今日の午後以降に後半を投稿します。
倒れてから数時間が経過しようやく意識を取り戻した。
恐怖に震えていた身体はしっかりと落ち着き、目眩や吐き気なども全て治まっている。
「く、ここは」
ゆっくりと上半身を上げながら記憶をたどる。
数秒もすれば何があったのか思い出す。あの闇の事を。
過去の思い出なのだが、考えれば手が震え始める。未だに恐怖は抜けきれていないのだ。
震える両手を握り合わせ深呼吸をする。そうすると、精神が徐々に安定していき震えが治まる。
「起きた?」
「ひっ、」
耳元で聞こえてきたのは恐怖の元凶である幼女の声である。
他人の心を読むさとりの今のさまは心を読まなくても分かるほどに表に出ている。覚妖怪にしては情けない限りであるがそれも仕方が無い。
その事にすぐ気づいたさとりは慌ててポーカーフェイスを取るが全てが遅い。
「な、なっんでちゅか」
追い打ちをかけるように噛み顔がゆでダコのように赤くなるのが分かる。
「落ち着いて喋った方がいい、それとも席外す?」
アンは小首をかしげながら真顔で聞く。
それに、口で答えるのは不味いと首を物凄い勢いで左右に振りゴキっと痛々しい音が鳴る。
首を両手で抑え下半身に上半身を埋めるように悶える。
今までの事から分かるように実はさとりはかなりのドジっ子であり、いつもはカッコよく大人の雰囲気を作っているが次第にこうやってボロが出始める。
「かなり気絶してたから身体が鈍ってる。もう少し寝てた方が」
「どれぐらいですか!」
痛い首を無視し幼女に飛びつく。
「太陽があっちに向けて動いた」
指を指した方を向きすぐに大まかな時刻を推測する。
山を降りここに来たのが太陽が頂上につく少し前ほど、となるとアンの話が本当ならば既に昼の時刻は終わり夕刻へのカウントダウンを始めている。
本来この仕事は午前中に終わらせさっさと帰宅し、最愛の妹とご飯を共にするはずだったが、今はそんな時刻とっくに過ぎている。
「急いで帰らなければ!」
身体にかけられていた掛け布団を弾き飛ばし立ち上がろうと足に力を込めるもピクピクするだけで、一向に力が入らない。
急いでこいしの元へ帰らなくちゃ!あの子料理が出来ないのに
頭は必死に足へ向け指示を送るがやはり動かない。いっその事這ってでも帰ろうと考え始めた所でアンが助け舟を出す。
「我の背中に乗る。我がかけた迷惑、我が責任を取る」
アンはさも心が覗かれていたのが分かっているかのような口調だった。
バレている......やはりかなりの規格外。到底私たちの手で負える代物ではない。ですが、伝えることも叶わない...いやまずそんな事より帰宅を...
小さい脚を折り背中をこちらへ向けて待っている。
「けれど迷」
「大丈夫我に任せて」
崖もない胸を右手で叩きエヘンと言いそうな表情になる。
全てバレている可能性は高く、どう転んでもいずれ住処がバレるのも確定的だ。
今まで必死に考えていた言い訳は無駄と化し、諦めの息を吐いてから大人しく小さな背中へ乗る。
それに、森の前で返してもらえば何事も問題はないだろうと考えたからでもあった。
徐々にこの身体に魂が定着し始めたのか幼女を一人背負っても身体は重くならず、逆に軽すぎるほど
──にしてもさとりちゃんには迷惑をかけたな。あの腰周りにあった眼?よく分からんけどアレで見つめられた後にすぐ倒れちゃったからなぁ......本当に申し訳ない。その事について謝りたいけど、アレ何なのかわかんないから説明の方法がなぁぁ。
意外ではあるが、あの時初めて対面した時には腰回りを浮かんでいる第三の目を知覚していたのだ。
一つの眼球にそれを覆う瞼の代わりをしている謎の膜。そこから身体にくっつくように伸びている四本の触手。
色までははっきり見えないものの姿だけはバッチリ見えている。
今もなるべく当たらないように調整していて、胸部付近に漂う眼球がかなり気になって仕方がない。
「ここ右?」
「はいそうです、そこを右に」
どんどん加速していく脚は十分も経たずして森前へ到着する。
「ここまでで大丈夫です」
「ほんと?」
「はい、このようにどうにか立てますから」
強引に背中から飛び降り、生まれたての子鹿のように足を震わせながら返答する。
─いや、全然安心できないよ
その姿を見てロリコンマスターである俺が納得するとでも?否だ。それは断じてありえんぞ!!
首を横に一二回振り否定の意を表す。
「ダメです。本当にダメ」
必死に手を振り拒絶するもアンは言うことを聞かず、首を横に振るばかりである。
終わりの見えない問答を繰り返し始めた時だ、さっきまで静かだった森がざわめき始めたのは。
木々が風で大きくしなり、しまいには悲鳴をあげるようにギギギと音が聞こえ始める始末。
「まずい、彼女が来てしまった」
森の様子を見てさとりは瞬時に彼女が来たのだと察知する。
その予想は見事的中し、森の奥から一人の少女がゆっくりと歩んでくる。
風で靡く白く透き通っている髪。
夜闇で獲物を狙う狼のように眼光は鋭く、綺麗な顔には似合わないほど歪んでいる。
人間?と思ったがすぐにその意見は否定される。
頭に付いている狼のようにピンと立っているフサフサで尖っている耳に、威嚇しているのか逆だっている腰についてる尻尾。
人間とはかけ離れた姿を持ち、右手には椛が大きく模様されている小さいまん丸の盾。左手には鈍く輝く日本刀よりククリナイフのような特殊な形状の刀を所持している。
「貴方が目標ですね...排除します」
「待っ」
止めようと脚に意識を集中させた途端その場に崩れ落ちる。完治していなかった脚がこの時に限って悪化したのだ。
その隙に少女は脚に力を込め切り込む。
閃光が走る。
アンの視界から突然少女は消え、気づくと背後に現れ突然頬に小さなかすり傷が浮かぶ。
何が起きたのか理解する間もなく少女はまたも消える。
「ふッ!」
「まずい、目を目を防いでください!」
「うん」
倒れているさとりから指示が飛びその通りに目を両手で覆う。
ちっ、舌打ちが聞こえたような気がしたが風が吹きあれしっかりと聞くことが出来ない。
今度はゴスロリ服の特徴でもあった肌の大きな露出により、防御力皆無な右の二の腕に小さな線が走る。
肌は少し血で滲むも何事も無かったかのように傷が一瞬で消える。無論だが頬の傷も同様だ。
「再生能力ですか、やっかいですね。それよりもどう言う事でしょうかさとり様、なぜ妨害を?」
「ダメです!彼女は刺激していい存在ではない」
「そうですか。なるほど理解しました。が、だとしても私の目的は変わりません」
倒れているさとりに向いて話していたが、アンの方には隙は一切見せず依然として狙いを定めている。
さとりは自分の動かない脚に苛立ちを覚えながら、大声でどうにか止めようと説得を試みるが彼女はもうすでにさとりの声を遮断したあとだった。
「さて、突然の事で悪いのですが死んでもらえますか?」
「何故?」
「貴方はいちいち草を踏むのに理由がいるのですか?」
「拒否権なし?」
「えぇ当たり前です。それが私の目的でもありますので」
淡々と言葉を返す。まるで機械と会話しているようであり、感情を一切感じられない言葉ばかりだ。
左手を少し曲げ剣を地面と垂直に立て、二撃目の体制に入る。
「我戦闘の意思はな」
「問答無用!!」
質問に返答は返さず今度は突きを放つ。