東方霊想録   作:祐霊

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#117「彼女の英雄なのだから!」

 霊夢は祐哉と霊華から少し離れたところで戦っていた。

 

 彼女の役目は、悪魔の進化を食い止めること。

 

 得意の夢想封印ならば、悪魔を無抵抗に祓うことができる。

 

 しかし──

 

「ああもう、数が多すぎる! なんなのよ!」

 

 悪魔はまさに掃いて捨てるほど存在する。これまでに数百体の悪魔(レベル1)を退治したが、気付けば里が埋め尽くされている。それもそのはず、何せ人里から見える外の景色が全て悪魔で埋め尽くされているのだ。霊夢の行いは焼け石に水だ。

 

 しかし、それでもやらなければならない。放置すれば悪魔は共喰いを続けて進化を続けていくのだから。

 

「『夢想封印 侘』!!」

 

 霊夢は技を切り替えた。ただの光弾を放つ夢想封印とは違い、この技は御札がメインとなる。大量の御札を消費する代わりに手数が増えるため、この場に適していると判断したのだろう。

 

 ──なるべく建物を傷付けないようにしないと……

 

 出鱈目にばら撒かれた様に見えた御札はよく見ると悪魔にしか当たっていない。

 

「2@ーy 2@ーy! co、s^@.9」

「──っ!?」

 

 霊夢が御札をばらまいているところへ、黒い何かが高速で飛び込んだ。持ち前の勘で躱した霊夢は大幣を飛翔体に叩きつけた。それだけで飛翔体は消滅する。

 

 ──もしかして、アレが進化した悪魔かしら

 

 他にもいるかもしれない。そう思って周囲を見渡してみれば、羽の生えた悪魔が徐々に増えていることに気付いた。

 

「『夢想封印 寂』!!」

 

 霊夢は広範囲を狙える技に切り替えて空を飛ぶレベル2と地を蠢くレベル1を同時に相手にする。

 

「eqeq! iy:@y! h4! 0qa、dytr.!」

 

 遠くから理解不能の声がする。感知が得意な霊夢は、声がした方を見ずとも状況の悪化を理解できた。

 

 声の主は里の外にいる。その数は30体以上……。

 

 彼らはレベル2と同じ羽を持ち、それに加えて身体中に無数の砲台を宿していた。

 

「──あー、これは無理かなぁ……」

 

 レベル2の進化形態の援軍を見て、霊夢は思わず呟いた。

 

 弱音にも聞こえる言葉だが、彼女は戦いを諦めていたわけではない。

 

「皆の家を無傷で済ますのは無理かも。まずはこの状況をどうにかすることを優先しないと……! 『夢想封印 瞬』!!」

 

 霊夢はゆっくりと真っ直ぐに飛び始めた。

 

 本人はそのつもりだが、傍から見た挙動は全く違う。

 

「f7e!」

「x@yc@4q@」

「d8ytyes@4q@」

「0gnb♪」

 

 第三者目線で見た彼女は高速で飛び回りながら御札をばら撒いていた。その速度は徐々に速くなり、やがて瞬間移動に達する。この場にいる悪魔は霊夢の動きに対応できずに退治されていく。

 

 ───────────────

 

「──『夢想封印 寂』!!」

「40──!! h.de……。h.……de……qr:……」

 

 意を決して新技に挑戦する霊華。結果は完璧。博麗の巫女と名乗っても誰も疑わない出来だった。

 

 霊華にその自覚はないが、()()()()を受けた彼女が失敗する道理はなかった。勢い良く撒かれた御札は無数の魔弾を無力化し、数多の悪魔を浄化していく。

 

 その様子を見ていたレベル4は感嘆の声を上げた。

 

「ふむ。なかなかやりますね。れべるすりぃー に あなたたち の あいて は つとまらない ようです」

 

 レベル4は、下ろしていた腕をゆっくりと持ち上げる。

 

「それなら、こうしましょう」

 

 掌を霊華に向けて詠唱をすると、彼女の周囲に黒い靄が現れた。霊華はそれを煙たがるように手で払うが、払いきることはできない。払っても払っても靄は湧いてくる。まるで「霊華から湧いている」ように。

 

「きゃっ!」

「なっ!? 霊華!!」

 

 異変に気づいた祐哉が、明鏡止水を解除して目を開けた。

 

「うぅ……か、みやくん……」

 

 靄に包まれた霊華は苦しそうに咳き込む。

 

 ──この靄は何だ。どこから湧いてきた? 俺の明鏡止水では感知できなかったぞ。

 

「くすくす。びっくりした でしょう。め を とじている から そうなるんですよ」

「──おい。お前、何をした?」

「くすくす。きになる? きになるよね。うふふ」

何をしたと聞いているんだッ!! 

 

 ──返答次第では、お前を滅する!! 

 

 彼の霊力が怒りに呼応して迸る。

 

「その むすめ の 『こころ の やみ』 を ぞうふく させました。まあ、かのじょ は ()()() だったんですけどね。だから、すこし ごういん に いじくりました」

 

 レベル4の能力は、心の闇(負の感情)を増幅させるというものだった。

 

「『こころ の やみ』に のまれた ひと を ほうち すれば しにます。わたし の しもべ として はたらいた あとにね」

 

 更に、対象の精神と肉体(『心身』)が弱いほど蝕みの速度が早くなると言った。

 

「──創造!」

 

 祐哉は『邪気祓い』を付与した札を創造して霊華に貼り付けた。

 

「うふふ、むだむだ」

 

 だが、札は効果を示さずにボロボロと崩れ落ちた。

 

 ──邪気祓いが効かない!? 霊華に取り込まれた靄は邪気とは違うのか? 何故効かないんだ。

 

「わたし を たおさない かぎり むしばみ は とまりませんよ」

「ああ、そうかよっ!」

 

 ならば、と祐哉は足元に作った自己加速の陣を踏みつけ、悪魔(レベル4)も見切れぬスピードで肉薄し、防御態勢をとられる前に抜刀する。

 

 だが、そこへフッと現れた()()が斬撃を大幣で受け止め、祐哉が唖然としている内に蹴りを繰り出す。

 

「がっ──!?」

 

 その蹴りは重く、祐哉はレベル1の海に叩き落とされる。

 

 空から降ってきたエサを見てケタケタと嗤う悪魔。近くにいた悪魔はうつ伏せになっているエサを我先に食おうと這い寄る。

 

 しかし、悪魔の大きな口に噛み付かれることを嫌った祐哉(エサ)は、喰われる寸前に全身から力強く霊力を放った。その衝撃で吹き飛ばされた悪魔は悲鳴をあげる。

 

 悪魔が怯えている隙に立ち上がった祐哉は次の行動に移ろうとするが、すぐ側まで迫っていた霊華が今にも大幣を振り下ろさんとしていることに気づき、妖斬剣で受け止める。

 

 ──くっ……なんて力だ……

 

 本当に人間かと疑いたくなるほどに重い一撃に叩き潰され、膝を折る。

 

 そのまま地面に押し潰されそうになるが、(しのぎ)で斬撃を受け流し、縮地で強引に距離を取る。

 

 だが、移動した先には既に霊華がいた。

 

 ──速い! 全力の縮地だぞ!? 

 

 先回りした霊華が大幣を剣のように振る。

 

 先程の攻撃から、黒い靄が霊華の力を向上させていると理解した祐哉はそれを妖斬剣で受ける。

 

「うわっ!」

 

 しかし、斬撃の衝撃を殺しきることができずに遠くまで吹き飛ばされる。

 

 ──なんなんだこの強さは!? 普段の数十倍強い。そう思わせる程に強く、速すぎる!! 

 

 ──くそ、レベル4の能力はそんなにも強力なのか……! 

 

『恐らく、違うと思います』

 

 心中で愚痴を呟く彼に、アテナが話しかける。

 

『今の霊華は、さっき貴方が与えた力を使いこなしているように見えます。瘴気で身体能力が上がったとはいえ、それだけで妖怪に匹敵する力を得られるとは思えない。貴方の強化とレベル4の強化の掛け算でこの力を得たのでしょう』

 

 アテナは更に言葉を続ける。

 

『また、貴方の速さに追いついているという解釈は間違いです。彼女は間違いなく「座標転換」を使っています』

 

 彼女の言葉を聞いた祐哉は、「アテナがそう言うのならそうなんだろう」と結論づけた。その上で次の結論に至る。

 

 ──じゃあ、霊華の強化を解除すればいいのか。

 

「強化されているから勝てないなら、強化を剥がせばいい」という誰でも思いつく答えをアテナは否定した。

 

『レベル4は「心身が弱いほど蝕みの速度が上がる」と言っていました。それが事実なら、強化を解除した結果、霊華を余計に苦しませるかもしれません。彼女がパワーアップしているという状況は寧ろ幸運だと言えます』

 

 ──つまり、このまま超強い霊華と戦わなきゃいけないのか。

 

 高速移動ではなくテレポートをしてくるという時点で、その移動速度は妖夢や妖梨よりも速い。瞬間移動する相手と戦った経験が薄い彼は不利だ。

 

 強いて言えば、獲物が刃物ではないため斬られることはないという点だけが救いだ。もっとも、今の霊華に大幣で叩かれたら骨は砕け、内臓は破裂するだろうが。

 

 最早人間の域を超えている。

 

 ──人間ではなく、強力な妖怪と戦うつもりで行かないとダメだ

 

 敵が妖怪ならば「殺戮の時雨」やレーザーで戦えただろう。

 

 しかし、今の相手は人間で、彼の想い人だ。

 

 どうしても、やりづらさというものが付き纏う。

 

 それを感じながらも彼は戦う手段を考え、実行に移す。

 

「……これならどうだ」

 

 祐哉は霊華の周囲を「内側の時の流れが遅くなる」壁で覆った。

 

 範囲が限定されているとはいえ、時を操るという神懸かった力を付与したのにも拘らず、霊力の消費は想定よりも少ないようだ。

 

 これには理由があるのだが、今の祐哉は疑問にすら思わなかった。

 

 ただ無我夢中で霊華を助ける。それだけに集中していた。

 

 辺り一帯に魔法陣を作った祐哉は、そこから無数の妖斬剣を放つ。

 

「その かたな、さっきの……!」

 

 レベル4が妖斬剣の不気味な力に警戒する。その一方で、妖斬剣の恐ろしさを知らないレベル3以下の悪魔が巻き添えを食う形で祓われていく。

 

 手に持った妖斬剣を納刀し、至る所に創造した自己加速用の足場を踏み、目にも止まらぬ速度でレベル4を翻弄する。

 

「はやすぎますね。あは、わたし、しぬのかな」

「ああ、お前は一番やっちゃいけないことをした。お前の行動が俺を怒らせたんだ。だからお前は苦しんで死ぬ。せめて自分の行いを悔やみながら逝け! 

 

 

 ──『妖祓一閃(ようばらいいっせん)』!!」

 

 繰り出されるは神速を超えた超神速の抜刀術──。

 

 その身から荒々しく放たれている霊力は青白く光っている。その様はまさに電光石火と言えよう。

 

 祐哉の渾身の一撃は、今度こそレベル4の首筋に命中するだろう。

 

 そのとき、横から「バキン」という何かを砕く音が聞こえた。

 

 そして──

 

「……『夢想封印』」

 

 透き通った声が、まるで歌を口ずさむかのように軽く、静かに放たれた。

 

 瞬間、その声からは想像もできない苛烈な連撃が彼を襲った。

 

「がぁっ……!」

 

 降り注ぐ色とりどりの光弾がまるで鉄球にも感じられる。光弾に直撃した祐哉はもう一度地面に叩き落とされ、落下の衝撃に耐えきれなかった地面にヒビが入った。

 

 これほどの威力。全開の霊力放出に加え、着地時の受け身がなければ今頃肉片も残っていないだろう。

 

 そんな絶望的な状況で、祐哉はこんなことを考えていた。

 

 ──はは……すげぇや。霊華、こんなに強かったんだ。俺なんかが守るのは烏滸がましいことだったのかもしれない

 

 手も足も出ないとはまさにこのこと。強くなった霊華に対し、自分は何もできない。そんな状況が情けなくて、今までの自分が恥ずかしく思えてくる。

 

 そんな彼に、レベル1の悪魔が歓喜の声をあげて覆い被さる。

 

 しかし、次の瞬間には悲鳴に切り替えることになった。

 

 一つの妖斬剣が、うつ伏せに倒れている祐哉の背に現れたのだ。

 

 妖斬剣を創造した術者は祐哉ではなかった。彼の中に宿りしギリシア神話の女神──アテナが『物体を創造する程度の能力』を強制的に発動させたのだ。

 

『祐哉、このような低俗な悪魔に屈してはいけません。今、この場で霊華(あの子)を助けられるのは貴方しかいない。いいえ、例えどんな状況でも、貴方以外に()()()()()。彼女を守ることが貴方の意思でしょう』

 

 ──嗚呼

 

『ならば、立ちなさい。休んでいる暇はありません。剣を取りなさい。貴方は、彼女の英雄なのだから……!』

 

 ──そうだ、俺は何をしていたのだろう。霊華の強さに絶望でもしたか? 例え俺より強かろうが、霊華は今も苦しんでいるんだ! そんな状況から救うために修行を重ねたんだろ。なら、今行動しないでどうする! 

 

 祐哉は、地面に刺した妖斬剣を支えにゆっくりと立ち上がる。

 

 その眼には再び強い闘志が宿っていた。

 




ありがとうございました。
良かったら感想ください!!

※2021/11/10追記※
次回のお話の投稿が少し遅れます。
申し訳ないです……

東方霊想録の作品中で最も熱い戦いだと思う話を教えてください。

  • VS妹紅(#27-29)
  • VS鈴仙(#33)
  • VS十千刺々(#38-40)
  • VSレミリア(#46)
  • VS風見幽香(#71)
  • VS EXルーミア(#86-87)
  • VS分裂野郎(通称)(#89)
  • VS叶夢(#90-91)
  • VS魂魄妖梨(#93)
  • VS茨木華扇(#96)
  • VSフランドール&レミリア(#98)
  • VS八雲藍(#100)
  • VS八雲紫(#101-102)
  • VS紅美鈴(#106)
  • VSレミー(#107)
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