「神谷さん、上手くいってるかな」
「見てきたら?」
「でも出掛けちゃったし……。あれ、聞いてなかったの?」
「知らないわ。私はずっと炬燵に入っていたもの」
私が部屋に戻ってきたのは神谷さんが出掛けて一人になっちゃったからなんだけど、気づいてなかったんだ。
──暇だなぁ
幻想郷は外の世界と違って、何かに縛られることがない。学校もないし、バイトもない。人間が少ないからか、雇用タイプよりも個人業の方が多いらしい。社畜という単語は無さそうだ。外の世界からブラック企業という物がなくならない限り幻想郷は平和だろう。それって凄く素敵だと思う。
「私も何か仕事探さないと」
「あら、てっきり巫女をやるのだと思っていたけど。まあ、暇なのは変わらないけどね」
「そのつもりだけど……そう、暇なんだよね。……私、外で御札投げる練習してくるね」
私は御札に霊力を込める事で真っ直ぐ飛ばす技術を得た。御札を霊力で覆うことで風に流されない重さを得るというもの。
今からやることは、込める霊力量を必要最低限にする事。私の霊力量は多くないので、無駄をなくす必要がある。
「あれ、思ったより難しいな……」
霊力の加減が判らない。大雑把にしかコントロールできていない証拠だ。まあ、扱えるようになって間もないのだから、当たり前なのかもしれないけれど。
──先に霊力を操れるようにした方がいいかな
霊夢に相談しようと思い、家に向かおうとすると後ろから声がした。参拝客だろうか。
『
「あれって……」
あの像は神谷さんが創造していたもの。どうしてここに──ん? 気のせいかな。今喋ってたような……
『アブソーブフェーズ移行まで5秒。4、3、2──』
何となく不気味なので距離を取る。
『──ターゲット喪失。捕縛を優先します。弾幕制御機能、起動。模倣『スターバースト』──陣を展開します』
「
目の前に赤い魔法陣が現れた。スターバーストって確か神谷さんのスペルカードだったはず。つまり、眼前の魔法陣から放たれる攻撃はレーザービームだ。スターバーストの破壊力はこの数日で何度も目にしてきたから良く知っている。恐らく彼の最強スペルカードだ。
──逃げなきゃ
脳が命令を下した頃には既に魔法陣から火花が散り始めていた。ゆっくりと光が集まっていくにつれて、高い熱を発する。それに対して私は動くことができない。
幻想郷に来て何度目だろうか、こうやって死を悟るのは。恐怖で足が竦んで、逃げられないでいる。こういう時助けてくれたのはいつも神谷さんだった。
だから、私はまた願っていた。
『スターバースト、発射』
無感情な機械音声による
「助けて……」
「──
スターバーストの轟音と熱が迫って来るのが判る。そして、彼がまた
「本当に……助けてくれた……」
「今度こそ、守れたかな」
彼は少し複雑そうな表情で問いかけてきた。何故浮かない顔をしているのかは分からない。彼の問いに対して私が頷くと、今度は嬉しそうに笑った。
『スターバーストの反射を確認。別方向から再度放ちます』
攻撃をやめたように見えたが、今度は私達の真上に魔法陣が現れた。光の収束は先程よりも早く、逃げる暇がない。
「大丈夫。俺に任せて」
神谷さんに抱き寄せられたかと思うと何かが耳を覆った。彼の行動の意図を理解する前に二撃目が放たれた。衝撃が地面を大きく揺らし、全身に伝わってくる。やがて攻撃が止むと、軽い耳鳴りがする。神谷さんが耳を塞いでくれなかったら鼓膜が破れていたかもしれない。
「怖かった……。流石にゼロ距離で食らうと反射鏡がもたないと思ったけど、関係ないか」
「神谷さん、一体何がどうなっているんですか」
「えっとですね、アイツの中身を弄って成長速度を上げたら暴走しちゃいました。そして、動力源を得るために弱い者から霊力を奪い取ろうとしていますね」
「……つまり?」
「──霊夢を連れてきて」
よく分からないけど何か不味いってことは分かった。
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「これ以上被害が出る前に破壊しないと……」
大変な物を作ってしまった。それを処理するのは作者の責任。霊夢の手を煩わせたくなかったが、博麗神社で暴れている以上気づかれてしまう。というか、境内で二回もスターバーストを放たれた時点でとっくに気づいているだろう。呼びに行かなくても来るはず。あの子をここから遠ざけることができれば充分だ。
「まあ、此方としては俺の力だけで解決したい訳ですよ。ってことで、今すぐ壊れてくれない?」
『敵対心を感知。排除します』
コミュニケーション能力は皆無なのか。「壊れてくれ」と言われたら答えは
「ここじゃ境内を壊してしまう。場所を変えようぜ、古代兵器君」
彫像に近づきながら長い棒を創造する。地面から腰くらいまでの長さのソレは重心を端に寄せている。これをハンマー投げの要領で振り回しながら彫像に当てる。斜め下からの叩き上げ攻撃により、簡単に打ち上げることができた。
『──強い衝撃を確認。躯体損傷率40%、戦闘続行可能』
「そんな無駄口叩く余裕があるのか?」
分析している隙に次の攻撃準備を整える。空を飛んで彫像の上を取った俺は、棒を振りかざす。遠心力を活かした攻撃は容易く彫像を砕くだろう。
「ストライク!」
『──リザレクション』
「この調子でどんどん壊すぞ」
「──
「いや、お前はここで破壊し尽くす。──星符」
「祐哉! 大丈夫?」
スターバーストで攻撃しようとすると霊夢に声をかけられる。
「話は霊華から聞いたわ。詳しいことは知らないけどアレを止めればいいのね?」
「いや、破壊していいよ」
「そう。じゃあ遠慮なく」
霊夢は数枚の御札を彫像の
「──夢符『封魔陣』」
彫像は青白い光の柱に呑まれた。彫像は所々砕かれており、身動きが取れなくなっている。
「終わりね」
「あと一回復活するよ。次は俺がやる」
「復活? 貴方一体何を作ったの?」
「んー、失敗作?」
霊夢と話しつつ、魔法陣を創造する。次の攻撃であの彫像の暴走を止めることができる。
『──
「終わりだ。星符『スターバースト』」
最早説明不要のレーザーが彫像を包み、この騒動に終止符を打った。
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『高い湿度を検知。現在位置の特定開始──失敗』
無感情な音声が響いた。
先刻の戦いで、彫像は敗れたように思われた。だが実際は異なる。神谷祐哉のスペルカード、『スターバースト』が自身に被弾する前に
『──探索を開始します』
女神を象った大理石は暗い森の奥へ消えていった。
ありがとうございました。
そろそろスターバースト過多で捕まりそうです\(^o^)/
彫像のモデルはサモトラケのニケです。ググれば一発。多くの人が見覚えのあるものだと思います。