東方霊想録   作:祐霊

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どうも。今回は霊想録初(?)のイチャイチャ回です。

霊想録は誰も信じてくれないと思うけど実は恋愛モノのつもりなんです。

楽しんでいってください!


#42「幸せな夢①」

「なんだ、夜か……」

 

 薄暗い部屋にいるらしい。丸い窓からは月が見える。ふと、右手を持ち上げてみると数本の管が繋がれていた。点滴か。それなら今いるのは永遠亭だろう。人里の診療所に点滴のような現代的な医療技術はないと思う。

 

 ──俺、財布の中身無かったな。医療費払えなくないか……

 

「支払いを待ってもらえないか、永琳に交渉しないとな」

 

 目を覚まして直ぐに考えることが金銭的な悩みとは、全く嫌になってくる。どこの世界にいてもやはり金は必要だ。

 

 ──なんだろう。左腕が妙に重たいな……

 

 俺は首から上だけを起こして腹の方を見る。

 

「あれ……うん? 気のせいか?」

 

 頭を枕に付けてゆっくりと考える。

 

 今見えたのは「人」だ。月明かり以外に頼れるものがないので誰なのかイマイチ分かりにくいが……敵ではないだろう。

 

『何故、敵襲の可能性を考えるのですか? 幻想郷はそんなにも殺伐とした世界なのですか?』

「いやあ、なんとなく? まあ、ここが永遠亭なら安全なはずです」

 

 何度も言っているように、俺には「力」の感知ができない。だから人間と妖怪の区別がつかない。覚醒した刺々のように、容姿が人外なら分かりやすいのだけど、彼らは基本的に人間と変わらない見た目をしているために分かりにくい。

 

『心配しなくても、その娘は人間ですよ』

 

 誰だろうか。何故俺の左手を握りしめているのだろうか。何故……俺の横で眠っているのだろうか。

 

「あ、あのー? 誰ですか?」

 

 心当たりのある人間といえば霊夢、魔理沙、霊華の三人くらいだ。もしそうなら、お見舞いに来てくれたのだろう。そしてそのまま寝てしまった、と。

 

 ──それが本当なら随分と心配してくれているってことになるけど……

 

 泊まりがけでお見舞いなど普通しないだろう。

 

 霊華か、霊夢か、魔理沙か。はたまたどちらでもないのか。

 

 この薄暗い空間では顔の判別ができない。

 

 ──髪の色は多分、黒だな

 

 金髪の魔理沙は除外。残るは霊夢か、霊華か。この際、候補は二人に絞ろう。

 

「霊夢? 博麗さん? どっちなの? もしもーし?」

『鈍いですね。霊華に決まっているでしょう? 彼女は貴方が眠っている時、とても心配そうにしていました』

 

 雲が晴れたのだろう、さっきよりも月明かりが明るくなった。もう一度頭を持ち上げると確かに彼女がいた。巫女服を着ている彼女。頭に付けているリボンの色は少なくとも赤ではない。

 

「そっか……ありがとうね」

 

 俺はそっと彼女の頭に手を伸ばす。少し躊躇した後、欲に負けて髪を撫でる。自分の髪とは違い、サラサラとした触り心地。撫でていてとても気持ちがいい。

 

 ──俺は今、霊華の髪を撫でているんだ。

 

 そう思うと心臓が高鳴った。女の子の髪を撫でる。まるで恋人に対してする動作。「やってはいけない」と思いつつも辞められない自分がいる。

 

 ──この子が()()だったら、幸せだろうな

 

 霊華は美少女だ。学校にいたら学年どころか学校全体で噂になりそうな程、可愛らしい。恐らく向こうの世界ではかなりモテただろう。

 

 サラサラとした長い黒髪、純粋な心の様子がわかる綺麗な瞳、整った顔、細いが痩せすぎではない程よい体系。余程捻くれた人間でない限り、皆が「可愛い」というだろう。

 

 そして彼女は見た目だけではない。声も良い。高く透き通った、耳触りの良い声。優しい話し方、丁寧な言葉遣い。要は学園の生徒会長を務めるお嬢様タイプだろうか。

 

 容姿端麗、才色兼備。正直一目惚れしない方が不思議というものだ。

 

『おや、友達として好きだと言っていましたが、異性としても意識していたのですね。青春ですね!』

「うわぁっ!? す、好きとは言ってないじゃないですか!!」

『そんなに大きな声を出したら起きてしまいますよ? 私は貴方の中にいるのですから、心の中で会話できますよ』

 

 早く言って欲しい。霊華がもぞもぞ動き始めてしまったではないか。

 

「んぅ……すぅ……すぅ……」

 

 ──良かった。起きていないな

 

 しかし困ったものだ。俺の考えたことは全てアテナに聞かれていたのだ。別に聞かれてまずい事ではないが恥ずかしい。

 

『神の私から見ても可愛らしいと思いますから、どんどん褒めて良いと思いますよ』

 

 なるほど! 神様がそういうのだから、俺が彼女の魅力を考えていてもおかしくないんだね! 気持ち悪いとか言われなくて良かった。

 

『好きならやはり想いを伝えてほしいものですが、予定はあるのですか?』

『なんかノリノリですね!? 恋愛の神様でしたっけ?』

『いえいえ、若人の青春というものは見守りたくなるものですよ。そして、時には手を差し伸べたくなるものです。それで、どうなのですか』

『……言いませんよ。どうせ叶わない恋だ。あまり好きだと自覚したくないんです。想い始めたら止まらなくなっちゃうから……』

『うーん、青春ですねぇ……ああ、今こそこういう時でしょう。()()()()()()()()!』

『だぁぁぁああ!! うるさいですね!?』

『しかし再び頭を撫でるとは……彼女が目を覚ましたらどんな反応をするのでしょう。どれ、ちょっと試してみてください』

『もしかして遊んでますか? 下手したら俺嫌われちゃうんですけど』

『それは……撫で続けた貴方が悪いかと』

 

 こりゃ酷ぇ話だぜ。

 

 その時、俺はうっかり腕に力を入れてしまった。手は彼女の耳に触れてしまう。

 

 ──やべっ

 

「……ぅん? ……神谷くん……起きたの?」

 

 ──あわわわわわ!! 起きちゃった! 起きちゃったよ! どうすんだよおい! 

 

『知りませんよ』

『いや確かに。確かに俺の不注意で腕がピクついたんで俺の自己責任ですけども! なんか酷くないですか!』

 

 幸い、彼女に見られる事なくそっと腕を引っ込めることに成功した。俺が起きていることに気づかれても構わない。頭を撫でていたことだけは気づかれてはならないのだ。

 

「気のせいか……なんとなく、頭を撫でられた気がしたんだけど」

 

『うふふふふ……』

『ぎゃああああああああ!! バレてるぅぅぅ!! うわああああああ!! おあああああ!!』

『ちょ、ちょっと、頭の中がうるさいですよ! 叫びすぎです』

 

 おいおいおいおい! どうするんだよ。──いや待て。慌てるんじゃあない。このまま寝ているふりをしていれば霊華は勘違いだと思ってまた寝始めるはずだ。

 

 いいかい博麗さん。君は寝ぼけているんだ。夢と現実がごちゃまぜになる夢ってたまにあるだろう? それだよ。いいね? 俺は君の頭を撫でたりしていないんだ。

 

「……まだ夜か。寝よう……」

 

 霊華はそう言って、俺の腹の上で寝る。そして左手を握りしめてくる。

 

「神谷君、早く起きてね……」

 

 しばらくして再び寝息が聞こえた。可愛い。

 

 

 

 

 ──じゃねぇんだよ。

 

 

 

 

 おいおいおいおい! なんで腹の上に頭を置いたの? いや別にいいよ? いいけどさ? 俺今すごいドキドキしてるの。大丈夫? 思い切りお腹に耳を当てられてるけどバレない? 

 

『祐哉。こうなったらヤケです。もう一度頭を撫でましょう!!』

『どーして貴方がヤケになってるんですかねえ!?』

 

 全く仕方ないなあ。そこまで言うなら撫でてみるさ。もうどうにでもなれ! 

 

『貴方もノリノリじゃないですか。ふふふ』

 

 俺はもう一度彼女の頭に触れる。ごめん。もし嫌だったらもう貴方に関わりません。それか死んで詫びます。

 

 ──この手触り、やめられないとまらない! 

 

 かっぱえびせ──

 

「神谷君。起きてるよね?」

 

 ──ンンンンンンンン!! 

 

『ふふ……あはは……続けて?』

『くそ! 完全に楽しんじゃってるよこの人! サポートしてくれるんじゃなかったの!?』

 

「ねぇ、ねえってば。寝たふりしてるのバレバレですよ?」

「…………」

 

 ま、負けた。社会的に死亡した。折角生きて戻れたのに、誠に遺憾である。

 

「むぅ。神谷君ばかりずるいよ……」

 

 な、何がずるいんですかね? 

 

 そう思っていると、俺の頭に何かが触れた。

 

「なでなで」

 

 ──わわっ撫でられてる。

 

 意外と、人に撫でられるのは落ち着く。はあ仕方ない。諦めよう。

 

「ん、あれ、博麗さん? おはよう」

「──! 神谷君!!」

「グハッ!?」

 

 身体を起こして何食わぬ顔をして彼女に挨拶すると、霊華が抱きついてきた。頭の中がパニックになっているのがわかる。そして何より……

 

 ──刺された傷が……痛い! 

 

 しっかりとホールドするように、力一杯抱きしめられているので傷口を避けるための隙間を作ることさえできない。

 

 声をかければいい話だが、そうすると彼女が離れてしまうのではと思って、声を出せない。

 

 ──なんだか良く分からないけど、こんなこと二度とないだろう。もう少し抱き合いたい。

 

 こう思うのは変態だろうか。でも俺だって年頃の高校生だ。こういった欲はある。

 

「あ、あの、博麗さん?」

「……今は、名前で呼んで……」

「……霊華。怪我はなかった?」

「うん。神谷君が治してくれたんですよね?」

「まあね。傷跡が残らないようにしておいたから、良かった」

 

 俺が彼女の時間を戻したのは、肌に傷跡を残さないためだった。彼女の綺麗な肌はなるべく傷ついて欲しくないから。

 

「そうなんですか? ありがとうございます。嬉しいです!」

 

 彼女の優しい声が、すぐ隣から聞こえる。ゼロ距離、耳元で話しかけられているのだ。とてもドキドキする。

 

 彼女は今どんな心境で俺に抱きついているのだろうか。気を抜くと彼女に好かれているんじゃないかと考えてしまう。しかしそうとも限らない。別になんとも思っていない可能性だって十分あるのだ。

 

「神谷君は? 傷は痛くないですか」

「ちょっと痛いけど、ちゃんと生きているよ」

「……良かった。本当に……良かった。私、神谷君が死んじゃうんじゃないかって……また話せて良かったよぉ……」

 

 霊華は泣いているのだろうか。小刻みに揺れている。俺はそんな彼女の頭を後ろから優しく撫でる。流れに逆らうことなく、そっと、優しく。

 

「霊華も……生きてて良かった。俺はまた、霊華を守ることができなかったけど、助けられて……本当に良かった」

「そんなことないよ。神谷君はまた私を守ってくれた」

 

 慰めの言葉。複雑だが、そう言ってくれるだけで少しは救われる。いつも慰められてばかりで情けない。

 

 ──本当に、良かった。アテナの助けと、二つ目の能力がなかったらこの子を助けられなかった。

 

『アテナも、ありがとうございました。貴方がいなかったら、俺たち二人とも死んでいたかもしれない』

『どういたしまして。これからはずっと支えていきますからね』

 

 頼もしい神様だ。この先もっと過酷な異変に巻き込まれるのかもしれないが、この人がいればなんとかやっていけるだろう。

 

──ああ、本当に。二人共生きて帰れて良かった。

 




ありがとうございました。

今回の話は前編です。後編は霊華目線になります。
祐哉が慌てていた時、霊華は何を考えていたのか、お楽しみに!

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