一晩があけ前夜の祭りが嘘のように出店の片付けは完璧に終わり、いつもの静寂が戻りつつあった。
それでも旧城の跡地では河童の妖怪が総指揮を取って修繕に励み、木の切る音などが森中に響き渡っている。
そんなおり、白髪を怒りに揺らしながら廊下を駆け足で歩む椛がいた。
「あやや?どうしたのですか、そんなに急いで椛ちゃん?」
「文様。今はお馬鹿二人のお叱りの時です」
腰に生えた一対の黒い羽を羽ばたかせながら空に身体を寝そべらしながら、椛の上司たる射命丸文は気だるそうに声をかける。
一見大天狗に思える風貌ではあるが別の種族である鴉天狗なのだ。
そんな彼女だが、昨日の宴の時には実の父親が椛を見捨てようと発言した事を知り、説教という名の喧嘩をしていた。
そのせいでいつもは行き届いている髪や服が少し乱れている。
ピンと上にはねた髪を手ブラシで直しながら椛の後を続く。
怒りにまかせ廊下を踏んでいるので一歩進む事に木が軋み悲鳴をあげる。そんな事お構い無しに進み閉じられた障子を吹き飛ばす。
「何をやっているんですか?」
「何って...しゃけにきまれるらろ?」
前に吹き飛ばされた障子は小窓を突き破り外へ飛び出る。その際に床に転がっていた大量の酒瓶を粉砕し、畳一面をガラスの破片で埋め尽くす。
元の数が以下ほどだったのか、そんな事分かりはしないがこの惨状を見れば一目瞭然だ。
当主たる風格の一切ない朧花。服は一番下の白の布地だけであり、それも酒を浴びていて地肌が透けている。
オーフィスは服の異変は何も無い。が、それ以外の変化が著しい。
「げふっ...椛何してる?早くこっヒック...ジャンケンを」
自分の手と同じぐらい長い酒瓶をラッパ飲みして飲み干し、口の横から酒が流れ落ちる。
呂律はかろうじて回っているも、明らかに様子がおかしい。言葉が支離滅裂で理解が一切できない。
酒蔵から相当数無くなったと聞いて不安になってきたが...まさかこうなっているとは。休日なのに出勤することになりそうです。
一体何を呪えばいいのか。休みを堪能することなく終わりそうな短い休日に別れを告げる。
「さて、何をしたか分かっていますね」
「何?我ジャンケンしてただけ。ジャンケンぽい...我の勝ちヴィクトリー。ところで今日のパンツは何色?」
「く...そうですか。えぇ分かりました......いい加減に目を覚ましてくださいィッ!!」
酔いが覚める気配のない二人の頬にビンタをかました後、すぐに背を向け出ていく。
叩かれた二人はその場所を触れながら畳に座り、消えいく背中を眺める。
「随分とらしくないですねー。あの豪酒で知られる朧花さんが、こんな簡単に酔うなんて。それに龍は酒が好きだとも聞いてますし」
文はさりげなく小さく畳まれた白い紙を取り出し、右手には墨が内蔵されたポールペンもどきを持ち情報を記載していく。
今の頭の中には、
【号外!!あの大天狗が幼女に手を出した!?】と題名を打って、自作の新聞『文々。新聞』を売ってやろうと算段を立て始める。
「あの程度で酔うわけがないだろう」
「全くその通り」
いつもの威厳のある態度に戻った朧花はため息混じりに否定する。隣の幼女は首を縦に振る。
先程までの状態が嘘のように変わってしまった二人はゆっくり立ち上がり腰を回す。
「あの子には随分と迷惑をかけたからな。少し打ち解けようと思ったんだが...フラレたみたいだ」
「当たり前。アプローチが悪い。次は我がやる」
「そうかいそうかい。なら任せるよ」
その言葉に嘘偽りはないのだろう。言葉には確かな芯があり、嘘だとは到底思えない。
のだが、二人の震えている足を見るとどうもその言葉を肯定することは出来そうにない。
あやや...どうしましょうか。あんまりいいネタにもなりそうにないですねー...いつも通り
何も収穫はないと切り捨て次のネタ探しに文はその場から飛び去っていく。
▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽
酒を飲むのを止めてから一時間。次第に酔いは取れていき、二日酔いにはならずにすんだ。
首を軽く回しながら城跡地へと足を向けていた。
自分が怒ったせいで壊してしまった惨状は見なくてはいけない。そう考えているからだ。
「おや?あなたのような人居ましたか?」
「?...我の事?」
「そうですよ、うーーん見たことのないような...まぉいいか!手伝ってくれるのですよねここに来たのなら」
青髪を緑色のキャップで押さえつけている幼女は忙しなく手を取り羨望の眼差しを向ける。
腕の至る所に泥がついている上に、首から下げられているメガホンは凸凹に変形している。
「あぁ!!そこの青坊主さん、その木材は反対側です!!そっちの化け狸さんも同じです!!」
背後を見てとつぜんメガホンを口に当て大声を発し、その指示通りに瓦礫を持っている二人は動いていく。
と、言うより作業を手伝っているのが二人しかいない。
スキンヘッドで体格は朧花よりもふた回り以上大きい男、青坊主。
小さいながらも意外に力持ちな化け狸。
以上の二名だけが城の復旧作業に手伝っている。
「人手がすくないんですぅぅ!!助けてください!」
猫の手でも借りたい。そんな面持ちの彼女は逃がしまいと強く手を握りしめる。
見たらさっさと帰ろうとしていたアンだったが、幼女の献身的な説得に心打たれ手伝う事を決意する。
「分かった手伝う」
「ほんとですかァ!!よし!これで作業がもう少し進められる!!」
意図しない増援にガッツポーズを取り、すぐさま仕事を与えようと完成予想図を開き段取りを確認する。
けど、少ないな...俺含めても三人。これじゃあ間に合う物も間に合わない......となればアレを使うか。
オーフィスより托された記憶の中にこの状況を打開できる方法があり、実行に移すため近場に転がっている小石を集める。
指示をする前に動き出したオーフィスに首を傾げ、声をかけようとした時、突然オーフィスが自分の腕を掻き切る。
「な、何を!!」
傷は持ち前の再生能力ですぐに塞がるも、数滴小石の上に垂れる。
気でもとち狂ったのか?そう考えたがすぐにその考えは撤回する。
血を浴びた小石がひとりでに浮かび上がり、内側から肉が発生し肉体を生成していく。
全長三メートル程に成長し、背中には大きな空を切り裂く羽。口は長く、爪・牙は尖っている。
その姿はまさにミニ龍。それが五体も出現した。
「ふぁっ...妖怪を作った?」
下級の妖怪の河童である河城にとりですらも、ミニ龍一体一体が上級妖怪以上の実力であると感じる。
妖怪を作れる妖怪など大妖怪と評される大天狗ですらも不可能な領域。
そんな事をいとも容易く行った目の前の幼女は何者なのか、怪訝の目を向ける。