東方霊想録   作:祐霊

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どうも。昨日二件の感想を頂きました。めちゃくちゃ嬉しかったので今日も投稿します。

異変が終わった数時間後のお話です。


#41「力の代償」

「ん……」

 

 目を開けると見慣れない天井が視界に入った。木造の屋根だけどここは博麗神社ではなさそう。

 

 私は起き上がると、ぼうっとした頭で部屋を見渡す。

 

 ──ここは、何処かな。私は異変解決に出かけて、あの妖怪に刺されてそのまま……

 

「──! 神谷君!!」

「──あ、目を覚ましましたか。具合はどう、霊華」

「鈴仙さん? じゃあここは永遠亭か……。あ、あの! 神谷君は!?」

「大丈夫。祐哉は別の部屋で寝ているわ」

「生きてる?」

「何とかね。ここへ運ばれてくるのがもう少し遅かったら……そして師匠がいなかったら危なかったかも」

 

 神谷君は生きているんだ。

 

 ──良かった

 

 ───────────────

 

「落ち着いてきた?」

「うん、ありがとう。鈴仙さん」

 

 異変解決に出かけていたはずの私は気づいたら永遠亭に運ばれていて寝ていた。神谷君が生きていることがわかって安心した私が次に気になった事は、刺々に刺されたはずの身体の事だった。

 

 起き上がっても、触ってみても痛くない。恐る恐る服を捲ってみるとなんと傷が無くなっていたのだ。

 

 鈴仙さんに尋ねてみたものの、永遠亭に運ばれた時から無傷だったようで、気を失っていたことと精神的な疲れを心配して寝かせてくれたらしい。

 

 ──けれども、私が刺されたのは気の所為なんかじゃなく、紛れもない現実だ。

 

 あんな非日常的で死ぬような思いをしたのだから、簡単に忘れるはずがない。しかし身体は痛みを覚えていないどころか傷さえもない。

 

「その妖怪の幻術にかかったんじゃないかな? だって他に説明のしようがなくない?」

「そうだよね……」

 

 腑に落ちないけど、兎に角私は無傷で、あるとしたら倦怠感くらいしかない。私は鈴仙さんにお礼を言った後、永琳さんの元へ案内してもらう。

 

「目が覚めたのね。良かったわ」

「お世話になりました。ありがとうございます。……あの、神谷君の容態は?」

「取り敢えず命に別状はないわ。遅くても数日以内には目を覚ますでしょう」

「彼の身体に、()()()()()()()()()?」

「ええ。腹部に大きくね。それにプラスで内蔵……肝臓が破裂していたわ。器用にも霊力で蓋されていたから縫合しやすくて助かった。彼は意外と器用なのねぇ」

 

 神谷君の刺傷はあるのね……。それにしても流石神谷君。内蔵の傷を蓋できるなんて凄い。

 

 ──神谷君は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()けど、きっと修行したんだよね

 

 ───────────────

 

 私は部屋のドアをノックして神谷君が眠っている部屋に入る。

 

「失礼します……」

 

 この部屋は私が寝ていた部屋とは造りが違う。畳張りではなく、木製のフローリングで、ベッドが置かれている。その隣には点滴がある。

 

 ──幻想郷の医学は意外と発展しているんだ。……いや、ここだけなのかな。永琳さんは月の賢者とか言われるほど凄い人みたいだし

 

「神谷君……」

 

 私は彼の左手にそっと触れる。

 

 ──良かった。温かい。本当に、生きているんだ

 

 私達二人とも彼処で死んでしまうのだと思っていた。あの場から二人とも助かったのは奇跡だろう。

 

 異変は解決したらしい。どうやって解決したのか、そもそも神谷君が解決したのかどうかも分からない。

 

 けど、今はどうでもいいことだ。神谷君が生きていればそれでいい。

 

「お疲れさま、神谷君。ゆっくり休んでね。あ、でも早く起きて欲しいかも……早く声を聞きたいな……」

 

 彼が目を覚ましたら色々な話をしたいな。

 

 ───────────────

 

 私は一度博麗神社に帰ることにした。永遠亭に運んでくれたのは霊夢らしい。きっと魔理沙にも伝わっていて、心配させているだろうから、安心させる為に。

 

 雪は未だに降っていて寒かったが神谷君がくれたマフラーのお陰でだいぶマシだった。

 

「ただいま……」

「おお霊華、おかえり!」

「ん、おかえり。霊華、ちょっとこっち来て」

 

 神社について今に入ると、魔理沙はいつもの笑顔で、霊夢はよく分からない表情で迎えてくれた。怒っているのか、そうではないのかよく分からない霊夢に呼ばれるまま彼女の元へ行くと──

 

「わわっ!? れ、霊夢?」

「おかえり霊華。無事で良かったわ……本当に……」

「霊夢……」

 

 霊夢に抱きしめられた。人に抱きしめられたのはいつぶりだろうか。そして、そのまま温かい言葉を貰ったのはいつぶりだろうか。そう思っていると急に視界が潤んできた。

 

「ただい……ま。れいむ……」

 

 悲しい訳でも、怖い訳でもない。なのに涙が溢れてきて、子供のように泣きじゃくってしまう。

 

「うん。おかえり」

 

 霊夢はそんな私の頭を優しく撫でてくれた。

 

 ──霊夢や魔理沙と居ると凄く安心する。

 

 ───────────────

 

「ごめんね、霊夢。ありがとうね」

「いいのよ」

「霊夢はな、お前達の事をずっと心配していたんだよ。私は刺々を倒した後一度家に帰ったんだが、珍しく霊夢が訪ねてきてな。『どうしよう、二人が〜!』って焦っていた。あんなに取り乱す程心配されるとは、ちょっと羨ましいぜ」

「ま、魔理沙! なんで言うのよ!」

「あー? 隠してどうするんだよ? へへっ、祐哉と霊華と暮らし始めてから素直になったよな」

「べ、別に……友達が倒れたら心配するでしょ普通。それに、アンタだってずっとそわそわして落ち着かなかったじゃないの」

「それこそ普通さ。霊華と祐哉は私の大切な友人。大好きだからな」

「よくもまあそんなに堂々と言えるわね……」

 

 ──ああ、戻れてよかった

 

 私はとても恵まれている。二人と出会えて良かったと、改めて思う。

 

「れーいむっ!」

「わっ!? 何よ霊華。また泣くの?」

「だいすきっ!」

「〜〜!! な、何よもう……」

 

 神谷君も言っていたけど、霊夢をからかうのはちょっと楽しい。まあ、大好きなのは事実だけどね。

 

 ───────────────

 

「ところで、祐哉はまだ起きないのか? アレから大分経つけど……。爆睡してるって言うなら安心なんだがそういうわけじゃないだろ?」

「うん。命に別状はないけど数日目を覚まさないかもしれないって。傷もそうだけど霊力消費が凄かったみたいで……」

 

 私は霊華の説明を聞いて目を細める。

 

 ──あの時感じた霊力は確かに祐哉のもの。

 

 相当な無茶をしたのだろう。

 

 私は霊華を永遠亭へ運んだ後、急いで祐哉の元へ戻った。戻った時には既に決着がついており、十千刺々の姿は無かった。竹に寄りかかるように眠っていた祐哉を永遠亭へ運んだ。

 

 ──祐哉と霊華。二人とも生きていて良かった。

 

 二人を異変解決に出かけさせたのはまだ早かった。今回の異変はいつもよりも簡単なものだと思っていたから油断していた。実際私が倒した刺々なら祐哉達でも倒せたはず。

 

 ──けど、私が駆けつけた時に祐哉と戦っていた刺々は全くの別物だった。

 

 流石に幽々子や永琳達の方が強いだろうが、二人が戦うにはまだ難しい。

 

 ボロボロだったけど倒したのだから、祐哉が帰ったら褒めてあげようかしら。あーでも、無茶をしたことに対しては怒らないと……。

 

 ───────────────

 

『──祐哉』

「はい」

 

 ここは……俺の精神世界か。真っ白な空間にいるのはアテナと俺のみ。

 

『おめでとう。貴方の身体は適切な処置を受けられたようです。直ぐに目覚めるでしょうがその前にお話したいことがあります』

「おお! 良かった……早く霊華に会いたいな」

『……彼女が好きですか?』

「え、ま、まあ。好きですけど。友達として、ね?」

『そうですかそうですか。では彼女と早く会うためにも早速話を始めましょう』

 

 アテナの目付きは真剣なものに変わった。

 

『改めて、私はアテナです。宜しくお願いします。()()()()()私は未来の英雄(あなた)を助ける為に存在しています。どんどん頼ってください』

「神谷祐哉です。こちらこそ宜しくお願いします。その、よく分からないですけど何か事情がありそうですね。早速聞いてもいいですか」

 

 アテナに許可を貰い、質問する。

 

「俺の能力──『物体を創造する程度の能力』と、『全てを支配する程度の能力』の()()()は誰ですか」

『あら……。驚きです。いきなり核心を突いてきましたか』

 

 俺の能力は2つとも、俺が持つには大きすぎる力だ。「たまたま」運良くこの能力を持っているというのならそれはそれで構わない。とても便利だし、研究しがいがあってとても楽しい。俺は創造の力をかなり気に入っている。

 

 でも、やはり気になるのだ。どうして俺がこんな力を持っているのか。生まれつきならともかく、幻想郷に来てから目覚めた力。何だか作為的な物を感じる。

 

 ──考えすぎだというのならそれで構わない。問題なのは、油断している時に使()()の時間が来る事だ

 

 レミリアといい、紫といい、どうも俺を特別視しているように感じる。自惚れとかではなく、客観的に見て。

 

 特に紫は怪しい。初めて会った時『特別な力』がどうとか言っていた。特別な力が第2の能力を指しているのならば、俺は何らかの目的があってここに呼び出されたということが考えられる。

 

「──って感じなんですが、どうなんですかね」

『それは私にも分かりません。神とはいえ、万物を知っている訳では無いですから。ですが、何らかの理由があると考えるのは正しい。貴方の予想通り、創造と支配共に貴方のものではありません』

「……!」

 

 やはりそうか。予想していたとはいえちょっとショックだ。俺は借り物の力を使ってイキっているのだから……。

 

『となれば持ち主がいるはずですね。因みに私はどちらの能力とも関わっていません。つまり──』

「──なるほど。()()()()()()()()。俺が都合よく能力を使えている理由がね。正体も予想はつきます。だとすれば是非お会いしたいのですが会えますか?」

『……………………。今はまだ、その時ではないとの事です。ふふっ、大丈夫です。それまでの間私がサポートしますし、時が来れば他の者にも会えるでしょう』

 

 ふむ。アテナは何故俺の中にいるのだろう。助けるためとは言っていたけど……

 

『私が貴方の中にいるメリットを説明しますね。挙げればキリがないので、ここは2つに絞りましょう。1つは思考共有によるサポート。2つ目は比較的()()で居られることです』

 

 1つ目は言わずもがな。思考共有ができるという事は常に頭の中で相談に乗ってくれる相手がいるということ。これが戦いの女神である彼女であれば戦闘面でかなり助けてもらえるだろう。

 

 更に、彼女は知恵の女神でもある。これはワクワクしてくるぞ。これからの生活が楽しみだ。

 

 2つ目は冷静か。

 

「俺、弾幕ごっこの時でも結構考え込んだりするんですよね。もしかして貴方がいるからですか?」

『そうです。私の存在は貴方を落ち着かせることができますよ』

「それはそれは、いつもお世話になっております。貴方がいなかったら俺は妹紅に勝てていないかもしれない」

『それどころかまともに弾を避けられるようになるまで半年以上かかったでしょうね。ふふ、どうですか? 私の力を感じて貰えましたか?』

 

 俺は大きく頷く。納得である。

 

 では、次の疑問だ。

 

 ──どうして俺がこの力を持っているのか

 

「それも分かりません。貴方がもしも第三者の手によって連れてこられたのなら、その者に訊く他ありません」

「ほぼ不可能ですね。心当たりはありますが教えてくれそうにないです」

 

 幻想入り(神隠し)の犯人は大体八雲紫である。周りから胡散臭いと評される彼女。何を考えているのか分からないし、含みを持たせた返答をするから曖昧だ。

 

『では諦めるしかないですね。飽くまで推測ですが、そう遠くない未来に何か飛んでもない事が起きるのかもしれません』

「はぁ……」

『考えてみてください。貴方に宿った2つの能力は高度すぎる。能力を持っていることに理由があると言うなら、貴方は“何か”と戦うことになります』

「……そしてそれは、幻想郷の人達だけでは解決できない。だから余所者が呼ばれた、と?」

『まあ、情報が皆無である今、あれこれ考えても妄想にしかなりません』

 

 確かに。今考えてもあまり意味をなさないな。

 

『そろそろ話しましょうか。貴方にとっての二つ目の能力──支配の力について』

 

 

 

 

 ───────────────

 

「ありがとう。とても賢いんだね」

 

 私は再び永遠亭にやってきた。1人……1()()()1()()()()()()()()()()()()()のはこの子のおかげだ。

 

 この子、と言うのは白い猫の事である。永遠亭への案内をお願いしようと妹紅さんを探していた時、私は見覚えのある猫を見つけた。

 

 この猫は私が幻想郷に来る時に見た子とそっくりなのだ。気になった私は、そっと猫に近づいた。その時、猫の気持ちが()()()()

 

 ──永遠亭、行きたいの? 

 

 と。

 

 私はとても驚いた。動物の声を聞いたのは久しぶりだからだ。ここ最近はまた聞こえなかったのだけど、今日は調子がいいのかもしれない。

 

 私は試しに猫に「連れて行って欲しい」とお願いしてみた。ちょっと不安だったけど、行ける気がしたから付いていってしまった。

 

 ──皆に知られたら怒られちゃうかな……

 

 迷いの竹林の恐ろしさは十分理解している。それなのに1人で、猫に案内を任せて入り込むのだから、自殺行為だと言われても仕方がない。

 

「猫ちゃん、私達前にも会ったよね?」

『覚えていてくれたの? 嬉しい。それと、私は猫じゃないよ』

「ええっ!? そうなの?」

 

 猫のような何かはどこかへ去ってしまった。猫にしか見えなかったんだけどなぁ……。

 

 ──兎だったのかな? いや、流石に見間違えたりしないと思う。

 

 さっきの動物の正体を考えつつ、御屋敷の中に入る。鈴仙さん達に軽く挨拶をした後、私は神谷君がいる部屋に向かった。

 

「こんばんは、神谷君」

 

 彼は相変わらず寝ている。もうすぐ日が暮れる。神谷君はこのまま朝まで目を覚まさないのかな。

 

 ──そもそも明日目を覚ますのかな

 

 仲のいい人がいつ目を覚ますかわからないと言うのは思っていたよりも辛い。生きているし、そのうち目を覚ますと医者(永琳)に言われているとはいえ、段々不安になってくる。

 

「まだ気を失っているの? それとも、寝ているの?」

 

 後者の場合、起こすことが可能ではないだろうか。

 

 ──いや、でも疲れているから眠っているんだよね。無理矢理起こしちゃったら悪いか……

 

 私は丸い窓から空を見上げる。先程まで雪が降っていたとは思えない程晴れている。

 

「神谷君、月が綺麗だよ。満月かな? ──わわっ! 恥ずかしいこと思い出した」

 

『月が綺麗ですね』と言うのは、「I Love You」の意味と捉えられがちである。

 

 他にも、「今日は少し肌寒いですね」は“手を繋いでください”の意味を持っていたり、「寒いですね」は“抱きしめてください”と言う隠れた意味を持っている。

 

 いわゆる隠語と言うもので、それを知っている人にしか通じない物だけど、私は元JK(女子高生)である。こう言ったロマンチックな言葉や恋愛運、占いは好きだ。

 

「迂闊に『月が綺麗ですね』と言えないな……。神谷君がこの意味を知っていたら……あわわ」

 

 最悪何も知らないような顔をしていれば誤魔化せるかもしれないけど、少しでも動揺してしまったら本当に取られてしまう。

 

 ──神谷君はどんな反応をするのかな

 

 神谷君は私のことをどう思っているんだろう。

 

 

 ───────────────

 

『しかし全てを支配する程度の能力とはよく言ったものです。実際その通りでしょうね』

 

 アテナは俺の2つ目の能力について話し始めた。

 

 ──能力を使う少し前に、能力の使い方に関する情報が頭の中に現れた。

 

 この能力ができること。

 

 ・あらゆる事象を支配する

 

 以上。至ってシンプルだ。俺はこの能力を使って、霊華の傷を治せないか考えた。その結果、時間を戻すと言うぶっ飛んだ結論に至った。しかし、体の時間を戻すことができれば傷跡も残らなくていいだろうと思ったのだ。

 

 後は捉え方だ。時間の流れを『支配』して遡行させた。

 

『この能力には発動条件と代償が存在します。発動条件は何か“強い想い”を抱くこと。この想いの強さによって、支配できる()()が変わるようです。そして代償は──』

「──膨大な霊力?」

『はい。恐らく簡単な支配でも相当量消費します。この能力を使用することは、貴方にも、世界にも多大な影響を与えると言う事を理解してください』

「わかりました」

 

 博麗霊華という一人の人間の時間を、たった1分でとはいえ戻してみせたのだ。それは普通できる事じゃない。神の力……或いは半端な神では成し得ない事をやってのけたのだ。恐らく支配の力を貸してくれている神様は他の神とは次元が違うと見た。

 

 代償は俺の全霊力と体への衝撃。少なすぎるくらいだろう。世界の理そのものを支配したのだから俺が死んでもおかしくなかった。

 

 仮に世界全体の時間を巻き戻すとなると代償が払いきれずに失敗するだろう。

 

 とにかくこの能力は規格外すぎる。軽率に扱うことは禁じたほうがいい。

 

『よろしい。取り敢えず私が伝えたいことは一通り伝えました。また何かあれば呼びます』

 

 そうして俺とアテナの会話は終了した。真っ白の空間はゆっくりと暗くなっていき、意識が薄くなった。

 

 

 




ありがとうございました。

次の投稿は少し間が空くかもしれません。

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