東方霊想録   作:祐霊

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お待たせしました。

サブタイの原曲を聴きながらだと楽しめるかも


#16「月時計 〜ルナ・ダイアル」

 幻想郷で最も紅い館。紅魔館。つい先日、嫌という程怖い思いをした。挨拶も済ませたので当分行くことはない。そう思っていたのだが、俺は今この館の当主の部屋にいる。

 

 一体何故? お前はマゾヒストなのか? そう思うかもしれない。だが違う。断じて違うのだ。

 

 強くなると決心したのはいいが、肝心な方法が分からず修行は難航していた。霊夢や魔理沙以外に頼れる人を考えた時、真っ先に思いついたのがレミリアだったのだ。「強くなりたくはないか」そんな事を聞かれたのを思い出した俺は、即行動に移した。

 

「思ったより早かったわね。その様子じゃ何処かで痛い目にあったようね?」

「分かりますか」

「心変わりが早すぎるもの。それに、顔つきが変わったわ」

 

 椅子から立ち上がったレミリアは、ドアノブに手を添えてこちらを見てくる。

 

「さあ、行くわよ。準備は出来ているわ」

 

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 紅魔館の地下──図書館。相変わらず埃っぽい。掃除が行き届いていない訳では無いだろう。単純に換気が難しいからなのか?

 

「さて、貴方が強さを求める理由を教えてもらえるかしら」

 

 俺は迷いの竹林での出来事を話す。俺は自分と身近な人を守れる力が欲しい。自分が弱いせいで誰かを巻き込む事はもうしたくない。本当は自分の無力さを弁え、大人しく里で住むべきなのかもしれない。でも、諦めるのはまだ早い。挑戦したいのだ。

 

 やはりレミリアも十千刺々の存在を知らないそうだ。今度暇潰しに行ってみようか等と言っている。俺にとって刺々は脅威そのもの。だが吸血鬼の敵ではないだろう。両者の実力を正確に知っているわけではないが、恐らく遊びにもならない。否、それでも遊ぶのが人外の楽しみ方なのかもしれない。

 

「貴方が強さを求める理由は分かったわ。それに適した訓練を施してあげる」

「それは有難いのですが、どうして俺の相手をして下さるのですか?」

「なんでもやってみるのが長生きを楽しむ秘訣よ」

 

 なるほど、暇なのか。これはチャンスだ。幻想郷の中でもトップクラスの戦闘力を持つという彼女に教われば効率よく強くなれそうだ。

 

 さあ、頑張ろう!

 

「じゃあ早速、貴方には吸血鬼になってもらうのだけど」

「──ゑ?」

 

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「へぇこれは驚いた」

「やった! 飛べた!」

 

 幻想郷で暮らす事にした私は早速修行をつけてもらっている。先ずは空を飛ぶことから教わった。この世界の妖怪や一部に人は当たり前のように飛べるらしい。私は目を閉じた後、単純に『飛びたい』と思った。そして気づいたら身体が浮いていたのだ。

 

「思っていたよりも簡単なんだね」

「祐哉は三日かかったよな」

「うん。論理的に飛ぼうとしてたからね。そんなものが通用する事柄じゃないのにねぇ」

 

 その後私は自在に飛べるように練習した。飛行はこの日のうちに完全に会得できた。

 

「あいつが見たら『ば、馬鹿な。嘘だろ? 俺の三日間の努力が……』って言いそうだな」

「何よそれ」

「ちょっとした予知さ」

 

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「ちょ、それはちょっと……」

「あら、手っ取り早く強くなれるいい方法だと思うけど」

「人間の妖怪化は禁忌じゃないんですか?」

 

 霊夢が「易」から始まり「者」で終わる人物を大幣で叩き割るシーンは原作を知る者の中ではそこそこ有名だ。俺もあんな感じでパッカーンされてしまう。吸血鬼の力を振るって霊夢を倒すというのは難しいだろう。第一それは今までの恩を仇で返すことと同義。そんなことをするくらいならば里に住む。

 

「あら、吸血鬼化は妖怪化に入るの? 霊夢を倒せばいいじゃない」

「専門じゃないので知りませんが、霊夢を裏切ることをしたくないです。それに俺は人間のまま強くなって、皆と暮らしたいんです。わがままかも知れませんけど……」

 

 そう語る俺を見てレミリアはニヤリと笑う。

 

「貴方のそれはワガママではない。人間のまま強くなるという決意は必ずしておくべきことよ。そうでないと道を外し、『滅ぼす者』になる」

「滅ぼす、ですか? 俺の能力は創造なんですが」

「捉え方によっては創造も破壊になるわ。新たな物を創る。場合によっては既存の物が使われなくなる。役目を失うことはその物の破壊と同義。そうは考えられない?」

「はあ、成程。何となく分かります。では、俺が妖怪化したら出鱈目に創造をして結果的に滅亡を誘うのですか?」

「いいえ、私の言う滅亡とそれは違うわ。話が横道に逸れただけで、創造とは関係無いのよ」

 

 レミリアは不敵な笑みを浮かべる。何を言っているのかサッパリだ。今の話は全く関係ないだって? では、何故俺は滅ぼす者になるのだろう。

 

「そもそも、何を滅ぼすのですか?」

「さあね? 貴方そのものかもしれないし、幻想郷かもしれない。そんなことはどうでもいいのよ。貴方はこれから滅ぼす者にならないようにする為に修行するのだから」

 

『滅ぼす者』と別の『何か』。俺に用意されている結末は最低でも二つなのだろう。そして妖怪化は滅ぼす者に直結する。俺は別の何かになる為に修行をするという。

 

「と、お喋りもこの辺にして──」

「お待たせしました、お嬢様」

「早速だけど、咲夜には祐哉の相手をしてもらうわ」

「……かしこまりました」

 

 修行を始める前に咲夜と弾幕ごっこをすることになった。俺の戦闘力がどの程度なのかを把握するためらしい。準備運動を兼ねて、との事だが俺にとってはかなりハードだ。準備運動のラジオ体操を第一ではなく第四でやらされるようなもの。俺に勝機はないが戦うのは楽しみだ。『時間を操る程度の能力』を使った戦闘はここでしか経験できない。

 

「宜しく御願いします」

「こちらこそ、宜しく御願いします。それでは──」

 

 瞬間、すぐ目の前に弾幕(ナイフ)が張られた。

 

「!?」

「──始めましょうか」

 

 足元に刺さったナイフはサクサクという音を立てる。弾幕に対し俺は一歩も動かなかったが、当たることは無かった。

 

 ──というより()()()()()()

 

 咲夜は俺が動かなければ当たらず、それでいて動揺を誘う規模で投射してきたのだ。

 

「やば、死ぬかも」

「準備運動にも準備運動が必要ですか? それなら──奇術『ミスディレクション』」

 

 咲夜はナイフを全方位に撒き散らす。弾速は十分避けられる程度。問題ない。

 

 が、そう甘くはなかった。突然あらぬ方向からナイフが飛んできたのだ。多方向からの投擲は容易に俺を囲いこんだ。

 

 ──まさに弾の幕。弾幕っていうのはこうやって作るんだな

 

 何とか隙間を縫って脱出するも第二投目がやってくる。避けられたとしても攻撃する余裕がない。取り敢えずこのスペルが終わるまで守りに集中だ。

 

「よく避けますね。私の奇術(ミスディレクション)は如何でしたか?」

「能力を用いた視線誘導(ミスディレクション)、興味深いですね」

「この程度私の能力があればできて当然。即ち──」

「俺は時間操作の片鱗に触れたに過ぎない?」

「ふふ、次です。──幻像『ルナクロック』」

 

 咲夜はまた全方位にナイフを撒いた。

 

「またナイフが──」

 

 

 

 

 時間は止まった。

 

 

 

 

 ただ一人、十六夜咲夜(奇術師)を除いて。

 

 

 

 

 ()の眼前に大量のナイフが設置された。

 

 

 

 

『貴方はこれを避けられますか?』

 

 

 

 

 ──そして時は動き出す。

 

 

 

 

「──飛んでくるのか? ……って言ってる間に来たよ」

 

 ちょっと独り言を呟いている間に目の前の弾幕は複雑になっていた。

 

 ナイフは多方向から俺を一点狙いする物、支離滅裂に飛来する物に分かれている。であるならば後ろに下がって距離をとり、冷静に隙間を縫えば攻略できる。

 

「──っ!」

 

 ナイフが掠った。まあ、思ったとおりにいくほど世の中easyモードではないんだよね。

 

 ──何とかして攻めに転じなければ。だけど避けるので精一杯だ。

 

 否、ここしかない。第一投目が終わった今、二投目が来る前に強引にでもスペルカードを発動する!

 

「創造『 弾幕ノ時雨・刀(レインバレット)』!!」

 

 無数の針を円形上に放つ。以前チルノや魔理沙に使った時はそれこそ霧雨が起こす程度の波紋だったが、これは時雨と呼ぶに値するだろう。1秒間隔とさほど速いとは言えないが、波紋の位置は(原点)に依存する。つまり、咲夜の弾幕を躱している分、より複雑になる。

 

「マジかよ」

 

 咲夜は弾幕を躱すのと同時にナイフを投げている。ただ避けていただけの俺とは大違いだ。

 

 魔法陣を創造し、それを原点に波紋が広がる。魔法陣は一定時間経つと別の地点に転移する。俺の動きと組み合わせることで予測不能な弾幕になっているはずだが、アッサリと躱されてしまう。

 

 やがて時間切れになり、弾幕ノ時雨は攻略されたことになった。

 

「そこまで! 互いにスペルカードを繰り出した事だし準備運動は終わりよ」

「はい、お嬢様」

 

 レミリアの宣言が図書館中に響いた。ふっとため息を零して戦闘から思考を切り替える。

 

「さて、手合わせをしてみた感想は?」

「反省点が沢山見つけられたのでとても有意義でした。ありがとうございました」

「なーんか堅いわね。もっとこう、ないの? 楽しかったとか、怖かったとか、殺されるかと思ったとか」

「……そうですね。運動して息が上がっていて、とても苦しいんですけど──でもそれ以上に、楽しかったです」

 

 そう言うとレミリアは満足そうに頷く。

 

「咲夜、アドバイスをしてあげなさい」

「はい。……相手の弾幕を避けている間、守りに徹するのはあまり宜しくないです。強くなりたいのであればこれを改善しましょう」

「分かりました、頑張ります」

 

 確かに俺は咲夜の言う通り、弾幕を避けることに集中しすぎて攻められないでいた。これは相手にとってはサンドバッグも同然だ。

 

「スペルカードは良かったですよ。弾数を増やしたり、速度を上げることができればもっと難易度が上がります」

 

 

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 神社に戻ると霊華が飛んでいた。

 

「ば、馬鹿な。嘘だろ? 俺の三日間の努力が……」

 

 楽しそうに宙を漂う霊華と何故かドヤ顔をする魔理沙。そして霊夢は変なものを見たような顔をしていた。

 




ありがとうございました。
二章にむけて準備しています。結構慎重にやっているので時間がかかりそうです。
二章は放浪録とは違う異変を考えています。
そろそろ祐哉に勝利というものを教えたい。

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