今回は前回の話の霊華視点です。前回の話を読んでいない方は先にそちらを読むことをオススメします。
私が目を覚ましたのは彼が私の頭を撫でながら、「うわぁっ!? す、好きとは言ってないじゃないですか!!」と叫んだ時だ。突然大きな声が聞こえてビクッと体が震えた。そして、目を覚ます少し前に聞こえた声を頭の中で再生して動揺してしまった。
──す、すき……?
一体誰に話していたのだろう。寝言……とは考えにくい。何が好きなのだろう……。
そして私は考えてしまった。
──私のこと……かな? まさかね……
神谷君は恐らく、霊夢のことが好きなのだろうと思っている。幻想郷に来る前から好きだったと言っていた。前までは推しとして好きだったのかもしれないけど、今は異性として意識していると思う。
──けれども、もし私のことだったら……
そう考えるうちに胸がドキドキしてきた。神谷君との思い出を振り返ると、幻想郷で出会った人の中で最も濃い時間を共にしてきたことに気づく。
神谷君とは冥界の白玉楼と竹林に行った。楽しいこともあったし、ピンチの時も共に乗り越えた。そうは言っても私はなんの役に立てていないけど……。
私はいつも助けられてばかりだ。初めて出会った時、暴走した彫像に襲われた時、刺々に追い詰められた時──神谷君はいつだって助けてくれた。
『貴方にとってのヒーローは誰か』と訊ねられたら私は神谷君の名前を挙げる。
これらの事を考えながら、私は狸寝入りすることにした。起きにくかったのもあるけど、もう一度撫でてくれないかと期待していたのだ。神谷君の撫でる手は優しくて、とても心地が良かったから。
しばらくすると再び頭を撫でられた。そして、突然耳を触られる。触れられたというよりは掠ったというべきか。起きるタイミングを図っていたのでちょうどいい。私は神谷君と話せる事を期待して身体を起こした。
「……ぅん? ……神谷くん……起きたの?」
と、いかにも今目を覚ましました。というような台詞を吐いて彼を見た。しかし神谷君は眠っていた。私の頭を撫でていたであろう左腕は彼のお腹の上に乗っている。
「気のせいか……なんとなく、頭を撫でられた気がしたんだけど」
──さては神谷君、寝たふりをしているね?
彼が起きているのはバレバレだ。さっきまで確かに撫でられていたのだから。きっと、頭を撫でていた事を私に気づかれてはいけないと思っているのだろう。
ふむ。
「……まだ夜か。寝よう……」
私はわざと独り言を呟いて、彼のお腹の上に頭を乗せる。そして左腕を握って、寝息を立てる。
──わあ、凄いドキドキしてるじゃん
お腹の上に頭を乗せたのはわざと。掛け布団越しでも激しい鼓動が十分伝わってくる。これで彼が寝たふりをしているのは確定である。まあ、私も寝たふりしているんだけど……
──さあ、神谷君! どうするの?
そう思っているとなんと、また頭を撫でてきた。予想外の動き。私が寝ていると本気で思っているのかな? そして、
「神谷君。起きてるよね?」
と、言うが起きなかった。もう一度寝たふりをしてもまた頭を撫でてくるのだろう。流石に何度もやられるとちょっと恥ずかしい。なので私はお返しすることにした。
彼の頭を撫でてみると、直ぐに起き上がってきた。
「ん、あれ、博麗さん? おはよう」
──白々しい
如何にも「俺は今起きたばかりです」と言うような台詞。流石に無理があるよ?
と言う考えは一瞬で吹き飛んだ。そして、私は彼に抱きついた。
──良かった! 神谷君が目を覚ました!
彼がそのうち目を覚ますということは分かっていた。それでも、万が一の可能性が怖かった。永琳さんの腕を疑っているわけではない。ただ、自分が死にかけた時に感じた恐怖はとても強く心に残っていて、疲弊した心は物事を悪い方向へ考えさせていた。
彼が目を覚ました時、私は無意識に彼に抱きついていた。「もう逃がさない」というように、ギュッと力一杯抱きしめると、神谷君も同じ力で抱きしめてくれた。
温かい体温が、確かに生きているということを教えてくれる。
彼の声を聞き、力一杯抱きしめられ、温かい体温を感じて安心した私は泣いてしまった。最近私は泣いてばかりだ。男の子の前で泣いてしまうのは恥ずかしいけど、どうでも良いと思った。大好きな友達が生きていればそれで良い。
──神谷君に頭を撫でてもらうと安心する。
安心し、落ち着いた私はそっと彼から離れた。なんだか妙に名残惜しく感じて、胸が痛んだ。けれどもあまり長く抱き合っていると彼の傷が開いてしまうかもしれない。
「ご、ごめんなさい。お腹、痛いですよね。それなのに思い切り抱きしめちゃった……」
「いや、大丈夫だよ。それ以上に……その、嬉しかったから、さ」
「ところで、いつから目を覚ましたんですか?」
「博麗さん──霊華が最初に目を覚ました数分前かな」
起きて直ぐに頭を撫でたのね。どうしてだろう? もしかして神谷君にとって私はペットみたいな感じなのかな? こう、撫で心地がいいから思わず撫でちゃう的な……
「そうですか。ところで、私の頭をいっぱい撫でていましたけど、どうしたんですか」
「うわっ、えっと、勝手に触ってごめんなさい。嫌……だよね。ほんとごめんなさい」
「ああ、別に怒っているわけじゃないですよ。嫌じゃないから。ただ、急にどうしたのかなって」
言葉通り、別に怒っているわけではない。ちょっと恥ずかしいけど、悪い気はしない。勿論、心を許した相手じゃなかったら嫌だけどね。異性なら特にだ。親しくない人に撫でられるのは流石に気持ちが悪い。
──神谷君になら、いいかなって思う
「……この際だから隠さず話します。目を覚ましたら霊華が寝ていて、思わず撫でたくなって撫でました」
「私は……神谷君にとってペットか何かなの?」
つい、思っている事を口に出してしまった。だって、思わず撫でちゃうなんてフワフワの犬を
「まさか! 霊華は大切な……
「えっ……」
『可愛かった』と、とても小さな声で言われドキッとする。男の子に『可愛い』と褒められるのは小さい時以来だ。
女友達は「霊華ってモテそう」と言ってくれたけど、そうでもなかった。クラスの中ではかなり大人しい方で、交友関係は広くなく男友達もいなかった。
話したこともない男子に呼び出されて告白されると言うこともない。あんなものはドラマや漫画の世界にしかないと思う。
「あ、ありがとう、ございます。その、あまり言われた事がないので、嬉しいです」
「ええ!? 嘘でしょ? 絶対モテると思うし彼氏いそうなのに」
「本当ですよ。彼氏もいません。……いたら多分、元の世界に帰ってます」
「それもそうか。しかしとても信じられん。向こうの世界じゃ少なくとも世界一可愛いと言ってもいいと思うけど」
「もう……お世辞はいいですよ。というか
あ、あまり可愛いと言われると意識してしまう。お世辞なのか、本心なのか。どこまで本心なのだろう。
「お世辞なんか言わないさ。俺は面倒臭がりだからね。無理に人を褒めようとすると言葉が出てこない。……しかし成る程。いわゆる高嶺の花って奴だったのかな。誰も声をかけられなかったと。ああ、俺は幸せ者だ」
などと、独り言のようにブツブツと語る。静かな部屋の中、私たちはすぐ隣で話している。だから、どんなに小さな声で話そうが聞こえてしまう。
段々顔が赤くなっていくのがわかる。
──うう……恥ずかしいよ……
神谷君って意外と大胆と言うか、ぐいぐいと攻めてくる。
「そう言う神谷君はどうなんですか。彼女とか、いないんですか?」
「んー? ……あははは」
「……あ、えっと。そんなに気にする事ないと思いますよ? 幻想郷って女性が多い気がしますからね」
色々と話していると、なんとなく部屋が明るくなってきていることに気がついた。
「随分と話し込んじゃいましたね。もうすぐで朝になるのかも……もうひと眠りしましょうか」
「うん。って、またそこで寝るの? 体痛くなっちゃう。布団作ってあげるよ」
私は椅子に座って、布団に倒れこむように寝ていた。確かに体は痛くなっているけど……
「大丈夫です。今日は貴方の横で寝たいんです。その……手、繋いでもいいですか。明日ちゃんと起きてくださいね? ……心配なんです」
「心配しなくても俺は生きてるよ? 夢だと思うなら頬を抓ってみればいい。……まあ、霊華がいいなら俺はいいけど……」
「それなら問題ないですね!」
私は彼の手を掴んで、布団に頭を乗せる。
「おやすみなさい。神谷君」
「おやすみ、霊華」
久しぶりに幸せな気持ちで満たされている。よく眠れそうだ。
ありがとうございました! 良かったら感想ください。
漸く恋愛要素を入れることができました。楽しんでいただけたら嬉しいです。(今回のようなイチャ回を書いていると全国の神谷さんが羨ましくなります……)
次は春奇異変を投稿します。次の投稿は半月後が目安となります。