東方霊想録   作:祐霊

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どうも祐霊ですん。
待ちに待った永遠亭です。ようやく鈴仙ちゃんに会えますよ!


#32「念願の永遠亭」

「はい到着。あれが永遠亭だ」

「おお、思ったより立派だし綺麗だな」

「竹林の入口からそれなりに歩きましたね」

「ああ、初見で辿り着くのはまず無理だ。さて、私はこの辺で筍を採っているから、用が済んだら声を掛けてくれ」

 

 妹紅に案内してもらうこと約10分。俺達は遂に永遠亭に到着した。念願の永遠亭である。

 

「なんか登山をした気分だ。ここまで来るのに苦労した」

「二週間ずっと頑張っていましたからね」

 

 そう、標高の変化は殆どないが、達成感は登山とよく似ている。最初は意気揚々と登っていくのだが、中盤から終盤にかけての異常な苦痛と疲労に襲われる。そしてそれを乗り越えて山頂に辿り着いた時の達成感。日常生活では中々味わえない。

 

 妹紅に沢山敗北して火傷もしたし、咲夜のナイフに当たって切り傷もできた。使い魔の創造も手探りで試行錯誤を重ねるしかなく、一度大失敗をした。散々苦労したのだが、結構楽しかった。やればやるほど確かに己の実力になっていくからだ。

 

 そしてこの苦労のおかげで俺は堂々と永遠亭を訪ねることができる。

 

「──行こう」

「はい!」

 

 俺たちは屋敷の戸に近づく。少し緊張気味に歩いていると突然膝から力が抜けた。

 

 ──この感覚、前に時計を作った時と似ているぞ! でも霊力は消費していない。何故俺は崩れ落ちている!? 

 

「ぎゃあああああ!?」

「えっ! 神谷君!? 大丈夫ですか」

 

 

 痛い。尻餅をついてしまった。これは、落とし穴か。霊華が上から心配そうに見てきている。その時風が吹いたらしい。霊華が穿いているスカートがふわりと浮く。

 

 ──あ、見え……

 

 そこまで考えた俺は急いで目を逸らした。ほら、紳士になれ。見てはいけない。

 

 危ない。もう少しで道を違えるところだったと、痛む尻をさすりつつ考えていると上から知らない人の「はい、ドーン!」と言う声と霊華の悲鳴が聞こえてくる。何があったのだろうと見上げると、霊華が上から落とされていた。

 

「親方! 空から女の子──ぐぁあああああああ!?」

「きゃああああああ!?」

 

 彼女を受け止めることに成功したものの、咄嗟のことだったのでバランスを崩し再び尻餅をついた。申し訳ねぇ。

 

「ご、ごめん。怪我はない?」

「こちらこそ……。すみません、重いですよね……」

「いや、そんなことないよ。ただ心の準備ができてなかったもんで……。一体何があったの」

「突然後ろから押されたんです。もう、何なのあの人?」

 

 霊華は不満そうに上を見上げる。

 

 ──押された、ね。そしてこの落とし穴。すっかり忘れていたけどあの人がいたな

 

「やーい! 引っかかったね! 見た所病人でもないしこんなところに何の用?」

 

 妖怪兎がヒョッコリと顔を覗かせてきた。アレは因幡てゐ。見た目は完全な幼女で、背が小さく、頭にウサミミをつけているのが特徴だ。てゐはこの竹林の持ち主という噂がある。滅多にお目にかかることができず、出会った人間は幸福を分けて貰えるという、里の人間からは好かれている(俺が会いたくない)妖怪だ。あの妖怪兎は悪戯好きで面倒臭そうだからだ。

 

「うっざ! 俺は大して仲良くないやつに弄られるのが大嫌いなんだ! オラァ!」

 

 俺は魔法陣を創造して落とし穴くらいの太さのレーザーを放つ。が、兎にあっさりと躱されてしまう。そしてレーザーを消すと再びヒョッコリと顔を覗かせる。

 

「チッ、あの兎畜生め! 鍋にしてやろうか!?」

「お、落ち着いてください? よく考えたら私たち空を飛べますよね。一旦ここから抜けましょう」

「お、おう。すまない」

 

 ウザさマックスで暴言を吐いてしまった。普段はあまり暴言吐かないようにしているけど流石にムカついた。霊華が居なかったら俺はいつまでも落とし穴の中で暴れていただろう。

 

「何だ飛べるのか。つまらないなぁ」

「…………」

 

 俺は霊華を連れて今度こそ永遠亭に入ろうとする。ムカつくがこういう面倒な奴は無視するに限る。相手をトコトン萎えさせればもうイタズラしてこないだろう。俺の力では落とし穴の創造はできないし仕返しもできない。

 

「籠とか作ったらどうかな?」

「……博麗さん」

「なんですか?」

 

 俺は足を止めて霊華の顔を見る。

 

「もしかしてIQ6万くらいある? やろうぜ! ──創造」

「わわわ!? 急に籠が!」

「永遠にそこにいるがいい! ふふふ……はーはっはっはっはっはァァ!!」

「こ、これが二人が言っていた悪役の神谷君……黒い……」

 

 霊華が何かを呟いていたが俺の耳には入っていない。入ってくるのは自分の笑い声のみである。結局相手してしまったがまあいい。

 

 アレは籠ではない。檻である。しばらく反省するといい。安心しなよ。何か特別な力を付与しているわけではないから、その気になれば出られるだろう。

 

「さあ、今度こそ行こう」

 

 気を取り直して今度こそ戸に手を伸ばし、開けることができた。戸を開けるだけで一苦労だ。やれやれ、先が思いやられるな。

 

「御免くださ~い!」

「あれ、人の気配がないですね。靴もないですし、患者さんもいない?」

「それもそうだけど廊下も不気味だよね」

 

()()()()()()()()()()()中の様子を観察する。中は木製の床と天井で至って普通の屋敷だ。でも何か違和感を感じるのだ。霊華の意見を聞こうと振り向くと、思わず目を擦りたくなるような光景が目に映った。

 

「あ……れ……?」

 

 おかしい。俺は玄関に一歩足を踏み入れただけなのに。どういうわけか、俺の()()()廊下なのだ。前後は廊下、左右は壁。これも何かの罠……誰かの術だろうか。というか、そうとしか考えられない。永遠亭の主人か薬師、あるいは兎JKの仕業であることは間違いない。なんてこった。心当たりが多すぎる。

 

 ──玄関の外だった場所に移動しても出られない。どうしよう。

 

「博麗さ~ん! 聞こえる?」

 

 試しに声を張り上げてみるが返ってくるのは反響した俺の声のみ。なんということだ。反響したということは密室じゃあないか。

 

「調べれば調べるほど不気味だ。異世界転移先は無限に続く廊下……と。えぐいね」

 

 軽く調べた結果、今俺がいる空間は廊下ではなく、細長い部屋だということがわかった。部屋へ続く扉や襖は全て描かれたものだった。立体的に膨らんでいるように見える蝶番(ちょうつがい)も、よくできた3Dプリントである。あそこに見える庭も全て絵。いや、絵というよりはホログラムの方が近いだろう。俺が感じていた違和感の正体はこれである。縁側から外に出ようとして思い切り頭をぶつけたのは内緒だ。

 

「はぁ、俺って結構運悪いのかな? 何もかもスムーズに進まない」

 

 自身の声だけでなく足音さえも鈍く響いている。まるで新築の家に越してくる前の下見をしている気分である。

 

 ──迷いの竹林全体が呪われているんじゃないのか? 

 

 竹林に入れば妖怪に攻撃され、二週間以上足止めを食らい、永遠亭の目の前で落とし穴にハマる。やっと屋敷の中に入れたかと思えば変な術にかかる。もううんざりだ。神社に引きこもろうかな……。

 

 床に座り込んでため息をついていると、どこからか足音が聞こえてきた。俺じゃない。誰か人がいるのかな。そう考えていると急に()()()()()()()

 

「貴方が神谷祐哉でいいのね?」

「──!?」

 

 ビックリして振り向くと、100メートル程先に女性がいた。驚いた。とても囁き声が届くような距離ではない。

 

「聞こえているでしょ? 答えてよ」

「……知らないな。俺の名前は寿限無なんだが」

「……? 人違いかしら」

 

 50メートル程先まで近づいてきた時女性の正体にようやく気づいた。俺が会いたかった兎JK本人である。俺が前から「兎JK」と言っているのは、彼女の服装が女子高生の制服のように見えるためである。白いブラウスに赤いネクタイを締め、その上に紺色のブレザーを着ている。胸元には三日月型の校章(ブローチ)を付けている。ブレザーの色は俺の制服とお揃いである。やったぜ! ……どうでもいいけど俺のネクタイの色はブレザーと同じ紺色だ。

 

 下は桃色のミニスカートを着用している。薄紫色の髪はとても長く、足元に届きそうなほどだ。そして彼女の特徴は頭に付けているウサミミである。これが着脱可能なオシャレなのかそれとも本物の耳なのかは不明だ。幻想郷に電話があったら確認するのは容易かっただろう。外の世界で有名なトラのキャラクターが糸電話で遊んでいる際に、頭の上についている耳ではなく、我々人間と同じ頭の横に受話器(紙コップ)を当てていた。彼女の耳が何処にあるかとても興味深い。

 

「いいえ。間違いなく本人よ。彼の連れが証言しているもの」

 

 もう一つ、どこからか別の声がした。しかし姿はない。”連れ”というのは霊華のこと。

 

「おい。博麗さんを出せ」

「ご心配なく。のんびりとくつろいで貰っているわ」

 

 くつろぐだって? 捕まっているわけではないのか。……()()()()()

 

「ようこそ永遠亭へ。私は鈴仙・優曇華院(うどんげいん)・イナバ。はぁ、気が乗らないなぁ」

「ウドンゲ、気が乗らないならサービスしてあげる」

「お師しょ──!?」

 

 何処からか飛んできた注射器が鈴仙の首に突き刺さる。鈴仙は刺さった勢いでパタリと倒れてしまった。その倒れた衝撃で()()が外れる。

 

「ひ、人が死んだ!」

「この子は注射程度で死ぬ程ヤワじゃないわ。貴方は自分の心配をする事ね」

「一体どこから話しているんだ。それが分かれば注射器を避けられるのに」

お注射(ドーピング)はウドンゲだけ。貴方には打たないわ。だって、死んじゃうでしょう」

「どんな注射なんだよ……」

「そうね、そこで寝ている子の心の枷を外す物と言ったら伝わるかしら」

 

 正体がわからない声と会話をしていると、倒れていた鈴仙がゆっくりと起き上がった。彼女は床に落ちた眼鏡をかけて立ち上がる。

 

 ──鈴仙って眼鏡かけてたっけ? 

 

「起きたわね。どう? やれそう?」

「お蔭さまで」

「そう。それじゃあ()()()()頑張って」

 

 声はその言葉を最後に話してこなくなった。いまいち現状を理解できていない。コミュニケーションを取って情報を集めないと。

 

「なあ、一体何が起こっているんだ? 俺達はこれからどうなるのさ」

「私は今からアンタを半殺しにするわ。それが私のお仕事だから! くらえ!」

「は? いや、ちょっと待──ひえええ!!」

 

 鈴仙は(おもむろ)に手を構え、弾幕を放ってきた。どうやら会話によるコミュニケーションよりも戦闘の方がフェイバリットのようだ。

 

「おい、何で俺が半殺しにされなきゃいけないんだよ!?」

「仕事だからって言ってるでしょ!!」

 

 鈴仙が手で銃を撃つように構えると再び弾幕が飛んできた。鈴仙が放つ弾の形は銃弾。本物の銃を使うのではなく、構えて放つ。銃を撃つ「ごっこ遊び」が好きな小さい子が見たら興奮しそうだ。

 

「それで納得いかないから詳細を求めているのが分からないのか?」

 

 弾速はビックリするくらいに速い。恐らく俺のアクアバレットと同じくらいにだ。急いで『動体視力強化』の眼鏡を創造して避けていく。

 

 ──()を使っている以上、その構えから角度を予測することは可能。落ち着いて見切るんだ。

 

 視覚情報に関しては十分。問題は俺の身体能力である。今は弾幕ごっこと違って完全に狙い撃ちされているので運動量が違う。

 

「おいおい、弾幕ごっこしようぜ? 死んじまうよ」

「言ったでしょ。半殺しにするって。アンタが逃げ回らなければ気絶で済ませてあげる。あまり動き回ると手元が狂って殺しちゃうかも」

「……戦うしかないか。ひとつ聞きたいんだが、このおかしな廊下はどうなっているんだ? 鈴仙の弾が当たっても傷付いてないみたいだけど。()()()の幻覚?」

()()は私じゃない。これはお師匠様の術。私達に壊せるようなものじゃないわ」

 

 ふーん。壊せないのか。それはいい。

 

「貴方を倒せば部屋から出られるかね」

「倒せるならね」

「倒せるさ。──星符『スターバースト』!!」

 

 ここは狭い廊下。そして密室だ。スターバーストの様な広範囲を狙えるレーザーを撃てばお終い。向こうは弾幕ごっこをしないというのだから、なんでもアリなはず。不可避な攻撃をしたからと言って卑怯とは言うまい。

 

「俺の勝ち! 何で負けたか明日ま……で、に?」

「眩しいなぁ。まるで魔理沙みたいね。本気の私にレーザーは効かないよ」

「な──!?」

 

 俺は廊下の限られた空間をできるだけ埋めるようにレーザーを放ったはず。逃げ道なんてない、不可避のレーザーだ。鈴仙は確かに光に飲み込まれたはずだ。それなのに全く効いていない。

 

「効かないだって? どうして」

「さあね。本来はうるさくて眩しく、当たると熱いレーザーだけど私にとっては何も無いのと一緒よ。全く意味が無い」

 

 彼女の能力は『()()を操る程度の能力』だったはず。それは相手を狂気に陥れることで幻覚や幻聴を引き起こさせる力。これではレーザーが効かない理由を説明できない。何か別の力が。或いは狂気を操ることは本質ではないのだろうか。

 

 ──参ったな。レーザーが効かないんじゃ俺は何もできないぞ。

 

 デュアルバーストは勿論、こんな狭い場所ではアクアバレットも使えない。今の環境では俺のスペルカードは実質全て使えなそうだ。せめて廊下から出ることができればいいのだが、壊すことはできなそうだ。

 

「私も撃ってみようかな」

 

 そう言って構えると、彼女の指先が光り輝いた。嫌な予感がした俺は攻撃される前に回避行動をとる。サイドステップで横に移動した後赤いビームが隣を流れた。もし避けていなかったらと思うとゾッとする。

 

「避けないでくれる?」

「なるほど。君は俺に死ねと言うんだね?」

「いいえ、半殺しよ! 今度は逃がさないんだから!」

 

 今度は俺を囲うように左右にビームを放ってくる。ビームは細く、当たりにくいがその分貫通力が高い。一発当たっただけで穴が空くだろう。そして左右にビームが流れている以上、逃れることはできない。またもや詰みである。

 

「これでお終い。じゃあね」

「いいや、終わらないよ。──創造」

 

 鈴仙のトドメの一撃とも言える光線銃は一枚の鏡によってはね返った。ビームはそのまま鈴仙の元へと戻り、彼女に被弾する。

 

 ──ちっ。まただ。どうやってビームを回避しているんだ。

 

 鈴仙に当たったように見えたレーザーは、先程のスターバースト同様打ち消されてしまった。

 

「アンタにもレーザービームは効かないのね。貴方も波長を操れるの?」

「……波長だって? ははーん、そういうことか」

 

 鈴仙の能力は『()()を操る程度の能力』。彼女が狂気を操るカラクリは波長操作だったのだ。人の波長を弄って周期を長くすれば暢気に、逆に短くすれば短気になる。そして短気を通り越すと狂気になるというわけだ。

 

 鈴仙にレーザーが当たらないのもこの力の影響だろう。

 

 ──面白い能力だ。会いに来てよかったぜ。

 

 レーザーが効かないのは痛いが何でも作れるのが俺の能力。いい機会だ、別の戦い方を編み出そう。

 

「まずは刀!」

「遅い!」

 

 鈴仙に刀を数本投げつけるが銃弾で打ち落とされて粒子に戻ってしまう。俺の全力投球を見切り、正確に打ち落とすことができる精度。だがそれは数本だったからであって、数を増やせば別の話だろう。

 

「食らえ! 創造『 弾幕ノ時雨・乱(レインバレット)』!!」

 

 俺は即席で作った技を使う。俺を中心に全方向に刀を24挺飛ばす。1秒に一回放たれる刀は壁や地面に当たると跳弾する。実は咲夜の跳弾を見たときから練習していたのだ。

 

 短い間隔で放つ為密度が濃く、流石の鈴仙も打ち落とそうとせず躱している。

 

 ──跳弾後の複雑な弾幕を容易く避けてくるとはな。

 

 このスペルカードは霊力消費の関係で10秒しか持たない。多少の圧力はかけられたと思うが決定打にはならなかった。

 

「中々やるわね。簡単には倒せそうにないわ。でももう終わりよ!」

 

 

 鈴仙は目を瞑って眼鏡に手を掛ける。

 

 風が吹いていないのにも拘わらず、彼女の長い長い髪がブワッと舞い上がる。

 

 ──霊力や妖力の感知は得意ではないけど、確かに強い妖力を感じる。

 

「私の瞳を見て狂気に堕ちるがいい!!」

 

 髪を棚引かせながら眼鏡を外した鈴仙の瞳は、美しく何処か妖しい真紅に輝いていた。




ありがとうございました!

ずっと前から鈴仙との弾幕ごっこを書きたいと思っていました。楽しんでもらえると嬉しいです。

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