東方霊想録   作:祐霊

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#27「AqoursBullet!!」

 カツ丼を食べた後すぐに神社に戻った。今日は妹紅とは戦わない。彼女にも昨日伝えた。日も沈まぬうちに帰ったのは明日に備えて早めに寝るためではない。霊夢に最終調整の相手をお願いするためだ。

 

 二人とも境内に立っている。霊華の修行かな。丁度いい。

 

「やあ霊夢。突然だけど良かったら俺と付き合ってくれない?」

「えっ!? そ、そんな急に……」

「え、どうしたの?」

 

 見ているこちらが驚く程ビクッと跳ねた霊夢は俺の背後にいる使い魔を見て溜息をつく。

 

「──ああ、そういう事。嫌だ」

「そんな……お願いします。俺には霊夢しかいないんです!」

「どーしてそんな誤解を招くような言い方しかできないのよ!?」

「何の話!?」

 

 何故か不機嫌な霊夢とそれを見て困惑する俺。何処か話が噛み合っていない気がする。俺はただ霊夢と弾幕ごっこをしたいだけなのに。

 

 どうしたらいいのか頭を悩ませていると隣で笑っている霊華が口を開く。

 

「神谷さんの言い方が紛らわしいんですよ。多分霊夢は告白されたんだと勘違いし──」

「──してないわよ!」

「あー、えっと……。ごめん霊夢。最終調整に付き合って欲しいんだ」

「だから嫌だってば。霊華に頼みなさいよ」

 

 んー、困ったな。完全に機嫌を損ねてしまった。言われてみると確かに紛らわしい言い方をした気がする。しかしあの反応気になるな。もし本当に告白したらどうするのか。まあやらないけども。

 

「因みに、今の霊華は二週間前の貴方より強いわよ?」

「んな馬鹿な!? 成長スピードおかしくない?」

「祐哉と違って飲み込みが早いのよ」

「ちょっと霊夢。流石に大袈裟だよ……」

 

 霊夢の発言に焦る霊華。まあ二週間前の俺は言うほど強くなかったというか、ろくに弾幕ごっこができていなかったからな。この子がセンスに恵まれているなら有り得るのかもしれない。

 

「それなら博麗さん、お願いしてもいいですか」

「はい、私で良ければ」

 

 境内で向かい合うように立ち、霊華はお祓い棒を構える。

 

 ──こういうのを目の色が変わったって言うのかな。覇気を感じる。

 

 御札を投げるのに苦戦していた頃とは比べ物にならないだろう。加減は要らなそうだ。

 

「後ろの彫像が使い魔ですか?」

「そう。じっくり学習させていたら二週間かかったけど、遂に完成した。世界一優秀な使い魔だよ」

 

 後ろに待機させている使い魔は二体。どちらもサモトラケのニケをモチーフとしたものだ。

 

 俺は暗くなってきた空を見上げる。さっきまで明るかったのにいつの間にか暗くなっている。月も見えてきた。

 

 ──そろそろいいかな

 

『『()()充填完了』』

「よし、始めようか。霊夢、合図を頼む」

 

 石を拾った霊夢は宙に放り投げた。それが地面に触れた瞬間、戦いが始まる。

 

「行きますよ! 霊符『夢想妙珠』!!」

「──! マジか」

 

 開始と同時に夢想妙珠を放ってきた。まさか霊夢と同じスペルカードを使うとは。

 

 色鮮やかな光弾が数個向かってくる。バランスボール程の大きさのそれは追尾性に優れていて、半端に避けても意味が無い。

 

 ──光弾。光……試してみるか

 

「創造──反射鏡!」

 

 5mくらい先に反射鏡を設置し、夢想妙珠を跳ね返す筈が、パリンという軽い音と共に砕け散った。

 

「チッ、そう上手くいかないか」

 

 夢想妙珠は勢いを失わずそのまま襲いかかってくる。

 

「一瞬くらい役に立ってくれ──創造」

 

 特に高速移動もできない俺はこのままでは被弾してしまう。そこで俺は光弾が迫る直前に大きくジャンプして夢想妙珠を踏みつけた。その際の爆風を利用して空高くまで浮かび上がる。

 

「足場にするなんて……反射鏡にそんな使い方があったんですね」

「言っちゃうと反射鏡である必要が無いんだけど、流石に衝撃の吸収くらいはできると思ってね」

 

 反射鏡は夢想妙珠を踏んだ瞬間に利用した。光弾に触れるギリギリの高さに鏡を設置し、壊れる瞬間に踏みつけたのだ。

 

「次はこっちの番だ。行くぜ、使い魔君」

『『──弾幕制御機能、起動』』

 

 二体の使い魔はそれぞれ弾を放ち始めた。

 

 後ろにいた彫像は俺の左右に移動し、ばら撒き弾を放つ。彫像が放つ弾は刀や針ではなく単なる光弾である。

 

 それに対し霊華はお札を撒きながら弾を避けていく。なるほど、確かに二週間前の俺よりも強い。俺は避けながらも攻めることができなかった。それを解決するために使い魔を作ったのだが、彼女はそれがなくても十分戦えている。

 

 ──俺にセンスがないだけなのか、あの子が優秀なのか……

 

 この前まではお札一枚投げるだけで苦戦していたのに今ではこちらに十分な圧力をかけられるまでに成長している。

 

「行くよ、俺の秘策を攻略できるかな? ──水星『アクアバレット』!!」

 

 ───────────────

 

 水星『アクアバレット』。神谷さんは自信満々に宣言した。どんな攻撃が来ても対応できるよう集中する。

 

「えっ!?」

 

 三体目の使い間が現れたかと思うと、突然空に水球が生まれた。直径10mはありそうな水球が浮かんでいる。どこまでも青く、そして暗く濁った水を前に僅かに恐怖する。

 

 この水球が落ちてくるのだろうか。否、それでは唯の物理攻撃だ。なら一体? 

 

「先に言っておく。これから約2分間、推定523333ℓの水が君を襲う。満杯の風呂が300ℓとして、1744杯分。これを避けるのは相当戦闘慣れしている必要があるけど……どうする? やめておく?」

「……はい」

 

 残念。最近戦えるようになった私がどうにかできる物ではなさそうだ。霊夢が認める程強い人に勝とうとするのだから当たり前か。

 

 ──二週間でこんなに強くなったんだ……凄いな

 

 ───────────────

 

「仕方ないから私が相手になるわ。そのスペルカードがお札相手にどれほど効くか知りたいんでしょう? 結果は見えているけど、面白そうだから協力してあげる」

「本気でいくから、ありったけのお札を投げてほしい」

「わかった。散霊『夢想封印 寂』」

 

 霊夢は霊華とは比べ物にならない量のお札を撒き散らす。あれは『夢想封印 散』の上位互換。それを使ってくれた霊夢に感謝をする。

 

「改めて、水星『アクアバレット』!!」

 

 巨大な水球から雨が降る。一発52ℓの水が一万発。空気抵抗を無視できるため、地面に触れる瞬間の速度は時速180キロだ。

 

 通常の雨と比べて雫の数こそ少ないものの一滴一滴が大きく、当たるととんでもなく痛い。脳天ヒットしたら死んでしまうかもしれない。でも霊夢なら避けられるはず。

 

「思った通り、これじゃ御札は使い物にならないわよ。恐らくあいつの焔もね。これに対抗できる手段は一つ……」

 

 霊夢が何かを話しているがよく聞こえない。五感のうちのひとつが封印されるのはなかなか致命的かもしれない。

 

「使用者である貴方を直接叩く!」

 

 突然目の前に現れた霊夢は手に持った大幣を振り上げる。

 

 ──読み通り! 

 

「やぁ霊夢。()()()()()()

「なかなか良くできた技だったわ。でも私の勝ち」

 

 霊夢は大幣を力強く振り下ろした。俺はそれを、創造した刀で後ろに受け流す。よろけた霊夢は雨に当たるだろう。俺の勝ちだ。

 

「よっし! 上手くいったぞ」

「ええ、確かにね。でも甘いわっ!」

 

 攻撃を流された霊夢は()()()()()()()()()()()、安定感を保ったまま針を投擲してきた。

 

「嘘でしょ」

 

 真後ろで放たれた針を避ける事ができるはずもなく、俺の負けで終わった。やっぱ主人公強いわ。流石幻想郷最強の巫女ですね。可愛いし強い。惚れちゃいます。

 

「油断したなぁ、勝ったと思ったのに」

「途中で気を抜かなければ勝てたかもしれないわね。そこを気をつければ妹紅相手にもいい勝負できると思うわ。頑張ってね」

「うん。ありがとう」

 

 




ありがとうございました

アクアバレットのイメージが伝わっているといいのですが……
水球は直径10メートルなのでめちゃくちゃデカいです。そこから少しずつ雫が降ってきます。

次回はいよいよ本番です! お楽しみに!

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