東方霊想録   作:祐霊

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今回は狂気に堕ちた祐哉に代わって三人称視点で書いています。



#33「狂気の瞳」

「私の瞳を見た者は人妖問わず平等に狂気に堕ちる。狂気に落ちたら最後。お前はもう真っ直ぐ歩くこともできないし、私に攻撃を当てることもできない! お前の負けだ!」

 

 その昔、月からは膨大な魔力が放たれていたという。強すぎる魔力故に、浴び続けると気が触れて狂気に堕ちると言われている。彼女の赤い瞳は月の魔力のように対象の気を狂わすことができる。原理は彼──神谷祐哉の考察通りだ。

 

 神谷祐哉は鈴仙の瞳を見てから微動だにしない。彼は一種の金縛りにあっている。より正確に表すなら、金縛りにあったような錯覚に陥っているというべきだろうか。

 

 狂気に堕ちた祐哉の思考は既に停止し、最早機能していない。故に鈴仙の説明も全く理解できていない。彼の目には今、眼前の鈴仙が数人に分身しているように映っている。

 

 彼は本能で動くタイプではなく、論理的に考えて動くタイプである。目の前の人物が突然分身したら、仕組みを考察して対策を取る。彼は今、必死に頭を回転させようとしているがそれは叶わないことだ。少なくとも、鈴仙と目を合わせている限り正気に戻る事はない。

 

「狂気に堕ちて微動だにしない相手は稀ね。大抵は暴れて勝手に自滅していくんだけど。まあ、的は止まっている方が楽だわ」

 

 鈴仙が手で銃を撃つような仕草をすると赤い光線が放たれた。レーザービームによる攻撃は互いに意味が無いと分かっていたはず。もう忘れてしまったのだろうか。

 

「このレーザーを見てアンタは避ける? 反射する? それとも、当たって終わりかしら?」

 

 試すように呟く鈴仙。それに対し祐哉は……

 

 ──()()()()()()()()()()

 

 彼は()()で防衛した。自分に迫る攻撃を見て、遂に本能で動きだしたのだ。

 

 祐哉は刀を手に生み出して鈴仙の元へ駆け出す。その駆け出しは異様に早く、気づいた時には彼女の懐まで近づいていた。驚いた鈴仙は咄嗟に後ろへ飛ぶことで剣閃を回避する。

 

 鈴仙は考えた。『なぜこの男は正確に私を捉えたのか』と。彼女が驚いた理由はコレである。彼の波長は未だ狂気。つまり、鈴仙の姿をまともに捉えることができていないはずなのだ。

 

「たまたま勘が当たったのかそれとも……。もう終わらせよう。──幻波『赤眼催眠(マインドブローイング)』!!」

 

 鈴仙の心は僅かに揺れていた。そして、このままゆっくり戦っていてはいけないと直感した彼女は遂に1枚目のスペルカードを切った。

 

「見えていようと見えてなかろうとも関係ない! 貴方はこの催眠を破れない!」

 

 鈴仙は全方位にありったけの弾丸を放つ。その密度は霊夢や妹紅達とは比にならないほどに濃い。だが濃いだけで特にこれといった要素は無いようだ。定期的に全方位にばら撒くだけである。

 

 ──これが()()()赤眼催眠。

 

 しかし、祐哉の目にはそう映っていなかった。

 

「弾が分裂した!?」

「貴方にはそう見えるのね」

 

 そう、彼の目には眼前の弾丸が分裂しているように見えているのだ。例えるなら寄り目で物を見ている時のような具合だ。そして、分裂して増えた()()()()は質量を持ち始める。

 

「この技の対象者には弾が分列して倍に増えたように見える。暫くするとまた分裂して、更に増える。これが赤眼催眠(マインドブローイング)!」

 

 赤眼催眠は飽くまでも催眠。実際に当たる弾は本来の円形に散らばる弾である。それは彼が見ている偽りの弾丸と完全に同じ場所に位置にしている為、催眠の中体を動かすことができれば攻略は可能。

 

 彼がこれ迄に体感したスペルカードの中で最も難解であることは間違いない。

 

 これに対し祐哉はまず、できるだけ冷静になる事を目指した。彼の理性は並の人間よりも強く、狂気の瞳の影響下でも僅かに理性が残っていたのだ。

 

「痛っ……」

 

 彼は千本という治療用の鍼を創造し、己の太腿に刺した。その痛みは彼を少しずつ正気に戻していく。

 

「もう……鈴仙と目を合わせてはいけない。弾丸がぶれている間は当たり判定が無いようだ。その隙に弾の隙間を縫うしかない」

 

 日々の修行で他人のあらゆるスペルカードに挑んでいる彼は初見の弾幕の仕組みを推測し、攻略する技能を身につけている。

 

 祐哉は再び気が触れそうな自分を必死に抑えて、見事赤眼催眠を攻略した。

 

「やるわね。お師匠様が注目するのも納得だわ」

「……お師匠様。やっぱりあの人の差し金か」

「自分が狂っていく感覚はどうだった?」

「楽しかったよ。これを食らうために来たようなものだからね」

「……アンタ、もしかして元々狂っているの?」

「さあ? 次はこっちから行くよ──創造『 弾幕ノ時雨・狂(レインバレット)』!!」

 

 祐哉はたった今作ったスペルカードを発動する。彼が指を鳴らすと鈴仙の周囲に無数の剣が現れた。両刃の剣は黒ひげ危機一髪のように鈴仙を穿とうとする。鈴仙は唯一の抜け道である上空へと跳ぶ。

 

 そこへ待っていたというように2撃目が襲う。2撃目は天井から槍が降り注ぐ。忍者屋敷の罠のように殺傷目的で襲ってくる槍を躱すのは至難。人間の身体能力ではまず避けられまい。だが玉兎である彼女には可能である。

 

 鈴仙の戦闘スキルは他の玉兎と比べてかなり優秀だった。よって、如何に複雑な弾幕であろうとも避けきってみせるだろう。

 

 三撃目の攻撃は上からの槍と横からの剣による攻撃。流石の鈴仙も空間を敷き詰めるような弾幕を前に成す術もなく被弾すると思われた。だが鈴仙は避け続けている。瞬時に弾幕の隙間を見切ることができる動体視力。そして壁や床、天井を蹴って跳び回る瞬発力。どれもが人間はおろか、並みの妖怪さえも凌ぐ。祐哉は彼女の強さを思い知ることになる。

 

「正直、舐めていた。想像の数倍強い!」

 

 数種類ある弾幕ノ時雨の中で最も高密度のスペルカードが、全く効き目を見せない。彼はため息をついた後、パチンと指を鳴らす。それを合図に全ての武器が粒子に戻った。

 

「もう終わり?」

「俺の負けかなって」

「やっと諦めたのね」

 

 弾幕では勝てないと思い知った彼はこんな事を考えていた。「精神攻撃で揺さぶってみるか」と。

 

「あー、その、セクハラで訴えられたらお終いなんだが──白、なんだな。沢山見せてもらったよ。白」

「白? 一体なんのこと?」

「分からないか? 鈴仙は俺のスペルカードを避ける為にあちこち跳び回っていたね。そして君が穿いているのはミニスカートだねぇ。ここまで言ってもわからないか?」

「──ぁ」

「ふふふ、理解したようだな」

 

 彼が見たのは鈴仙の下着である。だが誤解しないでやって欲しい。彼は決して、見ようとして見た訳では無いのだ。この世界の多くの人がドロワーズを穿いている中、彼女は違うものを穿いていた。見えてしまったのだ。

 

「酷い……サイテー」

「は? 酷いのはそっちだろ。勝手にあんなアクロバティックな動きして、見せつけてきたんじゃないか! にも関わらず『サイテー』だと? ふざけるんじゃないよ!」

 

 見えてしまうような動きをしていたクセに、見られて怒るなんて酷い。というのが彼の主張である。彼は紳士ではないようだ。紳士(彼ら)ならばまず己が非礼を詫びるだろう。

 

 いや、彼はまだ狂気に触れているのかもしれない。真の神谷祐哉ならば紳士的な対応をした可能性がある。

 

「迂闊だった……普段()り合う相手は皆女だから気にしたことがなかった。ショックだわ……」

「エッエッエ! 隙ありィィ!!」

 

 男に下着を見られてショックを受けている鈴仙に向かって、彼は創造した刀を投擲した。屑だ。屑すぎる。この精神攻撃は彼女の動揺を誘って、生まれた隙を突くという作戦だったのだ。

 

 二度目だが彼は未だ狂気に堕ちているのだろう。確証は無いが。少なくとも彼の人間性と周りからの好感度が落ちていることは確かだ。

 

「うっ……」

 

 彼が投げた刀は鈴仙の腹を貫いた。先程まで彼の全力攻撃を嘲笑うように避けていた彼女が、たった一挺の刀で刺されたのだ。

 

「え……なんで?」

 

 まさか当たるとは思わなかったのだろう。祐哉は目の前で起きたことを信じられずにいた。

 

 鈴仙は腹を押さえながらよろけて、やがて床に倒れてしまった。床には血溜まりが広がっていく。その様子を見た祐哉は慌てて彼女に近づく。

 

「そんな……どうして。しっかりしてください! 死なないで……。そうだ、()()。永琳ならこの子を直せるはずだ」

 

 祐哉は鈴仙を抱き抱えて揺さぶるが目を覚まさない。このままでは死んでしまう。そう思った彼はとある人物の存在を思い出す。そして──

 

「何処かで()()()()んだろう。永琳! もう良いだろう。早くこの子を──」

「──滑稽ね。貴方は私の()を見すぎたのよ」

「──!!」

 

 後ろから声が聞こえた。その声は鈴仙のもの。腕の中にいた鈴仙は彼が見た幻視である。先程の攻撃を回避していたことに安堵したものの、彼の冷や汗が止まることは無かった。後ろに回り込んだ鈴仙に銃を突きつけられているのだ。

 

「これで終わりよ。手間かけさせないでよね。貴方の負け。死ね!」

「はーい、やりすぎ。お疲れ様〜」

「あぅ──」

「……?」

 

 不思議な空間(廊下)がグニャグニャと歪んだ後、一人の女性が現れた。廊下にかけられた術が解除され、廊下に新鮮な空気が入り込む。突然現れた女性に注射針を刺された鈴仙は気を失ってしまった。

 

 これら全て、祐哉の背後で起きた出来事である。彼の頭の中には今疑問符で埋め尽くされていることだろう。後頭部に押し付けられていた銃は無くなった。彼は降参するように両手を上げた後、慎重に後ろを振り向く。

 

「思っていたよりも頑張ったわね。さて貴方──」

「──っ!」

「何故私の名を知っているのかしら? 里の人間には“八意”で通っているはずだけど。吐いてもらえる?」

 

 今回祐哉と鈴仙を戦わせた人物──八意永琳は彼の首元に矢を突き付けた。

 

 突きつけられた祐哉はこう思うのだった。

 

 ──嗚呼、幻想郷っておっかないなぁ

 




ありがとうございました。
今回は狂気に堕ちた人間がまともな思考を巡らすことはできないと判断したので三人称視点で書きました。いやあ、難しい。練度が足りませんね。まあ、初めて書いたので当然ですが。

明日投稿したらまた暫くお休みします。学校の方でテストがあるので準備しないといけないのです。
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