東方霊想録   作:祐霊

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どうも、祐霊です。

十千刺々は「とおかず ちくちく」と読みます。


#37「いざ、異変解決へ」

「なんだアレ」

「あっちは人里の方向ですよね。どうして……」

 

 今朝目を覚ますと、外の景色が驚くほど変わっていた。人里の方角に、昨日まではなかった竹林が生まれていたのだ。創造した望遠鏡を使って調べたが、紅魔館の方にも広がっているようだ。迷いの竹林の敷地が昨日までと比べて2倍以上広くなっている。

 

「竹ってこんなに早く成長するの?」

「1日1mくらい伸びるって聞きますよね……あれは1ヶ月分以上成長してますよ」

 

 竹の成長速度が異常だ。まるで竹の時間だけが早く進んでいるかのよう。

 

「博麗さんはさ、今回の異変の犯人に心当たりはある?」

「私が会ったことのある人の中で考えるのであれば……三人、ですかね」

「名前と、根拠を頼む」

 

 俺達は今、里の方に見える竹を見ながら真面目に食事をしている。そう、朝食である。

 

 今朝の朝食はご飯と焼き魚に味噌汁といった、ごく普通の和食である。味噌汁は霊華が作ってくれた。味は少し濃いめ。当然かもしれないが具材に味がしっかりと染み込んでいてとても美味しい。俺の好みが分かるのかと訊きたくなる程好きな味だ。

 

「1人目は紅魔館の咲夜さんです。あの人の能力は時間を操ることだと聞きました。時間の加速度を操れば一晩であそこまで成長させられるのも納得です」

「うん。俺も思った。でも、紅魔館にメリットがあるのかね」

「そうなんですよね。だから可能性は限りなく低いと思います」

 

 朝食をとることは大事だ。例え異変が起きていて、これから解決に行くからと言って、焦ってはいけない。霊夢は既に出掛けたようだが、彼女の事だ。直ぐに解決して戻ってくるだろう。

 

 しかし俺達は違う。初めての異変解決なので時間がかかるだろう。ならば腹ごしらえは先にするべき。腹が減っては戦ができぬ、だ。「主犯を見つけたのはいいけど空腹で力が出ません」だなんて話にならないからな。

 

「2人目は永遠亭の人達の誰か。永琳さんは色々な薬を作れるらしいですから、成長剤を撒いたのかもしれません。それと、あの兎さんの発言も気になります」

「てゐだね。落とし穴に落としてきた奴。確かに意味深な事を言っていたけどどうだろうか……。3人目は?」

 

 霊華は御茶碗を持って白米を一口食べる。考え込むように目を伏せながら咀嚼している。

 

 ──ここまでは俺も考えた。恐らく3人目も同じだろう。なんたって、俺たちにとっては忘れたくても忘れられないような相手だから……

 

 嚥下してお茶を飲んだ彼女は、やはり目を伏せながら発言した。

 

「3人目は……あの竹妖怪かな、と」

「……むしろ、アイツが1番可能性あるよね」

 

 霊華はコクンと頷くと箸を置いた。

 

「怖い……よね。どうする。今からでも──」

「──行きますよ」

 

 “行くのをやめるか”。そう言おうとしたのが分かったのか、彼女は言葉を遮って強く発言した。

 

「行きます。できればもう会いたくなかったけど、行かなきゃ。巫女見習いとして……」

 

『巫女見習い』か。この子は霊夢に憧れているのかな。それとも、名字が博麗だからと、博麗の巫女になろうとしているのだろうか。そう思い詰めることもないと思うのだけど……。

 

「危険を感じたら直ぐに撤退しようね。何も解決できなくてもいい。お互い初めてなんだし、ちょっと様子を見るだけで充分だと思うよ」

「そうですね」

 

 霊華は再び箸を持って食べ始めた。

 

 少しは緊張を和らげてあげられただろうか? 

 

 ───────────────

 

「おかしいな、人里がない。この辺だった気がするんですけど……」

「うーん、何せ竹林が広がっているからなぁ。わからん」

 

 かつて、昨日までは人里だった()()()()()()()場所に行ったのだが、何処にも里が見当たらない。空から見た感じ、建物が無いのだ。

 

「竹林が人里の方へ広がったのなら、里は竹林の中にあるはずですよね」

「うん。無いのはおかしい。場所は間違っていない。それは断言できる」

 

 こういう怪奇現象を目の当たりにした場合、現実的に考える人は科学的に証明しようとする。それは俺達がいた世界では全て科学で証明できるということを知っているからである。今わからないことも、数世紀後には解明している事だろう。

 

 しかしここは幻想郷。神や妖怪が生活している世界。科学が発達しておらず無知な人間が多かった時代、怪奇現象は大体『妖怪』の仕業とされた。俺達は非科学的な思考を持たなければならない。

 

「これは、慧音の能力か。確か歴史を食べる程度の能力を持っていた。人里は今隠されているんだよ」

「妖怪の仕業ですか? それなら助けないと」

「いや、慧音は人間を守るために隠しているんだよ。かつての異変でも同じことをしていた」

 

 持っていてよかった原作知識。慧音の能力は隠すだけであって、なくなった訳では無いと聞く。認識できなくなっただけなのだろう。

 

 かつての異変でも、霊夢や魔理沙には見えなくても、一緒にいた紫やアリスには見えていたらしい。恐らく慧音より能力のある妖怪には効かない。今回の主犯に通用するのか果たして謎ではあるが、考える必要は無いだろう。

 

 竹林の端の方を見ていると妹紅の姿が見えた。

 

「妹紅さん!」

「おお、祐哉か。それに霊華も。もしかして異変解決に来たのか?」

「そうなんです」

「そうか、二人とも気を付けなよ。特に祐哉。私はもう、お前を弱いとは思わないし()()()に負けるとも思わない。でもな、何となく嫌な予感がする。だからもう一度言う──用心しなよ」

「……ありがとうございます。無理はするつもりありません」

 

 ───────────────

 

 竹林に入って5分ほど。今回はしっかりと足跡(目印)を残している。これを辿れば外に出ることができる。

 

「うー、寒いね」

「はい……よりによって今日雪が降るだなんて、ついてないですね……」

 

 雪は朝食を食べ終えた頃に降り始めた。今は3月の下旬に差し掛かった頃。もう雪が降ることは無いと思っていたのにな。

 

「……これ、良かったら使って」

「わぁ、ありがとうございます!」

 

 俺はマフラーを創造して彼女に手渡す。実際はただの布切れだが防寒機能を付与した。

 

「さて、この辺でいいかな」

「はい、あの……本当に竹を切らないと出てこないのでしょうか」

「あの妖怪は竹を切られたのを怒って出てきた。それなら竹を切るのが手っ取り早いと思うんだけど」

「それは分かるんですけど、もうこれ以上怒らせると不味いと思うんです」

 

「特に神谷君は竹を沢山消しちゃったんですから」と続ける。

 

 妹紅と戦った時のことを言っているのだろう。デュアルバーストで少なくとも半径1kmは消し飛ばしたと思う。円の面積分更地に変えてしまったのだ。損害賠償請求をされても(命を取られても)おかしくない。

 

 あの時、十千刺々が出てこなかったことがとても気になる。ヤツは「人の身体を傷つけた」と言って怒っていた。何故出てこなかったのだろう。

 

「でも、どうしたら出てくるのかね」

『心配しなくても、お前達は既に拙竹(せっしゃ)の術中にあるタケ』

「──! なんだこれいつの間に!」

「足が……動かない?」

 

 どこからか声が聞こえた。あの特徴的な口調。間違いなく十千刺々だ。そして俺達はいつの間にか捕まっていた。足に竹が絡みついているのだ。

 

 ──動けない。真っ直ぐ伸びる筈の竹がこんなに曲がって……

 

「チクチク……御機嫌よう。感動の再会タケ」

 

 今回の異変を起こした犯人であろう人物は不敵に笑いながら目の前に現れた。




ありがとうございました。

今回の異変は中々にダークですので、よろしくお願いします。……マジでダークです。

〜十千刺々の由来〜
刺々の元ネタは妖怪万年竹。万年→1万→10×1000→十×千
「とおかず」読みは無理矢理です。
刺々は何か刺さると痛そうな名前を考えました。だいぶお気に入り。

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