東方霊想録   作:祐霊

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どうも、祐霊です。

少しは主人公をカッコよく見せられているといいのですが、どうでしょうか……

さて、サブタイトルは「同じ失敗をするな!」です。頑張れ祐哉!





#38「同じ失敗をするな!!」

「くっ……」

 

 竹はまるでコイルの銅線のようにグルグルと巻きついている。竹を切って抜け出したいところだが難しい。安易に刀を創造して振ってみろ。足ごと切れるぞ。かと言ってゆっくり竹を切っている時間はくれないだろう。やつに見られず、なるべく早く切る必要がある。

 

 創造物に力を付与するとしてもどうすればいい? 竹だけを切るという曖昧な設定はできない。こうしている間にもどんどん竹が絡みついて……

 

 ──そうだ。

 

「博麗さん! 2秒後に思い切り空を飛んで!」

「わ、わかりました」

 

 ──良く切れるノコギリ。“鋭利”、“自動制御”を付与。座標はY軸=-10cm !! 

 

「頼むぞ……。創造」

「クッ、お前……」

 

 創造してからしばらくすると、余裕の笑みを浮かべていた刺々の表情が苦痛に歪んだ。俺の実験は成功した。

 

 俺は地中から竹を切ることにした。切るための道具はノコギリ。地中に創造する際、そこにあった土は押しやる仕組みのようだ。

 

 ──創造物は、元々そこにあったものを()()()()()()()()()()

 

 これはつまり、今俺が刺々の胴体を横切るように創造すれば身体は真っ二つになるということ。残酷すぎてとてもやる気は出ないがいいことを知った。

 

 そして2秒後、竹は完全に切断され絡みつく力も無くなった。あとは思い切り空を飛んで竹を引っこ抜くだけだ。

 

「助かりました……ありがとうございます」

「それはいいけど、結局竹を切ってしまったね」

 

 ───────────────

 

「刺々さん、竹林を人里の方へ広げたのは貴方ですか」

「そうタケ」

「元に戻してもらえませんか?」

「断るタケ。戻して欲しければ拙竹(せっしゃ)を倒すタケ。尤も、お前らに負ける拙竹ではないが……」

 

 無駄である。コイツの目的は知らないが、言葉で交渉ができるなら初めから異変なんて起こさないだろう。

 

「それか、お前達が大人しく死ねば元に戻してやってもいいタケ」

「え?」

「拙竹はお前達を決して許さない! 特にお前はな! 神谷祐哉!!」

 

 この前の事をまだ怒っていたのか。知らなかったとはいえ、アイツの身体を傷つけてしまったのだから当然だろう。自分の手足を傷つけられて怒らない人はそう居ない。だから俺は最低限のケジメをつけることにした。

 

「竹を切ってしまってごめんなさい」

「今更謝っても遅いタケ! お前と妹紅が戦っていた日、何本の竹がダメになったと思う? ……凡そ6300本タケ」

 

 刺々は針のように細く長い髪を棚引かせつつ声を張り上げる。

 

「竹林を再生する為には力が必要だった。数割の力を()()()()拙竹は異変を起こすことにしたタケ。更地を復興するには人間の住む里の方へ竹を生やした方が効率がいいからタケ!」

 

 数割の力を、()()()()

 

 竹林を構成している竹は全て刺々の身体。その身体の一部が更地になった(無くなった)

 

 刺々は俺と妹紅が戦っていたあの時、身体の損傷が大きすぎて動けなかったのか。成程、それならあの時俺の前に現れなかったことに納得がいく。

 

「人間の恐怖心から力を得たおかげで一晩で元通りタケ。そして、()()()()()()()()()()()()()タケ。あとはお前達を殺すだけ」

「俺を殺そうとするのは構わない。でも、あの子は見逃して欲しい。あの子は悪くない。全て、俺が悪いんだ」

「チクチク……駄目タケ。あの女は先に殺す。二人とも殺さないと拙竹の気が済まないタケ」

 

 刺々はそう言って霊華の方へ手を伸ばす。掌から竹棒の先が顔を出しているのが分かる。これは、不味い! 

 

「博麗さん、一旦合流しよう!」

「させないタケ! ──縛符『十千(とおかず)の織り成す狭隘(きょうあい)』!!」

 

 刺々はこの前と同じスペルカードを使ってきた。この技は自分の髪を切って、その場に留まらせ、切った髪から無数の竹千本が飛んでくるというもの。但し、この千本は直接対象を狙うことはせず、上下左右を細かく狙うことで閉じ込める技。

 

 1対1の場面では全く意味を持たないだろう。しかし一対多の場合、相手を分断できるので強力だ。

 

 ──この前の敗因は分断された事に焦って思考停止した事

 

「俺の周りを一周させなければいいだけだろ? 知ってんだよ」

「タケ。実はこういうこともできるタケよ」

 

 分身だろうか。彼女がニヤニヤ笑うと、数体の刺々が幽霊のように現れた。そして各々が自身の髪を切って千本を飛ばしてきた。

 

「これで狭隘の完成タケ。チクチク……そこで大人しくしているタケ。それと──」

「きゃっ!」

「拙竹は竹を自在に操ることができるタケ。こんな風に、竹を曲げてお前を捉えることもできる」

 

 十千の織り成す狭隘。飛んでくる竹千本の隙間から見える霊華は、周りの竹から伸びた枝に捕まっていた。枝は少しずつ太くなり、逃れようと暴れていた彼女は身動きが取れなくなってしまった。

 

「チクチク……さあもっと鳴け。恐れろ! ここに来たことを後悔し、連れてきたあの男を恨みながら死ね!」

「動け……ない……!」

 

 刺々はふわりと浮かび上がって霊華に近づいていく。霊華へ向かって伸ばしている掌からは竹棒が見える。

 

「よく見るタケよ。仲間が殺されていく様をな。その為にわざと()()()()()()()()()()()()()タケ」

 

 俺は今、四方八方から飛来する竹棒によって動きを制限されている。つまり、本来は外の様子が竹棒に遮られて見えない筈である。だが、霊華の様子はちゃんと分かる。刺々は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()竹千本の配置を調整したということだ。

 

 ──恐れちゃダメだ。思考を止めるな。あの時の反省は何度もしただろ! 

 

「チクチク……怖くて声も出ない。そんな顔をしているタケね。どうだ? あの男が恨めしいか?」

「私、は……」

「私は?」

「神谷君を……信じています……。今だって怖いけど、今回もきっと、いつもの様に助けてくれる!」

 

 ──ああ

 

「チクチク……他力本願タケ。ここ(幻想郷)はそんな温い考えで生きていけるほど甘くないタケよ!」

 

 刺々は掌から竹棒を飛ばした。その竹は1秒と経たずに彼女の身体を貫くだろう。

 

 ──大丈夫。今度は助ける。絶対にだ! 

 

「己の無力さに涙を流しながら死ね!」

「させねえよ!! ──創造!」

 

 霊華を穿つ筈の竹棒はバキン! と言う音を立てて割れた。その様子に驚いた刺々は再び、三度、何度も何度も竹棒を飛ばすが全て割れていく。

 

 今頃アイツの頭の中はクエスチョンマークで満たされていることだろう。ほんの数秒、5秒くらいあればいい。それだけあれば俺は狙いを定められる。

 

 バキン! 

 

「縛っていた竹が……」

「消えた……何故タケ!?」

 

 霊華を縛っていた竹は唐突に切れて落下した。これで彼女は再び自由を得た。

 

「一体……何をした?」

「ふふん。だーれが教えるか“タケ”」

「おかしいタケ! 拙竹はお前と妹紅の戦いを全部見ていた。お前の能力は物を生み出すこと。()()はできないはず」

()()()()()()……想像力が足りないタケよ」

「貴様! 拙竹の真似をするなタケ!」

 

 へえ、自分の語尾や口癖を真似られると気に食わない質なんだ? 

 

 俺がやったのは竹の破壊ではないし、破壊物の創造でもない。俺はただ、竹棒がある位置に竹棒を創造しただけだ。

 

 創造の能力は、物体を生み出す際指定した座標に存在する物を無視できる。

 

 2つのボールがあるとして、これらを何の道具も使わずに1つのボールにすることは可能だろうか。

 

 恐らく不可能。

 

 物体と物体を少しのズレもなく重ねることはできないのだ。

 

 だがもし、仮にできたらどうなるのか。

 

 答えは簡単。既にそこにあった物、新しく生み出された物、両方とも破壊される。

 

「物体は、X軸Y軸Z軸全てが同じ座標には居られないのさ。俺はそんな()()()()()()()を利用しただけ。分かりにくいだろう? 当然だ。説明する気は無いからな」

 

 物体に物体を重ねて破壊する技術の名前を内部破裂(バースト)と名付けよう。

 

 この内部破裂(バースト)、一見無敵に思えるがそうでも無い。この技術はかなりの集中力が必要だ。何せ上乗せする物体の座標想定が数ミリの誤差も許されないのだ。少しでもズレると失敗する。

 

 内部破裂(バースト)を使う際は“動体視力強化”と“ドーパミン分泌促進”能力を付与した眼鏡が必要。

 

 最近よく使っている「動体視力強化」だが、長く使うと慣れない視覚情報を得ている影響で気持ち悪くなってくる。

 

 ドーパミン分泌促進も頻繁に使ってしまうと効き目が薄くなり内部破裂(バースト)も使えなくなってしまうだろう。

 

 ──ここぞという時に使う切り札だな

 

「こんな……人間如きに……拙竹が苦戦するとは!」

「ほら、何動揺しているんだよ。まずは俺を殺さないと。何度やっても同じ。霊華は殺させないからね。厄介者は早めに潰す。それが鉄則だろう」

「……そうタケね。お前を先に殺した方が、女の恐怖心を煽れそうタケ。チクチクチク」

 

 狭隘の技が解かれた。これでやっと動ける。さて──

 

「弾幕ごっこをしようか。俺が勝ったら竹林を元に戻してもらう」

「では拙竹が勝ったらお前には死んでもらうタケ。竹林も戻さない。残機は2、スペルカードは最大5枚まで」

 

 圧倒的に不平等な契約だ。

 

「拙竹が負けたとしてもまた再び異変を起こせるタケ。その契約で本当にいいタケ?」

「ああ、いいよ」

 

 雪は未だ降り続けている。吐く息が白い。地面はとっくに白くなっていて、刺々とやり取りをしている間にもどんどん積もっていく。

 

「風邪を引きそうだ。さっさと始めよう」

「チクチク……心配せずとも、風邪なんか引かないタケ。ここで命を落とすのだから! ──恐符『狭隘の闇』!!」

 

 先に動き出したのは刺々の方だった。スペルカードの宣言をするのと同時に俺の周りを囲うように分身を生み出した。その分身は先程の『十千の織り成す狭隘』と同じように髪を切る。

 

 ──十千の織り成す狭隘と比べると間隔が少し広いな。

 

「さて、仕事の時間だぜ──使い魔君」

『『()()100%、いつでも起動できます』』

 

 俺の使い魔は日光や月光、星の光でエネルギーを充填できる。今のような天気では充填効率が悪い。俺が呑気に刺々と話していたのは時間稼ぎだった。

 

 太陽光から充電できるのは霊力。因みにアクアバレットは魔力でしか使えないので今回の戦いでは使えない。

 

「『狭隘の闇』は勿論『十千の織り成す狭隘』とは違うタケ。呑気に構えていると死ぬタケよ」

 

 刺々がそう言うと、狭隘の中に竹棒が入ってきた。目の前から飛んできたので直ぐに気づいて避けることができた。

 

「精々気をつけるタケ。四方八方何処から飛んでくるか分からないタケ。チクチク……」

 

 ──成程ね。相手を狭い空間に閉じ込めて、そこに竹棒を打つ事でプレッシャーを与える技か。

 

 仕組みがわかったところで竹は何処から飛んでくるかわからないので苦しい。キョロキョロと周りを見て、狭隘と壁の境界を破った物を視認してから避けるのは厳しいだろう。

 

 動体視力を強化しても後ろから飛んでくる竹には反応できない。

 

「任せたよ使い魔君」

『『了解』』

 

 俺は二体の使い魔に掴まって足を地面から浮かす。竹棒を躱すことを使い魔に任せることにしたのだ。人工知能を搭載した俺の使い魔は機械と同じ。演算能力、判断力、あらゆる面で人間を凌駕しているため何処から竹が飛んできても常に最善な避け方をしてくれる。

 

「随分と奇妙な避け方をするタケ」

 

 刺々はスペルカードを止めて言った。

 

「狡いとは言わせないぞ。妖怪であるお前の方が圧倒的に有利なんだからな」

「好きにするタケ」

「どうも。──創造『 弾幕ノ時雨・狂(レインバレット)』!!」

 

 今度はこちらの番。俺が指を鳴らすのを合図に数百の剣が現れる。それら全て黒ひげ危機一髪の様に刺々を穿とうとする。

 

 刺々は空を飛ぶことでそれを回避。余裕の笑みを見せてくるが、そんなものは自分の頭上に現れた魔法陣を見て直ぐに崩れ去った。

 

 弾幕ノ時雨・狂は3段階に分けられる。相手の斜め上から無数の剣を降らせることで空に誘導。その後間髪入れずに頭上から槍の雨を降らせる。そして最後に上からの槍と横からの剣による弾幕。

 

 俺が自力で使えるスペルカードの中では最も高密度の技だ。

 

 鈴仙には完璧に攻略されてしまったが、それは見切りの速さと瞬発力を兼ね備えていたからだ。普通の妖怪には充分圧力をかけられる。

 

「クッ……狭いタケ」

 

 刺々はとても苦しそうに避けている。スペルカードの密度に加え、竹林という環境が余計に難易度を上げるのだ。

 

 実際に刺々は降り注ぐ槍に気を取られて、元から生えている竹にぶつかった。その際生じた僅かな動揺が致命傷。天より降り注ぐ槍は刺々を串刺しにした。

 

「うわ、我ながらエグいスペルカードだな。妖怪にとって大したダメージにはならないんだろうけど」

「ぐぅ……侮っていた」

「お前、俺と妹紅の戦いを見ていたって言ってたよな。それなら俺の強さも分かっていただろ。なんで油断した? お馬鹿かな? あれれ? もしかしてお前ってチョロい?」

 

 見たところ十千刺々という妖怪は特別な力を持っている訳では無い。かつて幻想郷で異変を起こしてきた強者と比べかなり劣る。要は『対して重要ではない異変』なのだろう。

 

 異変解決初心者の俺たちにとってもってこいのチュートリアルだ。

 

「この調子なら直ぐに勝てそうですわ。あれ、俺を殺すんじゃなかったっけ。本気出した方がいいんじゃないの?」

 

 先程からめちゃくちゃ煽っているのはわざとである。挑発に怒ってくれたら次のカードで勝てそうだから。雪が止む気配もないし、さっさと帰りたいのだ。

 

 ──もう異変解決は終わったようなもの。

 

「本気──出してもいいタケ? チクチク……」

「好きにしなよ」

「そうタケか。チクチク……。お前、もうすっかり勝った気でいるタケね。少しは考えないタケ? 相手が『勝利を確信しているところを突くのが好き』だという可能性を!」

「え……考えてたけど?」

 

 どうしよう。その可能性は()()()()()()()()。つまりなんだ。コイツは敢えて被弾することで俺をぬか喜びさせたのか。

 

 ──ハッタリに決まっている。

 

 と思いたいところだがそれは愚考だ。

 

「チクチク……それではお言葉に甘えて本気を出させてもらうタケ。機は熟した。──『妖気解放』」

 

 刺々が低い声で呟くと突然突風が襲ってきた。それは雪を運び、吹雪となる。

 

「くっ! 一体なんなんだ」

 

 吹き荒れる雪の中、辛うじて視認できたのは光り輝く刺々の姿だった。

 

 それだけではない。何か肌を突き刺すような感じがする。得体の知れない物に命を握られているような感覚……。

 

 ──これが妖気か? 

 

 霊夢や霊華と違い、俺には霊力や妖力の感知ができない。でもここまで強いと素人でもわかる。『恐らくこれが妖気だ』と。

 

 つまり今刺々(アイツ)はパワーアップしているという事だ。

 

 本当に余計なことをした。あそこで煽らず、じっくりと戦えばよかった。第2ラウンドはかなり厳しい戦いになりそうだ。

 

「チクチク……この姿を見せるのは久しぶりタケ」

 

 突風が止むのと同時に刺々の発光も収まった。

 

 刺々の身長は約50cm程伸びており、人間と変わらない体格は竹らしい雰囲気へと変わった。身体の色は萌黄色にかわり、可愛らしい顔も妖怪らしく化け物のようになった。

 

 




ありがとうございました。今回はなんとか霊華を守ることができましたね! うん、成長した。

さて、次回は十千刺々の本気です。お楽しみに!

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