東方霊想録   作:祐霊

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#111「vs博麗霊夢」

 やるからには本気でやりたいということで、俺達は一旦外に出て戦うことにした。互いの間合いよりも離れた位置に立ち、戦闘の構えを取る俺と霊夢の横では、咲夜と美鈴が見守っている。

 

「二人とも、準備はいいわね。──始め!」

 

 咲夜の掛け声により、闘いの火蓋が落とされた。霊夢は御札を鋭く飛ばしてくる。

 

「オラッ!」

 

 俺は腰に携えた刀を抜刀しながら霊力の刃を飛ばす。その刃は御札と衝突し、爆発する。視界が土煙で遮られている間に、縮地を用いて霊夢の背を取る。そのまま霊夢が俺に気付く前に袈裟斬りを繰り出す。

 

「──っ! 速いわね……」

 

 流石は霊夢だ。完全に入ったと思った一撃は、(すんで)の所でガードされた。大幣と刀との鍔迫り合い。パワーでは男の俺が有利。しかし、霊夢の戦闘センスは俺を遥かに上回るだろうから油断できない。

 

「これはどういうつもり? 何で木刀なんか使ってるのよ」

「本気で戦うんだ。斬れたら危ないだろ。それに、打撲以上の怪我は負わせたら俺の負けになっちまう」

「そのうち真剣にしとけばよかったって後悔するわ──」

 

 突然、前から押される力がなくなってバランスを崩す。一瞬で俺の背後をとった霊夢が大幣を払っている。

 

「──よ!」

「危なっ!」

 

 バランスを崩していた俺は、敢えてそのまま地面に倒れ込み、受身をとる要領で転がることで回避した。その後、直ぐに立ち上がって木刀を構える。

 

 ──今のは、瞬間移動か? もし、ただの高速移動ならまずい。俺は霊夢の動きを見切れなかった。

 

『瞬間移動です。霊夢は間違いなく突然目の前から消え、貴方の背後に現れました』

 

 ──何故かワープできるんだっけ? 空を飛ぶ程度の能力によるものなのか? 

 

 取り敢えず、常に霊夢がワープする可能性を考える必要がある。

 

『来ますよ』

 

 ──ちゃんと気づいてますよ! 

 

 霊夢は詠唱を始めたかと思うと、煌々としたオーラを纏った。その数秒後には詠唱が終わり、十八番の技を繰り出す。

 

「──夢想封印!」

 

 彼女の周りから光弾が数個放たれた。バランスボールくらいの大きさのそれらが素早く飛んでくる。俺は夢想封印をギリギリまで引き付けた後、縮地を使って躱す。

 

 そして、縮地で得た勢いを利用して霊夢の真正面から斬り掛かる。霊夢は俺が繰り出す無数の斬撃を受け止め、時には払ってみせる。

 

 ──霊夢は体術もいけるのか

 

「そこっ!」

 

 霊夢は、俺が木刀を真上から振り下ろしたタイミングで横に躱し、大幣で俺の手首を叩いた。その衝撃で手から木刀が抜け落ちた。俺は直ぐに新しい木刀を創造しようとするが、それよりも早くに霊夢が俺の腕を掴み、投げ技を繰り出した。

 

「ちっ!」

 

 投げられている間、俺は空中で強引に霊夢を振り払うことで技を回避する。回避すると同時に木刀を複数創造し、射出することで動きを牽制する。

 

「器用ね。大体のヤツは今ので一本取れるんだけど」

「投げただけで降参するのか?」

「その後、封魔陣に繋げるからね」

「なるほど。嫌な予感は当たったか」

 

 ──今のところは、霊夢と闘えている。しかし、勝利までの道筋が思いつかない。

 

 この闘いは、降参させたら勝ち。ただ霊夢に勝つというよりは、俺の力が吸血鬼との闘いに役立つことをアピールすることに重点を置くべきだろう。

 

 そこまで考えた俺は、木刀を解放することで妖斬剣にする。妖斬剣は、必ずしも、いつも使っている刀である必要はない。予め『合図に応じて妖斬剣に変化する』機能を付与すればいいのだ。

 

「この刀の名前は妖斬剣。妖の類を祓う力を帯びた刀だ。剣とは言っているけど、この力は創造の能力で与えたものだから、どんなものにでもこの力は与えられる。例えば、妖斬剣の効力を持った大幣を作れたりする」

 

 俺は、霊夢に妖斬剣の説明をする。

 

「気になる性能だが、まずその辺の雑魚妖怪は近づいただけで消滅する。強い妖怪でも、例えば美鈴さんやレミリアさんをも震えさせた実績がある。あとは、八雲藍や紫にもね。嘘だと思うなら、後で聞いてみればいいよ」

 

 俺は、手に持った妖斬剣を消すと、指をピンと立てる。

 

「大妖怪ですら震えさせる強力な刀だが、これは当然人間にはなんの効力も持たない。だから、霊夢には使わない。その予定だったよ。でも、ここからは敢えて使おう。妖斬剣の使い方、汎用性の高さを見ればきっと俺を採用したくなる」

 

 俺はそう言って、妖祓いの五月雨(レインバレット)を使う。

 

「なるほど……」

 

 数多の魔法陣から射出される無数の妖斬剣。これを見た霊夢は、感嘆の声を漏らした。

 

「弾の数や密度は申し分ない。加えて、それだけの力を持った刀をこんなに量産できるのは確かに凄いわ。あんまり美しくないけど、まあ今回はどうでもいいか」

 

 霊夢は、実際に妖祓いの五月雨(レインバレット)を避けながら感想を述べた。

 

「その刀のことはよくわかったわ。これで貴方自身も強ければ合格ね」

 

 霊夢は地上にいた俺の目の前に現れると、大幣を刀のように振って斬撃を繰り出してきた。霊夢がワープしてきた時点で木刀を創造していた俺は、難なく斬撃を受け止める。

 

 ──体術ができるとは言っても、斬撃においては俺の方が慣れている。攻撃を見破るのは容易い

 

「面倒臭いけど、ここからは本気でいく! だから貴方も私をレミーだと思ってかかってきなさい!」

 

 大幣を振りながら叫ぶ霊夢。それに呼応するように彼女の身体から霊力が溢れていく。

 

「えっ、霊夢も霊力を使えるのか?」

「これは妖梨の受け売りよ。貴方もさっき紅魔館でやっていたでしょ。そのとき、昔見たのを思い出したのよ」

 

 昔……ああ、春雪異変のときか? そうか、俺が知っている原作では妖梨はいない。けれど、この世界の幻想郷に妖梨は確かに存在する。彼も春雪異変のときに霊夢と闘ったのだろう。

 

「霊力操作って、そんな簡単にできるものじゃないんだけど?」

「へえ! 初めてやったけど簡単じゃない」

 

 霊力で身体強化した霊夢の斬撃は重くなった。霊夢が放出している霊力量は多いため、生身で受けることは難しい。

 

 ──霊力操作が簡単だって? 

 

「ったく、これだから天才は……。けどよ、こと霊力操作においては俺の方が慣れてる。それに、こちとら霊力操作のプロに修行をつけてもらってんだ。半端者に負けはしないぜ!」

 

 霊夢程の人が霊力操作を使えるなら、遠慮することはないだろう。本気を出しても勢い余って怪我をさせることもあるまい。

 

 俺は身体に霊力を纏うとフルパワーで木刀を振り、霊夢の大幣に当てる。僅か1秒程は力が拮抗しているように思えたが、直ぐに大幣が折れた。獲物を失った霊夢は咄嗟に徒手空拳に切り替え、次なる俺の斬撃に備える。しかし、もう勝ち筋は見えている。

 

「これで終わりだ!」

「舐めないでよね! 私は博麗の巫女よ! 木刀を1本捌くくらい、訳無いんだから!」

 

 ──ああ、霊夢は強いからな。そのくらいできるだろう。だが! 同時に9本を相手にできるか!? 

 

「無駄だね! オラァァァアアアア!!」

 

 ──九頭龍閃

 

 ゼロ距離で放たれた九つの斬撃。流石の霊夢もこんなものを見るのは初めてなのだろう。

 

「くっ……!」

 

 結果は言うまでもない。

 

「悪いけど、俺も本気だ。レミー退治、俺も参加させてもらうよ」

 

 前方に吹き飛んでいった霊夢は背中から地面に伏した。その様子をみて胸が痛むが、ちゃんと受身を取っているだろうし、纏っていた霊力量も半端じゃないから怪我はないだろう。その証拠に、数秒経った今は起き上がって、服についた埃を払っている。

 

「まだ続ける?」

「……今の、もう1回やってみて」

「え? ……わかった」

 

 俺と霊夢の間は数メートル開いている。だが、縮地を使えばこの程度の距離はゼロに等しい。

 

「行くよ、──九頭龍閃!」

 

 縮地を使った刹那、俺は既に霊夢の懐に入った。間髪入れずに九つの斬撃を繰り出した。──しかし

 

「──なっ!? ちっ……!」

 

 斬撃が当たろうとした瞬間、霊夢は目の前から消えた。勝ちを確信していたせいで驚いたが、直ぐにワープしたと察する。ワープした先が真上だと気づいたとき、霊夢は空高くから大量の御札を投げつけてきた。それはまるで御札の雨だ。だが、雨とは言っても範囲は狭い。故に、縮地を使えば簡単に避けられる。

 

 御札を投げ終わって着地した彼女から少し距離を取って様子を見ていると、霊夢は満足気に笑みを浮かべて口を開いた。

 

「よし。ちょっと焦ったけど、もうその技は効かないわ」

「確かに、1回見ただけで対処してくるとは思わなかった。流石だな」

「そうでしょ? まさか貴方から一撃を食らうとは思ってもみなかった。本当に強くなったのね」

「俺も、霊夢を驚かせてよかったよ」

「あの技を避けられた後の対処もよくできていたわ。私の瞬間移動と似てるわね」

「やたらベタ褒めするな。油断させる作戦か?」

「いいえ。貴方の力は十分分かったからもう終わりよ。頑張ろうね」

 

 その言葉を聞いて、俺はホッとため息をついた。

 

 ──よかった、終わりか。これ以上はヤバかった。

 

 実は、俺の霊力は今にも底が尽きそうなのだ。何故って? 昨日、第二の能力で使い尽くした霊力が回復しきってないからだ。もし霊力が切れたら霊夢と闘うことはできなかっただろう。

 

 ───────────────

 

 闘いに決着がつき、皆で元いた部屋に戻る道中、咲夜が霊夢に話しかけた。

 

「霊夢、自分が負けそうになったとき悔しかったんでしょう。だからもう1回使わせた。違う?」

「お腹空いたな……」

「露骨に話を逸らすってことはそうなのね。良かったわね、祐哉……あら?」

 

 俺が美鈴と話していると、前を歩いていた咲夜が俺の方を見ていた。

 

「どうかしましたか?」

「聞いてなかったの? それなら教えてあげる。霊夢が──」

 

 咲夜が何か口にしようとしたとき、霊夢が裏拳を繰り出した。咲夜はそれを難なく受け止め、霊夢を睨む。

 

「……そういえば、私も偽物と戦いたいのだけど、貴女に力を示す必要があるかしら?」

「アンタも戦うつもりだったの? そうね、捻り潰してあげる」

 

 よく分からないけど、2人の闘いは必見だ! 是非やって欲しい。

 

「お前達、何をしているの」

「……! お、お嬢様! お目覚めになられたのですね。お身体の方は……」

「問題ない」

 

 2人の闘いは、部屋から出てきたレミリアによって阻止された。残念すぎる。

 

「レミリアさん、お疲れ様です」

「あら、祐哉は全治数ヶ月の重症って聞いてたけど、どうしたの?」

「なんやかんやあって治りました」

「……へえ」

 

 意味がわからないといった反応をされた。まあ、仕方ない。真実を話すわけにもいかないし。

 

「レミリアさん、レミー・ブルーレットと闘ったそうですね。俺と霊夢はアイツを処分します。そのために、力を貸していただけないでしょうか」

「……アイツは、この私が全力を出しても倒せなかった。霊夢はともかく、祐哉にできるの?」

「祐哉の力は私が保証する。なんなら、アンタも戦ってみれば?」

「そうね。本気の私を前に何処までやれるか見てあげる」

 

 ──うーん、まずい。

 

「あの……申し上げにくいのですが……」

「何よ。怖気付いたの?」

「まさか。いずれ作戦を立てたら霊夢と共に模擬戦を頼むつもりでしたよ。ただ、今は勘弁してください。作戦もまだ決まっていないし、何より今の俺は霊力が無くなりかけているんです」

 

 実際の現場でそんな言葉は通用しない。もしそんなことを言われたら、諦めて戦うしかない。だがその場合、俺はMP回復の使用を余儀なくされる。あれは奥の手だから使いたくはないが、ここで手を抜いた戦いをすれば切り捨てられてしまう。

 

「え、貴方そんな中私と戦ってたの?」

「実は……。霊夢を相手に節約とかできなかったから、もう少し長引いたら霊力切れ起こしてたよ」

「何で言わなかったのよ」

「言い訳みたいじゃん」

 

 まだ霊力が回復しきれてないから宜しく。なんて言うのは負けたときのための保険みたいでみっともないだろう。

 

 俺と霊夢の話に区切りがつくと、レミリアが話しかけてきた。

 

「そういうことなら、先に作戦を立てなさい。2日後の夜に勝負をしましょう」

 

 レミリアはそう言って、部屋に戻っていった。そのとき、何となくだがふらついているように見えた。レミリア自身もまだ回復しきっていないのだろう。彼女をここまで消耗させたレミーは恐ろしい奴だ。恐らくレミーも同じくらい弱っているが、人間を喰ってとっくに回復しているだろう。

 

 ──化け物退治って大変なんだな

 

 




ありがとうございました。よかったら感想ください。

そろそろ疲れてきたのでしばらく投稿が遅くなるかもしれません。

東方霊想録の作品中で最も熱い戦いだと思う話を教えてください。

  • VS妹紅(#27-29)
  • VS鈴仙(#33)
  • VS十千刺々(#38-40)
  • VSレミリア(#46)
  • VS風見幽香(#71)
  • VS EXルーミア(#86-87)
  • VS分裂野郎(通称)(#89)
  • VS叶夢(#90-91)
  • VS魂魄妖梨(#93)
  • VS茨木華扇(#96)
  • VSフランドール&レミリア(#98)
  • VS八雲藍(#100)
  • VS八雲紫(#101-102)
  • VS紅美鈴(#106)
  • VSレミー(#107)

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