「……結局、何も話せないと?」
「申し訳ないです」
帰宅して速攻で風呂を済ませた俺は、居間で霊夢の尋問を受けている。
俺が突然失踪した具体的な理由を求められたが、何処まで答えていいのか分からないため、黙るしかない。紫と戦っていたことくらい話してよさそうだが……。
「お邪魔するわ」
「──紫! 何しに来たのよ」
「そんな嫌そうな顔しないで、寂しいわ」
「アンタが来るときは厄介事を持ってくるときって決まっているのよ」
紫が、しくしくと言って泣く。100%演技であることはこの場にいる全員が分かっている。
「霊夢が気になると思って、説明しに来たのに、帰ろうかしら」
「何の説明よ」
「今話していたでしょう。祐哉がこの半年間、どこで何をしていたのか」
なるほど。紫が説明してくれるなら助かる。面倒な状況を作ったのは紫だ。あとは任せた。
「実は、私はこの半年の間、彼に稽古をつけていたのよ」
「どうしてアンタが? 訳も話さずに出て行った理由まで説明してくれる?」
あれ、霊夢さん怒ってる?
「半年前、幽々子に会いに白玉楼へ行ったのよ。そのとき、暇つぶしに彼と弾幕で遊んだの。結果は私の圧勝。強くなりたかった彼は、私に稽古をつけて欲しいと依頼してきたの」
「ふーん?」
霊夢は、俺の目を見てきた。
──やべえ、誤魔化すっきゃねぇ
「あのときは本当に悔しかったんだ。白玉楼での努力がまるで無かったように感じた。だから、強い奴に協力してもらえばもっと強くなれると思って頼んだ」
「なんでそんなに力に固執するのよ」
深堀しないでくれ。嘘なんだよ。
「それは……恥ずかしいから言えない」
「……ははーん? そういうことね。わかった。ならこれ以上は聞かないわ」
霊夢は、隣で座っている霊華を見てニヤリと笑った。
「で? どうして何も説明しなかったわけ? 別に祐哉がどこに行こうたって構わないけど、行き先くらい言いなさいって言ったわよね?」
「ふふ、霊夢ったらまるでお母さんみたいね」
「茶化さないでくれる? ずっと一緒に住んでた人が突然居なくなったら気になるでしょ!!」
それはごもっともだ。
「主に霊華がね」
「ふぇ……? 私!?」
不意打ちを食らった霊華が惚けた声を出した。
「祐哉が居なくなってから、暫く元気無かったじゃない」
「や、止めてよ霊夢」
「……申し訳ございません。修行中は、霊夢達を含めた俺の友達には会わないというのが、紫との約束だったんだ」
おい紫、納得のいく説明を頼むぜ。
「当然ですわ。人間、追い込まれた方が成長するもの。それは霊夢も経験済みではなくて?」
「それは……そうだけど……」
霊夢にも心当たりがあるようだ。博麗の巫女になるまでの過程や、これまでの異変解決で修行をしたのだろう。霊夢はあまり修行をしないが、流石に全くしてこなかったわけではないと思う。
「わかった。でも、今度また何も言わずに失踪したらそのまま出禁よ」
「──!? それは困る!」
──霊華と一緒に住めなくなってしまう!
「何よ、またやる予定でもあったの?」
「……今のところないけど」
それならいいじゃない。と言って、霊夢はお茶を啜った。
「さて、そろそろ始めようか」
霊夢は、もうさっきの話は忘れたというかのように話題を変えた。俺は、徐ろに立ち上がった霊夢に対して怪訝に思い、一体何を始めるのか問う。返ってきたのは、彼女のウインクする姿とどこかワクワクしているような口調による言葉だった。
「決まってるじゃない。祐哉が帰ってきたお祝いの準備よ」
───────────────
神社の境内で、「乾杯」という掛け声が響いた。それを合図に、宴会が始まる。今回の宴会は、境内に敷いた御座の上にいくつかのテーブルを置いて、自由に席につく形式だ。折角桜が綺麗に咲いているので、折角だから外で宴会を行うことになった。参加メンバーは、俺、霊夢、魔理沙、霊華のいつもの4人組に加え、紅魔館と白玉楼の皆だ。他には、博麗神社にいつも居る狛犬のあうんと、仙人の華扇がいる。俺のことをずっと心配してくれた人を集めたということもあり、宴会が始まる前から俺は大人気である。
まず、紅魔館の住人は、俺の失踪を知っていたが、お尋ね者になっていることは知らなかったようだ。それもそのはず、紫は俺をお尋ね者として吊し上げると言っていたが、あれは嘘だったのだ。そのため、彼女達の目には「長いこと音信不通だった人」というふうに映っているようだった。その証拠に、レミリアには「あまり友人に心配をかけるものではないわよ」と嗜められた。
続いて白玉楼だが、幽々子からは「久しぶり。元気だったみたいね」という不思議な挨拶をされた。元気だったみたい、とは一体どういうことなのだろうか。まあ、それは置いておくとして、妖夢からは「無事で良かった。心配したよ」と言われた。何らかの事情があることを知っていた妖梨からは、「終わったんだね。お疲れ様。霊力を見れば、君が一層強くなったのがわかるよ」と言われた。そのときの妖梨はなんだか嬉しそうだった。最後に、叶夢だ。コイツには一発ぶん殴られた。修行の成果もあり、反射的に霊力を纏うことでガードに成功した。しかし、叶夢の方も霊力を込めたパンチを繰り出してきたこともあり、普通に痛かった。
「祐哉はさ、いつ白玉楼に戻るの?」
「えっ?」
妖梨の突然の言葉に素っ頓狂な声を出してしまった。俺は、妖梨の杯に酒を注いでいた。人数も少ないことだし、これからみんなの酒も注いで回ろうかと考えていたとき、いつ帰ってくるのか尋ねられたのだ。
答えに詰まったからか、隣で聞いていた叶夢が口を出してきた。
「まさかとは思うが、帰ってこないつもりじゃ無いだろうな?」
──俺の帰る場所って、二箇所もあるんだな。ありがたい。しかし……どうしたものか。
「うーん、迷ってるんだよね。白玉楼で久しぶりに皆で修行したい気持ちもある。でも、博麗神社で霊夢や魔理沙、霊華とも一緒に過ごしたいんだよね」
「よし、祐哉。お前は暫く神社に居ろ」
「うん、それがいいよ」
叶夢は、俺が本音を告げると、神社で過ごすことを提案した。正直、意外だ。こいつのことだから問答無用で白玉楼に連れ戻すと思ったんだけど。叶夢の言葉に対し、妖夢と妖梨も頷いている。「意外だ」という気持ちが表情に表れていたのか、叶夢は俺の肩に腕を回して耳元で話しかけてくる。
「霊華ちゃんの側に居てやれよ。ここだけの話、お前が居なくなってからずっと落ち込んでたんだよ。なんつーか、思い詰めているような感じだった」
「そう……なんだ。ありがとう。お言葉に甘えさせてもらうよ」
「気にすんなよ。……さて、俺はあそこに居るメイドさんに話しかけてこようかな!」
叶夢はそう言って席を立ち、レミリアの隣にいる咲夜の元へ向かおうとする。ナンパでもするのだろうか。別に構わないが、俺はある一言を言うために呼び止める。
「──叶夢」
「お? どした」
「……ごめんな。迷惑とか、心配とか掛けたし、あのとき思いっきり八つ当たりした……。本当にごめん」
叶夢は、俺がどんなに八つ当たりをしても、最後まで白玉楼に連れ戻そうとしてくれた。俺の帰りを待ってくれている人がいると言うことがわかって、救われた部分もあった。だが、差し伸べられた手をとることが許されない状況に苛立ち、辛く当たってしまった。そのことを思い出して独り罪悪感を感じることもよくあった。
「さっきの腹パンで勘弁してやるよ。お前には特別な試練が与えられていたって、幽々子さんから聞いたぜ。だから、別にいい。それより、今度俺と勝負しようぜ。この前の俺よりも何倍も強くなってることを見せてやる」
「そうか。俺もあれから強くなったからね。あの妖刀を細切れにしてやるから覚悟しな」
俺達は、互いの修行の成果を見る日が楽しみになり、自然と笑顔を浮かべていた。
──あ、俺、今笑ってる気がする
『多分、笑えてないですよ』
──何でそんなこと言うんですか?
『貴方、この半年間で一度も笑ってないですからね。表情筋が衰えています』
確かに、最後に笑ったのはいつだったか思い出せない。常に苦しい表情をしていたのかもしれない。本当に辛かった。でも、そんな日々でも希望を失わずに頑張れたのは、アテナのお蔭だ。
──アテナ、支えてくれてありがとうございました。これからもよろしくお願いします。
『どういたしまして。本当に、よく頑張りましたね。勿論、これからも支えていきますよ』
───────────────
宴会が始まって数時間経ち、参加者は皆沢山飲んで出来上がってきた頃だ。一時は、宴会が始まってから再会した魔理沙に絡まれていた。いつもよりも飲むペースが早く、ベロンベロンになった魔理沙は、俺の背中をバシバシと叩きながら色々と説教した。長々と話していたが、記憶に残っているのは一つだけ。「せぇ〜かく私が狸を捕ってきたって言うのにさ〜? いなくなっちまったもんだからさ〜あ? そりゃないぜお前って訳よ。な〜わかるか〜?」と言うセリフだ。会話ではない。俺が返事をする前に別の話題に移ってしまい、ベラベラと話し続けるものだからあれは会話ではないのだ。残念なことに、後半は何を言っていたのかよく分からなかったし、「いい加減背中痛いなぁ。叩く力が地味に強いんだよな。霊力使おうかなぁ」と考え事をしていたため話の内容を覚えていない。因みに、話すだけ話した魔理沙は早々に潰れ、霊華に介抱されている。
──今日結局霊華と全然話せてないな……
でも、今は魔理沙の介抱してるしなぁ。厠案件だから俺が手伝う訳にもいかないし……などと考えていると、よく知っている妖力を感じた。この妖力は、感知が不得意な俺でもわかるようになった。あと、妖力感知は日々の修行で多少身につけることに成功した。
「そんなに警戒しないでよ。もう敵じゃないんだから」
「条件反射で妖斬剣を作って刺すところだったのを堪えたので褒めて欲しいですね」
妖力の正体は、紫だった。俺の返しに対して「おっかないわねぇ」と言いながら隣に腰掛けた。
「久しぶりの宴会は楽しんでいるかしら」
「……シャバの空気は美味いな、という思いが強いですね」
懲役半年で牢にぶち込まれていたようなものだ。この表現も案外しっくりくる。
「さっきはどうも。何処まで話していいものか分からなかったんで、助かりました」
「まあ、あのくらいはね」
「……例の件ですが、大事なことを聞いてなかったですね。仮に協力するとして、具体的に俺は何をすればいいんですか?」
例の件とは、当然紫が話していた異変のことだ。
「新米妖怪との接触と説得、場合によっては抹殺……さらに、
「なるほど。だから俺が適任ってことですね。俺も霊夢のように、妖怪を効率よく始末することができるから」
「そう。貴方が私を滅するために作ったアレは最高の物よ。それに貴方は、妖怪を殺すことに躊躇しない。秘匿情報の管理もできる。他に適任はいないわ」
妖斬剣なら、簡単に妖怪を消滅させることができる。さらに、創造の力で無数に作り出すことができる。紫の言うことは腑に落ちた。因みに、殺すことに躊躇しないのは、明らかにクズな妖怪が相手のときのみだ。つまり、紫は正に滅されるべき対象だったわけだ。
「その妖怪って、どのくらいいるんですか? いくらなんでも人手が足りないと思うんですけど。向こうの生産速度の方が早かったら無駄ですよね」
「そう、人手が足りないのよねぇ。藍と橙も動かしているのだけれど……。貴方の使い魔にあの刀を作らせることはできないの?」
「弾幕として……ですか。使い魔は創造の力を持っていないから刀状にはできないです。でも、同じ効力を持った弾幕を撃つことはできますよ。雑魚相手なら使い魔で対応できそうですね。各地にばら撒きましょうか」
「できそう?」
使い魔に与えられる機能の最大数が決まっているが、足りるだろうか。また、研究所が排出する妖怪のレベルが分からないので、これで解決できるのか分からないからなんとも言えない。使い魔が手に負えないレベルだと無理だ。
「使い魔を用意するのは可能だと思います。ただ、効果があるかは試すしかないですね。動くなら早めの方が良さそうです」
「報酬は十分に支払うわ。貴方が幻想郷で5回人生を遊んで暮らせるくらいに。それと、必要なら私からの支援も惜しまない」
「休暇は? 有給はちゃんと取れるのでしょうか。とても気になります」
そう言うと、紫は笑い出した。
「それ、外の世界での就活で聞くと人事にドン引きされるわよ」
「詳しいですね。別に、俺はこの仕事をやりたいわけじゃないんで、ブラックなら断るだけですが」
「弊社は歩合制。成果が出せるならいくらでも遊んで構わない。ああそれと、貴方の二つ目の能力のことだけど。あれは簡単に使えるものなの?」
「…………? いや、相当強く念じないと使えない制限がありますよ。その制限がなかったら、とっくの昔に貴女の存在を消滅させてますから」
「そう。気持ちの問題で発動できるかどうかが決まるのね。それなら念の為、すぐに使えるように訓練してもらいたいわ」
なんだって? 使用を禁止してくるわけではなく、すぐに使えるようにすると?
「いいんですか? 真っ先に貴女を消すかもしれないし、幻想郷を支配するかもしれないですよ」
「その心配はいらないわ。私にその力は通用しないもの」
紫は、衝撃的なことをあっさりと言い放った。
──ハッタリか? 支配の力は多分、相当凄い神様から借りているものだと思うんだが。まさか、境界を操る力は、神の力をも破るというのか?
「それに、霊華がいる限り幻想郷を裏切ることはないでしょう」
「いや、この能力がある限りいくらでもやりようはあるんですけどね」
「大丈夫。貴方は、私が数多くの候補の中から選んだ人材なのだから。貴方は幻想郷に危害を加えないと断言できるのよ」
些か論理性が欠けていると思うが、紫のことだ。言わないだけで、確かな根拠があるのだろう。この能力を口実に始末されようとしていたときと逆の状況になったこともあり、困惑しているが、信じてくれるなら俺も助かる。
──それでも、用心するに越したことはない。
「わかりました。何か気に食わないことがあったら俺は貴女を消します。それでいいなら協力しますよ」
「ええ、そのときは私も貴方を始末します。どうか、そんなことが起こらない事を願って──」
紫はそう言って、杯をこちらに向けた。
俺は盃を重ねることでそれに応える。
「──乾杯」
ありがとうございました。気が向いたら感想ください。
全国の祐哉✖︎霊華ファンの同志よ。静まれ……
明日は二人がメインになります!