咲夜が言っていた
──あの様子、まさかアイツが連れてきたとか? もしそうなら自分で面倒見てよ。……それに、「特別な力」って何かしら?
「……次出てきたら今度こそ退治してやる」
私は、そんな爆弾を勝手に用意したクセに私に丸投げしたアイツに対して愚痴をこぼす。とにかく、外来人が風呂に入っている今のうちに状況を整理しないと。
「はい失礼するわね」
「あら紫。会いたかったわ。ちょ〜っと表出なさい?」
「あらあら、物騒ね。……そんなに不満?」
「当たり前でしょ、監視したいならアンタが面倒見てよ!」
私と魔理沙が居間でお茶を飲んでいると、突然紫が現れた。よくもまあノコノコと出てこれたものね! 取り敢えず詳しい事を聞き出して、退治はそれからね。
「残念だけど、私は他にやる事ことがあるのよ。という訳で貴女
蜜柑を食べていた魔理沙は「私もか!?」と驚いている。いいこと思いついた。アイツの世話を魔理沙に任せましょう。うん、それがいいわね。
「外来人が戦闘なんて無理あるわよ」
「あら、さっき言ったでしょ? あの子には特別な力が備わっている。それは幻想郷にとって必要になる物よ」
「その
黙々と蜜柑を食べていた魔理沙が話に入ってきた。
「さあ? 特別な力が何に作用するかはわからないわ。でも貴女達人間の戦力が増えることは確実」
幻想郷では異常な現象が度々起こる。私達はそれを異変と呼んでいる。異変を起こすのは妖怪で、それを解決するのが博麗の巫女である私の仕事。最近は実力を持った人間も異変解決に行くことが増えてきて、魔理沙もそのうちの一人だ。
戦力としては既に十分。仮に私だけで解決できない異変が起きても、戦力となる人は他にもいる。実際、紫のような妖怪と手を組んだこともあるのだから、いくらでも対処できる。正直これ以上の戦力は必要ない。紫もそれを分かっているはずなのに
──まさかね。レミリアが見た
「珍しく考え込んでるじゃない。あ、この蜜柑、甘酸っぱいわね。食べ頃よ」
「誰のせいだと思ってるのよ。──って!
「いいじゃない。これは前に私が送った蜜柑よ? まぁ、悪いけど貴女に拒否権はないわ。彼はこの先必要になる戦力。いいわね?」
紫は蜜柑を完食すると、さっさと帰っていった。ちゃぶ台の上には蜜柑の皮が並べられている。……何となく私に似ている。いつ作ったのかしら? ……あっ!
──特別な力の正体を聞くの忘れた……。
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案内された風呂に浸かり、状況整理のために今日の出来事を振り返る。
──これは本当に夢か? 正直、本当に幻想郷にいるんじゃないかという気持ちになっている。
ジェットコースターのような飛行体験とあの弾幕ごっこ。肌で感じた風の流れやあの痛みを夢で再現するのは不可能と言っていい。
──紫が言っていた
力というのは、十中八九
──そして、今俺は博麗神社にいて、ここでお世話になることになった……っぽい。霊夢はすごく嫌そうにしていたな。申し訳ない……。
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「まずは自己紹介ね。私は博麗霊夢。ここで巫女をやっているわ」
「私は霧雨魔理沙。普通の魔法使いだ。 宜しくな!」
「神谷祐哉です。今日からお世話になります……」
「そう固くならなくていいんだぜ? 私も霊夢も堅苦しいの好きじゃないからな」
おお、魔理沙。君はなんだかんだ優しいんだな。彼女に会わなかったら今頃妖怪に襲われていたかもしれないし、感謝するべきだろう。……できればもっと安全な移動をしたかったけど。
「そういえば、お賽銭入れてくれてありがとうね。お礼に生きていく上で最低限必要な力をつけてあげるわ」
「お礼されるほど入れてないよ?」
そう言うと魔理沙につつかれ、耳元でヒソヒソと話してくる。うおっ、擽ったいぞこれ。
「いや、あのな? この神社の賽銭箱は形だけみたいなものなんだ。だから金額よりも行為に感謝してるってわけだ。霊夢に貸しを作るとは中々やるじゃないか」
「あっ、察し。理解しましたぞ」
さっき俺が賽銭箱の中を覗いた理由。それは
何故なら、人間が住む里からここまで来る間に妖怪に遭遇するからだ。因みに、この世界には何種類かの種族が暮らしているが、人間は最弱である。そういう訳で人間は妖怪に会いたくないのだ。
「コソコソ何話してるの?」
「い、いや。大したことじゃないぜ。な?」
「おう!」
多分、今の会話を聞かれていたら不味いことになっただろう。
「鍛えたら弾幕ごっこできるかな」
「さあ、貴方の力次第ね」
「なあなあ、お前が得たっていう特別な力ってなんなんだ?」
「ああ、それは俺も知りたいんだけど……全く心当たりがない」
「そっか、まあそのうち分かるよな!」
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時は流れ
「へぇ、やるようになったじゃない。貴方にこれを使う日が来るなんてね──霊符『夢想封印』!!」
「こっちも行くぞ! 星符『スターバースト』!!」
飛来する複数の大玉を冷静に避け、自身のスペルカードを使う。『スターバースト』は魔理沙のマスタースパークを真似たスペルであり、即ちそれは極太レーザーである。サイズや火力は本家に大分劣るが、十分実用可能なレベルに達している。
幻想入りしてからの3ヶ月間、俺は霊夢と魔理沙に鍛えてもらった。その結果、少しだけなら弾幕ごっこもできるようになった。霊夢曰く、飛行や弾幕を放つためには潜在的な才能が必要らしいのだが、幸い俺にも才能があったようだ。とはいえ、所謂
「……うん。これならそこらの妖怪ともいい勝負できるんじゃない? 本当はもう少し弾幕量を増やせるといいんだけど」
「ま、その辺は修行を続けていけば解決する話だ! 次は私とやろうぜ! 連戦とはいえ、私は手加減しないからな! お前も本気で来いよ」
「言われなくともそのつもりさ!」
霊夢の合図で勝負が始まる。挨拶程度の弾幕を撃ち合い、やがてスペルカードを披露し合う。お互い順調に避けていくところで彼女は遂に十八番を使用してくる。それに合わせ、俺ももう一度準備をする。
「これで決めるぜ! 恋符『マスタースパーク』!!」
「勝負だ! 星符『スターバースト』!!」
極太レーザー同士の衝突。
「まだまだぁああ!!!」
「くっ……!」
一時は拮抗していたものの、まだまだ本家には勝てず、魔理沙のゴリ押しに負けてしまった。俺は爆風で吹き飛ばされる。空を飛んでいなかったら今頃俺は肉片になっていただろう。
「へへっ! スターバースト、いい感じに仕上がってるな!」
「毎日
魔理沙と握手を交わす。実は、この3ヵ月でここまでのレーザーを出せるようになったのにはちょっとしたカラクリがあるのだが、まあ時が来たら説明しよう。
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「……挨拶回り?」
「ああ、別に無理に行くこともないが気分転換になるんじゃないか? 誰かに腕試しするのもアリだな」
夕食後、二人から「挨拶回りを兼ねて、しばらく幻想郷を旅してきてはどうか」という提案をされた。思えば幻想入りした次の日から修行を始めたので、殆ど外に出歩いていなかった。行ったことがあるのは人里くらいだ。
「折角だしそうしようかな。何人か会いたい人がいるし」
「おっ、誰に会いたいんだ?」
「んー、沢山いるけどそうだな……妖夢とかアリスに会いたい」
そうそう、俺が原作知識を持っている事は既に伝えてある。といっても紫が勝手に話したんだけどね。なんでも、原作知識を持った人間を狙って連れてきたらしい。何故俺だったのかはわからない。ただの偶然かもしれないし、意味があるのかもしれない。
この後、魔理沙がアリスや妖夢と出会ったキッカケを話してくれた。霊夢の話も聞きたかったが、「眠い」と言って部屋に向かってしまったため、今日はお開きとなった。
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「はいこれ、持っていくといいわ」
「ありがとう」
翌朝、早速旅に出ようとすると、霊夢が白紙のスペルカードを数枚くれた。これで旅の途中に新技を作れる。
「ふー、間に合った。悪いな、探し物をしてたら遅くなった。これをやるよ。綺麗だろ?」
霊夢と話していると魔理沙がやってきた。そして、三日月型のペンダントを渡される。それはまるで宝石のようで、サファイアを彷彿とさせる、美しい青色だ。
「こんないいもの貰っちゃっていいの?」
「ああ、どうせ私が持ってても使わないからな。遠慮しないでいいぜ。そいつには魔力を注ぎ込んでおいたから、いつか役に立つはずだ!」
「御守りだね。ありがとう。大切にするよ!」
胸ポケットにスペルカードと御守りをしまう。
「じゃあ、気をつけてな」
「困った事があったら戻ってきなさい」
「うん。行ってきます!」
こうして俺の旅は始まった──!
ありがとうございました!
ここの霊夢は何だかんだ言って面倒見がいいですね。
それではまた〜