その流れでオーフィスはフェードアウトしました。
今回の章では一人の少年の成長と経験。新たな出会いに強者との闘争。
オーフィスが関わった事により史実とは違った未来を辿ることになる少年のお話となります。
時々オーフィスが出てくるのでタイトル詐欺だ!とはならないと信じています。
一日目~夢の地へ冒険をⅠ~
平安時代ははるか昔。年号は平成と呼ばれる二○○○年に突入し六年が経過した。
妖怪とはファンタジー御伽噺だけの存在となり、陰陽師も昔ほどの力はなく小さな悪霊を払う程度しか出来ない。
時の流れとは残酷であり木々がなぎ倒され高層のビルやコンクリート製の建造物が至る所に建てられた。自然は見る影も無くし都会で雑草や景観用の木しかない。
その中の一つ駒王町にて一人の幼女が高級なスーツに身を包んだ男にアイアンクローされていた。
「痛い」
「そりゃな痛くしてるからな...もう少し強めるかぁ?」
アイアンクローされている幼女はオーフィスと呼ばれる無限の龍神である。
平安時代において妖怪達と暮らし平和を守るため奮闘したりした人外。されど昔の話であり今はだいぶ変わっている。
八重歯をギラつかせる男─グレートレッドは常のイライラを晴らすためにより一層力を強める。
メシメシ骨が軋む音がするが、お構い無しにどんどん強くしていく。
「二人とも落ち着いてくれ。これじゃあ安心していけないよ」
「だな。いくら心配性だからってよ、俺達子供だけど子供じゃないぜ」
二人の痴話喧嘩に似た何かを見せつけられていた二人の少年は口々に訴える。
歳はわずか七歳なのだが、口調や漂わせる雰囲気は大人と大差ない。堂々と立つその姿は歳を歳と見せることは無い。
その上服装が独特であり、黒のワイシャツに黒のロングズボンを着ていて、灯りが無ければ闇に完全に溶け込んでしまう。
かたやもう一人は自身の身長より長い真紅の槍を肩に乗せ、紫のライダースーツに似た何かを着ている。
「そうだな、今はこれでおしまいだオーフィス。曹操とクーフーリンに感謝しろよ」
「うぅ......」
曹操と呼ばれた少年はオーフィスの反応に苦笑いを浮かべ、リュックに詰めるだけ詰めた荷物を背負う。
クーフーリンは真紅の槍を亜空間に収納し、動きやすくしてからこちらも色々なものが突っ込まれ丸く膨らんだリュックを背負う。
「あちらに一応協力者がいる。何かあったらそいつを頼れ」
「はい」
「それじゃあ生きて帰ってこいよ二人とも」
「おう」
「任せてください」
グレートレッドは二人に檄を飛ばしその反応に満足すると、オーフィスの首根っこから掴みあげ前へ突き出す。
猫のように全身伸びきり首が消えたオーフィスは、また二人が帰ってくる事を信じ言葉を投げかける。
「いってらっしゃい」
「「いってきます!」」
声高らかに返答し小さいながらも大きな胸を張って外へと飛び出していった。
■■■
京都の妖怪の山を出たオーフィスはグレートレッドに誘拐され次元の狭間に戻される。
しかし、すぐに気づいたのだ─オーフィスの魂の不自然さに。
その眼は全ての真実を見抜く。
無限の魂にあるのは人間のそれと同等の弱い魂。飲み込まれていない方が異常な不安定さを内包していた。
「お前何者だ。オーフィスだがオーフィスではないな」
「ん、我はオーフィス。けどオーフィスじゃない」
誤魔化しようがないと瞬時に悟り自分の身に起きた事の全てを話した。
異世界や神による転生と信じ難いことまみれだが、オーフィスの現状がそれを真実だと物語っている。
否定の余地は無いと頭を縦に振り告げる。
「なら俺も手伝おう。どうせ暇してたからな」
後に分かる事になるが、グレートレッドはちょっかいをかけて来たオーフィスが突然消えて寂しくなって探しに来たらしい。
夢幻は孤高の存在であり、唯一無二の存在。
目には目を歯には歯をと日本の諺にあるが、それは正しく夢幻には無限でしか相容れない。一つだけ例外はあるが。
そして、そこから行ったのは人間に溶け込むとともに大きな権力を手に入れる事に他ならない。
外国では大陸続きとなっていて侵略・戦争が絶えないが、現状の日本は僅かに違う。
他の大陸と隔離された島国であり、江戸時代には他国との関係を断ち切る鎖国を行ったりしていた杞憂な国だ。だからこそ日本で権力を高めてようと動いた。
日本が将来どのような未来を辿るのかは、人外が下手に干渉しなければ史実通りなので、金を多く手に入れるタイミングや力を伸ばしていく時を見誤らずどんどん成長した。
結果、日本の企業の三分の一の権利を持つ大企業になり、外国にも手を伸ばし始めている。
そんな折オーフィスは一人の少年と出会った。
親から気色悪いとサンドバッグのように殴り蹴られ、生きる希望すらないる
その少年を救った事から始まり彼ら専用の孤児院を作り、多くの子供達の将来を変えていった。
「ふぅ...確かこのような感じだったか」
自分の家族が住んでいる孤児院“天童園”の生い立ちなどを思い出しながら、移動の暇な時間を潰していく。
いつもならば読書をしているのだが生憎と本を全てバックの方に入れてしまい、今は手元にないので一切することが無かった。
「むにゃむにゃ......もう食べられねぇよ...」
隣では親友のクーが呑気に熟睡している。
あまりに見事な寝顔に殴ってやろうかと考えすぐに頭を振って心を落ち着かせ、次に目的地の事を考え始める。
今向かっている先は魔術師達の聖地とされる時計塔のあるロンドンだ。
人間ながらも人外に対抗出来る者達こそ魔術師と呼ばれ、日本で言うところの陰陽師に近い。魔術と陰陽術は形態が違うのでまるっきり一緒ではないのだが、大まかに観れば一緒と言えなくもない。
二つの大きな相違点とは血の重要性である。
陰陽術は血の有無に関係なく、努力すればある一定のラインまでの力が手に入りそこから先は才能による。
魔術は血が重要であり、歴史を重ねた貴族と呼ばれる者達がより強い力を得られ、歴史の浅い血では何かの要因がない限り原則として弱い。
この事から分かるように魔術師は血に絶対の自信があり慢心などをしているので、そこをあまたの人外達が魔術師食料とするために生息している。
「ふむ、確かすこし前にテロがあったはずだ...それならばこの人の少なさにも納得か」
辺りを軽く見渡せば多くの空席が目立つ。いつもの機内ならば満席に近いはずなのだが、数ヶ月前に起きたテロによりロンドンへ向かう人は少ないようだ。
「まぁだからこそ俺の力が試せる」
まだまだ小さい手を握りしめ過去の過ちを悔いる。
曹操は家族を悪魔に奪われ怒りで眠れる力を覚醒させてしまった。
その力は絶大であり魔に属する物ならば、まともに切らなくても掠らせるだけでも大ダメージで、敵によっては即死に至らしめる事が可能だ。
その上、中国の偉人たる曹操の
その力を持って両親を奪った悪魔は一時の生存すら許さず、復讐を果たす。
復讐は終わった。が、それでと虫の居所が収まらない。
なぜ、ただ暮らしていただけの両親が殺されなきゃいけなかったのか。
なぜ、殺したやつが殺される瞬間に命乞いをするのか。
なぜ、悪魔を殺したのに罪悪感に押しつぶされそうになるのか。
当時の幼き頃ではまだ判断しきれなかったが今なら分かる。あの日あの時に■■■と呼ばれる少年は死に、曹操が闇に染ったのだと。
『搭乗のお客様にお伝えします。この便はまもなくロンドン・ヒースロー空港に到着致します。シートベルトをしっかりとして待機してください』
「やっとか」
機内に鳴り響くアナウンスによって知らされ、近づくロンドンに向け鼓動が早くなる。
闇に落ちた俺を救ってくれたオーフィスのために一人で生きいけるのだと、もう道を踏み外さないと誓うために挑戦する。
この短いが濃厚な七日間をロンドンで過ごすのだ。