「今度はダブルスパークか」
「いいや。アレはとにかく広い範囲を狙う技だ。これは派手さと合理性をマッチさせた物さ」
二つの魔法陣からレーザーが放たれた。左右に流れる光線がゆっくりと迫ってくる。直接狙わずレーザーで挟み撃ちしようとするとは考えたな。地面から真っ直ぐに伸びた長い竹を丸ごと飲み込む程太いレーザー故に、抜け出すには相当長い距離を飛ぶ必要がある。
私は纏っている不死鳥の翼を力強く羽ばたかせる。
──無理だな。迫ってくる光線の壁の方が速い。
私はそっと目を閉じ、熱く滾る血の流れを感じとる。認めよう。お前は強くなった。
「私はお前を認める。だからこそ、一切の手を抜かない! ──『蓬莱人形』!!」
───────────────
実を言うとこの二つのレーザーは最初から動かなければ当たらない。当たる寸前で五秒間留まり、その後
尤も、その間は轟音と振動が間近で襲い続けるわけで、基本無事では済まないだろう。相手が不老不死だから使える様なもので、霊華は勿論、霊夢と魔理沙にも使いたくない。
因みに俺は
限りなく不可能弾幕に近いそれを見て、レーザーの仕組みに勘づく者もいるだろう。そんな人はまず耳を塞ぐ。鼓膜が破れるからだ。襲いかかる音と衝撃波に耐えていればやり過ごせる。もしかしたら「なんだ。デュアルバーストはこけおどしか」と思うかもしれない。
だがそんな訳が無いのだ。デュアルバーストに込めた美しさはレーザーだけではない。
「出番だ。使い魔くん」
俺は使い魔を上空に四体創造する。これら全てが先程の渦状弾幕を放ち、衝突すると極小さな爆発が起こる。
──まあ安心して欲しい。自分から銀河に突っ込まない限り爆発に巻き込まれることは無い。上から降り注ぐ星粒と迫るレーザーに気を配ればちゃんと攻略できる。
そう、攻略できるのだ。尤も、妹紅は無理矢理やり過ごすつもりらしいが。
───────────────
「おお、あいつ本当に竹林を消すつもりか!? 竹林の中に開けた庭ができてしまった」
「まるで芝刈りの後みたいだね」
「うわー、嫌な予感がするわー」
私達は人里近くの上空で観戦している。辺りはすっかり暗くなっているがまだ夕飯時だ。つまり──
「あれ、なんか里の人達が騒いでるよ」
「あー、やっぱり。凄い音だもの。なんて説明したらいいの?」
「素直に言ったらどうだ? 竹林で妖怪が暴れてるって。──どっちも人間だけど」
「破壊しているのって主に神谷さんのレーザーじゃ……」
「よし。退治しに行くか。強くなったあいつと戦ってみたいし!」
やめて欲しい。魔理沙のマスタースパークもうるさいから里から苦情が来るわ。「どこかで妖怪が暴れている。何とかしてくれ」という依頼を受けたのはいいけど犯人は人間でした! ってなるのよ? どうすればいいの?
「妹紅の方も動き出したな。あれは蓬莱人形か。いよいよだな」
祐哉のスペルカードが終わらない限り蓬莱人形の影響は受けないでしょうね。レーザーがボムの役割をしている。恐らく
最初から避けなくていい分祐哉の方が有利かな。三枚目のカードもあるし。
───────────────
──そろそろこの技も限界か。
エネルギーが尽きた彫像は粒子に戻ってしまった。俺はそれを合図にレーザーを止める。俺自身はレーザー二つ分の力を使うだけなのでそこまでの疲労はない。しかしその分使い魔の方が膨大な魔力を消費するため、基本的にスペルカード一枚で朽ちてしまう。
「さて。あの技は見たことがないな。どうしようか」
妹紅は途中からスペルカードを使っていた。今まで使っていた二枚は経験があったから避けられた。当然今までに被弾しまくっているわけだ。見た感じ初見で避けられる弾幕とは思えない。密度も段々濃くなってきた。
ここで無理をして被弾したら今までの努力は水の泡。良い感じに追い詰めていた二枚のカードも次は通用しないかもしれない。
「負ける訳には、いかないんだ。7、8、9体目の使い魔君。準備はできたか?」
『『『星の光──89%……90%……91%……』』』
後9%か。それが溜まりきるまでは使えない。やっぱり予め外に待機させておくべきだったか……
俺の使い魔の仕組みは特殊で、必要なエネルギーを自分で補給できるシステムを開発した。凡そ1分間で溜まりきる高速チャージ機能。ここまで成長させるのに10日も費やした。だがその甲斐あって太陽光、月光、星の光で吸収できるようになった。
──距離を取って時間稼ぎをしたいところだけど360ºから迫ってくるんだからどうしようもない。
残り3%……すぐだ。10秒くらいで溜まる。だが弾はすぐそこまで迫っている。避ける事ができそうにない。
──無理だ。諦めよう
「妹紅さん。俺は必ず貴方に勝ちます。この技で終わりだ! ──水星『アクアバレット』!!」
チャージ中の使い魔を無理矢理起動させ、最後で最高の秘策「アクアバレット」を使う。それと同時に刀を創造し、迫っている弾幕を払う。
三体の使い魔は正三角形を描く様に並び、巨大な水球を生成する。直径10mの球。容量523333ℓの蓄えを使い、一万発の弾を撃つことができる。ここまでできるようにするのに相当苦労した。苦労は必ず報われる。報わせてみせる!
「降り注げ!!」
水球から漏れる水は豪雨のように地面を叩く。それはボムの役割を果たし、向かってくる弾幕を撃ち落としていく。
───────────────
「チッ、タイミングを誤ったか」
蓬莱人形は決め手にならなかった。ボムとして使ったのは失敗だったな。
──このスペルカードあまり使わないんだけどな
さて、彼奴も三枚目を切ってきた。この勝負にも終わりが近い。三枚目を上手くやり過ごすことができればほぼ私の勝ちだ。
「しかし随分と大きいな」
空に浮かぶ水溜から大粒の豪雨が降り注ぐ。弾速はかなり速いがもう
「札が使い物にならないな。やれやれ」
ばら撒いた札の大半が湿気にやられて飛ばなくなっている。仕方ない。別の手を使うまでだ。
───────────────
「私を攻略したつもりだろうが甘い!」
豪雨の中でも聞こえる程の声で叫ぶ妹紅は全身に炎を纏った。彼女に降りかかる滴は一瞬にしてスチームになっていく。彼女は不死鳥の羽を大きく振って此方に向けて炎弾を飛ばす。
「ハッ!!」
「──!」
なんて人だ。まさか俺のアクアバレットを蒸発させるとは微塵も想定していなかった。だが水球の貯蓄はまだ八割残っている。俺の計算では滴が180km/hの速さで落下するのだが、妹紅は難なく避けている。控えめに言って化け物だ。そういえば霊夢も簡単に避けていた。幻想郷には鍛えられた人が多すぎるな。
──お蔭で本気で力を使える!
「どうだ!」
「凄いですけど、これってボムじゃないんですか」
「ただの弾幕だよ。私の火を消すにはその程度の水じゃ足りないってことだ」
「なるほど。蒸発することは盲点でした。折角の秘策が意味なかったな」
「それはお互い様だよ」
──そろそろかな
俺は創造の準備をする。しかしまだ作らない。
「一つ分かったことがある。このスペルカードには穴があるな? 例えば……そこだ!」
「な──っ!?」
速い。十メートルは離れていたはずだ。一瞬だ。気づいた時には既に懐に入られていた。
──殺られる
そう確信した俺は急いで刀を創造し迎撃しようとする。
だが妹紅は何もしてこなかった。いつでも俺を殴れた筈の彼女は炎を纏ったまま直立し、静かに水球を見上げる。まるで小雨の中、傘を差す必要があるかどうか悩む少女のように。
「思った通り。ここが安全地帯だな? これだけ大掛かりな弾幕だ。お前自身の居場所を用意する必要がある。それがここ──水球の真下だ」
「ご名答。だが……それでアクアバレットを攻略したと思っているようじゃあ
俺は駆け出した。
「何!? 彼奴、自ら豪雨の中に──!」
そう、俺は未だ降り注ぐ豪雨の中に身を投じたのだ。
──アクアバレットの恐ろしいところはここからだ
「一体何故。……まさか、罠か! ──ッ!」
「そう! その安全地帯は罠! 見破れた者には褒美としてより苛烈な雨滴を! 喜べ。そして降り注ぐ雫の矢の餌食になるがいい!」
───────────────
「……なあ霊夢」
「……なに?」
「祐哉ってあんなテンション高かったか?」
「私も思ったわ」
「えっ、どうかしたの?」
遂にアクアバレットが使われた。霊夢も認める程のスペルカードを妹紅さんは思わぬ方法で対抗した。そこまでは私にも見えた。でも妹紅さんが神谷さんに接近してから戦いが静かになって様子がわからなくなった。まだアクアバレットが使われているのにどうして。
「私には見えないんだけど、二人には何か見えるの?」
「今ちょっとしたお喋り中だ。あの技には安全地帯があったらしくてな。それを見破った妹紅に一泡吹かせたってところだ」
「それで、祐哉がやたら悪役じみた発言をするのよ」
「えっ凄く気になる」
二人とも目がいいな。でもなんで話している内容がわかるんだろう。まさか、読唇術?
「近づいてみようか。あの雫なら流れ弾が来ても払えるし」
「レーザーは危なっかしくて近づけなかったもんなー」
私達は竹林まで行くことにした。
───────────────
──驚いたな
見え見えの安全地帯を作るとは間抜けな奴だと思ったが、罠だったらしい。周到な奴だ。
彼奴は自ら豪雨の中に飛び込んだ。そしてなんと、男に当たった雫は
「へ、恐ろしい奴。だが甘いッ!!」
私は更に大きな炎を纏うことで当たる前に水を蒸発させる。例えどんなに大きく、速かろうとも所詮は水だ。私にとって水を瞬時に蒸発させる事は造作もない。アクアバレットここに破れたり! 完全に私の勝ちだ。
「最後のスペルカードもそろそろ終わる頃だろう。もう、終わらせようか」
「ああ、今ので秘策が通用しないことがわかった。……来い!!」
男は両手に日本刀を生成して構えた後、気合を入れるように叫んだ。
「そんな鋼、私の炎で溶かしてやる!! ハァ!!」
火力最大。全身に不死鳥を纏い、全力で地面を蹴る。
───────────────
どうやらアクアバレットは役に立たないらしい。パチュリーになんて謝ろうか。折角親切に付き合ってくれたのにな。せめて勝利しなければならない。
そして、美鈴と咲夜に感謝だ。二人との訓練の成果がここで発揮されるのだから!
両手に刀を構え、大きく息を吸って吐く。しっかりと相手を見据える。
「来い!!」
──アクアバレットの終わりが近い。次の一撃で絶対に勝つ!!
「行くぞ……!」
不死鳥の羽衣を纏った妹紅が地面を蹴った瞬間、先程と同様直ぐに懐に現れた。やはり速い。だが俺はそれに見越して既に動いている! 妹紅は炎の拳で殴りかかってくる。これに当たったら気絶と大怪我するに違いない。即ち負けだ。
「私の──!」
「俺の──!」
「「勝ちだぁぁああああ!!」」
恐ろしく速い右ストレート。それを
そして──
「オラァァァ!!」
「ぐあっ!」
躱した時生まれた遠心力を存分に利用し、勢いよく背を斬りつける。遠心力と自らの勢いを利用されて吹き飛ばされた妹紅は、ぬかっている地面に体を滑らせ、雫の餌食となる。
俺は彼女の周りに刀を創造し、剣先を向ける。
「はぁ、はぁ……相変わらず、水が蒸発されるな。だが俺は今いつでも貴方を斬れる。俺の勝ちだ」
「……ああ、認めよう。私の、負けだ」
その言葉を聞いて安堵した俺は全身から力が抜け落ちていくのを感じた。アクアバレットを解除すると残っていた水が一気に落ちてきた。残り僅かだったとはいえ、浴びるには量が多すぎた。
「──あっ!」
「──ひっ!?」
……俺達はずぶ濡れになってしまった。
「うわあああ!! 間抜けかお前! びっしょびしょじゃないか!」
「ひぃぃ!! ごめんなさい……」
「……お前、勝負中と人が違くないか? さっきまでの覇気を感じない」
「いやー、むしろさっきまでが可笑しいですよ。俺ってあまり叫ばないし……」
「礼儀正しい奴かと思うと突然威圧してきたりして変な奴だ。だけど気に入った。お前、名前は?」
「──神谷祐哉です」
「そうか、私は
──そういえば自己紹介すらしていなかったな
「俺思ったんですけど、幻想郷って化け物みたいに強い人多すぎませんか? 人間ですらも」
「実際化け物だらけだしな。私も人間だが不老不死……化け物だ。そんな私に勝ったお前も仲間だな」
「いや、正直次勝てるかと言われたら無理な気が……」
それに、負けた回数の方が圧倒的に多い。たった一回勝ったくらいで化け物にはならないだろう。
「そうだ、蓬莱の薬に手を出すのはやめた方がいい」
「あー、アレですか? 嘘ですよ。不死に興味はありません。まあ、不老は興味あるけど」
「ただの一度でも手を出してはダメだ。まあ、無理には止めない。仲間が増えるからな」
「はは……」
──眠くなってきたな
起き上がろうにも力が入らない。それは恐らく妹紅も同じだろう。
「竹林、めちゃくちゃにしちゃったけど大丈夫ですかね」
「竹の生命力は凄いからな、直ぐに生えるだろうさ。そういえばあの竹妖怪の事だが……」
竹妖怪。十千刺々の事か。
「今のお前なら彼奴に勝てるはずだ。それも余裕で。なんなら今戦ってみたらどうだ?」
「今起き上がることもできないんでやめておきます」
すっかり忘れていた。この竹林にはあいつがいたな。竹をめちゃくちゃにしてしまったが出てこないな。怒ってきても可笑しくないのに。
因みにデュアルバーストを使ったのは邪魔な竹を掃除するためでもあった。更地にすることで後のアクアバレットを使いやすくしたのだ。しかし水を与えすぎたな。地面がドロドロに泥濘っている。正直すまなかった。
そこまで考えると、すっと意識を失った。
ありがとうございました
これにて東方霊想録完結です。
……嘘です。まだまだ続きます。次回はEXTRA最終回。勝利祝いパーティーです。お楽しみに!