ジメジメとしていて蒸し暑い。そこら中に茸が生えていて、みんな見たことのない形をしている。殆どのソレは
──ここは魔法の森。木が高く、陽射しは全く入ってこない。そのため、幻想郷で一番湿度が高い場所となっている。俺は今、とある人物を訪ねるために来ている。
「無事に着いたのはいいけど、家の場所も聞いてくればよかったな……」
今の状況はちょっと不味い気がする。実はさっきからなんとなく頭が痛いのだ。これは恐らく胞子の影響を受けていると思われる。俺の知識が合っていれば、ここは特殊な胞子が飛んでいるはずだ。そのため人間や一般の妖怪には住みにくい環境だという。
だが一方で、
しかしそうは言っても森の中は広いため探すのには骨が折れそうだ。考えても仕方ない。とりあえず探そう。
───────────────
──三十分後
あれから三十分、ひたすら探し続けましたが……何の成果も! 得られませんでした……! 既に大量の胞子を吸い込み、とても苦しいです。それだけではありません、さっきから目がおかしいのです。周りに生えている茸がちょっとずつ動いているように見えます。それも笑いながら、こちらに近づいて来るんです。魔法の森の茸って動くの? もう怖いから帰ろうかな。でもダメ。どうすれば出られるかもわからない。なんか前にもこんなことがあったような……。もう嫌、森は嫌い!
「……? 貴方、どうかしたの?」
ああ……遂に綺麗なお姉さんまで見えてしまった。そうか、幻覚か。
「その様子、化け物茸の胞子にやられたのね。私の家、すぐそこなんだけど動ける?」
ええい、もうどうにでもなれ。このままここにいても仕方ないし付いて行ってみよう。
───────────────
「どう? 部屋は寒くないかしら?」
「はい。丁度いいです」
「よかった。はい、これ飲んでね。しばらく経てば楽になるから」
「ありがとうございます」
水と思われる液体が入ったグラスを受け取ると、お姉さんは部屋を出て行く。水を飲んで周りを観察する。すると、部屋のあちこちに人形が置いてあることに気づく。
──人形……?
あれ? 今のお姉さんって『アリス』じゃね? 何で気づかなかったんだろう。
つまり俺はぼーっとしている間に目的の人に会って、家にお邪魔しているってことか。
え〜どうしよう。お話ししたいな。でもどこか行っちゃったな。落ち着いてきたし探してみようか。
早速アリスを探しに行こうとドアノブに手をかけようとすると、ドアが開く。
「おわっ!?」
「きゃっ!?」
お互い予想していない人が目の前にいて驚いてしまう。同じタイミングで「ごめんなさい」といい、苦笑いを浮かべる。ここまでのシンクロ率は中々のものだ。
気を取り直して椅子に座り、アリスが持ってきてくれた紅茶とクッキーを食べる。大体五ヶ月ぶりの紅茶とクッキーはとても美味しい。元々外の世界にいた時もあまり食べる機会がなかったのもあるが、恐らく今まで食べたものとは比べ物にならない美味しさだ。
「口に合えばいいんだけど……と、その心配はなさそうね」
「とても美味しいです! あっ、すみません。そんなにがっついてるつもりは無かったんですが……」
「ふふ、ありがとう。そういう意味じゃないから安心して」
アリス……とても綺麗な人だ。ウェーブのかかった金髪で肌の色は薄い。青いワンピースを着ており、ロングスカートを穿いている。肩には白いケープを纏っている。服には疎いためうまく表現できないが、部屋にあるどの人形よりも人形らしい見た目、と言えば伝わるだろうか。お姉さんとは言ったがその容姿を見る限り俺とあまり歳が変わらなそうである。
「あの、助けていただいてありがとうございます」
「気にしないで。でも人間がこの森に来るなんて珍しいわね。それにその格好、もしかして外来人?」
「はい。数ヶ月前に幻想入りしました」
それから、幻想入りしてからの三ヶ月間を話す。博麗神社でお世話になっていること、護身のために修行をつけてもらってること、その他にも他愛のないことを話した。アリスに会いに来たと言うと「物好きな人ね」と言われた。
原作知識のことだが、直接的に言うことは避けた。霊夢と魔理沙に色々教わったということにしている。まあ嘘ではない。実際知らないことばかりで、最初の方は驚きっぱなしだった。
これから一週間くらいかけて、紅魔館と白玉楼を訪ねる予定だと話すと、夕方頃に案内して貰うことになった。紅魔館の主は夜型だからだそうだ。それまでの間、ここでゆっくりさせて貰う。外の話や、アリスの魔法の話をしているうちにあっという間に時間はすぎていき、気づけばもう陽が傾いていた。
───────────────
「さて、そろそろ出かけましょう。その前に……」
アリスが魔法をかけてくれる。これがあればしばらくの間胞子の影響を受けないようだ。魔法の力ってスゲー! 道中歩きながら、紅魔館について教えてもらう。わかりやすく言えば吸血鬼が住む館で、何年か前に建物と一緒に幻想入りして来たとか。それは知っていたが、憧れの人に説明してもらっていると思うと嬉しくなってくる。説明の内容よりも説明してもらっていることに幸福感を覚えるのだ。なにより、アリスの透き通っていて綺麗な声を聴けるのだから文句などあるはずがない。
──霧の湖──
森を出た頃から急に寒くなった。しばらく歩くと『霧の湖』に着く。ここは昼間になると原因不明の霧が発生するという。満月の夜に釣りをするとヌシが釣れるとか。
──おや、あの二人は確か……
「あっ! アリスだ!」
「こんばんは、アリスさん」
「こんばんは。久しぶりね」
ほう。この三人は知り合いなのか。一人の少女は赤いリボンが付いた青い服を着ていて、背中から氷の羽が生えている。
もう一人は黄緑色の服に黄色いリボンを付けている。この子にもやはり羽が生えている。こちらは如何にも妖精らしい羽だ。既にお察しかもしれないが、二人は人間ではない。
「そいつは誰? アリスの男〜?」
「ち、違うわよ? この人とは今日会ったばかりで、今は紅魔館に案内してる途中なの」
「神谷祐哉です。宜しく」
「あたいはチルノ。よろしく!」
「大妖精です。宜しくお願いします」
青い服を着た方がチルノで、緑色の方が大妖精。この大妖精は原作では名前が付いていない。ファンによって「大妖精」と名付けられた。通称「大ちゃん」
「ねえ祐哉。折角だしチルノと遊んでみたらどうかしら」
「へ?」
「お! サイキョーのあたいに勝負を挑むとは! 後悔するなよ!」
え、ええ……。ちょっと油断して「二人とも小さくてかわいいな〜」とか思ってたら急に戦いが始まりそうなんだけど。……仕方ない。こんなやる気満々な顔をされたら断れないじゃないか。旅に出て最初の相手はチルノだ。
「じゃあ遊ぼうか」
ルールは被弾一回、スペルカード一枚での勝負。俺達は湖の上で向かい合い、勝負を開始する。最初は挨拶程度の弾幕を放つ。俺の通常弾幕は細い鉄の針だ。これは霊夢の退魔針を参考にしている。まあ、ただの針だけど。
「行くぞー! 氷符『アイシクルフォール』!!」
チルノが宣言した途端周りに冷気が広がる。少しずつ氷柱が生成され、左右からこちらの方へ降ってくる。うっわ、寒っ。今冬だぜ? やめてくれよ。
しかしこの弾幕、寒いだけでそう大したことはない。何故なら、アイシクルフォールは正面安置だからだ。真正面……チルノの目の前にいれば当たることは無い。ならば一気に終わらせてもらおう。俺のもう一つのスペルカードの出番だ。
「行くぞ、創造『
創造『
弾幕の密度から互いにEASYクラスの技を出していると言える。
「ははは! どうした当たらないぞー!」
「そっちこそ。正面ガラ空き、簡単すぎるね」
「なんだとー! 」
ふふふ……いい感じに挑発に乗ってくれたな。俺の勝ちだ。
五、四、三、二、一……今だな。
「あぅ〜」
「へへへ、油断したな」
狙い通り注意力散漫になったチルノは突然増えた波紋に対応できずに被弾した。……しかし何だろう。勝ったのにあまり喜べない。元々こういうスペルカードだから、ズルをしたわけじゃないんだけど……。
「おめでとう。……どうかしたの?」
「ありがとう。ねえアリス。俺ってズルしたかな?」
「そんなことはないと思うけど……。段々激化するタイプのカードは普通にあるし、気にすることはないわよ」
「そうか……」
チルノは被弾した衝撃で湖に沈んじゃったけど大丈夫かな……。大妖精……大ちゃんが「チルノちゃ〜ん」と叫びながら助けに行っている。可愛いなあ。
───────────────
「う〜 お前強いな。よし! お前をあたいの子分にしてやる!!」
「面白そうじゃん。ありがとう!」
「祐哉……貴方変わってるのね」
む。今アリスに呆れられたような気がするぞ。チルノの子分、面白そうだけどなあ。自分が負けた相手を子分にしようとするところがもう面白いよね。この子と居れば退屈しなそう。折角この世界に来たんだから、楽しまなきゃな!