東方霊想録   作:祐霊

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どうも、祐霊です。

遂に100話です! 

何話まで続くか分かりませんが、第4章はいよいよクライマックスです。

楽しんでいってください!



#100「vs 八雲藍!」

 俺は数体の使い魔を創造し、彼らに弾幕を張るよう命令する。一方、藍は力強く尻尾を振って針弾幕を飛ばしてくる。

 

 ──この密度。スカーレット姉妹や紫と並ぶ程だ。

 

 先程の橙の弾幕とは比にならない密度だが、このような弾幕は日頃から見ているので危なげなく避けきれた。

 

「──式神『前鬼後鬼の守護』」

 

 藍の一枚目のスペルカード。彼女の真横に放たれた大弾は、暫くすると向きを変えて俺の方へ飛んでくる。これだけならまだ良いが、大弾の通り道から無数の小弾から生まれたため一気に弾幕が完成した。だが、正直に言うとスペルカードを使う前の針弾幕の方が難しかった。

 

「即席で作ったスペルカードを喰らいな──悪弾『スパゲティコード』」

 

 俺達を囲うように十数個の魔法陣を展開。その後、魔法陣は「へにょりレーザー」を放つ。

 

 うねるように曲がるレーザーは、まるでスパゲティのように複雑に絡み合う。

 

「式神のプログラムも、(さぞ)かしスパゲティのようにグチャグチャなんだろうな」

「仮にそうだとしても紫様以外に手を付けないのだから問題ない」

 

 複雑な軌道を描く性質上、へにょりレーザーは避けるのが難しい。並大抵の者ではその流麗な軌道に翻弄され被弾してしまうだろう。しかし、藍は涼しい表情でそれを避けてみせる。流石は式神(コンピュータ)か。察するに、即座に弾道計算を行うことで、確実に回避しているのだろう。元々コンピュータは弾道計算用に作られたものだから、こういうことは得意なのだ。

 

「──式輝『狐狸妖怪レーザー』」

 

 藍が二枚目のスペルカードを宣言した。彼女が放った緑と黄の大小の弾幕は真っ直ぐ進み、その軌跡とほぼ垂直に細いレーザーが流れる。この弾幕を真上から見れば魚の骨のようになっているかもしれない。その場合、大小の弾道は脊椎に、レーザーは横に伸びる骨に例えられる。

 

 そんなことを考えつつ、俺は反射鏡の盾を創造して守りを固める。そして、レーザーの網に掛からないように慎重に移動しながら弾を避けていく。これを何度か繰り返していると、全ての弾幕が消えた。

 

「突然だが、セキュリティテストをしよう。──感染『マルウェア』」

 

 俺の二枚目のカード──感染『マルウェア』は、スマホやパソコンといったデバイスに存在する悪質なソフトウェア──通称・マルウェアから由来する。この弾幕は、緑色とダークブルー、オレンジと黄色が混ざった如何にも()()()()()()()色をしている。

 

「これは……式神としての機能を阻害しようとしているのか」

 

 藍は、毒々しい色の弾幕に対処しつつ呟いた。

 

 感染『マルウェア』の効果は藍の推測通りだ。この技は、使い魔に作らせたウイルスプログラムを弾幕として放出(アウトプット)するものだ。この弾の感染力は強く、セキュリティ的に脆弱なコンピュータは近づくだけで感染する。藍は式神だが、与えられた命令通りに動く存在なのでコンピュータの一種である。何より、主人の八雲紫が彼女をコンピュータと表現しているのだから間違いない。よって、このウイルスは式神に対して有効であり、一度(ひとたび)感染すれば脳の命令を掻き乱されて再起不能に陥るのだ。

 

「無駄なことを。紫様がこの程度の対策を施さぬはずがないだろう。私の式には厳重なセキュリティが施されている。私を破壊しようとしたのだろうが、残念だったな」

「おいおい、言ったはずだぜ? ()()()()()()()()()をすると。妖怪の賢者が使うコンピュータだ。セキュリティが脆弱じゃなくて良かったと思っているよ」

 

 元より、この技で藍を破壊する気はない。被弾してくれたらラッキーだと思っていた程度だ。

 

 幻想郷は、魔法や妖術といった概念が当たり前に存在する世界である。その中に、人の使い魔を乗っとる術があっても不思議ではない。弾幕を放つだけの使い魔ならまだ良いのだが、命令すればスーパーコンピューターに並ぶ演算ができる程の使い魔を乗っ取られたら大事だろう。それならば、何か対策を講じるべきである。何もしなかった結果、ある日反旗を翻されたとしても、それは主人の自業自得だ。

 

「しかし存外に多彩な弾幕を使うな。正直驚いている。一年前にやってきた時はただの人間だったはずだが」

「今でもただの人間だが?」

「ただの人間は、私や紫様を相手にして無事ではいられない。お前はもう、人間の域を超えているよ」

「はっ、加減しているくせに何を言う。ここ最近、アンタ達から殺意を感じなくなった。俺が殺気を浴びることに慣れすぎて感覚が麻痺したわけではないよな?」

「……私はお前と戦うように命じられただけ。殺意など抱くわけがないだろう」

 

 俺達は、会話しながらも互いに弾幕を放ち、自分に向かってくる弾を避けている。

 

「じゃあ、紫はどうなんだ?」

「さあ。紫様からその話は伺っていない」

「推測することはできるんじゃないのか?」

「あの方は私を凌駕する存在だ。私には到底予測できない」

 

 つまらない。実に機械らしい回答だ。

 

「アンタじゃダメだな。話にならない。──崩壊『ジェンガコード』!!」

「安心しろ! 予測できたところでお前に話すつもりはない! ──式神『橙』!!」

 

 互いに3枚目のスペルカードを切った。

 

 藍は、いつの間にか復活していた橙を呼び出し、命令を与えた。橙は強化されているのか、先程よりも素早く駆け出し、弾幕を撒き散らしていく。

 

 一方、俺が使った──崩壊『ジェンガコード』は、これまでのスペルカードと同様、使い魔によって放たれる。その弾幕は、格子状の箱を作るように規則正しく並び、ジェンガのように高く積み重ねていく。その後、別の使い魔が格子に向けて大弾幕を放つ。それが格子を構成する弾幕に当たると、格子はバラバラに崩壊して制御を失い、出鱈目に飛び交う。初めは避けるのに苦労しないが、大弾幕が放たれる間隔は時間の経過と共に短くなり、徐々に難易度が高まっていく。

 

「ちっ、流石に一筋縄ではいかないか」

 

 藍は徐々に激化する弾幕を軽やかに躱している。クルクルと駆け回る橙が弾幕を放つ頻度も高くなった。藍と俺の弾幕が衝突し、更に不規則に飛び交う。最早この場に規則性という概念は存在しない。

 

 ──あっぶねー! 自分の弾幕さえも敵に思える。

 

「にゃん」

「──っ! 速いっ!」

 

 橙が凄まじい速度ですぐ横を駆け抜けていった。橙が通った跡には弾幕が発生するので、縮地を使ってその場を離れる。

 

『敵及び弾幕の軌道を解析。──完了。6.28秒後に再び接触すると予測』

 

 ──OK、助かるぜ使い魔くん。

 

 使い魔くんによる解析のお蔭で、この技を破るチャンスを得た。後は俺の()()次第である。

 

 俺は、使い魔くんのカウントダウンに合わせ、刀をいつでも抜けるように構える。

 

 ──3

 

 計算だと、あと5秒間は動かなくても弾に当たらない。

 

 与えられた数秒間を無駄にせぬよう、深呼吸をして準備する。

 

 ──2

 

 全身に霊力を纏い、身体能力を向上させる。

 

 ──1

 

 使い魔くんの合図と共に虚空に向けて抜刀。言葉だけを聞けば奇行に思えるが、橙と藍にはその意味が理解できるはずだ。

 

 ──虚空は虚空でも、抜刀し終わった頃には橙が居る虚空なのだから

 

「ぎゃんっ!」

「……動物愛護団体に怒られるから加減(峰打ち)した。だが脳震盪は避けられないだろう」

 

 結果、刀は橙の頭部に当たった。峰打ちしなかったら無事では済まなかっただろう。開放前とはいえ、これは妖斬剣だ。恐らく、橙程度の妖怪なら簡単に両断できるだろう。

 

「まさか……橙の動きを予測し、迎え撃ったというのか? 人間のお前が……!?」

「そう驚くことじゃない。銃弾を切るのと同じさ。相手の方から凄い速さで飛んでくるなら、こっちは刀を当てるだけでいい。あまり俺を舐めるなよ、妖怪」

 

 なんてカッコつけてみたけど、使い魔くんがいなかったら橙の軌道を予測することなんてできなかったんだよね。まあ、使い魔君は俺が作ったものだし、俺の手柄と言っていいだろう。いいよね? 

 

「これで互いに残るスペルカードは1枚。この調子で勝たせてもらう」

「これまでの戦いで、お前の動きと技術はある程度理解した。よく鍛錬された剣技に瞬間移動とも言える()()()()。それに加えて、多彩な弾幕を放つ使い魔も所持している。どれも私の予想を上回るものだった。しかし、修正は済んだ。もうお前に勝ち目はない」

「おいおい、嘘だろ? こんな短時間で知り尽くせるほど、俺は単純な人間じゃないぜ。そんなこと言ってると足をすくわれちゃうよ?」

「調子に乗るなよ、人間。お前はどう足掻いても私には勝てない! ──超人『飛翔役小角』!!」

「それはどうかな! ──妖滅『妖祓いの五月雨(レインバレット)』!!」

 

 妖祓いの五月雨……本当は紫以外に使いたくなかった技だ。特に、紫と繋がりのある藍には、妖斬剣を見られたくなかった。しかし、出し惜しみしては勝てないと判断した。この前、俺はスカーレット姉妹と引き分けたが、それはこの技による無数の妖斬剣があったからこそだ。俺の戦闘力が上がったわけではないのだから、手を抜けば当然負ける。

 

 俺は数え切れないほどの魔法陣を創造すると、そこから無数の刀を放つ。ばら撒き弾に自機狙い弾、鉛直方向からの刀の雨が、藍を襲う。

 

 対する藍は、数秒間詠唱していた。それを終えると、彼女は身体にオーラを纏った。そして、()()()

 

 ──いや、速すぎるんだ! 

 

 藍は猛スピードで俺の方へ突進してきた。それに気づいた瞬間に縮地を使ったためなんとか回避できたが、彼女は間髪入れずに方向転換して肉薄してくる。

 

 ──直線的な高速移動だけでなく、藍が通った軌道上に弾幕が広がるのか。

 

 この技は、魔理沙が書いた魔導書に書いてあった気がする。確か、身体能力を飛躍的に上昇させる技だったと思う。役小角(えんのおづぬ)という遥か昔の魔法使いをイメージした物らしい。しかし、イメージしただけで身体能力を上げるとは流石は妖怪か。

 

「──祓え、妖斬剣!」

 

 藍は非常に素早い。だが、妖斬剣が飛び交う中ならどうだ? 

 

「──これは!?」

 

 全ての刀が開放状態の妖斬剣に変わった瞬間、藍は動きを止めた。しかし、一瞬で動揺を消し去って超速移動を再開した。

 

「この刀、何やら特別な力を帯びているようだな!」

「──!? 妖斬剣の弾幕を縫いながら走れるのか!」

 

 藍は、超速度で俺の弾幕の隙間を縫って迫ってくる。ジグザグに迫ってくる藍の軌道は最早予測不能。余計なことをしてしまった。

 

 ──危なっ!? 

 

 藍は、空気を蹴って方向転換すると直ぐに迫ってきた。

 

「驚いたぞ。並の妖怪では、この場に立った瞬間に消滅するだろう。だが、残念だったな。私なら耐えられる!」

 

 猛スピードで移動しながら話しかけてくる。

 

 ──わざわざ『耐える』と言ったってことは、()()()()のか。いいことを知った! 

 

「それでいいんだよ。この技を使って消滅されちまったら、反則勝ちみたいで嫌だからな。嫌がらせ程度が望ましいのさ」

 

 藍に返事をした際に、危うく弾に当たりそうになった。そろそろ話す余裕がなくなってきたな。それにしても、凄まじい弾の密度だ。妖斬剣が藍の妖弾を祓っているから辛うじて隙間があるが、もし他の技を使っていたら既に負けていただろう。

 

 藍の速度も上がってきて、生身でやり合うのがキツくなってきた。彼女の動きに対応するため、霊力を身体中に纏って身体能力を向上させる。

 

「より速くなったか。ならば!」

「ちっ、お前まで速くならなくていいんだよ!」

 

 藍は俺の身体強化に合わせて更に加速した。最早、全力で集中しなければ目で捉えることはできない。

 

「──っ!」

 

 藍が横を通り過ぎる度に、物凄い風圧が音と共に迫ってくる。

 

 ──そのうちソニックブームでも放ちそうだな。冗談じゃない。

 

「なあアンタ! 一体いつまで加速するつもりだ!?」

「この技は、私の身体能力を向上させるもの。妖力が尽きぬ限り何処までも加速する!」

 

 なんて滅茶苦茶なんだ。俺の体力を考えると、実質無限大に加速するようなもんだろ。

 

 ──俺の弾幕も風圧で乱れている。最早藍が被弾することはないだろう。

 

 こうなってしまっては決定打にはならない。しかし、藍を精神的に追い詰める効果がある限りは、妖祓いの五月雨を使い続ける価値はある。

 

「こんな奴相手にどうすれば勝てるんだよ……」

 

『ヒントをあげましょう。あの式神は、必ず貴方目掛けて突進してきています。貴方なら、手を打てますよね?』

 

 ──なるほど。さっきやったばかりだったな。

 

 アテナの助言のおかげで、藍を倒す算段はついた。本当に、ここぞという時に頼りになる神様だ。

 

『助言はできますが、実行するのは貴方です。大丈夫、祐哉ならできますよ』

『任せてください』

 

 俺は、藍の突進を避けつつ、全身に纏う霊力を一気に増やす。その増加量に比例して力が漲っていく。今の俺の強さは普段の十倍程度に上昇しているだろう。だがそれでも、素の身体能力では藍に敵わない。

 

「──うぉぉおおお!!」

 

 俺は中段の構えを取って藍を迎え撃つ。腕と足に纏う霊力を増やし、猛スピードで肉薄する藍に向かって()()()()。無謀ともいえる策だが、やるしかないのだ。

 

 半端な攻撃ではガードされてそれまでだ。ならば、あの技しかない。

 

 

 真上から頭に掛けて斬る「唐竹」。

 

 斜めに斬り掛かる「袈裟斬り」、「逆袈裟」。

 

 横から斬り掛かる「左薙」、「右薙」。

 

 斜め下から斬り掛かる「左切上」、「右切上」。

 

 下から斬り上げる「逆風」。

 

 胸を突く「刺突」。

 

 

 九つの斬撃を全く同時に放つ、防御回避共に不可能な技……! 

 

 

「行くぞ! 飛天御剣流──!」

 

 ──創造、『超速度投射』付与!! 

 

「『九頭龍閃(くずりゅうせん)』────!!」

 

 創造した刀と自分の持つ刀を合わせて九本。壱、弐、参、肆、伍、陸、漆、捌、玖の斬撃を叩き込む。

 

 霊力を使った突進で勢いをつけた斬撃は藍の身体を突き刺した……! 

 

「無駄だ……!!」

「──馬鹿な!?」

 

 信じ難いが、藍は確かに九つの尾で斬撃を一つずつ受け止めていた。豊かな毛が生えているため、恐らくダメージは殆ど与えられていないだろう。

 

 藍は、勝ちを確信したように俺に襲いかかる。

 

 ──まだだ! 俺は、諦めない!! 

 

 俺は、自分に勢いが残っているうちに強く地面を踏みつけ、更に藍に迫る。

 

「──祓え! 妖斬剣!!」

 

 瞬間、藍の尾に刺さった九つの刀が解放され、激しく発光した。

 

「この近距離で、九つの妖斬剣に耐えられるもんなら耐えてみろ! おぉぉぉぉぉぉぉおおお!!」

 

 もう一歩踏み出すことで、斬撃の勢いが増す。

 

「や、止めろ……! その刀で私に触れるな! ぐぁああああああ!!」

 

 藍は、悲鳴とも取れる叫び声を上げながら吹き飛んでいった。

 

「はぁ、はぁ、はぁ……。うぅ……はぁ、はぁ……」

 

 全力で攻撃した影響で脈が上がりすぎて吐きそうなくらい苦しい! 

 

 ──本当に、九頭龍閃を使うと疲れる。所詮は見様見真似か。本家には劣る。だがそれでも……

 

「勝ったぞ! この調子でアイツにも勝利し、平穏を取り戻す!」

 

 ────────────

 

「ぐぅぅ……ぐああ!」

 

 少し離れたところで、藍が苦しそうに悶えている。彼女の九つの尾には妖斬剣が刺さったままなのだ。

 

「俺の勝ちでいいですよね? 良いなら助けますけど」

「ぐぅぅ……人間の助けなど……ましてや敵の施しは受けない!」

「いやいや、妖怪がその刀に触れることはできないんだから、人間の助けは要りますよ。このままだと本当に消滅しそうなので、勝手に助けますね」

 

 俺が指を鳴らすと、この場にあった妖斬剣が全て光の粒子に変わった。それにより、断続的に苦しんでいた藍は少し落ち着いた様子だ。だがそれでも、直ぐには動けないだろう。

 

 ──妖斬剣って凄いんだな。使い道を誤ると大事になるぞ。

 

「大丈夫ですか?」

「問題、ない。お前の勝ちだ。私に構わずここから去れ」

 

 ──そうもいかないだろう。紫相手なら別だが、藍には恨みはない。戦いが終われば対立する気もない。

 

 とは言っても、普通に助けようとすれば嫌がるだろうな。あ、そうだ。

 

「あれ? 俺が勝ったらモフらせてくれる約束ですよね? ちゃんとモフらせてもらいますよ!」

「ああ、分かった。好きにしろ」

「あ〜、綺麗な尻尾が汚れちまったなぁ〜 綺麗な尻尾をモフモフしたいなあ」

「私にどうしろと言うんだ……」

 

 なんというか、弱りすぎてて調子狂うな。解釈違いなんで、もうちょっとシャキッとしてくれ。

 

「取り敢えず今日は帰って、風呂に入ってください。さっぱりしたらモフらせてくださいね」

「……約束は約束だ。分かった」

 

 それは素直に嬉しいな。

 

「でも困ったなぁ、その状態じゃ生きて帰れるか怪しくないですか? 妖斬剣の効果は妖怪にとって猛毒のようなもの。刀が抜けたとはいえ、まだその効果は残っているはず」

「結論から話せ」

 

 結論から話したら絶対断ったよね!? なんで怒られなきゃいけないんですか!? 

 

「……妖斬剣の効果を打ち消すための処置をさせてください」

「…………」

「死にますよ?」

 

 頑固な妖怪だな! もういい、勝手にやらせてもらう。

 

 ──創造、魔法陣。『解毒』付与

 

 俺は、藍が横になっている地面に魔法陣を創造する。その効果は、俺が「毒」と認識したものを取り除くものだ。

 

「はい、これで終わり」

「……身体を蝕むような毒が消えた。何をした?」

「処置、ですよ。そういう効果を持ったものを創造しただけです」

 

 ────────────

 

 藍の服は、ところどころ破れている。手入れされていた美しい9つの尾はツヤを失い、埃をかぶってしまっている。俯いている表情は暗く、申し訳なさそうに立っている。

 

「申し訳ございません。紫様」

 

 藍は祐哉に敗北した後、主の元へと戻っていた。

 

 紫は、藍のその一言で結果を察した。紫は、戦いの一部始終を見てはいなかった。

 

「どうだった?」

「……神谷祐哉は、私の計算を遥かに凌駕する存在でした」

 

 紫は続きを待った。

 

「彼の『創造』は、非常に自由度が高く、状況に応じて最適な対応ができます。何よりも、彼の機転を利かす頭脳に驚かされました。まさか敗北するとは思いもしませんでした」

 

 紫はため息をついた。藍の報告は、既知のものだったからだ。祐哉のことは、常に見守っているアテナを除けば、紫が一番知っているのだ。

 

 なら、何故紫は藍に戦いを命じたのか。

 

「藍、貴方に与えた命令はなんだったかしら」

「神谷祐哉と戦闘し、データを取るように、と命じられました」

「そう、私は『戦いに勝て』とは命じていない。貴方は取ってきたデータを報告するだけで良い」

 

 元々紫は、勝敗を重視してはいなかった。もちろん、普通に戦えば最強の妖獣である藍が勝つだろう。しかし、祐哉が紫に見せていない『奥の手』を使えば或いは、とも考えていた。

 

 その『奥の手』として考えられるのは……

 

「彼は、創造した刀を全て白く発光させました。その瞬間、文字通り総毛立ちました。あの刀は恐らく、『妖の類を斬る』ものかと思われます」

「そう、それよ。私の求めている情報はその刀についてなのよ」

 

 ドンピシャな話題になったことで、紫は機嫌を取り戻した様子だ。主が欲しい情報が分かった藍は、刀をメインに話し始めた。

 

「その刀は、『妖斬剣』と呼ばれていました。名前からして、その効果は私の予想の通りだと考えられます。刀一本を相手にするならば、全く問題ないのです。ですが、彼はスペルカードに使う弾幕全てを妖斬剣に変えました」

 

 藍は続けた。

 

「より厄介なのは、普通の刀を一瞬にして妖斬剣に変化させることです。私の周りに飛び交う刀が、突然妖斬剣になりました。これは、夏の炎天下にいる時に突然極寒の地に落とされたような感覚でした」

「ふふ、おかしな例えね。まあ、要するに『背筋が凍る』ということかしら。妖獣にも効くということは、精神攻撃の類ではないのね」

 

 一般に、妖獣は精神攻撃に強いとされている。妖獣である藍がこれ程衰弱しているのだから、妖斬剣は相手の精神に漬け込むものではないのだろう。

 

 妖斬剣は『妖の類を斬る』。より正確には、『妖の類を()()』ものであり、刀で斬らずとも周囲の者に影響を与えるのだと紫は推測した。

 

「普通の刀が妖斬剣に変化したのね?」

「はい。変化の前に、『祓え、妖斬剣』と言っていました」

「それが妖斬剣を作るトリガーと見ていいでしょうね」

「なるほど……。てっきり、年頃故の発言かと思いました」

 

 藍は、所謂厨二病的な発言だと思っていたのだ。あながち間違ってはいないのかもしれない。

 

「妖斬剣に触れてはなりません。紫様といえど、致命傷は免れないかと」

「ふふ、そこまでなのね。でも、私が攻撃を受けると思う?」

「いいえ」

 

 藍は即答して見せた。

 

「ただ、妖斬剣にはそれ程の力があるということを御報告したかったのです」

 

 藍の忠告を受けた紫は笑みを浮かべた。

 

「……紫様、神谷祐哉は本当に、幻想郷に仇なす存在なのでしょうか」

 

 藍は、自分を助けた後に気絶した祐哉の事を思い浮かべた。恐らくは霊力切れを起こしたのだろう。もし、幻想郷に仇なす者なら、自分の力を振り絞ってまで妖怪を助けるだろうか。彼は、必死に生きようとする人間そのものでしかないのではないか。そう考えていた。

 

「貴方は余計なことを考える必要はない。ただ私の言うことに従えばいいのです」

「は、失礼致しました」

 

 紫は、これ以上話すことはないと看做(みな)して藍を下がらせた。

 

「そろそろかしらね」

 

 彼女の呟きを聞いた者はおらず、その真意もまた不明である。

 




ありがとうございました。よかったら感想ください。

妖斬剣ってすごいんだなと、改めて思わされる回でしたね。

この調子で紫にも勝てるといいですね。


──

プライベートの方が落ち着いてきたので、また投稿を再開します。お待たせしました。
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