「──さて、どうやって生き延びようかな」
「クハハ……中々痺れる光線だ。ただの人間ではないようだな」
こいつ、スターバーストを避けなかったのか。あの生物のスピードなら、避けられたはず。何故わざわざ受けた?
「さあ、もっと撃ってこい! 我が貴様の力を測ってやろう」
「その前に、アンタは何者なのか教えてくれないか?」
「我は、レミー。レミー様と呼ぶがいい」
「レミィ? わかりづらいからブルーレットでいいかな」
「なぜだ!」
「アンタ、レミリア・スカーレットのクローンだろう。オリジナルの愛称が『レミィ』でね。違いが分かりづらいのさ。あと、アンタの髪の色が青いからブルーレット」
ブルーレット、置くだけ。我ながら吹きそうになる名前をつけてしまった。
「ブルーレット……。レミー・ブルーレットか。よし、今日から我はレミー・ブルーレットだ!」
──変なやつ
『側からみれば、初対面の敵に変なあだ名をつける貴方も変なやつですよ』
──へ!?
「で、レミーは何者? 何が目的で来た?」
「我は、誇り高き吸血鬼。目的は、この地を支配することだ」
幻想郷を支配するのか。可哀想に。俺の能力があればその夢は叶ったのにな。
「そうか。俺は、神谷祐哉。アンタみたいな奴に幻想郷のルールを伝える役目を担っている人間だ」
「必要ない。ルールは、我が作る」
よくいるよね。そんなキャラ。
「じゃあ、残念だけど消滅してもらうよ」
「ククク……ハハハハハハハ! 人間であるお前が我を倒すだと?」
レミーと話していると、美鈴が戻ってきた。よかった、美鈴が居れば心強い。
「すみません。時間稼ぎ、感謝します」
「──さて、そろそろ腹をくくって戦いますかね……」
戦うのはいいが、妖怪である美鈴との共闘には、一つ大きな問題がある。それは、レミーに向けて放つ妖斬剣が美鈴にも影響を与えることだ。
──それなら、対策を施せばいい
「美鈴さん、これを」
俺は、耳飾りを創造し、美鈴に手渡す。
「これは?」
「めっちゃ元気になる耳飾りです」
美鈴は、耳飾りを受け取って装着する。
「……ほう、貴様、中々に頑丈だな」
レミーは、美鈴の頑丈さに素直に感心した様子だ。美鈴は、服に多少の傷ができているものの、身体は無傷のようだ。
「この程度でやられたら、紅魔館の門番としてやっていけないのでね」
「紅魔館というのは、この館か?」
レミーはそう言って、自身の目の前にある紅魔館に目をやる。
「強い気配をふたつ感じる……そのうち一方は……なるほど、我のオリジナルか。面白い。我がオリジナルならば、気が合うだろう。どれ、会いにいってみるか」
レミーは、俺達に目もやらずに紅魔館の門前へ歩き始めた。しかし、美鈴が彼女の前に立つことで、それは阻止された。今は、俺と美鈴がレミーを挟むように立っている。
「退け」
「私は、紅魔館の門番。お前のような者を通すわけにはいかない」
「そうか。ならば──」
レミーは、右の拳に妖力を集中させた。
「──力づくで突破する!」
レミーが、美鈴に右ストレートを放った。美鈴は、それを紙一重で躱し、肘鉄を決める。腹にカウンターを食らったレミーは、大きく吹き飛んでいった。
──今日は色んな人が吹き飛ぶ日だな。嫌な日だぜ……
『余裕ですね』
──最近、感覚が壊れてきたんですよね。いちいち怖がっていたら、やってられないんですよ。
『それはごもっともですが、気を引き締めて。戻ってきますよ』
アテナの言う通り、レミーが高速移動で真っ直ぐ美鈴に突進している。俺は、彼女が進む軌道上に刀を創造し、この技を使う。
「──
「グゥッ!?」
「あまりにも直線的な突進だからな。すごく攻撃しやすいぜ」
レミーの身体に白い刀が刺さった。突然のことに驚いたレミーは、苦悶の声をあげて立ち止まる。既に苦しそうだが、
「グアアアアアアア!!」
妖斬剣から次々と刀が生えていく。無論、生えてくる刀も全て妖斬剣だ。
レミーは、この世の終わりのような叫び声をあげて地面に倒れた。
「終わった? 案外、大したこと無かったですね」
美鈴が、そう言った。
──不味い。敵を攻撃した後の「やったか!?」は大体倒せてないフラグだ。そのくらいは某少年誌を読んで履修しておいてくれ!
「──無駄だ」
「やっぱりかよ!!」
目の前で地に伏したはずのレミーは、突如俺の後ろに現れて殴りかかってきた。それを予測していた俺は、妖斬剣で対応する。
彼女の拳は、妖斬剣によってスッパリと切断された。
レミーは、興味深そうに妖斬剣と自分の腕の切断面を見る。
「その刀、我を滅する力があるようだ」
「そういうアンタの力は何? さっき俺が殺したのは分身? それとも幻覚か?」
視界の端に映ったレミーは、徐々に色素を失い、やがて消滅した。残ったのは、彼女の身体中に刺さっていた妖斬剣だけだ。理屈はわからないが、倒せていないのは確かだ。
「これが、我の能力──『運命を
「チーターかよ」
「チーターではない。吸血鬼だ」
「ちげぇよ。規格外だって言ってんの。その能力、好きなときに好きなだけ使えるのか?」
レミーは、俺の問いに対して鼻で笑うと、切れた腕に力を込めて再生させた。
「──さっきまでペラペラ話してくれたのに急にダンマリか。切れた腕を再生させたということは、その能力は乱発できないようだな」
回数制限があるか、膨大な力を使うと見た。
『はい、能力を使ってからレミーの妖力が一気に減ったので、少なくとも後者の推測は正しいと思います。とはいえ、残りの妖力は底が見えないほど多いです』
──ふむ。それだけの能力だ。他にも制約があるだろう。そうでなければ困る。
紫の言っていたことがわかってきた。もし支配の能力を簡単に使えたら、レミーの能力使用を禁止して有利に戦えるというわけか。
──待てよ。創造の能力で、物体に『能力使用禁止』を付与できないだろうか
「物は試しだ。──
レミーの体内に、能力使用禁止を付与した妖斬剣を創造する。妖怪のレミーにとって、妖斬剣の効力は毒そのものだ。先刻と同じように叫び声を上げながら倒れていく。
しかし──
「貴様らに我は倒せぬ。大人しく道を開けたほうが利口だと思うが?」
レミーは、何事も無かったかのように起き上がった。刺さっていた妖斬剣は消えている。
──流石にキツイな。能力使用を禁止されているという運命さえも書き換えていると考えればいいのか?
「退かないよ。言っただろ。アンタには消滅してもらうって」
「私も、門番として貴様を通すわけにはいかないと言ったはず」
「やれやれ、頑固な奴らだ。ならば!」
レミーは、身体中から膨大な青い妖力を放出した。それは彼女の手に集まり、槍の形を作っていく。
「我がグングニルをもって貴様らを葬るまでッ!」
レミーは、青いグングニルを大きく振り払うと、俺の心臓を目掛けて突いた。
──
「これは!?」
レミーは、内部破裂でグングニルを破壊されて驚いている。俺は、その隙をついてレミーに袈裟斬りを繰り出す。レミーについた傷は大きい。本来なら、妖斬剣の効果でレミーが消滅するはずだ。しかし、次の瞬間には傷が消えていて、破壊されたグングニルも元通りになっていた。
間髪入れずに、レミーの体内に妖斬剣を創造。レミーはもう一度死ぬ。
「無駄だと言っているだろう。我を殺せるものは、この世にはおらぬ」
「チッ、能力はオートで発動するのか? さらに、発動にインターバルもないのかよ」
「そういうことだ。何やら分析していたようだが、この力は妖力を消耗する以外に制約はない」
レミーは、グングニルを創成して襲いかかる。それを俺は難なく妖斬剣で受け止めてみせる。
「飽きた。そろそろ終わりにするとしよう」
「くっ……」
だが次の瞬間、レミーの攻撃速度が上がった。恐ろしい速さだ。余裕は一気に無くなり、槍による突きと払いを受け流すので精一杯になる。
「ハッ!」
美鈴が、俺とレミーの攻防に入り込んできた。2対1の戦いになったことで、俺の負担も軽減された。僅かに生まれた余裕を活かして、身体に纏う霊力量を増やす。身体能力を向上させることによって、妖怪同士の戦いに対応することが可能になった。
レミーと美鈴が攻防している隙に内部破裂を使うが、当たらなくなってきた。
「無駄だ。突然刀が体内から生える奇術も、もう見切っている」
──そうかよ。なら直接斬るまでだ!
美鈴とレミーは、目を疑うような速さの攻防を繰り広げている。辛うじてだが、そんな戦いに俺もついていけている。
「任せます」
その言葉と共に、美鈴がレミーから距離を置き、代わりに俺がレミーに斬撃を与える。美鈴は、後退しながら虚空を力強く蹴りつける。
「──九頭龍閃!!」
俺は、レミーに斬撃を繰り出しつつ突進することで、彼女を美鈴の方に飛ばす。その先には、先刻美鈴が繰り出した気団が飛来していた。
「グハッ!」
レミーは、正面から九つの斬撃を、背中からは強烈な気団をモロに食らった。しかし、同じことの繰り返しだ。どうやってもコイツを殺すことはできない。ここは、撤退するのが利口だろう。しかし、撤退すればレミーが紅魔館に侵入してしまう。そうなればレミリア達もタダでは済まないだろう。何より、美鈴を置いて退くことはできない。
どうすればいい? 霊夢の到着を待っても、運命を書き換えられてしまう以上、封印しても無駄だろう。
『祐哉、レミーについて分かってきましたよ。この能力の制約は、妖力を使うだけ。確かにその通りですが、その消費量は使用回数と比例して増加するようです! この調子で行けば、もう一度能力を使えば底を尽きるかと思います』
──それは朗報だ! ジリ貧と思いきや、いつの間にか追い詰めていたという訳か!
「……認めよう。我は、貴様らを甘く見すぎていたようだ。今まで加減してきたことは許せ。ここからは、加減はなしだ。──もう殺す」
レミーは、瞬間移動した。目で追えなかったのか、本当に瞬間移動したのか分からないが、気づいたときには、奴はグングニルで美鈴の身体を貫いていた。
「なっ!? 速すぎる……」
「次は──」
咄嗟に臨戦態勢を取るが、遅かった。
「──お前だ」
次の瞬間、味わったこともない強い衝撃が全身を襲った。
「ぐあぁああああっ!! あがっ……」
霊力を身に纏い、防御力を高めているのにもかかわらず、身体中の臓器までが痛む。骨も折れているだろう。
──くそ……俺は……死ぬのか?
そこまで考えて、俺の意識は途切れた。
ありがとうございました。良かったら感想ください!
それにしても、人に変な名前を付けておいてその名前で呼ばないとは、祐哉も中々変なやつですね。