東方霊想録   作:祐霊

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#1「博麗霊夢との出会い」

 悪夢の箒に乗った二人が移動し始めたとき、とある神社では巫女とメイドが話していた。

 

「あんたが来るなんて珍しいわね、咲夜」

「ええ、買い物ついでにお嬢様の予言を伝えに来たわ」 

「予言?」

「単刀直入に伝えましょう。──『近いうちに外来人が神社を訪ねる。博麗の巫女(霊夢)の対応次第で幻想郷の運命は大きく変わるだろう』」

「ふーん」

 

 メイド服を着ている銀髪の少女、十六夜咲夜(いざよいさくや)は己が主による予言を伝える。それを受けたもう一人の少女、博麗霊夢(はくれいれいむ)はつまらなそうにお茶を啜る。霊夢は巫女業と“妖怪退治”、“異変解決”を生業としている。

 

「相変わらず興味無さそうね」

「だって、外来人なんでしょう?  元の世界に戻して終わりじゃない」

「へぇ、意味深な部分は無視するのね。……予言はもうひとつ。その外来人は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()そうよ? そんな人を追い返しちゃっていいのかしら」

「何それ。そいつのせいで危機にさらされて、そいつが解決するってこと?  迷惑でしかないわ」

「詳しいことは私もわからないわ。私は伝えに来ただけ。──あら、()()()()()()()()()ね。私はこれで失礼するわ」

 

 咲夜はそう言って姿を消した。文字通り一瞬で消えたのにも関わらず、霊夢は全く動じずにお茶を啜る。しばらく何かを考えた後、溜息をついて立ち上がった。

 

 

 ───────────────

 

「うぅ……」

 

 意識が戻ってきた。なんだか、酷い夢を見た気がする。どんな夢だったかな。……ああ、魔理沙のコスプレイヤーに悪ノリしたら酷い目に遭わされたんだっけ。

 

「あー、夢でよかった」

「お、目が覚めたか。よかった」

 

 ──なん……だと……? 

 

「大丈夫か? どこか痛かったり、気分が悪かったりしないか?」

 

 コスプレイヤーは心配そうな表情で見てくる。

 

「夢じゃ、ないのか? いやまて、これも夢なんだ。そうだ、そうに決まっている。フフ……」

「異常ありだな。待てよ? さてはコイツ、元から異常者なんじゃないか? 思えば寿限無をブツブツ呟いてた人間だ。そうか、なるほど……」

「おいコラ、誰が異常者だ。着地直前まで加速するヤツには言われたくないからな?」

「おっと、調子を取り戻したようだな」

 

 ──ったく、失礼なやつだな。

 

 そんな不満を抱きつつ、起き上がって周りを見渡すと大きな鳥居や石畳に加え、木造建築がいくつか見られた。

 

 ──ここは神社か。博麗神社っていう設定かな。 

 

 金髪の魔法使い──魔理沙が連れていきそうな場所といえばここくらいだ。東方の世界──幻想郷──にある神社は二つしか知らないし、消去法でこの結論に至る。

 

 博麗神社は幻想郷の東の端にある神社で、博麗の巫女と呼ばれる少女が住んでいる神社。ここからは幻想郷が一望できる。

 

 俺は神社を散策することにする。境内は綺麗に掃除されており、本殿には古びた賽銭箱が設置されている。

 

 賽銭箱に近づいて中を覗き込むが、中には何も入っていなかった。

 

 ──ちょっとした聖地巡りだな。折角だからお賽銭を入れておこう。

 

 五円玉を投げ入れて二礼二拍手一礼。その後手を合わせてお祈りをして一礼。

 

 なんとなく後ろに気配を感じる。魔理沙だろうか?  そう思いつつ振り向くと、紅白の巫女服を着た少女が立っていた。全く予想していない人の登場で思わず声を出してしまう。ビックリしたなぁもう。──ってちょちょっ!? 

 

「へぇ、外来人の割に作法ができているのね。あとは手水舎で清めることくらいかしら」

 

 あ、忘れてた。そもそも俺は空から直接降りてきたので鳥居を潜っていない。色々と無礼なことをしてしまった。いや、じゃなくて。俺は今かなり感動している! 

 

「えっ、れ、れ、れい……ええ!?」

「な、何よ。人の顔見るなり変な声あげて……」

 

 あ、つらっ、上手く話せない……。思考は平常運転だが身体は緊張しているらしい。俺の目がイカれてない限り、今目の前にいる少女は博麗霊夢だ。原作の主人公であり、俺の推しキャラである。この子もコスプレイヤーか。クオリティ高いな。可愛すぎる。写真撮らせてほしいな……。

 

「まあいいわ。アンタが外来人でいいのよね?」

 

 そういう(てい)だったね。それにしても、初対面で“アンタ”とは“アンタ”一体……。

 

「面倒だから一度しか言わない。よく聞きなさい。()()はアンタがいた世界じゃない。そっちから見れば異世界よ」

 

 ──おー、それっぽいな。ここは俺も乗っとくか。

 

「ここは幻想郷。特別な結界によって隔離されているから、本来は外の世界の人がこっちにくることはできない。けど、たまに何かのきっかけで迷い込んでくる人がいるの」

 

 幻想郷(この世界)は妖怪や神、妖精と言った()()()()()において“幻想”として扱われている存在の為に作られた楽園だ。

 

「答えは聞くまでもないけど、お賽銭のお礼に選ばせてあげる。今すぐに元いた世界に戻るか、一生幻想郷(ここ)で生きていくか。十秒で決めて」

「残ります」

 

 俺が即答すると霊夢は驚いたように目を見開く。無理もない。普通なら現状が分からずにパニックに陥るはずだ。だが、俺は幻想郷を知っているし、実は前から幻想入りしたいと願っていた。

 

 ──これはコスプレイヤー達による茶番だろうけど、あまりにも真に迫っているから本気になってしまった。

 

「私が言うのもアレだけどもう少し考えたらどうなの? 幻想入りしてから一日経ったらもう帰れないのよ」

 

 それは初耳だ。この人達の独自設定なのかもしれない。まあ、何度問われても答えは変わらない。そう伝えようとすると突然後ろから声がする。

 

「どのみちもう帰れませんわ。幻想郷に来た際に特別な力が備わったようですから……」

「──っ!?」

 

 振り向くとジッパーのように開かれた空間の裂け目から上半身だけ覗かせている女性がいた。初見だが、この人も()()()()()。「八雲紫(やくもゆかり)」という非常に強力な妖怪だ。

 

「紫……それは()()に関係しているの? どうせ聞いてるんでしょう?」

「そう、()()よ」

 

 こそあど言葉が多過ぎて何言っているのかわからない。何でこの二人は意思疎通できてるの? あれですか、熟年夫婦ですか。そうですかそうですか楽しそうですね。

 

「ふーん、それでコイツはどうするのよ」

「霊夢。貴女が面倒を見なさい」

「はあ!? なんで私が? 幻想郷に残る外来人は人里送りでしょうが!」

「この子は特別よ。貴女ならこの意味が分かるでしょう?」

 

 何やら意味深な言い方をする紫。その一言で何かを察した様子の霊夢は溜息をつく。成程、やっぱり熟年夫婦ごっこか。いや楽しそうでなにより。でもできれば僕も話に入れて欲しいな〜。

 

「急にごめんなさい。()()()()()()()()()()私は八雲紫という者よ。宜しくね?」

「は、はあ……。俺は神谷祐哉と言います。宜しくお願いします」

「ところで、貴方はかなり落ち着いているのね。……思った通りだわ」

 

 ──そうでもないと思うけどな

 

 なんだか、(ゆかり)と話していると変な気分になる。何となくだけど、意味深な発言をするだけして核心となる部分を隠しているような気がする。「知っていると思うけど」なんて特に不気味だ。何故俺が紫を知っていることがわかる? 

 

「さて、ようこそ幻想郷へ。ここは全てを受け入れるわ。この世界のことは、そこの巫女に聞いてね」

 

 そう言うと紫はスキマの中に消えていった。ふーむ、面白いな。これが境界を操る能力か。どこぞの超能力みたいに複雑な計算式の下、能力を行使しているのかそれとも──

 

「そうそう、もし今の状況を夢だと思っているのなら魔理沙と遊ぶといいわ」

「うおっ!?」

 

 紫がいた場所を睨みつつ考察していると再びスキマが展開された。紫は尻餅を付いた俺に一言残していくとそのまま去っていった。さっきから驚いてばかりだな俺。疲れてきた。

 

 ──待てよ? 

 

 今の紫の言葉で気づいたけど、これはコスプレイヤーの茶番なんかじゃない。さっき俺は間違いなく空を飛んだじゃないか。なら、これは99%夢だ。あまりにもリアルなので夢とは思えないが……。

 

「私と遊ぶ? よしわかった! 弾幕ごっこしようぜ!」

「え? ちょ、ちょっと待っ──うわっ!?」

 

 魔理沙は箒に跨って少し離れた後、自身の背後に魔法陣を展開して弾を放ってきた。原作で見慣れた蛍光色の弾。大きさは十センチ程に見える。弾幕は広範囲に広がっていくので、俺に向かってくるものもあればそうでない弾もある。これが“弾幕ごっこ”の特徴だ。「ごっこ」と言っているが、まともに被弾すれば怪我をするし、当たりどころが悪ければ死ぬだろうから油断はできない。

 

 因みに、弾幕ごっこというのはこの幻想郷で行われる決闘法のことで、先に相手を被弾させた方が勝ちになる。これはスペルカードルールというものに則っているのだが、今はその説明は省こう。

 

 幸い弾速は非常に遅く、順調に回避できている。流石に手加減してくれているようだが、ひとつ問題がある。

 

 ──俺は弾幕なんか撃てないぞ。

 

 つまり、ただ避け続けることしかできない。どう考えても魔理沙よりも俺の体力の方が先に尽きるので、敗北は確定している。

 

 ──いっそ、弾に触れてみようか。どんなものなんだろうか。真正面は不味いから掠るように……。

 

「イテッ! おわっ!? うわあああ!!」

「お、おい! 何やってんだよ」

 

 思っていたより痛かった。そして、掠る程度に触れる為に一つの弾幕に集中してしまったから一気に三回被弾した。超痛い。熱いね。体中がビリビリ痺れてるよ。

 

「悪い。お前が外来人だって事忘れてたぜ……。さっきの弾は当たると痛いんだ」

「ああ、身を持って味わったよ……。でもこれだけ痛いと夢じゃなさそうだな」

 

 慌てて駆け寄ってきた魔理沙の手を借りて立ち上がると、霊夢が呆れ顔をしながら話しかけてくる。

 

「気が済んだなら中に入りなさい」

「え?」

「仕方ないからうちで面倒見てあげる。但し、色々扱き使わせてもらうわよ」

 

 ──どうやら俺は、博麗神社でお世話になることになったらしい。

 




ありがとうございました。

祐哉が博麗神社で居候……基お世話になることになりました。しばらくの間は放浪録と同じ展開ではありますが、地の文や台詞にはかなり拘っているので、違いを楽しんでいただけると嬉しいです。

それではまた( *ˊᵕˋ)ノ

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