※今作『東方霊想録』は『東方放浪録』のリメイクとなります。
それでは楽しんでいってください!
#0「プロローグ」
──やっちまった。
突然だが、俺は今かなり混乱している。気づいたら見慣れぬ森にいたのだ。まああれだ。端的に言えば迷子だ。齢17にしてこのザマとは恥ずかしい。
「興味本位で追いかけまわすもんじゃないな……」
迷子のきっかけは僅か30分前に起きた。
高校生の俺は、6時間という長時間の拘束に耐え、帰路についていた。その途中、進行方向から白い犬が近づいていることに気づいた。何処かの家から脱走したのかと思ったが、首輪は付けておらず、また周りに民家もないためその可能性は低いだろうと考えていた。その間に犬は俺の直ぐ前まで来ていた。
近づいてみてわかったが、犬は遠目に見たより大きく、俺が上に跨っても元気よく走りそうな程だった。これほど大きな犬は滅多に見かけない。野良犬なんてこの地域で見たことないから、十中八九飼い犬だろう。飼い主の元に届けてあげたいのは山々だが、この巨体だ。抱っこして飼い主を探すなんて真似はできない。むしろ、俺が犬に乗って街を回っても問題なさそうなレベルだ。
どうしたものかと顎に手を当てて考えている間、犬は襲ってくることもなく、逃げることもなかった。その犬はただじっと俺を見つめていた。ますます犬を放って置けない気持ちになり、一層本気で頭を回転させたとき、犬は徐に歩き出した。俺は立ち止まったまま様子を窺っていたが、まるで「ついてこい」と言うように何度も振り返ってくるので後を追うことにした。
──はい、その結果がこれです。ありがとうございました。
「ここはどこ? 私は寿限無 寿限無 五劫の擦り切れ 海砂利水魚の──」
「おい、こんなところで何をしているんだ?」
「水行末 雲来末 風来ま──っと失礼! ええっと、その、ちょっと迷っちゃって……」
「……人生という名の道に、か?」
寿限無を唱えていると後ろから声をかけられる。人気のない森で運良く人に会えたことだし、森から出るための道を聞こうと思ったのだが、先刻の独り言のせいで引かれているようだ。やれやれ。
「犬を追いかけるのに夢中になっていたら迷っちゃいました。外に出るにはどっちに向かえばいいですか?」
迷子になる理由が最高にダサい。それはいいとして、360°何処を見ても木しかないため、出口の見当がつかない。あ、因みに犬はとっくの昔に見失ってます。残念。
「おいおい、お前はどこから来たんだ? ここは
声を掛けてきた少女は難しい顔をして唸る。
『人里』だって? 世間では聞かないような単語だな。──いや待てよ、俺もこの子の服装に見覚えがある。うん。間違いない。この子は『
因みに、俺はこの子を知っているが知り合いではない。というのも、霧雨魔理沙は“東方Project”という作品の登場人物なのだ。
ははあ、なるほど。この子はコスプレイヤーなのだろう。わざわざ森にいるのは撮影のためだと考えれば納得できる。
「うーん、確か……早苗が似たような服を持っていたような。おお、そういう事か!」
「どういうことだってばよ?」
「お前、外来人だな? よし、それならアイツのところに連れていくのが早いな」
霧雨魔理沙のコスプレイヤーは自己解決した様子。
──なんか面白いし。しばらく付き合うか。東方を知ってる人は中々見かけないし、この機会に友達になれたらいいな。
「さ、乗れよ」
少女は手に持っていた箒に跨った後、俺に「乗れ」と言ってきた。
「いや、チャリか!? チャリニケツするノリで箒に跨らせようとするなって。側から見たら相当シュールだぜ?」
「あー? お前はここから出たいんだろ? だったら乗れって」
「いや、確かに出たいけど……。乗った後どうするの? 写真撮るの?」
「……気が動転しているのか? 箒は空を飛ぶためにある。常識だろ?」
──そんなこの世の真理みたいな顔で言われてもね。……え、俺がおかしいのか? 違うよね、どう考えても気が動転しているのはお前だろ!? なんなら今の一言で気が動転し始めたよ?
というツッコミを入れたい気持ちを堪え、俺は彼女に従うことにする。そうしなければ話が進みそうにないからだ。
「失礼します」
彼女の後ろに並ぶように箒を跨る。あーあ、誰も見てないはずなのに恥ずかしい。
──状況のシュールさは置いておくとして、事件性あるな。セクハラで訴えられたらどうしよう。
箒に二人で跨るということは、密着せざるを得ない。つまり、彼女の髪から漂ってくる石鹸の香りや近くで見て改めてわかるコスプレのクオリティの高さと彼女の可愛さを意識してしまうのは必至。そう、俺は悪くない。仕方ないのだ。そしてこの状況は目の前のコスプレイヤーが作ったのだから、セクハラで訴えられることはない。と信じたい。
「ちゃんと腰に手を回しておけよ。落ちるぞ」
なになに? どういうプレイなの? 同時にジャンプして飛んでるようなシーンを撮影しようとしてる? ちゃんとカメラある? あれ、待てよ。その写真を警察に持っていかれたらまずいぞ。
「あわわわわわわ」
「だ、大丈夫か?」
「そういうのいいんで、出口の方向だけ教えてくれませんか? 圏外でスマホも使えないんですよ」
「歩いて行ったら時間かかるぞ。飛んだら一瞬だ。大丈夫、怖くない」
いや、怖いよ? 色んな意味で。言っとくけど貴女は警戒の対象でしかないからね?
「飛ぶっていうのは、脱法的な意味ですか?」
「あーもう面倒臭いな! いいからちゃんと掴まれ! もう行くぞ!」
「ぎゃ────!! 怖い怖い殺される!!」
俺は思わず後ろからしがみつくように腕を回してしまう。その瞬間、フワッとした感覚が襲ってきた。ついさっきまで感じていた地を踏み締める感覚はなくなり、グンと上に引っ張られる。
「う、浮いてる……? ワイヤー? 幻覚?」
「そんじゃ行くぜー」
ある程度上昇した後、一気に前進した。予想外の急発進でうっかり彼女から手を離しそうになるが、そんなことすれば地面に真っ逆さまなので必死にしがみつく。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁああ!!」
「ヒャッホ────!! どうだ? 風を切るこの感覚、たまんないだろ?」
なんか言ってるけど風を切る音がうるさくてよく聞こえないしそれどころではない。ジェットコースターにでも乗っているみたいだ。乗り心地は悪夢級。際限なく加速を続けている悪夢に耐えるので精一杯だ。
──し、死ぬ! 殺される!?
「そろそろ着地するぞ! 一気に行くから口閉じてろよ。舌を噛むぜ!」
「ひぃぃぃぃぃいいいい!!」
爆進する悪夢の箒は高度を下げつつも加速を続ける。着地するって言ってるのになんで加速するんだよ! 頭おかしいのか!?
泣きそうになりながら目を閉じて着地を待っていると、グンと前に押されるような衝撃が来た。俺はその衝撃に耐えられず、うっかり彼女から手を離してしまう。
「うわぁぁぁあああ!!」
しがみつく物体がなくなったことで身体は高速で振り回される。
「よいしょっと!」
魔理沙が俺を受け止め、そっと地面に降ろしてくれた。ただしこれは予想でしかない。なんせ俺の視界はグルングルン回っていて、平衡感覚も完全にバグったので自分が地面にいるのかも正確にはわからない。
「ううぅ……」
「あー、その、大丈夫か? なんか悪いな」
曖昧な謝罪を聞き取るのを最後に、俺は意識を手放した。
──俺はこの日を一生忘れないだろう。
ありがとうございました!