東方霊想録   作:祐霊

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どうも、祐霊です。2022年も宜しくお願い致します。

長かったレミー戦もこれで終わりです。本作品で一番人気のある紫戦よりも気合を入れて書きましたので、楽しんで頂ければ幸いです。




#123「人間 vs 吸血鬼」

 目を瞑り、周りの音が聞こえなくなるほど集中して祈ることで、第二の能力にかけられた鍵を解除する。瞬間、俺の身体からは信じられないほど膨大な力が溢れ出た。霊力とはどこか違うその力は霊夢の元へ流れていく。

 

 目を開けると、霊夢の折れていた腕は元通りになっていた。

 

 ──良かった……。

 

「祐哉……貴方一体何を……?」

 

 霊夢の治療(再生)の一部始終を見ていた咲夜は、信じられない物を見たという顔をしている。

 

 ──能力を使うしかなかったとはいえ、咲夜に見られたか。面倒なことになったな

 

「霊夢を治したんですよ」

「それも創造の力なの?」

「…………そうです。さっき俺の傷を手当てしたのと一緒です」

「なら何故、自分の傷は直さないの? その力で完治させればいいのに」

 

 答えは簡単だ。創造の能力では多少の傷ならともかく、大きな傷を完治させることはできないのだ。理由はわからないが、どんな機能を付与しても完治とまではいかない。時間を止める機能を付与するより簡単そうなのに、そういうことはできないのだ。

 

 大きな傷を治すには支配の能力を使わなくてはならないのだが、制約と代償があるため簡単には使えない。流石に、使わなければ死ぬような傷を負えば迷いなく使うが、自然に治癒できそうな傷には使わない。

 

「タダで直せるわけじゃないから、ですかね?」

 

 咲夜は俺に支配の力があることを知らない。教えるわけにもいかないため、こう言うしかない。

 

「そんなことより、早く魔理沙に加勢しないと──くっ……」

 

 話を切り上げて立ち上がろうとしたが、酷い目眩に襲われて倒れ込んでしまった。

 

 ──視界がグルグル回っていて気持ち悪い……。支配を使った反動が来たんだ。

 

 視界は一昔前のテレビの砂嵐のようにチカチカとし、やがて白くなっていく。全身に巡る血が冷えていくようなこの感覚は何度経験しても気分が悪い。

 

 ──霊力のストックを全て引き出して回復するしかない。いよいよ後が無くなってきた。こんな調子で最後までもつのか? 

 

「ちょっと、大丈夫? 凄い汗よ。無理したんでしょう。そのまま休んでなさい」

 

 そうしたいのは山々だが、そうもいかないだろう。

 

 レミーの方も頃合いだ。

 

 霊力が回復して少しはマシになったが、まだ気分は悪い。

 

 肩で息をしながら身体を無理矢理起こし、上空にいるレミーを見ると彼女は動揺しているようだった。

 

「ば、馬鹿な……!! この我が六度も?」

 

 アテナの見立てでは、『自己蘇生』を使うたびに消費する妖力量が増えるという。具体的には、6回蘇生すれば底なしに思えた妖力が尽きるはずだ。

 

──倒すなら今だ。

 

「やむを得ん。こうなれば……」

 

 しかし、追い詰められていることを一番理解しているレミーは、俺達とは真逆の方向へ飛び始めた。

 

 ──撤退する気か。だがな……

 

「──ッ!? 前に向かっているはずが進めん」

「二度も逃すと思うか? ここまで追い詰めるのに苦労したんだ。このまま倒れてもらう」

「貴様……これは貴様の仕業か!!」

「そうだ。今、お前は特別製の鎖で縛られている。逃げられないのはそのせいだ」

 

 皆がレミーと戦っている間に「対となる札から500m以上離れることができない」機能を付与した札を紅魔館に貼っておいた。

 

 その「対となる札」は、霊夢が使う札と混ぜてあった。無数のお札に紛れた特別製の札は、今もなおレミーに気付かれずに身体に貼り付いている。

 

「まあ、運命を書き換えれば逃げられるだろうな。だが、今のお前にそれだけの妖力があるか?」

「フン、何か勘違いしていないか?」

「勘違いだ?」

「我の能力は『運命を書き換える』こと。確かに今、我の妖力は残り少ないがあと一度使うには足る」

 

 なにやら嫌な予感がする。

 

「貴様等と戦う過程で力の使い方が分かってきた。素直に礼を言おう。我のパワーアップに貢献した褒美として、我の本気を見せてやる。──運命改変(ディスティニー・リライト)

 

 レミーがそう呟くと、彼女から強い風が巻き起こった。その風はどこまでも強さを増していく。

 

「クハハ……。こうなった以上、貴様らに勝ち目はないぞ」

 

 彼女が放つプレッシャーは大妖怪に匹敵する程強い。弱っているとは思えない。それどころか、最初より強くなっているような……。

 

 ──まさか!? 

 

「気づいたか?」

「……妖力を()()()()()()?」

「凡人の貴様にも感じ取れたようだな。そうだ。我の妖力が尽きかけていたことは認めよう。だが、我はその運命すら書き換えたのだ!」

 

 ──馬鹿な……!? 少量の妖力で無限の妖力を得るなんておかしいだろ! なんつー能力だ! 

 

 レミーの妖力は益々膨れ上がり、青い妖力が身を包んでいるのがはっきり見えるようになった。

 

 気付けば俺の身体は震えていて、冷や汗もかいていた。

 

 ──霊夢が気を失っている今、これだけの妖力を持った奴を相手に戦えるのか? 

 

「クハハハハハハハハ!! 我は今、無限のパワーを手に入れた!! どんな運命も我の思うがまま! これで貴様等から逃げるという屈辱的な行動を取らずに済んだわけだ。最早、幻想郷は我の物になったも同然ッ! 全て支配してくれよう……貴様ら全員を葬ってからゆっくりとな……」

 

 レミーは自分の力を見せつけんとばかりに、妖力を更に放出した。

 

 こんなに膨大な妖力を感じたことはない。八雲紫でさえ、こんなに沢山の妖力をぶつけてくることはなかった。

 

 ──荒々しく、冷たい。空気が凝縮されているのがわかる。離れているのに息をするのも苦しい……! 

 

 上手く呼吸ができなくなり、息が荒くなってくる。

 

 思わず胸に手を当てると、和服の内側に昨晩貰った()()があるのを感じた。

 

──怯むな。今ここで諦めたら全てが終わる。やるしかない!

 

「……咲夜さん、お願いがあります」

 

 咲夜に頼み事を伝えた後、右手に刀を握る。

 

「──全てを支配、ね。お前には無理だよ」

「クハハ、よく聞こえなかったぞ? 下等種」

 

 瞬間、俺はレミーの真上に移動した。

 

「──この俺がいる限り、支配なんかさせねぇって言ってんだよ!!」

「っ! 瞬間移動か。態々やられに来るとは阿呆だな」

 

 レミーが右手に妖力を集めてグングニルを形成しようとするが、完成する前に妖斬剣で妖力を斬る。溜め込んだ膨大な妖力が搔き消されたことに動揺している隙に無数の斬撃を繰り出す。

 

「グガッ! ……おのれ! 調子に乗るなよ下等種!!」

「っ……!」

 

 レミーの身体を斬り付けるが、コイツは瞬時に再生して拳を鋭く突きつけてくる。それを刀で防御し、隙を見て攻撃を繰り出す。この攻防を数秒の間で無数に繰り返す。

 

 ──なんて速さだ! 霊力で動体視力を強化しても追いきれない……! 

 

 ──致命傷は全力で避けろ。だが、小さな傷は諦めてでも攻撃しなければ……! 

 

「クハハ、精々集中して避けろ。気を抜けば即死するぞ?」

「くっ……!」

 

 俺は、空中に足場を創造して縮地でレミーの背後を取る。

 

「お前こそ調子に乗ってんじゃねーぞ……!!」

 

 ──九頭龍閃!! 

 

「小賢しい!!」

 

 レミーはグングニルで九本の刀を弾き飛ばし、そのまま武器を失った俺を穿とうとする。

 

 ──内部破裂(バースト)!! 

 

 膨大な妖力が込められた槍は暴発し、持ち主に反動が伝わる。

 

 ──コイツは一々動揺する癖がある。今が好機!! 

 

「はぁぁぁああ!!」

 

 レミーが次の手を繰り出す前に両腕を切断し、回復している隙に胴を斬る。

 

「ぐぅ、貴様……! どこにそんな力が!! とうに力尽きていてもおかしくないはずだ! 何故まだ動ける!」

「今、俺はキレている。お前が仲間を傷つけたからだ! その怒りが俺の限界を越えさせたんだ!!」

 

 ──祓い尽くせ妖斬剣!! 

 

「せぇぇぇぇぇああ!!」

「アアアァァァアァアアアアア!!!!」

「いい加減、くたばれ!!」

 

 死力を振り絞って、何度も、何度も斬りつける。最大開放の妖斬剣はレミーの身体を何度も刻んでいる。だというのに、コイツは死なない! 何度も『自己蘇生』を発動しているのに妖力が減っている様子もない!! 

 

「これならどうだッ!」

 

 一旦レミーから距離をとる。その後、周囲にありったけの魔法陣を創造し、負傷していない方の足で魔法陣を踏んでいく。両足が使えない分速度が落ちるので、その分多くの自己加速陣を用意してカバーする。

 

 ──妖祓一閃!! 

 

「ぎぃぃぃぃぁぁぁぁあああ!!!!」

 

 効いているはずなんだ! 実際、レミーはこの技を喰らって霧散した。だが、すぐに復活してしまう。

 

「クハハッ! どうしたぁ! 下等種!! それだけか? もっと打ってこい!! 我は貴様の攻撃を全て受け止めてみせよう! 無敵化も使わん!」

「はぁっ、はぁっ! くそ……!」

 

 大技を連発したせいで、一気に息が苦しくなった。

 

 最早レミーの猛攻を防御するので精一杯だ。

 

 ──このままではッ! 

 

 そのとき、景色が変わった。

 

「祐哉、少し冷静になりなさい」

 

 今度は咲夜が俺と入れ替わる形でレミーを攻めにいく。

 

 ──これは……! 咲夜が助けてくれなかったらあのまま負けていた。危なかった……! 

 

 膝から崩れ落ち、咳き込むほど乱れた呼吸を整えようとしていると、側にいた魔理沙が話しかけてきた。

 

「祐哉、1人で戦うなよ。私達も居るんだからさ」

「……悪い」

「それにしても、どうしたらアイツに勝てるかね。今のアイツは間違いなく幻想郷で一番強いぞ。なんせ、死んでも死なないんだからな。せめて永遠亭の奴らみたいに理性があれば」

「俺に……考えが……ある。こうなったら……出し惜しみはできない」

 

 息が切れてまともに話せないのがもどかしい。

 

「時間を……稼いでくれないか」

「勝算があるの?」

「霊夢? お前、目が覚めたのか」

 

 いつの間にか目を覚ましていた霊夢が寄ってくる。問題なく完治できたみたいで良かった。

 

「今起きたわ。気を失うなんて情けないわ。それより、私の腕を治したのは誰? 折れてたと思うんだけど」

「祐哉が治してたぞ」

「──!」

 

 魔理沙の返答を聞いた霊夢は一瞬、目に見えて固まった。何故かは分からない。霊夢の認識では、俺は「創造の力で傷を治せる」というふうになっているはずだ。そう思わせるために言動に気をつけているのだ。故に、今更驚くことではない。

 

「どうかした? もしかして、まだ何処か痛む?」

「ううん。傷は平気よ。何か古傷も消えているし、寧ろここ数年で一番体調がいいかも。でも貴方………………いや、何でもない。助けてくれてありがとうね」

「どうしたんだよ? まあ、どういたしまして。──っと、今はお喋りしてる暇はないぞ。起きて直ぐで悪いけど、戦える?」

「お蔭さまでね。どのくらい時間を稼げばいい?」

 

 俺は2人に作戦を伝える。

 

「じゃあ言ってくる。そっちは頼んだわ」

「気をつけてな」

「お互いにね」

 

 霊夢が咲夜に加勢する。

 

「じゃあ、頼んだよ。魔理沙」

「流れ弾から守ればいいんだな? 任せろ! お前には指一本触れさせないぜ!」

 

 一方、魔理沙には俺を庇ってもらうことになっている。

 

 戦いは皆に任せ、俺は座ったまま、抜刀した刀に手を添える。

 

 ───────────────

 

 ──我は唯一無二の存在だ! 故に、下等種如きに後れを取るはずはないのだ。

 

 ──それなのに、何故我はこのような雑魚を相手に苦戦している? 

 

「『ミスディレクション』!!」

 

 銀髪のメイドが無数のナイフを投げてくる。これらは全て銀で作られているため、投げられると不快になる。

 

 ──この女は決定力に欠ける。コイツに殺されることはないが、妙な奇術を使う。

 

 コイツがいなければ、既に下等種共は全滅している。

 

 あと一息でトドメをさせるというタイミングでコイツが仲間を逃すから攻め切れない。

 

 

 ──あの魔女もそうだ。

 

 アイツが来なければ、グングニルの雨で仕留められていた! 

 

 今もアイツが彼処にいなければ創造の小僧を仕留められるはずだった! 

 

 

 ──巫女の技は危険だ。

 

 巫女の攻撃全てに退魔の効果が付与されている。食らえば動きが鈍るから必ず回避しなければならない。また、巫女の戦闘能力は非常に高い。先程殺すつもりで攻撃したのにも拘らず、咄嗟に霊力でガードしてみせた。

 

 目を瞑っていたはずなのに何故我の攻撃が読めたのだ! 

 

 

 ──そしてあの小僧。アイツは何者なのだ! 

 

 純粋なパワー、速度、接近戦においては巫女に勝るが、それ以外の潜在的な戦闘力では巫女のそれを遥かに下回る。

 

 正直、この我ならば取るに足らない存在なのだ。それなのに、未だに殺せていない。

 

 確かに銀髪女の活躍も大きいが、小僧の力の影響も大きい。あのとき()がグングニルを何らかの方法で破壊してみせた。あれは何なのだ。それに、我は見ていたぞ。あの小僧は巫女の傍で何らかの術を行使した! その瞬間に放たれた強大な力……アレは一体何だ? 普段の小僧から感じられるものではない。まるで別人のようだった。

 

 とにかく、小僧は得体の知れぬ力で巫女の傷を癒してみせた。今だって何かを企んでいる様子だ。あの小僧の力は未知数。小僧を仕留めなければ全滅させるのは難しいだろう。だが、銀髪女と巫女がそうさせない。

 

「このッ! 人間どもがぁぁぁああぁああ!! 食糧の分際でッ! この我に刃向かうなッ!!」

 

 我は、妖力をありったけ使って、巨大な妖力弾を無数に放つ。しかし、近くにいた銀髪女と巫女には当たらない。それどころか姿も見当たらない。

 

 ──あそこか! 

 

 二人は、金髪の魔女の元に移動していた。相変わらずチョコマカと動く。

 

「む──?」

 

 地上にいる魔女が正八角形の物体をこちらに向けてきたかと思うと、広範囲に及ぶレーザーを放った。このレーザーは我の皮膚をジリジリと焼くが、所詮はその程度。避ける価値もない。──そう考えていると、レーザーがぴたりと止んだ。一気に視界が取り戻されると、我の翼が燃えていることに気づく。

 

 ──おのれ魔女め!! ハナからこれを狙って……! 

 

 日光を遮る霧が、先程のレーザーによって払われていた。霧の壁に空いた穴から陽光が差している。

 

「だが無駄なことだ!」

 

 我は直ぐ様霧を用意し、陽光焼けを防ぐ。

 

「一瞬……ほんのちょっと隙ができれば十分だぜ!! 『ブレイジングスター』!!」

 

 金髪魔女は箒に跨ると、後端からレーザーを放ち、それを推進力として突進してきた。

 

「グゥ……! 小癪な……」

 

 真下から垂直に向かってきた金髪魔女が乗っている箒の柄が我の鳩尾に決まり、激痛が走る。レーザーから得た推進力もあり、我は空高くまで打ち上げられる。

 

「観念するんだな、このまま霧の上まで打ち上げてやるぜ!」

「小賢しい!!」

「グハっ……!」

 

 我は金髪魔女を蹴り払うことで強引に攻撃を逸らす。

 

 ──クハハ……今のは危ないところだったぞ。

 

 だが、どんな攻撃も我を滅ぼすにまでは至らない。所詮、それが人間という下等種の限界なのだ。

 

 ──さて、そろそろ何かを仕掛けてくるか? 

 

 下等種共を支えているのは間違いなく銀髪メイドだ。あの女が攻撃のきっかけを作っている。断言しよう。あの女は間違いなく、もう一度誰かを瞬間移動させてくる。

 

 ──それがわかっていれば、対処するのは容易い

 

 ───────────────

 

 全ての準備が整った俺は、流れ弾から身を守ってくれた仲間を見上げる。

 

 霊夢と咲夜の視線の先には、魔理沙が居た。

 

 箒に跨った彼女は、彗星の如く天へ昇っていた。

 

 その推進力を活かし、レミーを霧よりも高い所へ押し込むつもりなのだろう。確かにそれができれば日光に晒すことができる。太陽ならば吸血鬼を無条件に殺せるだろう。

 

 レミーは魔理沙の狙いを理解していたのだろう。彼女は慌てたように魔理沙を蹴り払い、霧を更に濃くした。

 

「魔理沙!!」

 

 魔理沙は物凄い勢いで落下していく。落下地点は霧の湖。しかし、あの落下速度では例え水面でも無事じゃ済まない。

 

 俺は彼女の元へ駆けつけるために立ち上がろうとするが、咲夜に制止される。

 

「魔理沙は私に任せて。それより、準備はできたの?」

「はい」

「じゃあ直ぐにやるわよ」

 

 俺はフラつきながらも鞘を支えに立ち上がる。

 

「大丈夫なの? また顔色悪いわよ」

 

 ダメそうに見えるのか、咲夜が心配してくれる。

 

「貴方、無茶してない? ついさっきだって物凄い霊力を使ってたわね。もう、今の貴方には殆ど霊力がないはずよ」

 

 流石にバレるか。

 

 そう。俺は2人に庇ってもらっている間、刀に対して第二の能力を使った。もうこの手しかないのだ。

 

 さっきから連続して使い過ぎたためか、酷く調子が悪い。しかし、レミーを倒すためにはあと1回あの力を使わなくてはならない。

 

 ──足りるだろうか……

 

 ──いや、やるんだ。やるしかない! 

 

「……大丈夫じゃないし無茶してるさ。でも、皆そうだろ。……あと一撃、死ぬ気で放つ。だから、ここで決めるよ」

「分かった」

「了解」

 

 霊夢と咲夜が順に頷いた。

 

 瞬間、俺は咲夜の手によってレミーの真上に移動した。

 

 彼女の下には、自力でワープした霊夢がレミーに迫っている。

 

「やはり来たか。だが2人同時とはな。ならばまず、貴様から仕留めるとしよう……()()()ッ!!」

「なにっ!?」

 

 俺達の存在に気付いたレミーは既にグングニルを構えていた。

 

 ──まさか、読まれていたのか? クソ、同じ手を使い過ぎたか!! 

 

「あえて、唱えよう。──『スピア・ザ・グングニル』」

 

 レミーは蒼槍を()()()()

 

 ──間に合わない! 

 

 咲夜は今、魔理沙を介抱しているはずだ。暫く救助は頼れない。

 

 内部破裂を使えば、霊力が尽きてジ・エンド。似たような理由で『明鏡止水』も使えない。

 

 恐らくあの槍は必中必殺の運命を握っている。避ける選択肢はなく、受け切るか破壊するしかない。

 

 ──手詰まりだ。

 

 グングニルは、実際には刹那の時間で飛来しているのだろうが、まるで時が止まったかのように遅く感じられる。

 

 これは今までにも味わったことがある。死が近づいて来たときの感覚。

 

 ──ここまで来て負けるのか? 

 

 ──俺が死んでも、霊夢が仕留めてくれるだろうか

 

「認めよう。貴様はこの我を二度も追い詰めるほど強い。だからこそ、とっておきをくれてやる。一矢一殺の槍だ。そのまま散れ」

 

 蒼槍はもう直ぐ側まで来ている。

 

 それに対し、俺は何もできない。

 

 目を瞑り、死期を待つ。

 

 

 

 

 瞬間、自分の胸から強い霊力を感じた。自分の霊力ではない。

 

「なに──っ!?」

 

 レミーの声と金属音に似た音に思わず目を開けると、眼前に張られた青色の結界が槍の行方を阻んでいた。

 

 飛来する槍と同じ青色だが、禍々しく澱んだ槍と違い、その結界は青空のように綺麗で透き通っていた。

 

 ──この感じ、間違いない。

 

 この暖かな感覚は……

 

「君が……守ってくれたのか…………霊華」

 

 胸に手を当てる。

 

 和服の内側には、彼女がくれた御守りが縫い付けられている。

 

 今もなお強い霊力を発しているそれは、俺に勇気をくれる。

 

「我が槍を受け止めただと? だが無駄だ。そんな壁、我の槍にとってはガラスも同然よ。直ぐに砕け散るだろう」

「……無理だよ。確かに、この結界はガラスみたいな見た目をしている。だがな、最近のガラスは色々あるんだぜ。そしてこれは、お前の攻撃に耐え得るだけの強度があるようだ」

「フン、ならば耐久テストと行こうか。そのガラス細工は一体何本の槍を受け止められる?」

 

 レミーはそう言って、2つ目の槍を投擲するが、霊華が御守りにかけた術は砕けなかった。だが、槍も負けじと結界の先にいる俺を穿つために進み続ける。

 

『あの子は本当に、貴方を想っているのですね』

『アテナ?』

『そうでなければ、これほどの強度の結界は張れません。彼女のためにも、ここで死ねませんよ』

 

 ──その通りだ。

 

 俺は()()、あの子に助けられた。帰って礼をするんだ。そのためにも、俺は負けるわけにはいかない。

 

『霊華には助けられました。お蔭で、私も準備が整いました』

 

 アテナがそう言うと、膨大な霊力が身体を包んだ。

 

『私の神力を霊力に変換するのに時間を食いましたが、これで暫くは持つはず』

 

 ──凄い霊力だ。俺の霊力の数倍はある。これが、アテナの力……。身体が軽い。これなら間違いなく足りる。

 

『力は与えました。存分に暴れなさい!! そして長かった戦いに終止符を打ちましょう!!』

『はい!』

 

 ──創造、大幣。『退魔の力・極』、『斬撃加速度大幅上昇』付与!! 

 

 これだけでは不十分だ。

 

 準備はできている。

 

 必要な霊力は貰った。

 

 あとは、発動するだけだ──!! 

 

 ──『全てを支配する程度の能力』、発動!! 因果を断ち切れッ!! 

 

「それを使うんだ、霊夢!!」

 

 霊夢は眼前に現れた大幣を手に取り、構える。

 

 俺は、アテナに貰った霊力で内部破裂を使用してレミーの槍を破壊する。

 

 それを受け、レミーが新たに槍を生成するが、もう遅い。

 

 空中に作った『自己加速』の魔法陣を蹴り、レミーへ肉薄する。

 

 俺はレミーの上から、そして霊夢は下から、挟み撃ちをする形で斬りかかる。

 

「フン、その程度の速さでは我には当たらんぞ」

 

 レミーは、俺達の攻撃が届く前に横に移動した。

 

「クハハ……!! 残念だったな。そのまま共倒れすれば良いわ!!」

 

 挟み撃ちの対象がいなくなれば、俺と霊夢が衝突するのは必然。だが、

 

 ──計画通り!! 

 

「このまま行くぞ、霊夢っ!!」

「ええ!! ここで決めるわよ!!」

 

 俺達は、互いに向けて右斬り上げの斬撃を繰り出す。

 

「「──『妖祓一閃・双刃』!!」」

 

 互いの斬撃が交わり、鍔迫り合いになる。

 

 だが、それは彼女がいなければの話だ。

 

「なに──ッ!?」

 

 斬撃が互いに命中する瞬間、俺と霊夢の間にレミーが現れた。必然的に斬撃を喰らうことになったレミーは驚愕の表情を浮かべる。

 

 ───────────────

 

「な、何故──? 我は貴様らの攻撃を避けたはずだ……」

 

 我は、口元から飛び散った液体を拭う。

 

 ──血……我の……? 

 

 そのとき、地上でこちらを見上げている女が視界に入った。

 

 ──そうか、あの奇術師の仕業か。

 

 この2人が衝突する直前に我を移動させたのだろう。

 

 小賢しい真似を……! 

 

「だがそれも無駄なことだ。何度我を斬ろうが、我の命までは絶て──ガハッ!?」

 

 吐血。

 

 可笑しい。

 

 そろそろ蘇生が始まっても良い頃合いだ。なのに、何故……? 

 

 目の前の小僧が不敵に笑っている。

 

「──貴様ッ!! 貴様だな! 一体何をした!!」

「……お前は、調子に乗りすぎた。そして強すぎた。だから俺も、()()()()()を使わざるを得なくなった。お蔭で何かを失うかもしれないがな」

「何をしたと聞いているのだッ!!」

「──俺がお前を()()()()。金輪際運命を書き換えることを禁ずる。そして──霊夢!!」

「任せて!」

 

 小僧は巫女に声をかけると、我から離れた。もう刀は刺さっていないが、我の術は発動しない。

 

「──『夢想封印 終』!!」

 

 巫女から神秘的な光弾が放たれた。我は、近距離から放たれたそれに為す術なく飲み込まれる。

 

「ぐぁぁぁぁぁぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!」

 

 最早手足は動かない。術も使えない。

 

 ──お、おのれ! この我が人間に敗北するのか……? 

 

 我は何もできぬまま、地上に叩き落とされる。

 

 凄まじい速度で地に衝突したが落下によるダメージは無い。深刻なのは先程の斬撃と光弾の方だ。

 

「ぐぅぅ……早く撤退せねば……!」

「させない!!」

 

 動かぬ身体を強引に動かして地を這いずるも、奇術師が投げたナイフが手足に刺さり、動きを制限される。それだけではない。先程の光弾を受けた影響か、身体が動かなくなってきた。

 

 ──もはやここまでか……

 

「アンタは終わりよ。ここで封印する」

「クハハ……精々その封印が解ける日を怯えて待つが良い。そのときは貴様らの子孫を皆喰ってやる!」

 

 ───────────────

 

「クハハ……精々その封印が解ける日を怯えて待つが良い。そのときは貴様らの子孫を皆喰ってやる!」

 

 レミーは捨て台詞を残して()()()()

 

 霊夢が使った『夢想封印 終』は初めて見たが、対象を石化して封印する技なのだろう。その性質上、加減が効かず、妖怪を懲らしめる域を越えるから今まで使ってこなかったのかもしれない。

 

「……そう。最後の最後で考えを改めたら、数百年後は自由にさせてもいいと思ったんだけど……。こんなやつを放置したら子孫に恨まれちゃうわね。……祐哉、ごめんね。お願いしてもいいかな」

 

 妖怪とはいえ、殺しをさせることに対しての謝罪だろうか。

 

 ──霊夢は優しいな。最初からレミーを殺そうとしていた俺と違って、なんだかんだ改心のチャンスを与えようとしていたのか

 

「──任せてくれ」

 

 石化したレミーの正面に移動する。

 

「復活の機会を与えると思ったか?」

 

 人間と幻想郷を脅かす者は断罪する。例え、非道だと言われようとも。

 

 手にするは俺の愛刀、妖斬剣。力を最大限に開放したそれは、白銀の光を放っている。

 

 妖斬剣を天に掲げ、レミーに語りかける。

 

「哀れな悪魔よ……お前にこの言葉を贈ろう。──郷に入っては郷に従え。意味は……辞書でも引いて確かめるんだな。あの世で、ゆっくりと」

 

 力強く刀を振り下ろす。

 

 石化したレミーは、たったそれだけで砕け散った。

 

 粉砕され、霧散したレミーは、空を覆った霧と共に空気に溶けていった。

 




ありがとうございました!!
よかったら感想ください!!

※祐霊氏は絶賛卒研発表準備中なので次の投稿はいつになるかわかりませんが、のんびり待ってもらえると嬉しいです。



※あとがき※
 はい。ここからは悪魔異変に対する私自身の感想です。
 レミーは私にとって想定外の存在です。祐哉と美鈴の戦いに勝手に割って入って来ました。危険因子かつ話が通じないので倒すしか無かったんですが、もっとサクッと倒せると思っていました。そしたらなんか、悪魔異変とか起こされちゃいました。
 正直、レミーが強すぎて祐哉達が勝てるのか不安になった回数は1度や2度ではありません。祐哉、霊夢、魔理沙、咲夜……4人全員の力をフルで使ってようやく勝つことができました。ああ、霊華の御守りがなかったら結末は分からないので、5人の戦いだったともいえるでしょうか。本作品では、グングニルが二本衝突してもヒビが入らない結界を張るのは人間にはほぼ不可能なことです。アテナの言う通り、霊華の強い想いが強固な結界を作り上げたのです。


 レミーは生まれて間もないため経験が浅いです。やたら簡単に殺せたのはそのためです。自分の能力で復活できるからといってガードを疎かにし、攻撃も単調(脳筋ともいう)でした。あと、本気を出すのが遅すぎる! でも、もしレミーが戦闘経験豊富だったり慢心してなかったら100%負けてますけどね。吸血鬼だし、支配の能力を使う前に葬れそう。



さて、今回は想定外の連発だったので私自身、とても楽しかったです。
皆さんにも楽しんでいただけていたら、幸いです。

それでは、また。

東方霊想録の作品中で最も熱い戦いだと思う話を教えてください。

  • VS妹紅(#27-29)
  • VS鈴仙(#33)
  • VS十千刺々(#38-40)
  • VSレミリア(#46)
  • VS風見幽香(#71)
  • VS EXルーミア(#86-87)
  • VS分裂野郎(通称)(#89)
  • VS叶夢(#90-91)
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