東方霊想録   作:祐霊

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お待たせしました。竹林異変の開始です。


2章 竹林異変 〜Lost bamboo grove〜
#35「異変の香り」


 〜博麗神社で三人が話している頃〜

 

 三色団子を一つ頬張る。三色団子の色は春を表していて、桃色の団子は桜、白は白酒、緑は芽吹く緑やヨモギをイメージしているという。

 

 幻想郷にもそろそろ春が訪れるだろう。とはいえまだ弥生(3月)の中旬。桜や梅の木々が蕾を開くには少し早いだろう。

 

 ──今年の春は盗まれないといいな

 

 もう数年ほど前の話だが、かつて冬が終わらない異変が起きた。主犯は白玉楼の連中で、地上の春を集めることで咲かない桜──西行妖を咲かせようとしたとか。

 

 流石にもうアイツらが異変を起こすことは無いだろうが、春は何かと変な奴が現れやすい。注意しておいた方がいいだろう。

 

 というわけで私、霧雨魔理沙は見回りがてら里へ向かったのだ。今は団子屋で休憩している。

 

「なぁ、聞いたか? 最近ここらで筍が生えてるんだってさ」

「ああ、聞いた。不思議なこともあるもんだな。ここは竹林じゃないのに」

 

 店の外にいる若い男二人の会話が聞こえてくる。筍ねぇ。何かと見間違えたんじゃないか? 普通に考えて里の中に生えることは無い。

 

 私は三つ目の団子を食べて帽子を深く被る。

 

 ──でもまぁ、準備しておくかな。

 

 

 ───────────────

 〜祐哉と霊華が永遠亭に向かった日〜

 

「邪魔するぜ」

「あら魔理沙。ちょうど良かった」

「お前一人か?」

「うん。二人共、今日は永遠亭に出掛けたからね。一人で暇だったの」

「へぇ。少し前まではずっと一人でぐうたらしていたのにな」

 

 里で少し調査をした私は気になることがあったので、博麗神社にやってきた。もう夕方だ。二人はそろそろ帰ってくるだろうか。

 

「寂しいのか?」

「少しね。多分今日は帰ってこないと思うし」

「泊まるのか。朝帰りとはなかなか……」

「あんたねぇ。その言い方やめなさいよ」

 

 霊夢は向こうから持ってきた湯呑みにお茶を注いで私の前に置いた。

 

「それで、何しに来たの? その様子だと何かあるんでしょ」

 

 霊夢は煎餅を齧りながら言う。私はそんなに深刻な顔をしていたのだろうか。

 

「よく分かったな。実は──」

 

 ───────────────

 

「人里に筍が生えた?」

「ああ。噂は昨日耳にしたんだ。数自体は少なかったみたいだ。でも今朝起きたらそこら中に筍が生えていたらしいぜ」

「採りに行く手間が省けて良かったわね」

「違う、そうじゃない。どう考えてもこれは異変だろ? 里は筍が生えるような環境じゃないんだぜ?」

「そんなこと言われたってねえ。異変のレベルじゃないでしょ。精々騒動レベルよ。放っておけばそのうち落ち着くんじゃない?」

 

霊夢は怠そうに溜息をつく。

 

「……お前、暇なんだろ? 明日一緒に里へ行こうぜ」

「何しに行くの?」

「決まってるだろ。聞き込みだ」

「えー」

 

 ───────────────

 〜祐哉と霊華が永遠亭を出発した頃〜

 

 私は霊夢を無理やり連れて行こうと、神社に行った。だが意外なことに霊夢はやる気で、スムーズに里へ行くことができた。今は里で寺子屋を開いている上白沢慧音に話を聞いているところだ。

 

「わかりました。あなた方は最近人里で騒がれている件について調べているのですね。私も気になって話を聞き回りました。実は今朝、事件が起きました」

「というと?」

 

 慧音は神妙な面持ちで口を開く。

 

「まずは今朝、里の敷地内に生えている筍の数が急激に増えました。そして、里の者が早朝に筍を採ったそうです」

「ふむ」

「その者は死体で発見されました」

「なんだって!? ちょっと待ってくれよ。そいつは里の中で死んだのか?」

「ええ。それも、里の中心の方で。遺体には数本の竹が刺さっていました。死因は竹で体を突かれたことによる大量出血かと」

 

 やっぱりこれはちょっとした騒動なんてもんじゃない。事件──異変の匂いがするな。しかし竹か。何か引っかかるな。私がメモを取りながら考え事をしていると、それまでずっと黙っていた霊夢が漸く話し始めた。

 

「慧音。里の者に絶対に筍に触れないようにと伝えてもらえるかしら」

「既に喚起しました。里の者は皆不安がっています。この件が落ち着くまでの間、私は里を()()つもりです」

「ああ、そういえば前にもやっていたわね。……行くわよ、魔理沙」

 

 霊夢はそう言って立ち上がると、さっさと部屋を出て行ってしまう。私も後を追おうとすると慧音に声をかけられる。

 

「今回の異変は既に犠牲者が出ている。十分準備してから行ってください」

「──ああ、分かっているさ」

 

 私は帽子を深く被り、部屋を出た。

 

 ───────────────

 

「異変?」

「ええ。今日準備して明日出かけるわ」

 

 私達が博麗神社に着いた時は誰もいなかった。暫くしてやって来た霊夢はいつになく真剣な表情をしていた。

 

 神谷君が、何かあったのかと問うと事情を説明してくれた。実は「人里に筍が生えて人が殺された」という滅茶苦茶な説明に驚いた私達が詳細を聞き出し、理解するのに時間がかかっていたりする。霊夢の説明は適当すぎるのだ。

 

「なあ霊夢。俺も行ってもいいかな。前から異変解決に興味があったんだ」

「……私も、巫女見習いとして行きたいな」

「別に構わないけど、私は一人で行くわ。別行動になる訳だから、何かあっても助けられないわよ?」

「俺は構わない」

 

 神谷君の返事に私も頷く。

 

「無茶はしないでね。生きている限りやり直せるから」

 

 ───────────────

 

 俺は自室で一人寝転がっている。魔理沙に貰った青い三日月形のペンダントを明かりにかざす。

 

 ──騒動の内容は人里に筍が生えていること。そして、その筍を採った人が殺されていた。

 

 ここ数日の間に増えた筍の数は数十個だとか。どう見ても自然現象ではないということで異変という扱いになったそうだ。

 

 凶器は竹。里に竹は生えておらず、竹が刺さってから歩いた痕跡もなかったようだから事故死の可能性は皆無だろう。

 

「筍。竹。殺害。どう考えても……いや、まだこの結論に至るには早い。他の可能性も考えておかないと」

 

 考えを呟くことで頭の中の情報を整理していると廊下の方に気配を感じる。こう言うと凄いように思えるけど単に足音が聞こえただけだ。

 

 俺がいる部屋の近くで足音が消えたので障子に目をやると、月明かりによる人影が薄ら浮かんでいた。

 

「神谷君、まだ起きていますか?」

 

 この話し方は霊華だな。二人共同じような声なので、声だけで聞き分けるのは中々難しい。幸い霊華は俺に対して丁寧語で話すので、口調からなら判断しやすい。

 

「うん。起きてるよ。どうしたの?」

 

 障子を開けると白い寝間着を着た霊華が立っていた。

 

 ──マジで見分けつかん。付き合いが長くなれば分かるようになるかな? 

 

「ちょっと話したいことがあるんです。いいですか?」

「ぜひぜひ。入って!」

 

 霊華を部屋に招く。部屋の襖を開け、奥から座布団を取り出し、机を挟んで向かいに置く。

 

「明日の異変解決なんですが、良かったら一緒に行って貰えませんか? ……嫌ならいいんですけど」

「別にいいけど、どうしたの?」

「異変解決って妖怪と戦うんですよね? 私の実力だと難しいかなって……でも、行きたいんです。霊夢と魔理沙からかつての異変について聞いてからずっと興味を持っていたので」

 

 霊華はとても真剣な表情で語る。

 

「私はまだ夢想封印を使えないけど、妖怪の動きを抑制するのは得意です。足でまといにならないように頑張るので一緒に行ってください!」

 

 正直驚いた。こんなに熱心な彼女を見たのは初めてだ。本気だという気持ちが伝わってきた。これを受けて「実力が足りないなら危ないから留守番してくれ」とは言えない。

 

 返事は変わらずイエスだ。でもその前に……

 

「異変が起きると、主犯じゃない妖怪でも襲ってくるらしい。妖精とか特に」

 

 俺は一呼吸間を置いて続ける。

 

「……妖怪を退治しに行くことがどういう事か、分かってる?」

 

 霊華の気持ちが本気で、実力もある事は分かっている。俺が知りたいのは根っこの部分。

 

「博麗さんが使える夢想妙珠。あれも充分妖怪を退治できるはず。相手が弱ければ弱い程、より確実に()()()()ことができる。その力を迷わず使うことはできる?」

 

 最初に霊華と竹林に行った時、俺は妖怪化した獣を殺した。その際彼女はとても怒っていたし、悲しんでいた。その事がとても気にかかるのだ。

 

 恐らく霊華は優しい心を持っているのだろう。それこそ、蚊のような小さい虫も殺せないくらいに。そんな優しい子が妖怪退治などできるはずがない。

 

 別に、自分の手を血で染めたくないというのなら俺が代わりにやってもいい。妖怪の体は頑丈だが低級なら俺でも殺せる。しかしその際ストップをかけられると自分たちの安全は保証できなくなる。

 

 低級の妖怪に言葉は通じない。アレは本能のままに生きる動物の亜種。生かしておいては力を持たない人間が襲われるかもしれない。眼球を潰すなり足を切断するなどして無力化すればいいか? 命は取っていないからセーフ。そうはならないだろう。寧ろ殺すことよりも残酷な事だ。

 

「……私は、妖怪退治はしません。話の通じない低級妖怪は動きを封じるだけに留めます。話が通じるなら幻想郷のルール(弾幕ごっこ)で解決します」

「動きを封じるって、具体的にどんな感じ? 結界に閉じ込めるの? それとも、追い払うの?」

「どちらもできます。御札で弾幕を張れば妖怪が嫌って逃げていきます。怖気付かないでそのまま向かってきたら暫くの間結界に閉じ込めます。その隙に離れましょう」

「なるほどね。──仮に、()()()()かつ()()()()()()()()()()()()敵が現れたらどうする? ガタイのいい獣ベースだと普通にあり得ると思うけど」

「その時は……神谷君にお願いしたいです」

 

 おや、そこで俺が登場するのか。

 

「レーザーで消し飛ばしてもいいの?」

「……無理を言っているのは私ですから、お任せします。不用意に殺すのはやめて欲しいですけど」

 

 話をまとめると、低級妖怪とは争いを避ける。中級妖怪は弾幕ごっこで解決する。最悪俺が妖怪を退治したとしても文句は言わないが、できればやって欲しくない。

 

 低級妖怪相手にスターバーストを撃ちたくなる気持ちを抑えればやっていくことはできそうだ。

 

「分かった。一緒に行こう。俺が聞きたいことは大体聞いたけど、博麗さんから俺に聞きたいことはある?」

「ありがとうございます! 創造の能力の詳細とスペルカードについて知りたいです」

 

 それからは互いの実力を頭に入れる作業をした。特に創造の力のイメージを頭の中で完成しておいてもらえたら、コンビネーションを発揮しやすくなるはずだ。

 

 数時間話し込んだおかげで大まかな計画は練り終わった。




ありがとうございました。

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