東方霊想録   作:祐霊

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1章 EXTRA 〜蓬莱の人の形〜
#24『能力研究レポート』


「──ということで、今度こそ彫像は崩壊しました」

「分かったわ。お疲れ様」

「今回の反省を活かして使い魔の完成を目指します」

 

 魔理沙が神社を尋ねてきた日、彫像は崩壊した。報告を受けたのは翌日の朝のこと。魔理沙は暫くの間魔法の研究に専念すると言って去った。

 

「実は新案は既にできているんです。今日も付き合っていただけませんか? 貴方達の知恵を貸してください。対価は俺にできることならなんでも!」

 

 金はあまり持っていないので、対価となりそうなのは労働力だ。

 

「対価、ねぇ。それなら二ついいかしら」

「はい」

「では1つ目。貴方の能力を使ってワインを作って貰えるかしら?」

 

 レミリアは俺に期待の眼差しを向ける。しかしワインか。

 

「申し訳ないのですが、飲食物の創造はできません。でもどうして俺に? 確か咲夜さんの能力を使えば作れたような……」

 

 実際には咲夜の『時間を操る程度の能力』を用いて、お酒の時間を加速させる。高級ワインは20年以上寝かせると言うが、この力を使えば短い時間で高級ワインを作れるのだ。実質的な年代物も作れると思う。

 

「ふむ。ワインを作ることはできないのね。分かったわ。ではもう一つ。貴方に教えて欲しいことがあるのよ」

「なんでしょうか」

「貴方の()()について」

 

 そっと息を吐くように呟くレミリア。静かに、だがしっかりと通る声で。

 

 俺の秘密とは何だ?  一体()()のことを言っているのか。俺が外来人だということは最初に伝えてあるし、今着ている制服からも分かる事だ。

 

 ──まさか、レミリアは気づいているのか? 

 

「えっと、実は俺は霊夢が好きなんですよ。……異性としてではなく推し的な意味ですけどね」

「あら、そうだったの? それで神社に居るのね」

「そういう訳では無いのですが、まあ幸せですよ」

 

 よし。俺の秘密を自ら暴露することで話を逸らすことができた。レミリアもパチュリーも驚いている。これは勝った。

 

「私が聞きたいのはその事じゃないわ。貴方、やけに物知りよね。──咲夜」

「お待たせしました」

 

 レミリアがベルを鳴らした数秒後、突然咲夜が現れた。

 

「咲夜、貴方は祐哉とお酒の話をしたのかしら? 」

「お酒、ですか? いえ、していませんけど……」

 

 咲夜の答えを聞いたレミリアはニヤリと笑う。

 

「貴方はどうして、咲夜がお酒を作れると知っているの?」

「…………」

 

 どうやら、全てを話す時が来たようだ。あまり話したくないのだがやり過ごすことはできないだろう。

 

「わかりました。信じてもらえるかわかりませんが、俺が今まで隠していたことを話します」

 

 外の世界には幻想郷の情報がある。そう言うとその場にいた全員が驚いていた。それもそのはず。幻想郷とは外の世界から切り離された世界。両方の世界を知っているのは八雲紫か神隠し()の外来人。それと()()()()()()()くらいだ。普通に考えてこの世界に来る前から知っている者などいるはずがない。

 

 それにも関わらず、外の世界に情報があるだと? 一体誰が情報を流したのか? 

 

 このように考えた時、俺の推測では最も有名な八雲紫が一番に疑われる。そして次にこのように考える。

 

「紫は何を考えているのかしらね」

 

 思った通りだ。八雲紫は周りから胡散臭いと言われるような妖怪。彼女のすることを完全に理解できるものはいないはず。であるならば、考えても無駄だという結論に行きつく。

 

 真相は若干異なるが、これで俺が幻想郷を知っていてもおかしくないということになった。

 

「なるほどね。貴方は外の世界で咲夜の能力を知ったと……。どう思う? 咲夜」

「隠している訳ではありませんし、別に構いません。ですが、何故八雲紫はそのような事をしたのでしょうか」

「それは考えても仕方ないわよ」

「信じていただけますか?」

「いいわ。後で色々聞かせてね」

 

 取り敢えず助かった。嘘をついたようで申し訳ない気持ちになるが、俺が言ったことは真実だ。外の世界の創作物のキャラクターだと説明する事は避けなければならなかった。

 

 だって、「お前は誰かが作った物語の登場人物だ」と言われて気分が良くなる者はいないだろう。俺が言われたらかなり不快になる。誰かの掌の上で人生ゲームをやらされているってことだからな。

 

 ───────────────

 

「──創造」

 

 新しい使い魔に付与した能力は『絶対服従』と『人工知能』、『浮遊機能』だ。

 

 この前の最大の失敗は『絶対服従』を付与できなかったことだ。言うことを聞かないばかりか、崩壊後のバックアップができない。この前の彫像に付与できていたら、崩壊した後でも全く同じ物を創造できたのだ。

 

『人工知能』は『高速学習機能』の劣化版なのだが、特に急いでいないのでこれで十分だ。

 

「あれ? その三つでは弾を撃てないじゃないの」

「後回しです。使い魔を完成させるには時間をかけないといけないんですよ」

 

 創造した物に付与できる力は三つまで。だが、先日暴走した彫像は俺が知っているだけでも『高速学習機能』『浮遊機能』『弾幕制御機能』『解析機能』『吸収機能』『完全修復機能』の六つの機能を持っていた。

 

 俺はこの矛盾点に着目し、研究した。丁度魔理沙がしばらく姿を見せなかった頃のことだ。

 

 俺が纏めてきた研究レポートをレミリアに渡そうとすると、流れるようにパチュリーに奪われてしまう。ずっと黙って読書をしていたが、俺たちの話を聞いていたのだろうか。

 

 ──なんか、緊張するな。誤字とか平気かな? 

 

 ───────────────

 

【レポートに書いた内容】

 

 1.ファイル機能について

 パソコンのファイルを思い浮かべて欲しい。ファイルの中には沢山のデータを入れることができ、多くの場合種類別に分けて使われる。

 

 このファイルの役目を持ったものが『高速学習機能』である。三つのスロットのうち一つをファイルに費やすことで、残り二つのスロットにある機能を出し入れできるのだ。

 

 これの何が嬉しいのかと言うと、四つ以上の機能を同時に使いたい時に厳選する必要がなくなることだ。四つの機能を同時に使いたいなら、二つ以上の機能をファイルにしまっておけばいいということ。(図1)

 

 ───────────────

 

(図1)

 

 三つのスロット

 ・一つ目の機能

 ・二つ目の機能

 ・三つ目の機能

 

 ↓

 

 一つをファイルにする事でより多くの機能を使える。

 ・一つ目の機能

 ・二つ目の機能

 ・ファイル→三つ目の機能 四つ目の機能

 

 ───────────────

 

 ここまで理解すると、「ファイルを使えば無限個の機能を使えるのではないか」と言う期待が生まれる。残念ながら世の中はそう甘くない。

 

 実験してみたところ、ファイルが収納できる容量には限界があった。しかしそうは言っても使い魔として扱うのに必要な機能を揃えることは可能だろう。一つのファイルに収納できた限界数は五個だった。この容量が個数なのか、データにおけるビット数なのか非常に気になる点である。この点は検証が必要だ。

 

 ───────────────

 

 2.機能の学習について

 まず、人工知能という表現は正確ではないことに注意したい。しかし途中から呼び方を変えると混乱を招くため、今回は変わらず人工知能と表記する。

 

 人工知能と言えない理由は、人工知能の学習の手法が確認できなかったからだ。ニューラルネットワークは勿論、パーセプトロンを用いている様子はないのだ。余りにも成長が早すぎる。少なくとも私の浅い知識と、幻想郷で確認できる文献が通用する領域ではないと分かった。或いは外の世界──21世紀の技術を超えているかもしれない。

 

 さて、今回の彫像の学習の流れを纏める。

 実験では、二つスロットに機能を付与し、残りのスロットには一つの機能が格納されたファイルを用意した。(図2)

 

 ───────────────

 

(図2)

 

 ・機能1

 ・機能2

 ・人工知能ファイル→機能3

 

 ───────────────

 

 実験方法

 様々な機能を持たせた彫像を六体用意し、全ての機能を三時間連続で使用させる。(図3)

 

 ───────────────

 

(図3)

 

 結果

 機能1:成長を確認

 機能2:成長を確認

 機能3:未成長

 

 ───────────────

 

 機能毎に成長度は異なるが、六体全てが同じ結果であった。以上のことから、ファイルの中に格納された機能は成長しないことがわかった。

 

 

 

 

 パチュリーは読み終わったレポートをレミリアに渡す。

 

「パソコンって何」

「あ、すみません。……パソコンは式神のようなものですね。命令すれば計算をしてくれるものです」

「へえ。……良く調べたわね。貴方の能力は研究しがいがあるわ。確かにまともな使い魔を一から作るには時間がかかりそうね」

「はい。伝わったようで嬉しいです」

 

 レミリアはレポートを読んで唸っている。

 

「ところで、能力を解除したら学習した内容はどうなるの?」

「俺と繋がっていれば次回創造した時にも引き継がれます。その役目を担っているのは今回付与した『絶対服従』です」

 

 レミリアはテーブルに置かれた魔道書の上にレポートを置いた。失くしそうなので回収する。まぁ、研究内容は全部頭に入っているけどね。

 

「レミィはわかったの?」

「も、もちろん」

 

 ──あれれ、レミリアには伝わってなさそうだ。堅苦しく書きすぎたかな

 

 ───────────────

 

「あの不老不死に勝てそう?」

 

 本を読んでいるとパチュリーに話しかけられた。珍しいな。

 

「まだ無理かと。使い魔が完成したところで倒せない気がします。これは飽くまでも、弾幕ごっこで満足に戦えるようにするものですから」

「ふむ」

「でも望みはあります。あの人の武器は妖術と体術。炎を出したり、御札を投げつけてくる。これだけ分かっていれば対策は取れます」

「貴方が読んでいる本は五行……。そういうことね」

 

 あの彫像が暴走した後に取り組んだ事は研究だけではない。それは最低限の準備。竹林で出会った不老不死──藤原妹紅に勝つための秘策を練っていた。当面の間は彫像の育成と『新スペルカード』の完成を目指すことにする。

 

「いいわ。精霊魔法とは都合が違うかもしれないけれど、手伝ってあげる」

「本当ですか!? ありがとうございます。凄く助かります!」

 

 これはとても嬉しい。魔法使いであるパチュリーの知恵を借りたら凄いスペルカードが作れそうだ。




ありがとうございました。良かったら感想を一言ください。生きる糧になります。

次回の投稿は明日を予定しています。お楽しみに!
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