと切に願う。意思は強固に石のように硬くなる。
「バイバイみんな」
「ほほう、家出娘が何をしているかと慌てて探していたが...くっくくく随分と楽しんでいたようだなオーフィス?」
山にお辞儀をして挨拶をしていると背後からとてつもない量の
「誰」
「誰か...随分と他人行儀だな、昔はあんなに挑みかかってきたと言うのに」
全身を白装束で覆い、両手首足首から赤い龍が心臓に向けて伸びる刺繍が施されていて、夜ながらも赤く紅い真紅の髪をかきあげながら、過去を楽しそうに語る。その表情にはどこか後悔があるような気がした。
されども男の歩─一歩一歩が恐ろしく鋭い抜き身の刃が肌に刺さるような錯覚さえしてしまう。
ゴクッ。
今まで感じた事の無い感覚に身を震わせ、自然と上がってきた唾を飲み込む。
「さぁせっかくの再開だ...こんな野暮な所じゃなくて楽しい所に行こうか」
両手を正面で合わせ小さな音を鳴らす─刹那、世界は狭間に侵食されていく。
オーフィスのように人が通れる小さいサイズではなく、山すら飲み込む大きな狭間が侵食する。
あまりの速度に回避不能。慌てて狭間を作ろうにも、狭間の中に狭間を作ることなど不可能だった。
「忘れているようだから言っておくが、狭間は私の世界だぞ。このグレートレッドのな」
男は両腕を広げ高らかに宣言する。
オーフィスの無限とは違うもう一つの夢幻グレートレッドの名を。