楽しんでいってください!
#106『vs紅美鈴』
私と手合わせしていただけませんか。という、中華風の人からの一言を受け、俺は「うわぁ」という嫌そうな返事をした。本当に、幻想郷には血の気の多い妖怪が多い。
遡ること数時間。俺は、久しぶりに紅魔館へ挨拶しに行こうと思い立った。そして今、紅魔館に着くと門番の紅美鈴が珍しく起きていて、館内に通してもらおうとしたら手合わせしようと声をかけられたのだ。
「……なぜ?」
「暫くお会いしないうちにかなり強くなったみたいですね。お嬢様方から伺っています。私も貴方の成長に興味があるのです」
「なるほど。美鈴さんにもお世話になっていますからね。わかりました」
また霊華を人質にされたら面倒だし、それに格闘戦ができる人と本気で戦うのも面白い。
「──というわけで博麗さん。悪いんだけど、3面ボスと戦わせてくれる?」
「はい。私は横で応援してますね」
満面の笑みで応援してくれた霊華の期待に応えるためにも、頑張ろう。
「ルールは、弾幕、打撃ありで10分間の勝負でどうですか」
「分かりました。それでいきましょう」
俺たちは、互いに構えを取る。美鈴が打ち上げた石が地に着いたとき、闘いが始まった。その瞬間、目の前が色鮮やかな弾幕で埋め尽くされる。それに対し、俺は弾幕の隙間を見切って躱す。一方で、俺も開始と同時に刀の弾幕を放っていた。美鈴も危なげなく隙間を縫っている。初めはお互いに様子見をする形で終わった。
互いの弾幕が消えた後、美鈴が俺の方へ一直線に向かってきた。俺は、抜刀術で彼女に斬り掛かるが空振りに終わる。
「こっちですよ」
「あざす」
俺の後ろに回った彼女に話しかけられる。だが、彼女の動きは目で追えていたため、言われる前から気づいていた。形式上の感謝を述べながら後ろに斬り掛かると、驚くような光景が目に入り込んだ。
──俺の斬撃を、拳で止めただと?
「……流石、メイド・イン・チャイナの拳は硬いですね。傷もつかないとは」
「貴方の刀も相当な業物ですね。私の拳で折れないとは。やはり、刀を正面から折るのは難しいですね」
「遠慮なく折っていいですよ。代わりはいくらでもあるんで」
俺達は一旦距離を置いて体勢を立て直すと再び近接戦に移る。美鈴は、俺の数々の斬撃を難無く捌いてみせる。
──中々有効打を打てない。どうにかして隙を作りたい。
俺は、縮地を使って瞬時に後退し、宙に創造した数本の刀を飛ばす。その後、美鈴がその刀を捌いている隙にもう一度接近し、上段から斬り降ろす。
「──ハッ!!」
「嘘だろ……」
美鈴は、俺が刀を振り下ろす速度に対応し、振り下ろされている刀を横から殴りつけたのだ。刀は横からの衝撃に弱いこともあり、容易に折られた。
──なんという速さ! 久しぶりに人間と妖怪の格の違いを見せられた……。すげぇな
刀を折られても楽観的になれるのは、この能力があるからだ。
「──創造」
俺の手に握られた刀は、何事もなかったように元通りになった。
「あれ? 祐哉さんって、物を直せるんでしたっけ?」
「いや、折れた刀を消して、新しいものを持ち替えたんです。マジシャンに向いてると思いませんか?」
さて、もう少し頑張らないと最悪死ぬかもしれない。
「霊力を身体に纏いましたか。なるほど、確かに強くなっている。でも、可能ならもう少し纏う量を増やした方がいい。身体に穴が開きますよ」
「こっわ……。殺さないでくださいよ?」
「それならもう少し本気で来てください。まだ余裕があることは、『気』で分かりますよ」
──なるほど。手を抜いているつもりはなかったが、彼女の言う通りだ。
俺は、美鈴の忠告に従ってさらに霊力を纏い、中段の構えを取る。
「お言葉に甘えて本気出しますね。──神速『九頭龍閃』!」
膨大な量の霊力を込めた踏み込みから爆発的な加速が生まれ、神速で肉薄する。その勢いを最大限に生かし、同時に九方向からの斬撃を繰り出す。
「──くっ!」
驚いたことに、九つのうち
「これを食らって全く吹き飛ばないってやばくないですか?」
「鍛えているので、このくらいは。それにしても、ほぼ同時……いや、今の斬撃は完全に同時に繰り出されましたね。貴方も十分に凄い」
俺の場合は、八つの刀を創造して飛ばしているので何も凄くないが、それは伏せて、褒め言葉は有難く受け取っておくことにする。
「今度は私の番です」
美鈴が正拳突きを繰り出した。たったそれだけ。目で追える速さの拳だが、俺は本能的に恐怖を覚えた。
──創造!
俺は、殴られる前に分厚い盾を創造して身を守ることに成功した。拳が当たった盾から鈍い金属音が響く。
──危なかった。盾は作らないと決めていたけど、モロにくらったら死ぬ気がした。
「盾、ですか。いい物を見せてあげます」
美鈴はそういうと、音を立てて息を吐き始めた。
──アレは何かの呼吸法だ。また嫌な予感がする。
「ハッ!」
美鈴が叫んだ瞬間、盾が粉々に弾け飛んだ。強い衝撃波が発生し、盾の後ろにいた俺も大きく吹き飛ばされる。
「げふっ」
ガードが遅れた俺は吹き飛ばされ、地面に伏す。少し受け身をとるのを失敗したため頭が痛い。それに、身体中が痺れている。
「だ、大丈夫ですか! すみません、やりすぎてしまいました……」
美鈴は慌てたように駆け寄ってくる。
「──らえ……」
「なんですか? 意識はありますか?」
心配してくれてるところ悪いが、勝負はまだ終わっちゃいない。
霊華の手前だ。かっこ悪い所を見せる訳には行かねーだろ!
やってやる!
「──祓え! 妖斬剣!!」
俺は、身体の痺れを堪えて強引に妖斬剣を振る。
美鈴は、それを紙一重で避けた。
「くっそ……流石ですね。不意打ちは効かないか」
「……その刀、嫌な感じがしますね」
「これは俺の愛刀。これがあるから、俺は妖怪と闘える……。妖斬剣を抜いた以上、もう勝たせてもらいますよ」
──美鈴は非常に強い。恐らく、妖斬剣をもってしても、簡単には倒せない。
──素晴らしい。俺が強くなっても、まだ叶わない相手がいる。それなら、まだまだ俺は強くなれる。楽しくなってきた。
俺は、妖斬剣を納刀して、構える。
「その闘気、いいですね。私も気を引き締めていきます」
美鈴は、先と同じように虚空に正拳をぶつける。俺は、縮地を使って目に見えぬ空気弾を躱す。さらに、自分が着地する先に「
「我流抜刀術──斬造閃!!」
美鈴は、妖斬剣を恐れ、俺が抜刀する刀に集中しているだろう。だが、これはただの抜刀術ではない。美鈴は、いつの間にか三方向から妖斬剣が迫っていることに気づき、慌てて避ける。しかし、僅かに反応が遅れたため、斬撃が決まった。
「ぐぁ!!」
斬撃は、美鈴の左腕に命中した。妖斬剣の効力は凄まじく、腕を溶かすように切り落とした。
──しまった! やりすぎた!?
美鈴は、切り落とされた腕を傷口に当てる。微かな蒸気と共に傷が癒えていくようだ。
「……妖斬剣で斬ったのにその回復力。凄いですね」
「私、身体の丈夫さには自信があるんですが、恐ろしいですね。危うく消滅するところでしたよ」
──今更だけど、この刀は遊びで使って良いものじゃないかもしれない。最悪恩人を消滅させてしまう。
妖斬剣は、妖の類ならば問答無用で祓ってしまう。美鈴は、強力な妖怪であったため、腕が切れるだけで済んだのだ。例えば妖精に使ったら触れる前に消えてしまうかもしれない。この刀は、紫を始末するためだけに強化を続けたものだから、効力は尋常じゃない。
──後で、少し効力を落とした妖斬剣を作ってみようかな。
「その刀を受け止める考えは捨てます。ここからは貴方の斬撃を全て避けて見せましょう」
「刀は普通受け止めるもんじゃないので、ぜひそうしてください」
まだ時間はある。妖斬剣の威力を感じた美鈴は、宣言通り斬撃を躱そうとするだろう。ならば、ここからが勝負だ。
俺は、納刀して、再び抜刀術の構えを取る。
美鈴は、音を立てて力強く呼吸をする。恐らくは気を練っているのだろう。
一撃必殺なのは互いに同じ。俺も最大限に集中する。
互いに攻め時を伺っていると、上空から何か気配を感じた。
「「──誰だッ!?」」
俺と美鈴が同時に空を見上げると、そこには小学生くらいの少女が浮いていた。その少女は、蝙蝠の翼を生やしている。彼女の仕業なのか、空はいつの間にか蒼く染まっている。
──レミリア……? しかし髪や服の色が違う。それに、雰囲気も違う……?
「貴様、何者だ? 『気』がお嬢様とかなり似ている。しかし、貴様は邪悪だ」
美鈴は警戒心を高めて、上空にいる生物に問う。やはり、姿こそレミリアに似ているものの、別人なのか。
「──頭が高い。頭を垂れて我の前に平伏せ」
「ぶっ」
いけね。思わず笑っちまった。今時こんな痛い台詞吐く奴いるんだな。
「──おい」
「──!?」
気づくと、上空にいたはずの生物が目の前に現れていた。
「貴様、人間だな? 食糧の分際で、我を笑うなど許されることではない。失せろ」
生物がそういった瞬間、俺は吹き飛ばされていた。
「ぐっ!?」
──速い! 戦闘モードに入ってなかったらガードできずに死んでたぞ。
遠くで霊華が叫ぶ声が聞こえる。
──不味い。今霊華があいつに狙われたら間に合わない。髪飾りにかけた術があるけど、発動する前に殺される!
「くそっ」
俺は、吹き飛ばされながらも無理矢理体勢を変える。
──足場を創造。『ベクトル逆転』付与!
空中に足場を創造し、足場に付与した効果で霊華の元へ跳ぶ。
「お前も。平伏せと言ったはずだ」
レミリアに似た生物は、美鈴の額にトンと指を当てた。たったそれだけで、美鈴は吹き飛んでいった。
──化け物が。どんな馬鹿力だよ。
「──さて、そこな娘よ。貴様はどうする? あの人間のように肉片となりたいか? 今すぐ我の前に平伏すというなら、もう少しの間は生かしてやる」
生物は、ゆっくりと歩きながら霊華に話しかける。霊華の手には、大幣が握られている。しかし、その手は恐怖で震えている。霊華の元まで辿り着くまでにまだ時間がかかる。しかし……
「遅い。死ね……」
──来たッ!
瞬間、脳に一つの命令が走った。
『霊華を守れ』
これは、髪飾りにかけた術が発動した合図だ。術の効果で、俺は霊華のすぐ前にテレポートする。俺は、すぐさま妖斬剣を抜刀して生物の攻撃に対抗する。
「──我流抜刀術、斬造閃!!」
「何っ!?」
生物の腕が霊華に触れる前に、妖斬剣で切り落とした。
「──星符!! 『スターバースト』!!」
間髪入れずに魔法陣を創造し、生物に向けて極太のレーザーを放つ。その間に、俺は霊華の頭に手を乗せる。
「神谷くん、一体何がどうなってるの?」
「わからない。けど、あいつは強すぎる。だから、霊夢を呼んできてくれ」
あいつは恐ろしく速いし、パワーも桁違いだ。正直、霊華を守り切れる自信がない。
だから、俺は切り札を使う。
「やれやれ、この手はあまり使いたくなかったんだけどな……。ま、この状況なら成功するかな」
「神谷くん? 一体何を……」
「俺が死ぬ前に、霊夢を呼んで欲しい。頼んだよ」
──『
頭の神経が焼き切れるような気持ちで強く念じると、能力の発動に成功し、霊華は目の前から姿を消した。
一気に霊力を消費した影響で、僅かな立ちくらみが起こる。
「──さて、どうやって生き延びようかな」
ありがとうございました。よかったら感想をください!
不穏の予感。でも大丈夫。もう祐哉は一人じゃないですからね。
それでは、また!