東方霊想録   作:祐霊

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#114「神谷くんを守りたいから……」

 ──博麗神社の境内──

 

「──創造」

 

 自身の周りに沢山の魔法陣を創り出す。そして、一度深呼吸をして目を閉じた後、指を鳴らす。

 

 それを合図に、魔法陣から無数の刀が射出されていく。対象は()()()()だ。

 

 あらゆる角度から異なるスピードで自由に飛び交う刀は、複雑な弾幕を構成している。

 

 ──『明鏡止水』

 

 心を静ませ、無心になって霊力を広げる。そして、自分の領域に入り込んだ物体の位置と大きさを瞬時に感知し、同じサイズの物体を同じ位置に創造する。

 

 ──14.3秒か

 

 俺はこの場に創造した物体を全て消しながら目を開ける。

 

「痛っ! 頭痛い……」

「そろそろ休んだら? 私も疲れてきちゃった」

「そうしようか。ありがとう、霊夢」

「後で何か奢ってね」

「はいよー」

 

 俺と霊夢は一旦家に戻って縁側に腰掛ける。

 

「お疲れ様です。お茶どうぞ」

「ありがとう」

 

 霊華が淹れてくれたお茶を飲みつつ、疲れた頭を休ませる。

 

「修行の調子はどうですか?」

「順調といえば順調……でも、レミー戦までには間に合わないと思う。スケジュール的な意味では遅れているかな」

 

『「明鏡止水」はこれまで身に付けたどの技術よりも難しいでしょうね。少なくともオート発動は当分無理です』

 

 俺もアテナの意見に同意だ。

 

「しかしこうも動きが無いと落ち着かないわね。嵐の前の静けさって言うのかしら」

 

 模擬戦を終えてから早一週間。レミー・ブルーレットは未だに動きを見せない。こちらから探してもいいのだが、紫には捜索するくらいなら鍛錬した方がいいと言われている。それもそうだと思った俺は、準備期間が伸びたと考えて修行しているのだ。

 

「最近は人里にも被害は出てないみたいだからね。何処かで暗躍しているのは間違いないだろうけど」

「下手に仲間とか連れてこられると面倒よね。……祐哉、一戦やろっか」

 

 縁側から降りた霊夢がそう言った。

 

「珍しいな。なんでもないときに霊夢の方から誘ってくるなんて」

「貴方の『明鏡止水』を完成させるためよ。ちょっと荒っぽい手だけど、無理矢理にでも強くなってもらう。……死なれたくないから」

「そっか、それなら付き合ってもらおうかな」

 

 俺は空になった湯呑みをお盆に乗せて境内へ歩く。

 

 ───────────────

 

 ──めっちゃ疲れた

 

 霊夢との一戦は凡そ30分間に渡って繰り広げられた。大体の弾幕ごっこは15分程度なので、そのくらいまでは体力が持つのだが、倍の時間闘うのは辛かった。

 

 模擬戦の後、風呂と夕飯を済ませた俺は自室で休んでいる。身体は重く、このまま寝てしまいたいところだが、眠気よりも焦燥感が勝っているのでそうもいかない。

 

 創造の力に加え、霊力を用いた剣術の習得によって俺はかなり強くなった。弾幕ごっこでは、あの八雲紫にも勝つレベルまで成長できた。しかし、だからといって俺が最強になったわけではない。

 

 所詮、対等に戦えるルールの中で競い、勝利しただけに過ぎない。一方、レミーとの戦闘にルールはない。純粋な殺し合いなのだ。

 

 ──このままじゃ絶対に勝てない

 

 共に戦う霊夢と咲夜の実力は本物。彼女らは数々の異変を解決してきたのだ。しかし、それもルールがある世界で戦ったからに過ぎない。

 

 ──俺達の中で誰かが死ぬ可能性だってある。全滅すら有り得る。

 

『怖いですか』

 

 ──怖い、か。そうですね。自分が死ぬことはもちろん、仲間を失うのが怖いです。

 

『当然です。しかし、戦うと決めた以上殺す覚悟はもちろん、殺される覚悟もしなければなりません』

 

 アテナの言うことは正論だと思う。

 

『それか、絶対に仲間を守るという覚悟を決めるしかありません。まあ、今回最も死亡率が高いのは貴方だと思いますが、強いて言うならそんな貴方を庇って仲間が死ぬかもしれませんね』

 

 ──! 

 

『言葉を失う気持ちは分かります。ですが、戦ではよくある話ですよ』

 

 自分の無力さで自分が死ぬならまだいい。でも、そんな俺のせいで仲間を失うのは絶対に嫌だ。

 

「寝転がってる場合じゃない……!」

 

 俺は刀を手に取って境内に出ていく。そして、明鏡止水の練習に取り組む。

 

 己の周囲に魔法陣を展開し、自分に向けて無数の刀を放つ。あらゆる角度からあらゆる速さで迫るそれらを全て予測するのは不可能。

 

 霊力を展開して、その壁に触れた物を創造で打ち消していく。

 

 徐々に刀の数を増やして難易度を上げていく。

 

 ──早く、早く強くならないと……! 

 

「痛っ!!」

 

 刀が頬を掠った。霊力の壁をすり抜けたということは、集中力が落ちている証拠だ。

 

「くそっ!!」

 

 自分でも焦っているのがわかる。だが、歯止めが効かなくなってしまった俺は創造する刀を更に増やしていく。

 

 ──壁に触れた物は全部破壊しろ!! 

 

「神谷くん!!」

 

 突然、女の子の声がした。声質が霊夢とそっくりなので判別は難しいが、その呼び方をするのは霊華しかいない。

 

 彼女が叫んだ後に、刀とは違う何かが俺の霊力壁に触れた。当然、それを感知するのと同時に『明鏡止水』を発動する。

 

「──なんだ!?」

 

 不可解なことが起きた。

 

 雲散霧消するはずの物体が、()()()()()()()()()()()()()()()のだ。間違いなく明鏡止水は成功していたはずなのに……。

 

 驚きのあまり目を開けてしまった俺は、直ぐに自分の誤ちに気付くことになる。

 

 ──しまった! 今『明鏡止水』を解いたら俺は串刺しになる!! 

 

 今から抜刀したり躱そうとしたところで間に合わない。俺は防御のために霊力を放出して身構える。

 

「あの刀を弾いてっ!」

 

 霊華が御札を投擲した。俺の元に飛んできた御札が規則的に並ぶと青い壁を生成した。無数の刀が霊華の結界に突き刺さるが、ヒビひとつ入らず事なきを得る。

 

 ──助かった……

 

「ありがとう」

「いえ、驚かせちゃってごめんなさい。でも、あのままだったら刀が神谷くんに刺さっていたから……」

「えっ! そうなの?」

 

 既に風呂を済ませ、寝間着を着た霊華は首肯する。霊華が助けてくれなかったら今頃永遠亭行きだ。もしかしたら出血多量で死んでいたかもしれない……。自分の技でうっかり死ぬとかダサすぎる。

 

「『明鏡止水』って、目を閉じていないとダメなんですか?」

「今のところそうだね」

 

 明鏡止水は極限まで集中する必要があるため、目を閉じなければならない。故に刀が感知網をすり抜けてきた場合は、無防備な状態で刀に刺されるのだ。

 

「そうですか。未完成なら一人で練習するのは危ないですよ。私も手伝わせてください!」

 

 霊華の言う通り、この訓練を一人で行うのは危険だ。だからこそ、昼間の練習では予め俺の領域内に入った霊夢が俺に刺さりそうな刀を払ってくれていた。

 

「ありがたいけど、危ないからいいよ」

「危ないのは神谷くんもでしょ?」

「俺はやりたくてやってるから」

「私も、手伝いたいから手伝うんです」

「…………」

「……やっぱり私じゃ頼りないですか。頑張りすぎている神谷くんを少しでも助けられたらって思ったんですけど……」

 

 霊華はそう言って、残念そうに俯く。

 

「いや、そういうわけじゃなくて……。万が一博麗さんを傷付けたら俺は自分を許せないから……」

「大丈夫です! 私だって少しは強くなったんですよ? 流石に刀を全て払うのは無理ですけど、神谷くんだって頻繁に失敗するわけじゃないでしょ?」

 

 ん〜……困った。

 

「いつも私を守ってくれるんですから、たまには私にも神谷くんを守らせてください」

 

 やる気満々といった様子の霊華。こうなってしまっては断れない。

 

 ──まあいいか……

 

「分かった。お願いします」

「はいっ!」

 

 俺が彼女にお願いすると、彼女はとても嬉しそうに頷いた。

 

 ───────────────

 

「ふぅ、そろそろ終わろうか」

「お疲れ様でした! 完璧でしたね」

「過去一集中したからね」

 

 そう。霊華を傷付けたくないのなら、俺が明鏡止水を失敗しなければいいのだ。

 

 それができたら苦労はしないのだが、とにかくそう自分に言い聞かせて訓練に挑んだ。『彼女を守る』と思って取り組んだおかげなのか、過去最高の精度で発動できた。

 

「そうだ、神谷くんに渡そうと思ってたんだ」

 

 何かを思い出した霊華は、小さな物体を差し出してきた。

 

「これは?」

「御守りです! 霊夢と紫さんに教わりながら作りました。きっと役に立つので、良かったら貰ってください」

 

 御守り……神社に沢山あるのに、俺のために作ってくれたんだ。嬉しいな……。

 

「ありがとう。大切にするね」

 

 彼女から貰った御守りを暫く眺めつつ、何処に身に付けようか考える。

 

 ──和服にポケットみたいなのを作って、そこに入れようかな。

 

 こういうとき、創造の力があると便利だ。ポケットくらいなら簡単に付け足せる。早速明日から身につけようと考えていると、霊華が突然ビクッと震えた。

 

「どうしたの?」

「……なに、これ……? 凄い嫌な感じがする……」

「ええ? どうしたの?」

 

 霊華は何かに怯えるように身を縮ませているが、俺にはなんのことか分からない。

 

 どうしたものかと考えていると、建物の方から霊夢が叫んできた。

 

「なにこれ!」

「霊夢もか。一体何の話さ? ドッキリか?」

「感じませんか? 何か、禍々しい物がアチコチで動いているんです」

 

 霊華にそう言われて周りを見渡すが、俺には何も分からない。

 

『無理もありません。訓練して多少はマシになったとはいえ、貴方は気配探知が苦手なのですから』

 

 ──アテナにも分かりますか? 

 

『もちろん。30体は軽く超えていますね』

 

 ──正確な位置は? 

 

『……この近くだと人里に多いですね。………………感知網を広げてみてわかりましたが、紅魔館や迷いの竹林にも何体か近づいています。──訂正します。幻想郷の至る所に広がっています。その数は今も尚増えている……』

 

「──ということらしいんだが、合ってる?」

「はい。神谷くんも感じたんですね。それなら私の勘違いじゃなさそう……」

 

 アテナから聞いた現状を口にすることで、彼女らとの認識を揃える。

 

「霊夢、この状況どうみる? 俺は()()()の仕業だと思うんだけど」

「そうかもね。なんにせよこのまま黙って見過ごすわけにはいかないわ。私は人里に行ってくる」

 

 賛成だ。他の勢力は各々で何とかできるだろうからな。

 

「俺も行く」

「私も……!」

「ダメだ。博麗さんは待っててくれ」

「どうして?」

「これがもしレミーの仕業なら、今までの異変よりも危険だ。そんな戦いに博麗さんが行く必要はない」

「それなら神谷くんだってそうじゃないですか……! 私だって強くなったんです。私の手で誰かを助けられるなら、助けたいんです!」

 

 紫との契約で、俺は戦わなくてはならない。しかし、当然霊華はそんな事情を知らない。

 

 ──俺は聖人でも勇者でも物語の主人公でもない。だから、綺麗事は言わない。口にはしないが、俺にとっては人里の人よりも霊華の方が大切だ。勿論、人里の人達は助けるつもりだ。だが、そんな危ないところに霊華を連れていきたくない。

 

「……祐哉、ちょっとこっちに来て」

 

 霊華と話していると、霊夢に呼ばれる。彼女の元に歩いている内に霊華は部屋に入ってしまった。道中の足取りは力強かった。

 

 ──霊華は人里に向かうつもりだ。

 

 何としても止めなくてはならない。

 

「霊夢からも言ってやってくれ。霊華に何かあったら俺は……!」

「そうね。私も心配だけど、ここで一人にさせるわけにもいかないわ。だって──」

「──敵か」

 

 霊夢は袖から御札を取りだし、俺は刀を創造して射出する。

 

「ここも安全じゃないみたいだからね」

「チッ……」

 

 俺と霊夢の攻撃が、背後に現れた2つの黒い塊に命中する。その塊は呻き声を上げながらスライムのように破裂した。ビチャッという音を立てて肉片が飛び散り、境内を汚す。

 

「神社って神聖な場所なんじゃないのか? こんな奴を寄せ付けない結界があるものだと思っていたけど」

「そんなものがあるなら日頃から妖怪が遊びに来たりしないでしょ」

「…………。それなら俺が結界を一時的に創造すれば──」

「やめた方がいいと思う。あの子はもう結界の技術を身に付けているから簡単に解除されるわ。一人にさせるより、貴方が側に居た方がいいでしょ」

 

 ──上手くいかないな。仕方ない。

 

「そろそろ向かわないと手遅れになるわね」

 

 諦めた俺は、身に付けていた寝間着を()()し、それと同時に新しい和服を着る。創造の能力を使った早着替えである。

 

 霊夢はまだ風呂に入っていなかったため、着替える必要はない。あとは霊華が着替えればいつでも駆けつけられる。

 

「先に行ってるからね。あの子は貴方が守ってあげて」

「ああ……」

 

 霊夢は人里の方向へ飛んでいった。その飛行速度は凄まじく、あっという間に見えなくなった。

 

 今回の敵は強いから自分の命を守るのに精一杯だ。だから、霊華を戦場に連れていく気はなかった。しかし、幻想郷全てが戦場になった以上、覚悟を決めるしかない。

 

 ──どんな手を使ってでも絶対に守りきる! 

 

「霊夢は?」

「先に行ったよ」

「……そうですか」

 

 着替えが終わって出てきた霊華。

 

 俺は境内に飛び散った黒い物体を指さした。

 

「それは今幻想郷中で暴れている生物の死骸だ。さっき俺と霊夢が始末した。これからもっと悲惨な光景を目の当たりにすることになる。人だって死んでいるかもしれない。君は……そんな中で戦えるのか?」

 

 吐き気を催すような地獄。外の世界で育った俺達には厳しい現実だ。しかし、戦わないという選択肢はない。俺の力は人々を……何より霊華を守るために使うと決めたのだから。

 

「俺がここに結界を張るから、その中で待っていてくれ。大丈夫。中にいる限り安全だし、気配も音も感じない。俺ならそういったものを創れる」

 

 霊華は俯いて何かを考えているようだが、俺もそろそろ行かなくてはならない。

 

 俺は博麗神社一帯に結界を創る。念の為、結界が破壊されたり、外から何かが侵入したら俺に伝わるように仕掛けを作っておく。

 

「じゃあ、行ってくるよ」

 

 俺はそう言って結界の外へ出る。

 

 ───────────────

 

 時は霊華が着替えに行ったところまで遡る。

 

 霊華にも意思があった。

 

 自分の力が人助けに役立つなら、助けたい。

 

 また、祐哉と霊夢が危険を顧みずに駆け付けようとしているのに、自分だけ安全な場所に居たくないという思いがあった。

 

 そして何より、祐哉を守りたいという気持ちが強かった。

 

 祐哉はいつも、一人で無茶をしては永遠亭に運ばれている。今まではなんやかんや回復できたし、この前なんか全治数ヶ月の傷を一晩で治してしまった。

 

 でもそれは奇跡なのだ。

 

 本来あるはずのないことだ。

 

 当時は、祐哉が目を覚ましたことが嬉しくて疑問に思わなかったが、後で考えてみれば不自然だと思った。永琳の治療による回復ではないはずだ。

 

 ならば、創造か支配の能力で完治させたと考えるのが自然。もしも傷の具合を支配することで強引に治したのだとすれば、楽観視はできない。

 

 それほどの力をノーリスクで使えるとは思えなかった。今はなんともなくても、後で何か大きな代償を払うことになるかもしれない……。

 

 勿論、これらは根拠の無い考察──否、()()でしかない。霊華の不安が負のイメージを作り上げただけに過ぎない。しかし、霊華の心配していることが起きないとは言いきれない。

 

 故に、霊華は決意した。

 

 ──神谷くんに支配の力を使わせてはいけない。そこまでの無茶をさせてはならない。そのために、私が神谷くんを守るんだ! 

 

 ──神谷くんはいつも私を守ってくれる。少しだけど力を付けた今、少しでもお返しをしたい。彼の助けになりたい。……神谷くんの隣にずっといたいから。

 

 己の決意を確かめながら着替えていた霊華は、頭に付けたリボンをギュッと力強く結び、ドレッサーの引き出しから()を取り出した。そのとき……

 

 ──これは!? 

 

 博麗神社の敷地内に不気味な生物が現れた。

 

 その生物は気配からして霊夢と祐哉のすぐ近くにいる。

 

 霊華がいる場所からは少なくとも10mは離れているが、生物の不気味な感情()が聞こえてきた。

 

 普通は室内から外にいる生物の感情は聞こえない。それなら何故霊華の元に届いたのか。答えは簡単だ。生物の「負の感情()」がそれほどまでに大きかったのだ。

 

 感情は言語として伝わるときもあれば、気持ちがダイレクトに伝わってくるときもある。

 

 今回は、霊華には理解できない言語とぐちゃぐちゃに絡んだ負の感情が伝わってきた。

 

 その感情は黒く、暗く、(くろ)く、赤く、(あか)い。

 

 先程から感じていた吐き気の正体はこれだった。

 

 こんな生物が幻想郷中で沢山湧いている。

 

 果たして、自分はそれに耐えられるのか。

 

 霊華は自分の体質を制御しきれない。人間以外の生物の感情が問答無用で届いてくる。「声を聞きたくても聞こえない」ことがあったとしても、こちらから「聞きたくない」と拒絶することはできない。

 

 ──逃げちゃダメだ。ここで待っていたとしても、苦しいのは変わらない。だったら、覚悟を決めなきゃ。

 

 でも、苦しい。怖い。

 

 殺す。虐殺だ。殺戮だ。そう言った怨嗟が頭に響く。

 

 

 呼吸が早まる。

 

 

 身体が震える。

 

 

 一人では耐えられない。

 

 

 誰かに助けて欲しい……。

 

 

「違う……。私は助けてもらう為に行くんじゃない……。誰かを助けるために……神谷くんを守るために戦いに行くんだ!」

 

 ──行かなくちゃ

 

 霊華は、震える手で簪を頭に付け、鏡に映った不安そうな自分の顔を両手で叩く。

 

 ──大丈夫。私だって強くなったんだ。絶対に神谷くんに無茶をさせない! 

 

 霊華は境内に向かっていった。その足は僅かに震えていた。

 

 震えながらも覚悟を決めた霊華は、祐哉に現実を突きつけられていた。

 

 霊華が妖怪にも情けをかけ、殺しを嫌う心の優しい子であることを祐哉が知っていたからだ。

 

 これは最早戦争。殺し、殺される世界。期間は1日で終わるかもしれないし、長く続くかもしれない。無数の勢力に負ければ今日で幻想郷が終わるかもしれない。

 

 そんな窮地に立たされているのだ。

 

 霊華がこの状況に耐えられるとはとても思えなかったのだ。

 

 だから、祐哉は霊華に神社で待っていて欲しいと思っている。多少の霊力と創造の力を使えば、特殊な結界を張ることができる。彼女を守れるのだ。

 

 彼の能力は、生物からの認識を阻害する事で侵入を防いだり、音や気配も中に入ってこない仕組みを付与できる。

 

 だから、一緒に戦いに行くより安全だと判断した。

 

 祐哉は霊華を守ることを最優先としている。いざという時は、どんな無茶もやってのけるだろう。例え、その結果自らが死に至るとしても……。

 

 祐哉のそんな想いは、残念ながら霊華には伝わっていなかった。

 

 それどころではなかったのだ。

 

 実際に生物の死骸を見たことで、現実を理解したのだ。

 

 

 

 自分はこの地獄を進めるのか? 

 

 

 

 ここで待っていた方がいいのでは? 

 

 

 

 祐哉が神社に結界を張った瞬間、霊華は安堵した。

 

 ──声が聞こえなくなった。

 

 祐哉はその間に結界の外へ歩みを進めている。

 

 その背中を見たとき、霊華の脳裏に過去のトラウマが浮かんだ。

 

 

 ──神谷くんが()()居なくなっちゃう。

 

 

 ──今度こそ会えなくなっちゃうかもしれない。

 

 

 ──行くんだ。例え苦しくても、私は神谷くんを守りたいんだから! 

 

 

 ──もう、後悔したくない

 

 

 霊華は、祐哉の背に駆け寄って、彼の手を掴んだ。

 

「待って! 私も……私も行きます!」

 

 振り返った祐哉は、驚いた表情をしていた。

 

「本当に大丈夫? ……俺は心配なんだよ」

「……1つ、お願いがあります。神谷くんの創造で、私の能力に制限をかけてもらえませんか? あの黒い生物の負の感情が強すぎて怖いんです」

 

 2人が会話している最中、黒い塊がまた降ってきた。その塊が着地するよりも、また、霊華が身構えるよりも先に祐哉が指を鳴らした。それを合図に、生物の落下地点に刀が現れる。黒い塊は為す術なく自ら串刺しになった。

 

 そして、彼は何事もなかったように話し始める。

 

「それなら結界の中に居た方がいい。もちろんこの場でそういった機能を持つ物を作ることはできるけどね。今回は敵を滅することを躊躇したら最後、自分が殺されるよ」

「分かっています。だから私は躊躇いません! ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!! 今ハッキリ理解しました。あの黒い生物は負の感情の塊。何人殺せるか仲間同士で競っているそうです。人を殺すことを望み、それを嗤っている! そんなものを野放しにはできません! 霊夢から教わった()()の力が役に立つはずです! 私を連れて行ってください!!」

 

 祐哉は、霊華の目の前で黒い生物を殺した。殺しを嫌う霊華の前で、だ。しかし、霊華はそれを責めることも目を逸らすこともしなかった。

 

 霊華は生物の声を聞いたのだ。

 

 人の命を弄ぶ生物に対し、怒りを覚えた。信じられなかった。

 

 今こうしている間にも、人里では多くの人が襲われているかもしれない。そう思うと、早く行かなくてはという気持ちが強まった。

 

 そんな彼女の事情を大まかにだが推測した祐哉には、彼女に覚悟があることが感じられた。

 

 よって、祐哉は力を使うことにした。

 

「──分かった。俺と一緒に幻想郷を救おう!」

 

 祐哉の霊力が霊華を包むと、巫女服の上に、オリーブの木を模した装飾が施された。

 

 




ありがとうございました。
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ヒント:オリーブの木、神話

東方霊想録の作品中で最も熱い戦いだと思う話を教えてください。

  • VS妹紅(#27-29)
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