東方霊想録   作:祐霊

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#120「休みなさい」

 60万を超える悪魔が居た。その大半は地を蠢き、互いを貪り食うことしかできぬ弱者であったが、時間が経過するにつれて彼らは羽を生やし、空中戦を可能とした。

 

 これに対し、幻想郷の各勢力が対抗したが、それでも物量で押され、状況は厳しいままだった。

 

 やがて悪魔はその身に宿した砲台から魔弾の雨を降らし始め、幻想郷が支配されるのも時間の問題だった。

 

 そんな状況の中、1人の見習い巫女が動いた。

 

 彼女の禊は博麗の巫女にも劣らぬものだった。

 

 結果、無限にも感じられた悪魔は一体も残らずに消滅した。

 

 

 

 

 ───────────────

 

「気を失っているだけみたい」

「良かった……」

 

 霊華は、悪魔との戦いに終止符を打った後、倒れてしまった。今は創造した布団に寝かせている。

 

 無理もない。あんなデカい規模で技を使ったんだ。創造の力でアシストしたとはいえ、かなりの負担がかかっていただろう。

 

「貴方は大丈夫なの?」

 

 霊夢が心配そうにこちらを見る。

 

「正直に言っていいなら、相当キツい」

 

「太陽が昇り次第、貴方達の出番だから宜しく」。この戦いの序盤に紫に言われたことだ。俺達は来たるレミー戦に向けて力を温存する必要があった。

 

 しかし、霊華がレベル4の術に落ちた時点でその考えは消えていた。彼女を救うため、力を惜しまずに使った結果、今の俺は意識こそ保っているものの、大地に仰向けで伏している。

 

「こんなことになるなら、私がアイツと戦えばよかったわ」

「誰にも予想できなかったんだから仕方ない。大丈夫。残り少ないけど霊力の回復手段はある」

 

 ──問題は……

 

「ボロボロじゃない……」

 

 そう。俺は霊華との戦いで相当な傷を負っている。数えきれない程のかすり傷に、既に止血したとはいえ頭部から流血する程の傷も負っている。また、何度も大幣で殴られた全身は気を失いそうになるくらい痛む。唯一、骨折していないことが幸いだ。

 

「この前みたいに傷を治せないの? 全治数ヶ月の怪我を治してたじゃない」

「あれは奥の手だからそう何度も使えないんだよ。霊力が尽きてレミー戦で役に立てなくなってもいいなら別だけど」

「それは困るわね。十中八九、悪魔を召喚したのはレミーでしょ? あの数を召喚できるようなやつ、私と咲夜だけじゃ流石に無理だと思う」

 

 それを言ったら3人でもキツいだろう。一度負けている俺が加わっても変わらないのでは? ──と思ったが敢えて口にはしなかった。

 

「全く、貴方は大事な戦力なんだからね。もっと計画的に戦いなさいよ」

「いやそれはほんと、返す言葉もないです」

「まあでも、2人が無事で良かった。……朝まで休んでていいわよ。少し寝たら疲れもマシになるんじゃない?」

 

 時刻は夜中の3時頃。日の出まで2時間程度だろうか? 

 

「敵もいなくなったし、それも良いか。布団で寝るなら創造するけど、どうする?」

「私は周りを見張っておくからいらないわ。大丈夫、そんなに疲れてないから」

「なんだか申し訳ない。やっぱり俺も起きてるよ」

 

 そう言って起き上がると、霊夢は俺の肩を叩くように両手を置いた。

 

「あのね、さっきの話覚えてる? 休まずに戦ってすぐにやられたら困るの! や! す! み! な! さ! い!」

 

 霊夢は一呼吸ごとに俺の肩を力強く揺する。あまりにも勢いがあるので首がグワングワン揺れる。

 

「わ、わかったよ」

 

 霊夢の勢いに気圧された俺は片膝を立てて地に座り、背中を近くの民家の壁に押し当てて目を閉じた。その横に霊夢が座ったかと思うと、独り言のような小さな声で話しかけられた。

 

「おつかれさま。ゆっくり休んでね」

 

 その言葉を聞いて、先程のやりとりは俺のためを思ってのことだと理解した。既に意識が無くなりつつあった俺は心の中で感謝し、そのまま眠りについた。

 

 ───────────────

 

 全ての悪魔が退治される少し前、紅魔館や霧の湖の近くにある開けた地には魔理沙がいた。

 

 悪魔は魔法の森にも侵入していた。しかし、その数は人里よりは少なく、()()には時間がかからなかった。

 

 異変の匂いを嗅ぎつけた魔理沙は、自宅で魔法に必要な道具を揃えると森の外へ飛び立った。

 

「なんだこりゃ。そこらじゅうでドンパチやってるな。祭りをやるなんて聞いてないが……」

 

 箒に跨って空を飛んでいる魔理沙は、幻想郷の至る場所で弾幕やビームが飛び交っているのを見た。

 

 彼女の元へ、数体のレベル2が飛びかかった。そんな悪魔の攻撃を魔理沙は魔法で撃ち落とした。そして、違和感の正体に気づく。

 

「こいつら、弾幕を撃ってこないのか。なら、余所者か? 今時スペルカードルールを守らない奴と言ったら、それくらいだろう」

 

 自分の考察を口に出しながらも、次々に襲いかかる悪魔を迎撃している。手応えこそないものの、数が多い。

 

「的がこんだけあるんだ。楽しくなりそうだぜ。──『マスタースパーク』!!」

 

 魔理沙はミニ八卦炉を正面に向けると、極太の超強力熱光線を放った。その太さは彼女の身長の3倍を超えるだろう。

 

 レーザーは空を侵食していたレベル2の大群を飲み込んでいった。

 

 あまりに強力。

 

 どこまでも続くレーザーは遥か遠くの悪魔をも飲み込む。彼女はこの一撃で数千もの悪魔を焼き払ってみせた。

 

 しかし、その功績を嘲笑うかのように他の悪魔がワラワラと湧いて出る。

 

「おいおい、どんだけいるんだよ。数だけで言ったらこれまでの異変の比にならないな……。至る所での戦い、突如現れた悪魔の軍勢……なるほど、これが戦争ってやつか」

 

 魔理沙は「やれやれ」と言いながら次なる魔法を繰り出した。

 

 ───────────────

 

 悪魔の共喰いによる進化は各地で行われていた。しかし、広範囲を狙い撃つ魔法を多く持つ魔理沙はその隙を与えなかったため、人里で暴れていたようなレベル4は現れなかった。

 

 魔理沙は、数だけで中身のない軍勢に飽き始めていた。そんなとき、ソイツが現れた。

 

「そろそろ、各勢力も疲弊してくることだろう。この世界の支配が完了するのも時間の問題。実に良い夜だ」

「誰だ?」

「何を見ている? 下等種」

 

 彼女の視線の先には、紅魔館の当主、レミリア・スカーレットと酷似した吸血鬼の姿があった。彼女と異なる点は服の色と雰囲気くらいだろう。彼女の脳裏に、フランドールの他に双子の姉妹が居たのかという考えが走った。

 

「随分と偉そうな奴が出てきたな。いや、いつものことか?」

「フッ、何を言う。我は偉そうなのではない。偉いのだ。我は夜の帝王、レミー・ブルーレットだ」

「これはこれは。私は霧雨魔理沙だ。夜の帝王とやらに聞かせてもらおうか。お前が悪魔(こいつら)の親玉か?」

「然り。この悪魔共は、(われ)が魔界より呼び寄せた眷属なり」

「確かに良い夜だ。霊夢よりも先に主犯を見つけ、それを退治することができるんだからな!」

「ほう、貴様も我を退治するなどと抜かすか。いいだろう。今は気分が良い。身の程を弁えぬ下等種には我自ら手を下してくれる!」

 

 吸血鬼と魔理沙の戦いが始まる。

 

 レミーは主に接近戦で戦う。その実力は本物で、同じように近接戦闘が得意な祐哉と美鈴を瀕死まで追い詰めた程だ。ならば、中・遠距離型の魔理沙が勝つ可能性は絶望的に低いだろう。

 

 案の定、魔理沙はレミーの初動についていくことができなかった。想像以上のスピードで肉薄するレミーに対し、魔法の行使も間に合わない。魔理沙は開幕直後に敗北する。

 

 

 

 

 

 

 

 と、思われた。

 

 しかし、そこへ誰も予想していない第三者が現れた。

 

「あら危ない」

「なっ!? お前は!?」

「コイツにスペルカードルールは()()()から離れた方がいいわよ」

「……貴様、人間ではないな? 何者だ!!」

「初めまして。私は八雲紫。この地を管理する者よ」

「ほう、管理者か。漸くこの地を我に渡す気になったか?」

「目的はこの地を支配すること、だったかしら? ──いいだろう。滅される覚悟があるのならば力ずくで掛かってくるといい」

 

 紫から濃厚な殺気が放たれた。それは少し離れたところから様子を伺っている魔理沙が震えたほどだ。昔、魔理沙は彼女と対立したことがあったが、そのときでさえもここまでの殺気は感じなかった。紫が本気でレミーを駆除しようとしていることが伝わった。

 

「全く、いい加減に呆れてくるわ。何故これ程までに力の差を理解できぬ者で溢れかえっている? 既に力を見せつけたはずだが? 地を見ろ。宙を見ろ。そこには悪魔がいる。66万以上の眷属を従えているのだぞ。ならば、その上に立つ我の力は貴様らと比にならないことが何故わからん?」

「可笑しなことを発言する辺り、貴様の底も見えているのよ」

 

 紫は皮肉じみた笑みを浮かべながら続けた。

 

「たとえ数は多くとも皆…………()()()()()()

 

 魔理沙はその言葉に同調するように笑った。

 

「へっ、全くだ。数の量は認めるが、中身が無さすぎる。こんなの、その辺の人間にだって倒せるぜ」

「貴様らッ……! たった今貴様らはこの我の逆鱗に触れた! その罪、死を持って償え!!」

「短気なところがまた小物なのよねぇ」

 

 今度こそ、来訪者と原住民の戦いが始まった。

 

 ───────────────

 

 ──分が悪すぎる

 

 レミーとの戦闘に幕が下ろされてから僅か2分程で実感した。

 

 魔理沙の戦闘スタイルは魔法を駆使したもの。身体強化魔法は得意ではないため、常に相手と間合いをとることが望ましい。

 

 そのため、レミーを近づけまいと弾幕を展開しているのだが、レミーはダメージ覚悟で特攻して来るため、どうしても思うように戦えずにいる。

 

「ちっ、だったらこれはどうだっ!」

 

 魔理沙は懐から薬瓶を取り出し、放り投げるとそれを目掛けて弾幕を放った。

 

 被弾した薬瓶は砕け散り、中に入っていた液体が突然気体と化した。揮発性の物質だったというわけではない。これは魔法の産物であり、科学は殆ど関与していない。

 

 レミーは弱い者から仕留めようとしているのだろうか。先程から八雲紫ではなく、魔理沙の方を狙っている。

 

 主な攻撃手段が徒手空拳であるレミーは、懲りずに魔理沙に肉薄する。つまり、先程の揮発した魔法の産物(マジックアイテム)の中に飛び込んだのだ。

 

 それを見た魔理沙はしてやったりというように笑みを浮かべた。

 

「──マスタースパーク!!」

 

 ゼロ距離で放たれた極太レーザー。その威力は神谷祐哉のスターバーストとは比にならないとレミーは実感した。

 

「グゥ……熱い……全身が焼けていく……大した威力だがそれでは我は殺れんぞ!!」

 

 レミーは全身から濃密な気を放った。それは彼女を中心とした()の十字レーザー。レミリア(オリジナル)が使う『不夜城レッド』の色違いの技を使うあたり、遺伝子には逆らえないと言うのは本当なのかもしれない。

 

 名前に違和感があるが、()()()()()()()()とでも名付けようか。その蒼き不夜城レッドは魔理沙のマスタースパークと拮抗したかと思うと、じわじわと押し返して行った。

 

 マスタースパークが他のレーザーに押し負けるなど滅多にない。故にこの技に絶対の信頼を持っていた魔理沙は焦りを見せた。しかし、そこで調子を崩すような彼女ではない。

 

「──次はこれだ! 『ダブルスパーク』!!」

 

 直ぐに落ち着きを取り戻した魔理沙は、二門から放たれるマスタースパーク──ダブルスパークを使う。攻撃範囲は2倍程度だが技の威力は相乗効果によって何倍にも膨れ上がっている。

 

 その結果、レミーの蒼き不夜城レッドを撃ち破り、そのまま彼女を飲み込んだ。

 

「ぐぉぉぉぁぁあああっ!!」

 

 レミーの壮絶な叫び。

 

 暫く経って魔理沙はレーザーを止めた。

 

 全身から滝のような汗を流し、肩で息をしているがその表情は力強いままだ。

 

「へっ! どんなもんだ!!」

 

 口調とは裏腹に警戒を怠っていなかった。故に彼女は目の前で繰り広げられる不可思議な現象に対する驚きを最小限に抑えることができた。

 

「流石は吸血鬼か……化け物だな」

 

 全身を焦げ尽くされ、身体の一部を損傷したレミーはみるみるうちに再生した。

 

 吸血鬼は頭以外が吹き飛んでも一晩で回復できるという。

 

 しかし、レミーはそれと同等の傷を一瞬で治癒して見せた。

 

「ククク……なかなかどうして。想像よりも愉しませてくれる……」

「どんな再生力だよ」

「普段ならばこの傷は治せぬことはなくとも時間を要する。だが、今の我は人間を喰った故に力が漲っている。ならば一瞬で回復できるのも道理。素晴らしい攻撃だったが、我を殺すには足りん」

 

 真っ当な方法ではレミーを倒すことはできない。

 

「……やはりそうか」

 

 2人の戦いを静観していた紫が呟いた。

 

 レミーを倒せるのは、吸血鬼の弱点をつける者のみ。

 

 ならば、当初の予定通り自分の役目を果たすべきだ。

 

 紫は、レミーの鉤爪が魔理沙を抉るより一瞬早く結界を貼り、彼女を助ける。

 

 強固な結界に攻撃を阻まれたレミーは、一度距離をとった。その隙に紫が魔理沙の元へ移動する。

 

「お生憎だけど魔理沙、貴女には撤退を進めるわ」

「断る。確かにコイツ相手に肉弾戦はキツいが、手はある」

 

 忠告を無視されるという、予想通りの展開に溜息をついた紫は、魔理沙の元から離れた。

 

 そして次の瞬間、

 

「がっ!?」

 

 魔理沙はレミーによる流星の如く鋭い蹴りを喰らい、遥か遠くまで飛ばされた。

 

「……人の忠告は聞くものよ。長生きしたいのならね」

「他愛ない。これで邪魔者は居なくなった。早速貴様を葬り、この地を支配するとしよう」

「お子様にアドバイスをしておくわね。──あまり人間を舐めていると、()()()()()()()()()?」

 

 そこから日の出までの数時間の間、紫とレミーによる激闘が繰り広げられた。

 

 ───────────────

 

「ごめん祐哉、起きてくれる?」

 

 霊夢の声で、息苦しい無の時間が動いた。

 

 睡眠中に気を失っていたような感覚……こういうときは決まって身体が休まっていない。その証拠に、立ち上がろうとすれば目眩がして壁にもたれかかってしまう。

 

「……時間か?」

「うん。まだもうちょっとあるけど、その様子じゃ早めに起こして正解だったわね」

「助かった。いきなり戦わされたら即効死ぬところだった」

 

 俺は再び地面に座り込んで少しづつ脳と身体を覚醒させていく。

 

 ──相変わらず身体はあちこち痛い。が、多少はマシになったか? 

 

 霊力は残り少ない。今のうちにMP回復を使っておこう。

 

 霊力を回復した俺は、凝り固まった身体をほぐすために柔軟運動をする。

 

『祐哉、いけそうですか?』

『本調子とは程遠いけど、やりますよ』

『霊力のストックは?』

『あと1回満タンにできる程度ですかね。正直もう使えないと考えています』

『……この戦いで随分と消費しましたね』

 

 ──流石に調子に乗って使いすぎたかな

 

 俺は創造した布団で眠っている霊華の元へ近づく。

 

 良かった、ぐっすり眠ったままだ。特に苦しそうな様子もないし、このまま寝ていれば回復できるだろう。

 

 俺は、霊華を起こさないように彼女の髪に触れる。

 

「レミーと戦うこと、伝えてなかったね。後で知ったら怒るかな……。また悲しませてしまうかもしれない。無傷では帰れないからね」

 

 辺りが明るくなってきた。

 

 もうじき夜明けだ。

 

「お疲れ様、霊華。今度は俺が頑張る番だ。──行ってきます」

 




ありがとうございました。
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東方霊想録の作品中で最も熱い戦いだと思う話を教えてください。

  • VS妹紅(#27-29)
  • VS鈴仙(#33)
  • VS十千刺々(#38-40)
  • VSレミリア(#46)
  • VS風見幽香(#71)
  • VS EXルーミア(#86-87)
  • VS分裂野郎(通称)(#89)
  • VS叶夢(#90-91)
  • VS魂魄妖梨(#93)
  • VS茨木華扇(#96)
  • VSフランドール&レミリア(#98)
  • VS八雲藍(#100)
  • VS八雲紫(#101-102)
  • VS紅美鈴(#106)
  • VSレミー(#107)
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