今回、ちょいシリアスです……。
では楽しんでいってください。
「チクチクチク……。今のを避けるとは
突然現れた人物は随分と奇怪な格好をしていた。見た目はごく普通の少女なのだが、背中に竹を背負っているのだ。黄色い電気ネズミで有名な某携帯獣ゲームに出てくる、銭亀の最終進化系を思い浮かべて欲しい。その亀と同じように、肩に二本の
まあ、背中に変な砲台を背負ったJKを思い浮かべて貰えば十分だ。見た目は実に俺好み。だけどこいつは……。
「……そういうお前は何者? 妖怪?」
「如何にも。
「チクチクチクって言うのか?」
「違うタケ! 最後のチクは語尾のチク! これだから
「竹だのチクだのうるさいなぁ!」
「うるさいのは
怒らせた? 俺が? 一体何をしたというのだ。全く心当たりがない。
「よくも人の身体を切ってくれたタケェ!? 拙竹の身体を五本も!」
……はは、俺が竹を切っただって? やべ、心当たりしかない。しかしおかしなことを言うものだ。その言い方ではまるで、この竹林の竹が彼奴の身体みたいじゃないか。
『竹JK』もとい刺々は腕を組んで、無い胸を張りながら口を開く。
「この竹林は全て拙竹のもの。拙竹──十千刺々は迷いの竹林の秩序を乱す者に制裁を加える存在タケ」
「なんだと? そんな奴俺は知らない」
「当然タケ。拙竹を見た人間は皆喰ってきたタケ。拙竹を見たら最期。生きて帰ることはできないタケよ。──あ、死んでも帰れないタケね」
……タケタケ煩くてイマイチ話が入ってこない。それに、俺が言っているのはそういうことではない。
──ここは原作とは少し異なる世界なのか? 或いはこの先登場する予定なのか。
詳細は不明だが十千刺々は確かに存在している。この現象の説明する材料は
「タケ。初撃を躱した褒美にもう一つ話をしよう。拙竹の強さの秘密タケ」
コイツ、何故そうベラベラと自分の情報を開示する? それ程自分の勝ちを確信しているのだろうか。
その時、一つの考えが頭に浮かぶ。
……俺が囮になって霊華を逃がす。
悲しいかな。それは愚策だった。なんせこの広さだ。竹林の秩序を守る存在とやらが彼女一人だけとは限らない。もし彼女一人だとしても、外へ出る道が分からない以上、別れることは愚か以外の何物でもない。
──話している所を攻撃するか?
スターバースト。アレは当てることさえできれば問題なく倒せるはず。
よし、強さの秘密を聞いてから行動しよう。
「妖怪の動力源は人間の“畏れ”タケ。畏れられている存在は強大な力を持つ。
「……その言い方、違うんだな?」
「
刺々はそう言って頷く。……話し方がウザイ。
「拙竹の存在を知らなくても、迷いの竹林その物はどうタケ? ……人間が単身で立ち入ることは殆どない。理由は分かるタケね?」
「……
「何言ってるのか分からないタケよ」
「分かれよ!」
全く。折角人がノってやったっていうのになんだその返しは。
「
刺々は突然動き出した。髪を棚引かせると、そこから無数の
「女が殺される所を黙って見ていろタケ!」
「──!」
刺々は己の髪を切った後、霊華に歩み寄る。彼女は震えてしゃがみこんでいる。
「クソ……! なんなんだこれ!」
「おっと動くなタケ? 折角当たらないようにしてやってるタケ。大人しくしていろタケ」
先程刺々が切断した髪は浮遊している。切断し、短くなった髪は直ぐに伸びていく。俺を中心に円を描くように、一定の間隔で繰り返していくうちに身動きが取れなくなってしまった。
竹千本は文字通り四方八方から迫り来る。その密度は凄まじく、千本は狭隘な牢を生み出した。動かなければ当たらないが、動いたら最後。一瞬で串刺しになってしまうだろう。これでは彼女を助けることができない。
「畜生!」
「タケタケタケ……。やっと自分が置かれている状況が分かったみたいタケね。女も何か言ったらどうタケ?」
「や……来ないで……」
「タケタケ! 拙竹が怖いタケ? 全部見ていたタケ。恨むならここに連れてきたあの男を恨むタケ。そして、竹を切った自分自身をタケ」
刺々が霊華に向けて構えると、掌から竹棒が出てきた。後は飛ばすなり突くなりするだけ。そうするだけで彼女は絶命するだろう。
──絶命?
──死ぬ?
──あの子が?
──俺のせいで?
「ふざけんなよお前! やめろ!」
「タケタケ、そう言って止める竹が何処にいるタケ? 拙竹が何故
愉しそうに嗤う刺々。今すぐスターバーストを撃ちたいが、それでは霊華を巻き込んでしまう。刀を創造した所で、竹千本に弾かれてしまう。
目の前で女の子が殺されかけているというのに、俺は見てることしかできないのか……!
「じゃあな、タケ」
「──不死『火の鳥─鳳翼天翔─』!」
「──ッ!!」
刺々が霊華を貫こうとした時、掛け声と共に焔が降ってきた。火山弾の様なそれは刺々を怯ませ、霊華から距離を取らせた。それと同時に竹千本は解除され、拘束が解かれる。霊華の元へ駆け寄って無事を確認する。彼女は泣きじゃくりながら俺にしがみついてきた。また怖い思いをさせてしまった。俺が、弱いばかりに……
──でも、今のは一体?
「──お前! また拙竹の邪魔をするタケか!!」
「別にお前が人間を喰おうが勝手だけどな、目の前でやられちゃ助けない訳には行かないでしょ」
「チッ…… 覚えてろタケ!」
刺々は悔しそうに顔を歪め、悪者の台詞を捨て台詞を置いて消えていった。
脅威は、去った。焔を飛ばした少女がこちらに近づいて、霊華に手を差し伸べる。
「もう大丈夫だ。外まで案内するから、心配いらないよ。立てる?」
「あ、ありがとうございます。あっ──」
「あれ、腰が抜けちゃってるね。しょうがないな。おぶって運ぶか。だがその前に……」
少女は俺を見た。何だろうか。そう思った時、バチンッという音が聞こえるのと同時に頬に電流が走った。
「──ッ!?」
「お前、よくその程度の力でここに来たな!」
少女は凄い剣幕で俺を睨み、続ける。
「挙句女を連れて! ちょっと力をつけた奴が調子に乗ってやってくることは多い。中でも許せないのがお前のような奴だ! 他人を巻き込むな!」
「うっ……!」
再び強い衝撃が走った。往復ビンタ。両頬が熱を持っていて、腫れているのがわかる。だが、そんなことはどうでもよかった。
「妖怪を舐めるな」
彼女の言う言葉、何もかもが正論だった。
──俺はただ黙って、霊華をおぶった少女について行くことしかできなかった。
───────────────
「到着っと。もし竹林に用があるなら悪い事は言わない。もっとマシな護衛をつけな。そいつは雇っても仕方ないよ。なんなら私が案内するから」
少女にそう言われた霊華は俺を見て複雑そうな表情を浮かべる。
この人の言う通りだ。俺はあまりにも無力すぎた。三ヶ月の修行で飛行が可能になり、弾幕ごっこもできるようになった。更には能力の発現に成功。俺はその辺の妖怪に負けたことは勿論、ピンチに陥ることも無かった。
それは決して俺が強いからではなかった。分かっていたはず。だが実際はどうだ。自分の力を過信していたじゃないか。妖怪を、舐めていたじゃないか。『なんとかなる』と、現実を舐めていたじゃないか。
──俺は、弱い……
「お前さ、どうしても竹林に入りたいなら一人で来な。そして私と戦って認めさせろ。……ああ、言っておくけど今のお前じゃ私には勝てないよ」
少女はそう言って竹林の奥に消えていった。
俺は、彼女の言っている意味が理解できなかった……。
ありがとうございました。
放浪録を含めて考えても、私がシリアスを投稿するのは初めてな気がしますね。
ほのぼのを期待していた方、永遠亭で鈴仙とイチャつく所を期待していた方、ごめんなさい。
こうするしかなかったんです。無駄にはしません。
明日……も投稿できるよう頑張りますね!(あ、感想書いてくれた方、ありがとうございました。励みになります)