東方霊想録   作:祐霊

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#17「無策の戦力調査」

「お、あんたか。……まさかもう戦いに来たとか言わないよな?」

「そのまさかだけど」

「まあいい、弾幕勝負で一回でも私に当てられたら通してやる。あんたの残基は2でいい」

 

 そう言って不老不死は構える。

 

 ──案外勝てたりしないかな……

 

 

 

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「さて、貴方はあの不老不死に勝ちたいのよね」

「はい」

「それには少なくとも霊夢と魔理沙、咲夜と同じくらい強くならないとね」

 

 皆の言う『不老不死』とは、竹林で助けてくれた少女のことである。種族は人間で、確か妖術を使えたはずだ。そして属性は火。

 

「年単位の修行期間が必要ですかね」

「それでもいいけどね、ただ勝つだけなら直ぐにだって可能よ? 貴方の力なら特にね」

「それって、あの人を攻略するってことですか?」

「そう」

 

 確かに、『あの人を倒せるくらい強くなる』ではなく、『あの人を倒す』のほうが早く達成できる。前者は、自分を強くして戦闘力の差を埋める方法。後者は相手の弱点や行動パターンを分析し対策する事によって強引に勝ちに行くもの。

 

 これがもしも『殺し合い』なら難しいが、弾幕ごっこは弾を被弾させればいいのだから比較的容易い……はず。相手が嫌がる弾幕を撃ち続ければいいのだ。そして、そこで役に立つのが俺の創造の能力。なんなら水の創造でもすればいい。質量を持ったものを物体と見なすので、水の創造も可能だ。敵の嫌がるような攻撃をしてストレスを溜めさせるなど、正義のヒーローならばまず取らない汚れた行動。だが知ったことではない。正義を語るほどデキた人間ではないのだ。

 

「なら俺はあの人の戦い方を知る必要がありますね。そして、嫌がらせを続けるための霊力量を増やさないと」

「そうね、じゃあ行ってらっしゃい」

「!?」

「行ってらっしゃい?」

 

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 不老不死は懐から御札を取り出してこちらに投擲した。霊夢もそうだが、紙ペラを狙ったところへ投げるとは器用だな。

 

 俺は御札を避けることに専念する。手加減されているのか、難易度はそう高くない。油断しなければ普通に避けることができる。

 

 ──違うだろ、咲夜のアドバイスを思い出せ

 

 弾幕を避けつつもスキを見て攻撃する。頭ではわかってはいるがとても難しい。苦し紛れに放つ弾幕はとても弾幕と呼べるものではなく、それは最早タダの弾。単発のソレに美しさ等有るはずもなく、当たることは無い。何故皆はできるのか。ドッジボールの球を複数個避けながら球を投げろと言っているのと同じだ。要練習だな。

 

「なんだ、大したことないじゃん。出直してきな! 時効『月のいはかさの呪い』」

 

 不老不死はスペルカードを使ってきた。

 

 ──ダメだ。やっぱ今の俺じゃ勝てない……

 

 そのスペルカード(芸術作品)が何を模しているのか俺にはサッパリ分からない。今の俺にとってそれはただ己に敗北を突きつけてくる物にしか見えない。

 

 ──結局、美しさってなんなんだ

 

 俺は目を瞑り、戦いを放棄した。

 

「ッ──!」

 

 弾が直撃し、身体に激痛が走る。それと同時に込み上げてくるものがあった。

 

 ──悔しい

 

「創造『 弾幕ノ時雨・刀(レインバレット)』!!」

「うぉっ!?」

 

 咄嗟に放った弾幕ノ時雨は予想外の威力を発揮し、彼女のスペルカードを打ち消した。

 

「へえ、もしかしてスロースターターなのか?」

「知らないよ。ただ、何もせずに負けるのが悔しいと思っただけだ。我ながらコロコロと心変わりが激しいと思うよ」

「あー? 何言ってるの?」

「ただの独り言だ。さて、そこを動くなよ?」

 

 ──この技なら勝てる

 

「星符『スターバースト』!!」

 

 魔法陣から放たれる極太のレーザーは不老不死を呑み込んだ。

 

「よし」

「危ないな、急に馬鹿でかいもん撃つなよ」

「──! 躱したのか」

「似たようなものを使ってるやつがいるんでね。ある程度慣れてるのさ。しかしお前のそれは()()()()()()()()()()。それじゃ避けられて当然だ」

「……確かに、スターバーストは()()()だ」

 

 似たようなものを使う奴……魔理沙かもしれない。魔理沙の十八番を真似ているのだから当然有名なはず。使い方を考えないと避けられてしまう。思ったとおり何もできなかった。弾を躱している際攻撃できないことと、スターバーストの未完成。これを解決しなければお話にならないのだ。

 

 ──俺のスペルカードは二枚しかない。出直すか

 

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「うん? やめるのか?」

「また来ます」

 

 男は去っていった。ただの雑魚かと思っていたら突然熱くなり、いよいよかと思うと急に冷める。変な奴だな。

 

 ──彼奴に何の価値があるというのだろう

 

 

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「送り返してきたよ」

「助かったわ」

「あの様子じゃ二度と来なそうだけどな」

「それならそれで構わないわ。あの予言は吸血鬼が流したデマということで」

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()と依頼されたのはあの日の朝のことだった。何のことかはさっぱりだったが、出会った瞬間に分かった。明らかに里の人間が着ているものとは違う。

 

 男が竹林に来た事に気づくのは容易かった。多少の戦闘力はあるらしく妖怪と戦っていたが、あの程度の妖怪も処理できないようなら里から出るべきではない。たまにいるんだよな。少し力をつけたからって調子に乗る人間が。そういう奴は皆死んでいく。

 

 しかし見つけてしまった以上、助けないわけにはいかなかった。妖怪を屠った後、改めて見た時私は憤りを覚えた。

 

 ──こいつ、隣の女も巻き込んだのか!

 

 そして、私は怒鳴っていた。結果的に目的に沿う形になったが、あれではもう来ようと思わないだろう。見た所、根性無しの腑抜けだ。

 

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 永琳の言う“吸血鬼のデマ”と言うのが詳細の鍵となりそうだ。だが別に興味はない。

 

「あれ、魔理沙か。久しぶりだな」

「よっ!」

 

 竹林の入口に魔理沙が立っていた。さっきの人間について話しに来たようだ。

 

「あいつ、相当永遠亭に行きたいらしい。お前に会ってからずっと頑張ってるんだ」

「物好きな奴だ。診療所の患者という訳では無いだろう。なら彼奴に求婚でもするのか?」

「いや、多分鈴仙だな。スペルカードを見てみたいだとか。なんだったらお前も色々見せてやれば喜ぶと思うぞ」

「本当に物好きだな」

「勉強家なのさ」

 

 魔理沙は用が済んだというように竹林の中に入っていった。

 

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「さーて、珍種竹妖怪を退治してやろうかね」

 

 祐哉が言っていた竹妖怪は、竹を切ったことに対して激怒したという。つまり、竹を切ってやれば会うことができるはずだ。

 

 私はミニ八卦炉を構えて火を焚く。

 

 ──しっかし腑に落ちないんだよな

 

 過去にここで弾幕ごっこをした際、何本か竹を焼き払っているはずだ。故意ではないが、竹林で戦っているのだから竹を巻き込むことは免れない。故に私は既に竹妖怪と面識があっても可笑しくない、いや、面識が無いと可笑しいのである。

 

「わざと切ってやれば怒って出てくるはずだ」

 

 竹は焼き切れて倒れた。その瞬間、背後から何かが飛んできた。

 

「おっと! ……お出ましか?」

「──チクチクチク。お竹(おまえ)、死ぬ覚悟はできているタケ!?」

 

 はは! こいつは面白い。祐哉の言う通り口調のクセが強いな。

 

「私は霧雨魔理沙。普通の魔法使いだ。そして、お前を退治しに来たぜ」

「魔法使いが妖怪退治をするタケ?」

「巫女しか退治しちゃいけないなんてルールはないだろ?」

「返り討ちにしてやるタケ。さあ、恐れ慄くがいい!」

 

 竹が髪を靡かせると、無数の棒が飛んできた。さっきの棒と同じ。これは竹棒だったようだ。あんな速さで飛んでくる竹に当たったら致命傷だな。

 

「行くぜ、魔符『スターダストレヴァリエ』!!」

 

 私の弾幕の多くは大気中の星成分の量に依存する。星成分を使うということは、その分自身の魔力消費を抑えることができる。それによって、人間離れした弾幕密度を作れるのだ。

 

 ──今日は星成分が豊富。絶好調の私が負けるはずないのさ!

 

 スターダストレヴァリエを打ち終わる頃には竹妖怪の姿が無くなっていた。

 

「逃げたのか?」

「いいや、倒したんだよ」

「お?」

 

 私の様子を見ていたのか、妹紅が話しかけてきた。

 

「思ったより強くないんだな」

「……逆に、そんな奴にも勝てないんだよ、彼奴はさ」

「祐哉の霊力問題。これが課題かね。まあいいや、またあいつが来たら付き合ってあげてくれよ。私の友人なんだ」

「いいよ、暇だからね」

 




ありがとうございました。

いい加減祐哉が可哀想に思えてきます。

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