俺の能力──物体を創造する程度の能力はその名の通り、主に物体を創造することができる。創造とは神様の力。0から1を生み出す力だ。なんでこんな力を俺が持ってるのかは知らん。ただ、この力について教えてくれた人は何か意味深なことを言っていた。曰く、『
創造の能力はただの物作り能力ではない。創造した物にちょっとした力を付け加えることができる。反射鏡は、鏡に『マスタースパークを反射できるような力』を付けたもの。俺が念じただけで付与できてしまうのだからとても不思議だ。
因みにスターバーストは「レーザーを放てる魔法陣」を創造している。だから霊力の少ない俺でも気軽に放てるのだ。
使い魔の作り方だが、この力を利用しようと思う。何かしらの物体に使い魔としての力を与える。渾身の霊力を込めるつもりだから、恐らく成功するだろう。
「問題は使い魔の見た目なんだよ」
「魔法陣でいいじゃん。よく見かけるし」
「いや、この力を使うなら珍しい物がいいんだよね」
何か良いものないかなぁ。
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「難しいな……」
私は御札を投げる練習をしている。霊夢のように真っ直ぐ飛んでいかない。どうしてこんなヒラヒラした物を飛ばせるんだろう。
「よう、苦戦してるじゃないか。一瞬で空を飛べたのにな」
「これ難しいんだよ? 霊夢に聞いてもよく分からないし……」
「ああ、あいつは説明が下手だからな。仕方ないさ」
「魔理沙? 聞こえてるからね!?」
「いや、事実だろ」
因みに霊夢は「こんなもん簡単よ。飛ばしたいと思った方に適当に投げるだけ。多少ズレても勝手に当たるわ」と言う。そんな訳が無いのだ。
私の場合、1メートル飛ばすのも難しい。
「あの、神谷さん。御札の飛ばし方分かりますか?」
「分かりません。妹紅もやってたけど不思議だよね」
あの人も御札を投げるんだ?
「神谷さんはどうやって弾幕を飛ばしてるんですか」
「俺はちょっと特殊だよ。創造したら飛ばしたい方向に発射するんだ。勝手に真っ直ぐ飛んでいくよ」
うーん、なんだか霊夢と同じ匂いがする。無茶苦茶だ。
「そうだな……御札を重ねる、厚紙にする、風に乗せる超能力に目覚める。この辺りが現実的じゃないか」
「なる……ほど?」
「あとは、霊力を込めるとか」
「おお!」
その手があった。超能力は無理だけど、不思議な力を持った『霊力』を使えば解決できるかもしれない。
早速御札を指で挟み、霊力を送り込むように強く念じる。そして御札に霊力が溜まったところで投げてみる。
「やった! 50メートルくらい飛びましたよ!」
「50……? いや、おめでとう!」
御札はきちんと真っ直ぐかつ十分な距離飛んだ。後はこの方法で練習するだけだ。
「じゃあ次は広範囲に沢山飛ばせるようになって。お手本としてはこんな感じ」
霊夢がお手本を見せてくれる。札の配置に規則性がないので恐らく適当に投げるだけでいいのだろう。特定のパターンで飛ばすより、ランダムな方が避けるのが難しくなるのかも。
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寒い冬空の下、俺は屋根の上に寝転がり、煌めく塵を眺める。今日は新月だ。
──あれはオリオン座、そしてふたご座、カシオペア座
ううむ。俺の知識ではこの程度しか分からない。今度パチュリーにお願いして星座早見盤を借りようか。
天体観測は良い。排気ガスと無縁のこの世界では空が星で埋め尽くされている。それはまるで大小様々なビーズを空に零した様だ。
星といえば星座、星座といえば神話が思い浮かぶ。有名なのはギリシア神話だろう。ガイアだのヘラだの、女神というのは大抵怒ると怒りの対象を星座にするのだ。まあ、勿論偉業を成し遂げて星座にされた者もいたと思うが。
初めてギリシア神話を知ったのは、小学校の高学年頃だ。きっかけは星に興味を持ったこと。星座について知りたいと、親に話したら本を与えてくれた。俺は夢中になって読んだ。中には先の『怒りからの星座化』という現代人の発想ではまず思いつかないような展開もあり、驚くこともあった。
それは置いておくとして、ギリシア神話に惹き込まれた一番の要因は、神々がまるで人間の様に生き生きとしていることだと思う。神の恋愛と聞くと上品に思いがちだが、意外と本能的な行動が目立ったりする。不倫は勿論、寝取りもある。マスコミの概念があったら雑誌に取り上げることだろう。
対して、軍神や戦いの女神達の活躍には心を躍らされる。他の英雄はオリュンポス十二神の力を借りて、魔物の討伐に行くこともある。戦う彼らもやはり生き生きとしている。
──ギリシア神話の神に会えたらいいな
ここは幻想郷。忘れられた物──外で生きていけなくなった魑魅魍魎や神の住まう世界。ここならばツチノコのような空想の生き物にも会えるのだ。
日本の神は信仰を失った物が多い。だが、ギリシア神話の神々はそうではない。彼らの存在が忘れられる事はないだろう。つまり、会えないのだ。嗚呼、せめて夢の中だけでも──
「寒いな。そろそろ寝よ」
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『という訳でこんばんは』
「ん……?」
真っ白な空間に、女声だけが響いた。
『聞こえますか……私の
「これは……」
『良く聞きなさい。今から見せる彫像を利用するのです。そうすれば道は開かれます』
「何を言って──」
『──貴方の努力は見ています。ですが怠ってはいけません。これからも励むように』
そう言い残して、「声」は消えた。
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「ふぁーあ、ねむ……」
私が厠に目を覚ますとは珍しい。冬は寒いからなるべく出歩きたくないが、目が覚めてしまったものは仕方ない。ここで用を足さないとやらかしてしまう。
「ん? 祐哉の奴、なんで障子開けたままなんだ?」
そのままにして寝ていては寒いだろう。或いは起きているのか。どれ、覗きに行ってみよう。
「チラリ。……ってお前、何してるんだ?」
「…………」
祐哉は私に一瞥もくれず、何かを書いている。不思議だ。月明かりを頼りに書いているのかと思いきやそうではないらしい。今日は新月か。
「で、なんでそんな物を灯りにしてるんだ? 火使えばいいのに」
机の上には謎の発光体が浮いていた。創造したのだろうか。
「もう寝なさい。夜更かしは美容の天敵ですよ」
立ち上がった祐哉は、私にそれだけ言い残して障子を閉めた。
「お、おう……」
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スっと目が覚めた。幻想入りして規則正しい生活をするようになってから、目覚めが良くなった。朝に弱く、辛い思いをしていた頃が懐かしい。
「ん? なんじゃこりゃ」
机の上に妙な紙が置いてある。はて、寝る前に置いた覚えはないのだけど。
──何かの絵。これは石像? なんだってそんな……あれ?
思い出した。俺は変な夢を見たんだ。彫像を利用しろだかなんだか……。タイミング的に使い魔のことだろうか。俺の潜在意識が命令したのか?
それにしたってなんで彫像なんだ。俺の好みとは全く合わないぞ? まあ確かに他じゃ見かけないし、それでもいいか。朝食を済ませたら創造しよう。
「──こんなの書いた覚えがないんだけどな」
スケッチの下にはサインが書かれている。『Ἀθηνᾶ』。何語かすらわからないのだから、俺が書いたものではないはず。じゃあ他の誰かが描いて置いた訳だけど……誰が? 俺が夢の中で聞いた声は現実のものだったのかもしれない。声だけが夢の世界に入って来ることは偶にあるし。
珍しく朝から冴えている頭を使いながら居間に向かう。その途中で目を瞑っている魔理沙に会う。
「おはよう、魔理沙。髪ボッサボサだぞ」
「おは……」
「珍しいな。魔理沙がそんなに眠そうにしてるの見たことない」
「ちょっと……眠れなくてな……」
魔理沙はフラフラとした足取りで歩いて行った。
さて、今日の朝食当番は俺。何を作ろうか。米と味噌汁は確定として……お、魚見っけ。焼くか。
せっせと支度をしていると、向こうからバタバタと凄い音が聞こえる。何だと思い振り返ると、魔理沙がこちらに向かって走っていた。
「今度はやけに元気じゃんか。静かにしてくれ」
「悪い。……じゃなくて祐哉、お前昨日の夜何してたんだ? 虚ろな目で何か書いてるかと思ったら、妙な敬語で話してきてビックリしたぞ。気になって寝られなかった」
「へ?」
んー、なんか心当たりがないけどあるぞ? あの紙は俺が書いたものなのか。それに魔理沙と話したって? 全く覚えがない。こっわ、夢遊病かよ。
「覚えてないのか。なんか変だったぜ? 最近頑張ってたし少しは休めよ?」
え、疲れが原因でこんな事したって言うのか? とてもそうは思えないけど。
まあ、きっと何かのお告げなのだろう。ここは幻想郷だし、外の常識に捉われてはいけない。
──取り敢えずあの像で試すことは確定。思ったより簡単に解決できそうだ
って思うじゃん?
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