東方霊想録   作:祐霊

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楽しんでいってください!




#105「大好きだよ」

「うーん……悪いな、霊華」

「ううん。気にしないで。それより、大丈夫?」

「ああ、お蔭さまでちょっとはマシになったぜ」

 

 私は、吐くほど酔い潰れた魔理沙を神社の縁側で介抱している。酔いを落ち着かせるため、水を沢山飲んだ魔理沙はまだ酔いが覚めていないが、吐き気は落ち着いたようだ。今、魔理沙は頭痛と戦っている。

 

 魔理沙は、お酒に強い方だ。少なくとも私よりは強い。普段の魔理沙ならばここまで酔い潰れることはない。しかし、今日は神谷くんが戻ってきた御祝いということで、お酒の提供者である華扇さんと霊夢の3人で酒飲み対決を行ったのがまずかった。因みに、この対決に主役の神谷くんがいないのは、彼が彼女達の誘いを断ったからだ。幸い、彼女達にもアルコールを無理強いするつもりはなかったようで、対決は3人で行われた。

 

 華扇さんが持ってきてくれるお酒は、いつも度数が高い。そんなお酒をグビグビとハイペースで飲めば、当然潰れる。

 

 ──何やってるんだか……って感じだけど、きっと魔理沙も神谷くんの帰りが嬉しいんだろうな

 

「くか〜 ふー」

 

 少量のお酒を飲んだ私は、少しぼーっとしていた。ふと、隣から寝息が聞こえて視線を向けると、魔理沙が寝ていた。

 

 私は、部屋から毛布を持ってきて彼女に掛けてあげる。

 

 ──今日、あんまり神谷くんと話せてないな……

 

 折角帰ってきたのに。

 

 彼に話し掛けようとすると、いつも誰かと話し込んでいて声を掛けられない。積もる話もあるだろうし、仕方ない。

 

 今、神谷くんは華扇さんとお話をしている。彼女は霊夢と魔理沙との酒飲み対決に勝ったらしい。霊夢は机の上で気持ち良さそうに寝ている。

 

 私は、寝ている魔理沙の横で一人お酒を飲む。別に、他の人と会話をすればいいのだが、今は神谷くんのことしか考えられない。

 

 ──酔っているからかな……

 

 ━━━━━━━━━━━━━━━

 

 取り敢えず、一通り皆と話せたかな。半年ぶりの再会ということもあり、いつもよりも長く話し込んでしまった。これで漸く霊華と話せる。

 

 ──霊華は何処だろうか。おや? 

 

 彼女は、神社の縁側に座ったまま俯いていた。どうやら寝ているようだ。彼女の隣には、魔理沙が横になっている。そういえば、霊夢も気持ち良さそうに寝ている。自機組は皆おねんねか。

 

 俺は、霊華が寝ている縁側まで歩く。

 

 ──話したかったけど、寝ているなら後にしよう

 

 そう考えて、ブランケットを創造して彼女を包むように掛けてあげる。

 

「ん……あれ〜?」

「おわ、ごめん、起こした?」

 

 酔っていて舌が回らなくなっているようで、「あれ?」というより、「はぇ?」に近い反応を受けた。

 

「わたし、寝ちゃってたんだ」

「布団敷いてこようか?」

「ううん。へいき。ありがとう」

 

 まだ眠そうな霊華はまったりとしている。

 

「ねえ」

「ん?」

「こっち、来て?」

 

 霊華は、手で自分の横をポンポンと叩くことで、隣りに座るように促してきた。俺は、お言葉に甘えて隣に座る。

 

「やーだ。なんでそんなに遠いの? もっとこっち来てよ」

「ええ……」

 

 そう言われて少し距離を縮める。幅は30cm程まで近づいたが、まだ足りなかったようで霊華の方から近寄ってきた。

 

「おお、めっちゃ近いじゃん」

「いや?」

「嫌じゃないよ」

 

 まさかのゼロ距離。むしろ嬉しいです! 

 

「かーみやくん」

「んー?」

「ありがとう」

「へ?」

 

 唐突にお礼を言われた。よく分からない。

 

「いつも危ないときに助けてくれてありがとう」

「あー、そういえば結構頻繁にピンチに陥るよね。たまたま俺が駆けつけたときでも結構な回数あるし、日常的に妖怪に襲われてるの?」

「ううん。気配を察知できるようになってからは、妖怪がいるところに近づかないようにしてるんだ。だから最近は襲われないよ。どうしてかな、私がピンチになると駆けつけてくれるのは、いつも神谷くんなんだよね」

 

 そうなんだ。てっきり、霊夢や魔理沙にも助けられているものだと思っていた。

 

「助けてくれるときの神谷くんって、凄くカッコいいんだよね」

「え!? ん? ええっと……それは吊り橋効果ってやつじゃない?」

「そうかな。だとしても、もう手遅れだよ」

「何が?」

「やだ。ひみつ」

 

 なんやねん。

 

 酔っている霊華はよく分からない。

 

 ──だが、可愛い! 

 

「私、助けてもらってばかりだなぁ」

「そんなことないよ」

 

 霊華は、依然としてまったりとしながら首を傾げている。

 

「俺だってこの半年間、霊華が居なかったら頑張れなかったよ」

「え……? 私、何もしてないよ」

「……俺は、今日この日を迎えるまで何度も挫けそうになった。独りで寂しいし、理不尽な強さを持つ妖怪と沢山戦って、正直怖い思いを沢山してきた。でも、俺はその度に霊華のことを思い出してたんだよ。だから、頑張れた」

「そうなの?」

「そうなの」

「そっか。えへへ……力になれたなら良かった」

 

 霊華は、俺の言ったことを完全には理解していないだろう。事情を詳しく伝えていないから仕方ない。だがそれでも、霊華は嬉しそうに笑った。

 

 ──本当に、霊華には何度も助けられた。

 

 霊華が、生きる希望だった。元々、剣の修行を始めたのも彼女を守る力を身に付けたいからだった。そのためなら、辛い修行も耐えられた。そのくらい大きな存在だったため、霊華との関係が悪くなったときは本当に辛かった。頑張る理由を失ったのだ。その後、霊華と再会していなければ、俺は間違いなく藍や紫に勝てなかっただろう。「霊華が帰りを待ってくれている」という事実が、俺を再び走らせてくれた。それでも、藍と紫は非常に強く、正直勝てる気がしなかった。だがそんなときこそ、彼女のことを思い出し、「ここで勝って、必ず霊華と再会するんだ」という目的を叫んできた。そうすることで、自然と力が漲った。だから、俺も霊華に助けられてきたのだ。

 

「神谷くん、ちゃんとお酒飲んでる?」

「んー、少しは飲んでるよ。あんまり飲むと眠くなって人と話せなくなるからセーブしてるけど」

 

 俺は酒に弱い。少し飲んだだけで頭が痛くなるか、眠くなってしまうのだ。

 

「もうじきお開きだろうから、一緒に飲もう?」

 

 霊華は、そう言って立ち上がると、皆がいる机から徳利を持ってきた。

 

「どうぞー」

 

 霊華が俺の盃に酒を注いでくれる。その後、俺も彼女の盃に酒を注ごうとするが、さっき注いだばかりだったようで、このままでいいと言う。

 

「それじゃあ改めて、神谷くんの帰りを祝って、かんぱーい」

「乾杯」

 

 俺達は同時に酒を口にした。

 

「ん"っ!?」

「ほぇ?」

 

 ──おいおい、これってまさか……

 

 口に含んだ瞬間に分かる。度数高いやつじゃん。飲み込む前からアルコールの匂いが鼻まで届く。味も苦いというかなんというか、形容しがたいのだが、ヤバいということだけはわかる。勇気を振り絞って飲み込むと、喉が焼けるように熱くなる。そして、一気に逆上せたように頭も熱くなる。さらに、僅かな目眩もする。

 

「うげぇ……これ、華扇さんが持ってきたやつじゃない?」

「本当? ……間違えちゃったみたい。ごめんね」

 

 この宴会には、2種類の酒が用意されている。1つは、俺のように酒に強くない人が嗜む程度の酒。もう一つは、華扇が持ってきたアルコール度数がエグい酒だ。さっきまで俺達が飲んでいたのは前者。そして、今飲んだ酒は後者である。

 

 2種類の酒が混ざらないよう、徳利の種類も分けていた。だが、既に出来上がっていた霊華はそれを確認することを忘れ、間違えてこの酒を持ってきたのだろう。

 

「ま、まあ、明日も休みだし潰れても平気かな……」

 

 まずい。一気にボーっとしてきた。飲んだものがものなので、俺が弱すぎるからなのか、度数が高すぎるからか分からないが、既にクラクラする。

 

 俺は盃を置いて、霊華と雑談をする。少し話すと急に睡魔が訪れ、最早話が入ってこなくなってしまった。

 

「か、かみやくん」

「んあ?」

「顔真っ赤だし、少し横になった方がいいよ」

「んー、今めっちゃ眠い」

「ほら、こっちにおいで」

 

 霊華に袖を強めに引っ張られた。平衡感覚さえ曖昧になっている俺は容易にバランスを崩し、倒れてしまう。硬い床にぶつかると思ったが、実際は少し柔らかいクッションに受け止められた。目の前には、霊華の顔が見える。

 

 ──膝枕? 

 

「ゆっくり休んでね」

 

 霊華はそう言うと、優しく俺の頭を撫でてくれる。それについて何かを思う前に、入眠した。

 

 ━━━━━━━━━━━━━━━

 

 私は、神谷くんに強めのお酒を飲ませてしまった。もちろん、わざとではない。2種類のお酒が混ざらないように徳利を分けていたのに、そのことを忘れて適当に持ってきてしまった。みるみるうちに顔を赤くし、酔っていく彼を見ると、「やってしまった」という罪悪感が徐々に高まっていった。そのお蔭で酔いが覚めてきた。

 

 私は、完全に酔いが覚める前に思い切って膝枕をしてみた。神谷くんが酔っていたこともあり、驚く程簡単にできた。

 

「可愛い」

 

 私の膝の上で寝ている彼の顔を見て、無意識に呟いてしまった。私を助けてくれるときの彼は、凛々しい表情をしていてとてもカッコいい。今の寝ている彼にその面影はなく、すやすやと寝る普通の青年だ。

 

 私は、彼の頭を優しく撫でる。心地良さそうに寝ている彼を見ると、いつまでもこうしていたいと思ってくる。

 

 暫く続けていると、誰かが歩み寄ってきた。そちらに目を向けると、紫さんがいた。

 

「少しいいかしら」

 

 私が頷くと、紫さんは隣に腰を下ろした。隣に居ると改めて感じる底知れぬ妖力。高い気品。少し気圧されて萎縮してしまいそう。紫さんを相手に堂々としていられる霊夢と魔理沙は凄いと思う。

 

 紫さんは、私の膝の上で寝ている神谷くんを見てから話しかけてきた。

 

「単刀直入に尋ねさせてもらうけど、貴女は彼のことをどう思っているの?」

 

 彼というのは言うまでもなく神谷くんのことだろう。

 

「えっと……大切な友達です」

「それだけ?」

「………………好き、です」

 

 本人に聞こえそうな状況でこの発言をするのは勇気が必要で、言葉を捻り出すのに時間がかかった。

 

「彼のどんなところが好き?」

「沢山あるんですけど、例えば強いところとか。力という意味での強さじゃなくて、自分より格上の妖怪が相手でも立ち向かえるという意味で強いんです。──それと、向上心を持って物事に取り組むところが好きです。あとは、優しいところですかね。神谷くんって、敵には容赦しない人だけど、仲間には凄く優しいんです。──あと、私が危ないときはいつだって神谷くんが助けてくれるんです。その場にいないのに、いつも駆けつけてくれる。そのときの神谷くんは凄くカッコよくて、思い出す度に胸がキュンとします。他には──」

「──ふふ、ありがとう。もう大丈夫よ?」

 

 しまった。気付いたら語ってしまった。

 

 私が紫さんに謝ると、彼女は首を横に振った。

 

「貴女がとっても彼を好いていることが伝わってきたわ。彼は幸せ者ね」

「そうでしょうか」

「ええ。それは勿論。こんなにも一途な人に愛されているのですから。「顔がいいから」であったり、「剣術の腕が立つから」でなくて良かったですわ」

「その2つも好きですよ?」

「そうだとしても、貴女は別の要素を取り上げた。それはきっと、真に彼を愛している証拠でしょう」

 

 あ、愛してるだなんて……。

 

 紫さんの言葉を聞いて恥ずかしがっていると、彼女は満足気に頷いた。

 

「やはり、貴女がいなければこの子はダメになっていたでしょうね」

「さっき、神谷くんも言ってくれました。そんなに大変な修行だったんですか?」

「──確かに私は、彼に修行をつけていたわ。けれど、彼にはそのことを言っていなかったの。彼が孤独になるように仕向けたのは私だから」

 

 私は言葉を失った。何か、宴会の前に聞いた話と違う気がした。

 

「ああ、貴女と彼が仲違いした原因に関しては私は関与していないわ」

「どういうことですか」

「あなた達が仲違いをした後、私はそれを利用して彼を独りにさせたの。幻想郷から追放すると言ってね。彼の()()()()()の能力は知っているでしょう? それを利用したの」

 

 もうひとつの能力……確か、『全てを支配する程度の能力』。それを利用したということは、神谷くんが懸念していたことが本当に起きてしまったのだろうか。

 

「あの力は幻想郷を管理する者として見過ごせるものではなかった。未熟な者が大それた力を持っていては危険すぎる。尤も、未熟でなくてもそうだけど。……だから、排除することを検討した」

 

 私は、気づいたら膝の上に眠る神谷くんを寝かせたまま抱き寄せていた。

 

 排除するということは、殺害、或いは外の世界への帰還。何にせよ、そんなのは嫌だ。そういう気持ちが無意識下に行動に出ていた。

 

 考えているうちに不安になった私は、酔いも覚めてきた。

 

「でも、少し気になる事ができてね。その調査のためには霊夢よりも彼の方が向いていると思った。だから私は彼を生かすことにした。不届き者に利用されないよう、強く鍛えることを条件にね」

「じゃあ、神谷くんが倒したかった人って、紫さんだったんですか?」

 

 紫さんは首肯したあと、のんびりと語り始めた。

 

「十中八九そうでしょうね。この子には、貴女と一緒に居られないのは私のせいだと思わせていたから。祐哉は、貴女と平和に過ごしていた日々を取り戻すために鍛えていたの。私を倒し、自由となることで、博麗神社(ここ)に帰ろうとしていた」

 

 一通り語り終わった紫さんは、お酒を口にする。

 

 やっぱり、自分探しの旅なんかじゃなかったんだ。さっき聞いた、話も何か違和感があった。神谷くんは、紫さんを倒そうとしていた……。

 

「戦いはどうなったんですか?」

「どう思う?」

「恐らく、神谷くんが勝ったから戻ってきたのだと思います。ただ、いくら神谷くんでも厳しそうだな、と……」

「半年前はそうね。奥義を回避できるレベルまで育てば合格にする予定だったのだけど、彼のやる気は凄まじいものだったわ。人間相手にあれ程までに力を使ったのは久しぶりね」

「そんなに……」

 

 紫さんは、どこか楽しそうに語る。

 

「私の想像を上回る成長を遂げることができたのは、貴女の存在が大きいと思うの。だから、貴女には真実を話すことにした。ここまでの話は内密にね? ──彼は、これからも困難に立ち向かっていくと思う。そんなときでも、貴女だけは傍にいてあげて欲しいわ」

「私でよければ……」

 

 私がそう言うと、紫さんはクスリと笑った。

 

「これは貴女にしか務まらないのよ。──さて、邪魔してごめんなさいね。夜はまだ長い。続きを楽しんでね」

 

 紫さんはそう言って席を立った。

 

「神谷くんは、私がそばにいたら喜んでくれるかな……。そうだといいな……」

 

 半年前、神谷くんに好きな人がいると知った。半年の辛い修行の中で、恋心に変化が起きているだろう。確実に、恋をしている余裕はなかっただろうから。

 

 もし、神谷くんに好きな人がいるなら、彼のそばに居るべき人はその人だ。

 

「私じゃない……」

 

 そう呟くと、胸が苦しくなった。

 

 神谷くんが戻ってきたら、思い切って想いを伝えてみようかと思ったこともあった。けれども、やっぱり怖くて言えない。伝えたとき、申し訳なさそうに「他に好きな人がいるんだ」と言われたら、私は立ち直れる気がしない。あっさりと諦めるには、好きでいる時間が長すぎた。

 

「苦しいなぁ……。生き物の気持ちは分かるのに、何で人の気持ちは分からないんだろう……。神谷くんの好きな人が分かったら、少しは楽なのに……」

 

 この考えは間違っている。それは分かっているつもりだ。人間誰しも、人が心の底で考えていることなど分からない。だから、我々は様々な言動から互いの気持ちを確認し合うことでコミュニケーションを図っている。でも、私のように人間以外の生き物の声を聞く力があると、欲張りな気持ちも芽生えてしまう。

 

「──私は臆病者だから、面と向かって言えないけど……」

 

 気付くと私は、神谷くんを独り占めするように抱きしめていた。

 

「……大好きだよ」

 

 どうか、この声が届かない(届く)ことを願って、私は想いを伝えた。




ありがとうございましたぁ!!!  良かったら感想ください!

くそっ……じれってーな。俺ちょっとやらしい雰囲気にして来ます!!

もう付き合っちゃえよ……。

霊華は、自分ばかりが助けられていると思っていましたが、実はそうでもないんですよね。ここまで彼の行動を見ている皆さんならお分かりだと思いますが、彼はしんどい時こそ霊華のことを思い出していました。お互いになくてはならない存在なのです。
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