東方霊想録   作:祐霊

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#40「Lost bamboo grove」

 

 ──全部俺が!! 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──()()してやる!! 

 

 

 

 

 

 

 そう思った時、俺の頭の中に様々な情報が入ってきた。聞いたことの無い情報。力。俺はこれに賭けることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

「──『()()()()()()()()()()()()』。発動! 時よ戻れぇぇぇえええ!! 戻れと言ったら戻れ! この子が傷付く前に!! 俺はどうなってもいい! だから! 戻ってくれぇぇぇぇぇえ!!」

 

 声が枯れるほど叫んだ。

 

 

 そして確かに耳にした。

 

 

 ガゴン、という回っていた歯車が動きを止めたような音が聞こえた。

 

 

 

 

 ──不思議なことが起こった。

 

 

 

 

 地面でうつ伏せに倒れている彼女。腹からは大量の血が流れて積もった雪を赤く濡らしている。それが、段々と消えていった。

 

 血溜まりはみるみるうちに無くなっていき、雪は赤から白へ戻った。

 

 ──まさか、本当に!? 

 

 心做しか彼女の顔色も良くなったように感じる。

 

 俺は慎重に彼女の身体を回転させ、仰向けに寝かせる。

 

 ──やった!! やったんだ! 何がどうなっているかは分からないけど、霊華は助かったんだ! 

 

 彼女の白い肌は何処を見ても傷ついた様子はなかった。

 

 俺は彼女の首筋に手をやって脈をはかる。──大丈夫そうだ。普段の霊華の脈を測ったことは無いけど、大体平常時の俺と同じか少し速いか。弱っている様子はない。

 

「よし……一先ずは安心──グゥ……」

 

 彼女の回復を確認し、立ち上がろうとすると酷い立ちくらみに襲われた。

 

 ──立ちくらみや目眩……嗚呼成程。

 

 数度経験してきた立ちくらみや目眩。これに襲われる時は毎度霊力が一気になくなった時に限っている。そして今回も同じだった。

 

 ──ヤバ……急に重力が強くなったように、身体が重たくなった。指の一本も動かせない。

 

 時間を止めた時と同様に、目を開けていると視界がグルグルと回っている。吐き気を催すような目眩。満タンからまるで()()()()まで持っていくかのように減った霊力。

 

「く……そ……傷口、がぁ! 開いたな……」

 

 傷口を塞ぐように当てた創造物も消えている。

 

『彼女の身体の時間を巻き戻した時、霊力が一気にゼロになりました。僅か1分間でさえ時間の巻き戻しにはかなりの代償があったのです。霊力が足りず、臓器の一部が破裂しています』

 

 くぅ……激しい痛みに耐えながらアテナの話を聞くのは難しい。このままでは死ぬという事は流石にわかる。

 

 ──少なくとも、刺々を倒すまでは死ぬわけにはいかない。俺がここで死んだら同じことが繰り返されるだけだ! 

 

「がぁ……創造……」

 

 ──『MP回復』! 

 

『霊力で臓器の傷口に蓋をします。ですが長持ちはしません。早々にこの場から逃げるか、あの者を倒してください』

 

 逃げる? そんなことはしない。する訳にはいかない。俺は怒っているんだ。霊華を傷つけた刺々が許せない。アレを殺さない限り終われない。

 

「チクチク……女を治療したのか。どうやったのかは知らないが相当な負担がかかるようタケ」

「はぁ……はぁ、俺がやったのは()()なんてもんじゃあないんだよ。治療っていうのはよぉ、適切な手当をして自然回復を見守ることだ。俺が今やったのは、身体の時間を巻き戻すこと。言い換えれば……()()()()()()()()んだよ」

「チクッ! チクチクチクチク! それが本当ならお前は神の力を使えるということになるタケね。だが! 無駄な事! その力とて常に使える訳では無いはず。つまり、拙竹とお前達の戦闘力の差は変わっていない。もう一度殺して欲しいタケェ?」

 

 確かに、俺が念じて使ったということはこの能力も発動型。そして恐らく使う度に霊力を消費する。

 

『貴方が()()()()『全てを支配する程度の能力』ですが、これを使う為の条件があります。説明している暇はありません。あの能力を使わずに倒してください』

 

 条件、か。分かった。一先ず、今まで通り創造の力だけで戦えばいい。一応考えがある。だから大丈夫なはずだ。

 

「させると思うか? お前は俺が殺す。絶対にだ。思うに、仮にお前を真っ二つにしたところで真の意味で倒したことにはならない。十千刺々という妖怪は、迷いの竹林の意思。竹林全体が本体。ならば、狙うのはお前ではない」

「──貴様! 遂に気づいたタケか!」

「この竹林を──焼き払ってやる!! 二度と回復できないよう、根っこの欠片も残さずにだ!」

「……酷い話タケ。考えてみろ。拙竹は被害者タケ」

「あ?」

「拙竹だって、竹林を傷つけられない限りはこんなことしないタケ。妖怪が人間を喰うことは結果的に自分の存在を危うくさせるだけ。……お前達は、竹林の竹を切った。そしてお前は妹紅と戦った時に大量伐採した。お前達人間の感覚で言えば、突然通り魔にあって四肢をもがれたようなもの。それで怒らない奴が何処にいるタケ? だから拙竹はお前達に仕返し(復讐)すると決意した。わかるタケ?」

「…………」

 

 確かに、刺々の言うことは尤もだ。元はと言えば俺達が悪い。特に俺は先日の戦いでかなりの面積を巻き込んでしまった。正直、反論できない。

 

「……殺すなら、俺だけにして欲しい。彼女を見逃してくれるなら、罰は甘んじて受ける」

「チクチク……チクチクチクチクチクチク!」

 

 俺が本心を告げると刺々は狂ったように笑う。そして──口を開いた。

 

「ダメだと言ったはずタケ。お前の大事な女も一緒に殺す。正直、竹を切った量の問題ではないタケ。1を切った女と、10を切ったお前。罪の重さは勿論お前の方が重くなる。だが──」

 

 どうしてもダメか。俺だけでいいなら本当に殺される覚悟はしたのに。霊華は死なせない。あの子に竹を切らせたのは俺なんだ。竹林に連れてきたのも、俺。巻き込んだ俺が全部悪い。

 

「──1は、0では無い。わかるタケ? 1と10を比べたら確かに1は軽視される。だが、1は1。1の時点で罪なんだよ」

「……そうか。それなら俺はどうしても負けるわけにはいかなくなる。後味が悪いが意地でも強行突破させてもらう!」

「ハァッ! やってみろタケ! 拙竹から逃げることができたら不問にしてやるタケ! 感謝するんだなぁ!」

 

 

 

 

 ───────────────

 

 十千刺々は竹を使う妖怪。アイツなら今回の異変を引き起こせるはず。そう思って退治しに行ったのだが、あっという間に退治できてしまった。

 

 異変の規模のわりにアイツは弱すぎる。

 

「どうも解決した気がしないのよね……」

 

 ため息をついたその時だった。どこか遠くにとても強い力を感じる。

 

「この感じ──! でも、強すぎるわ。私が霊力感知を間違えるはずがないのだけど……」

 

 感じた強い力というのは霊力。そして、一度会ったことがあれば霊力の質から持ち主も当てられる。

 

 ──これは間違いなく、祐哉の霊力。

 

 しかし、強すぎるのだ。

 

「まさか、全ての霊力を一気に使ったんじゃないでしょうね。そんな事したらただじゃ済まないわ」

 

 取り敢えず様子を見に行こう。そう思って地面から足を離そうとした時、そいつは現れた。

 

「遂に来たのね。うふふ、良好だわ」

「……紫。アンタが出てきたってことは只事じゃないようね」

「お喋りをしている余裕があるのかしら? 貴方のお友達を心配した方がいいんじゃない?」

 

 ──やっぱり祐哉と霊華に何かあったのね。

 

「良く聞きなさい霊夢。今回の件でもしも竹林が消えるようなことがあれば、私は消した物を始末するわ」

「何を言っているの? そんなことできるわけないじゃない! もう行くわ」

 

 私は紫の意味深な発言を無視して、霊力を感じた方向へ向かう。

 

 ───────────────

 

「今度は竹林全てを焼き払ってやる!!」

「待ちなさい!!」

「──!」

 

 デュアルバーストを使おうと魔法陣を展開した時、第三者の声が突然飛んできた。

 

「霊夢じゃないか。どうした?」

「はぁ、はぁ、『どうした?』は私のセリフよ。さっき強い霊力を感じたけど、何があったの?」

「チクチク……拙竹を前に余所見をするとは余裕タケね!」

「──煩い。アンタは黙っていなさい。『八方鬼縛陣』!!」

 

 霊夢が大量の御札をばらまいて結界を作った。この陣に捕まると身動きが封じられてしまう。

 

「おい霊夢。何で俺まで巻き込むんだよ!」

「確認させて。貴方達、二人共無事なの?」

「──嗚呼、()()()。それより、離してくれないかな。俺はコイツを……竹林を、焼き払わなくちゃならない」

「ダメよ。この竹林を消すことは認めない。過剰よ」

 

 ───────────────

 

『やらせちゃえばいいのに』

 

 ──その声、紫ね。テレパシーって奴かしら

 

 嫌よ。だってアンタ、祐哉を殺すつもりでしょう? そんなことはさせないわ。

 

『嫌ねぇ。アレは過程と結果次第の話よ』

 

 私は、祐哉が処分される可能性さえも作りたくないの。邪魔しないで。

 

「過剰、ねえ。知っているか? 十千刺々の本体は迷いの竹林その物。今目の前にいるアイツを倒しても無駄だ。アレは竹林から生まれた意思の塊。刺々を倒すなら、竹林を消さないと」

「それなら、弾幕ごっこのルールで契約すればいいのよ」

 

 こちらが勝ったら竹林を元に戻せ、と最初に約束してから戦えば済む話。祐哉もそれは知っているはず。

 

「……霊華は、一度殺されかけたんだ。俺はそれが許せない。アイツを、殺さないと、気が済まないんだよ」

「…………」

 

 霊華が殺されかけた? 彼処で仰向けに倒れているけど傷らしい物は見当たらない。妖術にでもやられたのか。

 

 ──どちらかと言えば祐哉の方が死にかけている。

 

 辛そうではあるけど、重症ではないのかしら。

 

「どんな事情があろうと、認められないわ。どうしても焼き払いたいというのなら私は貴方と戦うことになる」

「何故だ? 竹林は幻想郷にとってなくてはならないとでも言うのか?」

 

 違う。これは貴方を守るため。

 

「さあ、どうするの? スペルカードルールに則るのか、私と戦うか」

「……チッ、分かったよ。霊夢には勝てそうにない」

「約束よ。破ったら問答無用でその力を封印するから」

 

『あら霊夢。器用になったのね』

 

 ──いざとなったら、神降ろしをしてでも封じ込めるわ。祐哉を守るためなら。

 

『……貴方をそこまでさせるなんて、本当に大切な友達なのね』

 

 ──別に、祐哉だけじゃないわよ。

 

「大丈夫だ。霊夢を裏切るようなことはしない。なるべく被害は小さくするさ。──霊華を頼む。気絶しているだけで傷は無いはずだが……永遠亭に連れて行って欲しい」

「任せなさい」

 

 私は雪の上で寝ている霊華に近づき、彼女の服に積もりかけている雪を払う。

 

 胸に手を当てて心臓の鼓動を確認する。

 

 ──眠っているだけ。恐らく術にもかかっていない。一体どういう事? 

 

「後で聞きたいことがあるわ。死なないでね」

「情報のために、か?」

「……馬鹿ね。皆で宴会を開くからに決まっているでしょ」

「ああ、それは楽しみだ。頑張るよ」

 

 ──これは、祐哉の戦い。これ以上邪魔はしない。

 

 私は八方鬼縛陣を解除して永遠亭に向かった。

 

 

 ───────────────

 

「チクチク……忌々しい陣だったタケ。巫女が敵じゃなくてよかったと、心底思っているタケよ」

「それは……俺を舐めているのか? それとも、凄く舐めている?」

「チクチク……圧倒的な力の差は見せつけたはずタケ。お前は本当に拙竹に勝てると思うか?」

「勝てるさ。()()()は無くなったからな。そしてお前相手に出し惜しみするのは無謀だということも、嫌という程理解した。本気で力を使わせてもらう。卑怯とは抜かすなよ? 竹妖怪!」

「チクチク! 威勢のいい人間は嫌いじゃないタケよ! もう一度貴様の顔を絶望の色に染めてやる! そして今度こそ地獄へ送ってやるタケェ!!」

 

 長かった睨み合いが遂に終わった。俺達は同時に()()()()()退()()()弾幕を展開した。

 

 迫り来る竹棒は一撃必殺。当たったら今度こそ死ぬだろう。

 

 ──創造。眼鏡……動体視力強化を付与! 

 

「来い! 3体目の使い魔君! ──鏡光『リフレクト・トラップ』!!」

 

 3体の使い魔はそれぞれ別々の位置からレーザーを放つ。刺々はレーザーの予告線と角度から推測して躱してみせる。

 

「避けきれるかどうか実験させてくれ」

 

 俺は身の回りに反射鏡を創造する。数は20個。使い魔の放つレーザーは反射鏡に触れて角度を変えていく。

 

 実際にこのスペルカードを使うのは初めてだ。

 

 ──鏡光『リフレクト・トラップ』は鈴仙との戦いで閃いた技。

 

 鈴仙相手にレーザーが効かなかったので試すことができなかったスペルカードだ。刺々の避け具合で反射鏡の数を調整する必要がある。増やしすぎて不可避になっては反則だからな。

 

「チクチク……これは中々面白い。程よい難易度タケね」

「貴重な感想どうもありがとう」

 

 使い魔のレーザーは極細にしてある。それは蜘蛛の巣のように相手を包囲する。

 

 ──更に3体の使い魔から弾幕を撃たせる。

 

 刺々のデカい図体ではレーザーの網を気にしつつ弾を避けるのは大変なものだろう。

 

「──見せてやろう。拙竹の最後かつ最強スペルカードを! ──『竹竹・竹竹竹竹・竹竹(Lost bamboo grove)』!!」

「──何だその名前は! ふざけているのか!」

「──失敬な! 竹林の恐ろしさ、存分に味わうがいい!!」

 

 周りに生えている竹から枝が生えていく。その成長スピードは非常に早く、グングンと伸びて太くなる。まるで竹ではなく、樹木のようになっていく。

 

 伸びた枝は反射鏡を貫いた。俺は舌打ちをしてリフレクトトラップを止める。

 

 未だ成長し続ける竹林。段々と霧が出てきて視界が悪くなっていく。

 

『人工消霧を教えます。とはいえ、アレは妖力で生み出したもの。自然現象の霧とは違う対処が必要になります。いいですか──』

 

 ──成程。こうやってサポートして貰えるととても助かる。

 

「行くぜ。俺の最後のスペルカード──星爆『デュアルバースト』!!」

 

 ──霧諸共薙ぎ払う! 

 

 とはいえ、霊夢との約束があるからな。あまり広範囲に行かないように調節はするさ。

 

 二つの魔法陣を展開してレーザーを放つ。2本の極太レーザーは刺々を挟むように追い込んでいく。レーザーが触れた霧は蒸発してなくなる。

 

「──ォォオオオッ!!」

 

 刺々が咆哮すると地面から竹が生えて、俺を穿こうと瞬時に伸びた。それを紙一重で回避する。

 

「チクチク!! 知っているタケよ! お前のその技! 最初にいた位置から動かなければレーザーには当たらない!! 音も、振動も、仮の体であるこの身には無意味!」

「よく知っているじゃあないか! だがなあ、これはお前を攻撃することだけが目的じゃないんだぜ!」

 

 俺が指を鳴らすと上空にいた使い魔達が銀河を描くように弾を放つ。

 

 刺々は上から降ってくる星粒を避け、俺は地面から生えてくる竹槍を躱す。

 

「チクチク……竹を減らして拙竹を弱らせようとでも? 生憎今の拙竹にはその程度の傷は無いのと同じタケ!」

 

 一度レーザーが通った所に生えていた竹は消滅する。だが、覚醒状態の刺々は恐ろしい速度で竹林を修復してみせる。

 

 恐らくデュアルバーストで刺々を倒すことはできない。

 

『祐哉、狙うは一瞬です』

 

 ──ああ、分かっている

 

 2つのレーザーが再び刺々を挟み始めた時、俺はヤツに向かって駆け出す。

 

 ──足に霊力を集めて地面を蹴るッ!

 

 今まで走ったことの無い速さ。冷たい風と雪が、熱くなっている身体を撫でる。勝負を決めに行くという瞬間で、冷たい風を心地良いとさえ思えるこの余裕はアテナが与えてくれるのだろう。彼女の存在が俺に自信をもたらしてくれる。

 

「そろそろ決着を付けるぞ、十千刺々ー!」

「チークチクチク!! レーザーを消したな? 馬鹿め!! それでは竹林の濃霧の餌食になるということを忘れたのか!」

 

 そう、俺はデュアルバーストの使用をやめた。そして刺々のラストスペルカードはまだ続いている。レーザーで消していた霧が再び襲う。

 

『大丈夫。戦いの女神である私を信じてください』

 

 アテナは俺が苦手とする気配探知ができる。濃霧の中でも、敵の位置と攻撃が来る方向が分かるのだ。

 

 霊力の力で加速を得た俺なら後1秒も経たずに刺々の元へ辿り着く。

 

 俺は両手に()()()()()()刀を創造する。

 

「これで終わりだ!!」

「まだタケ! 竹林の恐ろしさを味あわせると言ったはずタケ!」

 

 刺々は地面からだけでなく、長く伸び切った竹でさえも操り、大きくしならせて俺を貫きに来る。

 

 ──霊力を全身に纏い、身体能力を向上させる。

 

 ──竹に刺さる前に刺々を倒してみせる! 

 

 俺を最後に勢いよく地面を蹴り、刺々目掛けて跳ぶ。

 

「うぉぉおおおおおおおおお!! 俺の、勝ちだ──!!」

 

 俺は遂に刺々の身体を斬った。

 

「はぁ、はぁ、竹林の恐怖は嫌という程味わった……。もううんざりだ」

「ば、ばか……な……。拙竹が……こんな人間如きにィ……!」

「八つ裂きにしてやったって言うのに元気そうだな」

「忘れたか。拙竹の本体はこの身体ではない。だが認めよう。この勝負、お前の勝ちだ。お前と女の罪は今回のみ不問にする。だが次は無いタケ。気をつけることタケ」

「……その件は本当に申し訳なかった。無闇に竹を切ることはしないと誓う」

「ふぅ……一時ではあったけど、拙竹は力を持つ事ができて良かった。お前もそうは思わないタケ?」

 

 刺々の言葉に、第2の能力──『全てを支配する程度の能力』を思い出す。

 

 あの力に目覚めなかったら霊華を助けることはできなかった。創造の力をもってしても、あの傷を回復する物は作れないだろう。

 

「……あの力は正直俺の物じゃない気がする」

「チクチク、それはそうだろうタケね。だがお前の意思で使える事は確かだろう? 扱いには気をつけるタケ。さっき得体の知れない妖怪がこの竹林にいたタケ。あの妖怪はお前に注目している。処分がどう……とか」

 

 俺を処分だって? 竹林にいた妖怪……。永琳だろうか。しかしあの人は一応人間だったような……。

 

「注意するタケ。折角生き延びた命、大切にするタケよ」

「ああ……忠告ありがとう。気をつけるよ」

「チクチク……拙竹はそろそろ眠るタケ。明日の朝になれば竹林は元通りになっているはずタケ」

 

 それを最後に刺々の気配は消え去った。

 

「──本当に、迷惑をかけた。ごめんなさい」

 

 俺は虚空に向かってもう一度謝罪した。

 

 




これで竹林異変は終わりです。ありがとうございました。よかったら感想ください。刺々の設定についての質問でも大丈夫です!

〜十千刺々の設定〜
特技:竹林の竹を自在に操ること
刺々にとって迷いの竹林に生えている竹は自分の身体と同じ。竹を傷付けられれば痛みを感じるし、限界ギリギリまで竹をしならせることもできる。また、今回の異変のように、意図的に根を広げて竹林の敷地を増やすこともできる。

妖力を解放して覚醒状態になると、竹の成長スピードを更に上げることができる。人間で言うなら髪の毛や爪の成長を促進するようなイメージ。作中では祐哉がデュアルバーストで更地にした部分を一瞬で新しい竹で埋めてみせた。

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