「ふふ、ごめんなさい。別に隠している訳でもないし、知っていても怪しんだりしないわ」
そう言って永琳──
「そう警戒しなくてもいいわ。ようこそ永遠亭へ。さっきの闘いからして診療目的で来た訳では無いのよね。何用かしら」
「え? えーと……あれ?」
待てよ。俺は何しにきたんだっけ? 鈴仙と戦って能力を体験し、スペルカードも見た。おかげで新スペルカードも編み出せた。
「鈴仙のスペルカードを見に来ました」
「物好きなのね。良かったら帰る前に寛いでいって。貴方の彼女も待っているわ」
「……色々ツッコミたいところですがその前にひとつお聞きしたいです。何故彼女に俺を襲わせたんですか?」
「……どうしてだと思う?」
質問を質問で返されてしまった。俺は苦笑いしつつ答える。
「分かるわけないですよ。理由なんて無数にある。まともな理由があるのかも怪しい。ただの気まぐれかもしれない」
「あら、ちゃんとした理由はあるわ」
「でも貴方、教える気ないですよね? 質問を質問で返した時点でそんな気がします。納得いきませんがもういいです」
「ふふ、それじゃあ貴方の恋人のところまで案内するわ」
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時は少し遡る──
それは神谷祐哉が幻想入りして直ぐの事。
「お師匠様。紅魔館のメイドからお手紙を預かりました」
「紅魔館? 珍しいわね。懲りずにまた月に行こうというのかしら」
永琳はシンプルなレターケースを受け取って中から紙を取り出す。
*(前略)
数日以内に外来人が幻想郷に迷い込むだろう。この運命は殆ど確定している。
彼はいずれ、幻想郷にとって重要な人物になる。良い意味でなのか、悪い意味でなのかは現時点ではわからない。
私は外来人を育てる予定だ。
永遠亭はどのような対応をとるのかしら?
*
手紙を読み終えた永琳はつまらなそうにレターケースに戻して鈴仙に返した。
「もう読んだから、捨てておいて」
「……? 分かりました」
紅魔館の当主からの手紙は永琳にとって無価値な物であるように見えた。少なくとも鈴仙の目にはそう映っただろう。
「わざわざそんなことを伝えるという事は何かあるのね」
永琳はポツリと独り言を呟いた。
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神谷祐哉。
──私には全く関係ないけど
彼を部屋に案内した後廊下を歩いていると向かいから桃色と赤色の服を着た女が姿を現す。彼女は私を見てにこやかな笑みを浮かべる。
「永琳。お客様かしら。例の彼?」
「ええ」
「ここに来たということは
「弾幕ごっこで勝ったそうよ」
「まあ! とても強いのね。そんなんじゃ鈴仙には荷が重いでしょうに」
輝夜は両手を合わせ、お気に入りの玩具を手に入れたというように目を輝かせる。
「いいえ。鈴仙の圧勝。何かあると思わないかしら」
「妹紅が手加減するとは思えない。まぐれで勝てる相手でもないし。気になるわね」
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「本っ当に申し訳ございませんでした!!」
「えぇ……」
俺は鈴仙に土下座されている。どうしてこうなった。
目を覚ました鈴仙は部屋に入ってくるなり泣きそうな顔で謝ってきたのだ。
「師匠から聞きました。随分と容赦のない戦いをしてしまったみたいで……怪我とかないですか?」
「そんな、お気になさらず。怪我もかすり傷程度です」
精神力はゴリゴリ持ってかれたけどな!
それにしても性格変わりすぎじゃないですかね。理性飛んでたから?
「そうですか。あ、一応もう一度名乗らせてください。私は鈴仙・優曇華院・イナバと言います。鈴仙と呼んでください」
「寿限無……いや、神谷祐哉です。随分と様子が違いますね。……もしかしてさっきのこと、覚えてないですか?」
コクリと頷く鈴仙。マジですか。狂気か。あ、それなら俺のセクハラ発言も無かったことに──
「でも断片的には覚えています。その、白がどうとか」
──ならないのかい!!
「その件は本当に申し訳ないです。ごめんなさい」
「こちらこそお見苦しいものをお見せしました」
……俺はなんて返せばいいんだろ。見苦しくない、これは論外だろう。んー、沈黙が正解かな。
鈴仙は霊華に挨拶している。名字を聞いて驚いている。この先この子は自己紹介の度に驚かれるんだろうな。俺だったら疲れてしまうよ。
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何だかんだで俺と霊華は一晩泊まることになった。霊華は今風呂に入っている。俺は部屋で鈴仙が仕事を終えるのを待っている。
「お待たせ! やっと仕事片付いたよ」
「お疲れ〜」
急にフレンドリーになったのは向こうから提案されたためだ。持ってきてくれたお茶を飲みつつ雑談をする。その流れで先程の弾幕ごっこの話になった。
神谷祐哉が来たら半殺しにしろ、という仕事は今朝渡されたらしい。見ず知らずの人を突然襲えなどと言われた彼女はかなり戸惑ったという。
「だから気が乗らないって言ってたのか」
「うん。でもお師匠様に注射針を刺された瞬間、頭の中が真っ赤になっちゃって。なんか自分で自分の波長を弄っちゃったんだよね」
「鈴仙の能力のこと、良かったら教えて欲しいな」
「いいよ」
彼女によると、『波長を操る程度の能力』は対象の波長の長さや大きさ、位相を弄ることができるようだ。例えば幻視。弾幕がブレて見える弾丸を撃っているとか。
位相を調節すればお互いに干渉できなくすることもできる。
ふむ。さっき体験した通りだな。とんだチート能力だ。
「弾幕ごっこの時、俺のレーザーを食らっても平気だったのって能力の影響?」
「うーん、その時の私がどうやったかはわからないけど、光の波長を弄れば無効化できるよ。反対に、光を収束させてレーザーを撃つこともできる」
なるほどね。光が拡散されたからスターバーストが効かなかったのか。完全に天敵ですわ。
「ねえ、祐哉の能力はどんなの? お師匠様が注目するってことは、なんか凄い力があるんでしょ?」
鈴仙は興味を目で訴えてくる。眼鏡が良く似合っていて可愛い。因みにこれは狂気の瞳の効果を抑制する伊達眼鏡のようだ。必ずかけないといけないものでは無いようだが、鈴仙のお気に入りらしい。要するにお洒落だ。
「俺の能力は『物体を創造する程度の能力』。その名の通り物体を作り出せる能力だよ」
「創造……神様みたいな力だね」
「凄いよね。どうしてこんな力を持っているのかとか、生まれつきの力なのかとか、何もわからないんだけどね」
俺は鈴仙の前で色々な物を創造してみせる。彼女はまるで手品を見たようにパチパチと拍手してくれる。種も仕掛けもない魔法ですよ〜ってね。
「後はそうだな、創造した物にちょっとした機能を付けられるよ」
不思議そうにする鈴仙に反射鏡について説明すると、もっと見せて欲しいと言われ、本日二度目の弾幕ごっこをする事になった。
───────────────
「お風呂空きましたよ……あれ?」
お風呂から上がって部屋に戻ると誰もいなかった。私は座布団の上に座って、神谷君に作って貰った櫛で髪を梳く。
──そろそろ髪切ろうかな。
自分の腰まで届く長さの髪を撫でながら呟く。ロングヘアは気に入っているけど、弾幕ごっこの時少し邪魔に感じる。いつもリボンで髪を纏めているから多少はマシなのだけど、汗をかいた後のケアが大変だ。運動する度に風呂に入る訳にはいかないし、放置したら髪が傷んでしまう。
「霊夢は邪魔じゃないのかな? 帰ったら聞いてみよう」
神谷君が何処にいるのか気になるけど、もう少し髪が乾いてからにしよう。ちゃんと乾かさないで寝ると寝癖が酷くなる。
ふと、廊下から足音が聞こえた。足音は私がいる部屋の前で止まり、暫くすると声をかけられる。透き通った綺麗な女声だ。
「わぁ……」
障子を開けると、廊下にとても綺麗な女性が立っていた。背丈は私と変わらないくらいで、鮮やかな桃色の着物を着ている。よく見ると月や雲のような模様が見られる。手が完全に隠れるほど長い袖と、床に引きずったスカートを見る限りここのお姫様なのかもしれない。赤いスカートには月や桜、竹に紅葉などの模様がある。
──綺麗
「こんばんは、貴方がお客さんね」
「こんばんは。お邪魔しています」
「あら、貴女一人なのね。良かったらお話しない?」
「はい、是非」
女性を部屋に入れようとしたのだが、外で話そうと言われる。廊下に出ると何かが爆発する音が響いていた。
「ほら、今日は綺麗な花火が見られるわ」
彼女はそう言って縁側に腰を下ろした。あのレーザーは神谷君のスターバーストだ。もう一人は……鈴仙さんかな? 二人とも、外で弾幕ごっこをしていたんだ。
───────────────
「へえ、二人とも私たちのように外から来たのね」
「貴女も外来人なのですか?」
「私たちはね、月から来たの」
「ええ!? 月って、あの月ですか?」
「ふふっ、そう。あそこに見える月よ。但し、ここから見ることはできないけれど」
「あの、もしかして貴女がかぐや姫ですか?」
「あら、分かっちゃった?」
「やっぱり。こんなに綺麗な人は見たことないですもん」
そういうとかぐや姫はニッコリと笑う。その笑顔は女の私が見ても美しく、可愛らしいので惚れてしまいそうになる。沢山の貴族が求婚したのも頷ける。平民……と言うべきか分からないけど、一般人の私が出会えたのは奇跡だ。幻想郷に残ってよかった。
「髪もとても綺麗ですね。どうやって手入れしているんですか?」
「さあ、私がやっている訳では無いから分からないわ」
そうか。お姫様って付き人にやらせるんだっけ。付き人さんに聞くことができたら参考になるかな。輝夜さんの髪は腰より少し長いくらい。見た感じサラサラとしていて、丁寧に手入れしていることが予想できる。
「髪なら──いえ、髪以外もだけど、貴女も綺麗だと思うわ」
「そうですか? ありがとうございます」
お姫様に褒めて貰えた。嬉しいな。
「貴女は霊夢──博麗の巫女にそっくりね。姉妹なのかしら」
「あ、まだ名乗ってなかったですね。私は博麗霊華。名字は霊夢と同じですけど、ここに来て初めて会いました」
「まあ。名前もそっくりなの! もしかして別世界の霊夢?
パラレルワールドの霊夢が私で、霊夢は別世界の私。確かに面白い。ロマンがある素敵な考え方だ。
それから暫くの間、花火を見ながら会話を楽しんだ。
───────────────
「疲"れ"た"……」
「お疲れ様です」
鈴仙に再びボロ負けして戻ると、縁側に二人が腰掛けていた。一人は霊華、もう一人は──
「お疲れ様、鈴仙」
「姫様。見ていらしたんですか!?」
「ええ、この子と一緒にね」
あの人は蓬莱山輝夜。かぐや姫本人である。ずっと部屋にいるものだと思っていたから簡単に出会えて驚きである。
とても綺麗な人だ。ロングストレートを推す俺だ。輝夜のイラストや、ヒロインの二次小説があったら推していたかもしれない。好みのタイプだ。
「祐哉、紹介するね。この方は輝夜姫──蓬莱山輝夜様よ」
「はじめまして、神谷祐哉と申します。お会いできて光栄です」
「宜しく。貴方のことは永琳から聞いているわ。貴方、妹紅を倒したそうね」
輝夜の問いに頷くことで肯定すると彼女はニッコリと笑って口を開く。
「私も遊んでみたいわ」
──! ま、マズイ。これは非常にマズイぞ。
輝夜の言う「遊び」とは十中八九弾幕ごっこのことだろう。俺は今日鈴仙と二戦してクタクタなので戦いたくない。ロクに戦えなくて幻滅させたくないし、これ以上疲労を溜めるのはよくない。オマケに輝夜の戦闘力はとても高い。不老不死仲間の妹紅と殺し合うことができるほど、この姫はパワフルなのだ。妹紅に勝てたのは緻密な戦略と幾多の敗北による経験があったからこそ。俺の戦闘力は決して妹紅と同レベルではない。よって、輝夜に勝つ事は勿論、対等に闘りあう事はできない。
「い、いや……乱暴な事はあまりしたくありません」
「祐哉、輝夜様は私よりも強いわ。比べ物にならないほどにね。だから加減とか考えなくてもいいのよ?」
知っているとも。だからこそ戦いたくないのだ。
ていうかさ? 鈴仙に一回も勝ててないのにどうして格上と戦わなきゃならないのさ。5面ボスに勝てないのに6面ボスと戦うとか不正だよ。
「どっちにしても、今日はもうクタクタだよ……」
「そう、残念ね。またの機会にしましょう」
輝夜はそう言って廊下の奥へ歩いていった。
ふう、なんとか戦わずに済んだ。多くの人と戦ってみるのも楽しいが今回の相手は規格外だ。幻想郷の中でもトップクラスに強いだろう。そして永琳は輝夜よりも相当強いと聞く。
──もっと強くなりたいな。色んな人と交流したい。
帰ったらまた修行だな。
───────────────
「「お邪魔しました」」
「帰りは私が送っていくよ」
夜が明けて朝食をいただいた後、俺達は神社に帰ろうとする。妹紅とどうやって連絡を取るか悩んでいると、鈴仙が大きめの荷物を背負って外に出てきた。
彼女はこれから人里へ薬を売りに行くようだ。途中までのルートは同じなので、案内してもらえることになった。
「それじゃ行こっか」
「待ちなよ」
誰かが鈴仙の言葉に静止をかけた。俺や霊華ではない。では誰だろうか。声がした方を向くと昨日のイタズラ兎──てゐがいた。
「すっかり忘れてた。ちゃんと檻から抜けられたんだ」
「忘れてたの? 酷いなー。それよりもさ、気をつけた方がいいよ。この竹林、最近変だからね。まあ、原因は分かっているけど」
「変? 元々変じゃないの?」
「……忠告はしたよ。じゃあね」
てゐはニヤニヤして手を振る。見送ってくれるのだろうか。
──怪しい。
「──創造『
「あー!!」
「へっ、こんなことだろうと思ったぜ」
てゐの様子を怪しく思った俺は試しに針を創造して周りの地面に落とした。
針はサクッと地面に刺さり、完全に地中に埋まってしまった。おかしい。おかしいぞ。
「もう落とし穴には落ちないよ。行こう、2人とも。足元に気をつけて」
俺は僅かに浮遊して、てゐに手を振る。今俺は「してやったり」と言うような気持ちで笑っているので、てゐから見ると中々ムカつくだろう。やれやれ、どうしたものか。
「竹林が変だとすれば原因は恐らく……いや、そうとも限らないか」
──まあ、念の為注意しておくか。
ありがとうございました。よかったら感想ください。次の異変を書く際のモチベになりますので!
次回からは新しい異変です。
テーマは竹林です。投稿はいつになるかわかりませんが、八月中には投稿できるように頑張ります。
それではまた。