どうも、祐霊です。
ブロッコリーは大事なのです。ふふ、頭に「?」が浮かびましたね?
それではどうぞ
白玉楼を出た後、俺達は霊華の勘に従って進む事にした。
──霊華の名字は『博麗』。これが単なる偶然でないのなら霊夢のような冴えた勘を持っているかもしれない。
進む先を悩んでいた彼女に言った言葉は一言。「論理的に進む必要は無い」だ。勘というものは非論理的なもの。「何となく」で行動する物だ。
気になる方へ向かい始めた彼女に付いていくと、やがて紅魔館が見えてきた。あれ程までに赤い建物は遠くからでも目立つ。
俺達は紅魔館に寄ってみることにした。
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「流石に
「こんな雪の中訪ねてくる人はそういないからね。今は雪かきをしているわ」
「どうも。物好きな客です。……こんなに寒いのに外で仕事とはキツいですね」
「どうかしら。風邪を引いているところを見た事ないし、大して寒くないのかもよ?」
咲夜にレミリアの部屋まで案内をしてもらっている間雑談をする。今日は珍しく紅魔館の門前に美鈴がいなかった。門に鍵がかけられていなかったので不法侵入をした後、その辺にいた妖精メイドに声をかけた。妖精メイドは俺たちの存在に気づくや否や手に持っていた
その後、「待って! 落ち着いてくれ、俺達は不法侵入者であって怪しい者じゃあない」等という言葉を口走った俺に対し、霊華は慌てて「落ち着くのは神谷君です! 確かに不法侵入しましたけど……」と言った。自ら怪しさにブーストをかけたところで騒ぎを聞きつけた咲夜が現れた。事情を話して俺達が「不法侵入者であるが不本意」だということを伝えて今に至る。
「はい、着いたわ。ここから先は霊華1人で進んでもらうわ。祐哉は私に付いてきて」
「私ひとりですか?」
「お嬢様が貴方と話したいそうよ」
「心配しなくても、レミリアさんは優しいから大丈夫だよ」
俺達は霊華と別れて再び歩き始める。
「あれ、お茶を持っていかなくていいんですか?」
「お茶を出すことくらい私でなくてもできるわ。それに私は貴方を指定の場所に案内するように言われているからね」
「そうですか。俺もレミリアさんに用事があるのですが……」
「大丈夫よ。後でいくらでも話せるもの」
「咲夜さんは、異変が起きていることを知っていますか?」
「異変……?」
「ほら、雪がずっと降り続いているじゃないですか」
「白玉楼の亡霊がまたやっているのかしら」
春雪異変の解決には咲夜も関わっているので、一番に疑われるのはやはり彼女である。
俺はさっき白玉楼に行ったことを話した。
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「失礼します」
神谷君と咲夜さんと別れた後、レミリアさんの部屋のドアをノックした。中から入室許可を得た後ドアノブに手をかける。
「こんにちは。博麗霊華です」
「こんにちは。いらっしゃい。どうぞ、ソファにかけて」
窓一つない部屋。天井には高価そうなシャンデリア。部屋の入り口の近くには接客用のソファとテーブルが置かれていて、部屋の奥には彼女のものと思われるデスクが置かれている。部屋の端には観葉植物が置かれていて、窓がないことを除けば私がイメージする社長室そのものである。
──紅魔館って何か営業しているのかな?
私は一礼した後、ソファに腰掛けた。レミリアさんは向かいの席に座った。ちょうどその時、この部屋のドアがノックされ、レミリアさんが反応すると小さな生き物が入ってきた。
その生き物はテーブルにお茶を置いて部屋を出て行った。
「今のはなんだ。みたいな顔ね」
「え、ええ……。妖怪ですか?」
「ホフゴブリンと言ってね。西洋版座敷わらしよ」
「はあなるほど。ファンタジーものによく出てくるものですね」
私の言葉に首を傾げるレミリアさん。言っちゃまずい言葉だったかな? 内心少し焦っているとレミリアさんが話を切り出した。
「先日の異変解決、ご苦労様」
「ありがとうございます。ご存知だったのですね」
「ええ。見ていたから。貴方たちが竹妖怪に圧倒されていたところも、倒したところも。──祐哉が貴方を助けたところもね。
「そうだったんですね。異変解決は思っていたよりも大変でした。でも、あの異変は比較的小規模らしいですね。霊夢たちの凄さがよく分かりましたよ……」
レミリアさんは私の言葉を聞いてクスリと笑った。
「あの異変で苦労していたのは貴方達だけよ。だって、覚醒した竹妖怪と戦ったのは貴女と祐哉だけなのだから」
「そうみたいですね。あの妖怪は私たちに恨みがありましたから、仕方ないです」
私がそう言うと、彼女は話に興味を持ったらしく、「何故恨まれていたのか」と質問を受けた。
「少し時間がかかりますが、折角ですし最初から話しますね」
「ええ、時間は無限にあるもの。ゆっくり話して」
とんでもない事をサラリと言うレミリアさん。勿論不老不死ではないのだから時間は有限だ。しかし吸血鬼である彼女の寿命は人間から見れば無限に思える。
「少し前──私が幻想郷に来た翌日に、神谷君と一緒に迷いの竹林へ行ったんです」
私は十千刺々と出会ってからの出来事を全て話した。
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「へぇ。成程。それであの妖怪は激怒していたのね。祐哉はよく勝てたわね」
「神谷君はどうやって刺々を倒したのですか」
「聞いてないの? 弾幕ごっこを再開して、接戦を繰り広げた末に斬り刻んで勝利よ」
「凄いなぁ……神谷君」
お腹を刺された痛みは想像を絶するものだった。二度と味わいたくないし、思い出したくもない。神谷君も同じ傷を負っていたというのに、彼は戦い抜いて勝利を収めたのだ。
「……ねえ霊華。少し、お願いしたいことがあるのだけどいいかしら。貴方にとって酷なものになるでしょうけど」
「えっ、なんでしょうか」
酷なお願いと聞いた瞬間、全身に緊張が走った。一体何を言われるのか。私は断りきることができるのか……。
「貴女には──
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「着いたわ」
あれから5分程歩き続けて漸く目的地に到着。案内された部屋は学校の体育館と同じか、それよりも少し大きいくらいの空間がある。照明以外には何も無い、ただの広場のようだ。
「ここは……宴会を行う部屋ですか?」
「いいえ。この部屋はお嬢様の命令で作った即席物よ」
「ああ、空間を拡張したんですね」
よく分からないが、時間を早めることは空間を広げることと同じだとか。なるほどわからん。
「一体何のために?」
「それは分からないけれど、いいことを教えてあげる。ずっと向こうにドアがあるでしょう。あの先は外に繋がっているわ」
「はあ、そうなんですか」
──レミリアと話すまでの間暇だしな。何の意味があるのか分からないけど歩いてみるか。
体育館の端から端まで移動すると考えたら分かりやすいだろうか。入り口から向こう岸まで歩くのは結構面倒くさい。
「ふーん、本当だ」
黙々と歩き続けてやっと端に辿り着き、両手開きのドアを押し開けると、確かに外に出た。雪は今も降り続いている。
気のせいか、雪が降っている日は周りが酷く静かに感じる。落ちてくる雪はゆっくりと静かに地に積もっていく。
雪を手で受け止め、ぼーっと眺めてみる。
──これを顕微鏡で覗くと結晶が見えるのか。確かに肉眼で見るのは難しいな
何せ体温ですぐに溶けてしまうのだから。
雪の結晶は六本の芯を持つ。それが六角形の板になるのか、六本の芯から小さな芯が生えた形になるのかどうかは温度や水蒸気量によって決まるのだ。雪の結晶はフラクタル構造を持つと言う。
フラクタル構造というのは幾何学の概念で、図形と全体が自己相似になっているものの事だ。ブロッコリーを思い浮かべて欲しい。そう、野菜のブロッコリーだ。ブロッコリーは大きな芯──或いは幹を持っている。そして、芯の上端は沢山枝分かれしている。
突然だがブロッコリーを食べよう。調理法は茹でるのがベスト。──おっと、まさかまるごと鍋に突っ込んだりしないよな? ブロッコリーは通常、食べやすいサイズに切るはずだ。大きな芯と枝分かれした先を切り分け、肺胞の様な実を掴んで1つずつバラバラにするだろう。
バラバラに切り分けたうちの一つを持って欲しい。それは先程のブロッコリーとよく似た形をしていないだろうか。切る前のブロッコリーと、上記の方法で切り分けたブロッコリーは相似。
今切り分けたブロッコリーを同じ方法でバラバラにした場合、再び相似を確認できるはずだ。──もっとも、サイズ的に顕微鏡が必要になるだろうが。
長くなったがこれがフラクタル構造の概要である。ぜひ覚えておいて欲しい。
「随分と物珍しそうに見るのね。外の世界では雪は降らないの?」
「俺がいた地域では年に1度降るか降らないかです。だから雪は新鮮なんですよ」
「でもかれこれ5日くらいはずっと降っているし、飽きてこないかしら」
「そうですか? 『雪が降っている』で終わらせず、観察してみるんです。そこから自由に考えを巡らせて考察していく。──物事を多角的に捉えてみれば退屈も遠のくものですよ」
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「人質……ですか? どうして……」
「簡単よ。祐哉と遊んでみたいから」
「……弾幕ごっこですか?」
レミリアさんは首肯する。目的は分かったけど、何故私が人質になる必要があるのか分からない。
「異変の時ずっと見ていたと言ったわね。そこで私は気づいたのよ。祐哉が貴女をとても大切に思っていることにね」
「それが?」
「私は本気の祐哉と戦いたいの。でも、ただ戦うだけでは恐らく本気を出してこない」
──そうかな?
レミリアさんは吸血鬼だ。吸血鬼の弱点は多い印象があるが、それをものともしない圧倒的な強さを持っている。人間がどう足掻こうとも、圧倒的なパワーと驚異的なスピードの前には太刀打ちできない。
──なるほど
「……彼にやる気を出させるため、勝てない相手とわかっていても、戦わざるを得ない状況を作り出す。こういう事ですか?」
「ふふ、その通りよ。どうかしら。引き受けてくれる?」
「お断りします」
レミリアさんの目的を分かっている以上、私が人質役を引き受けるという事は彼を騙すようなもの。言い方を変えるなら、ドッキリ企画というものだ。
神谷君は本当に私が人質に取られたと思って慌てることだろう。神谷君は優しいから、何としてでも助けようとしてくれると思う。
戦いが終わった後『ドッキリ大成功〜』と言って笑って済むとは思えない。
私は自分の思いをレミリアさんに伝える。
「確かに、騙すような形になるわね。でもね、別に私のためだけじゃないのよ」
「どういうことですか?」
「祐哉がこれからも異変解決をするというのなら、格上の存在と戦う事が前提になるわ。要は経験ね。私は練習相手を引き受けてあげるのよ」
うーん。そう言われると急に断りにくくなった。確かに異変解決に向かう以上、格上の存在と戦う場面が訪れる。そんな時物怖じしない強さが必要だ。そのためには経験が必要だと、レミリアさんは言っているのだ。
「大丈夫よ。嘘でよかったと思えるくらい脅かすつもりだからね。貴女は流れに身を任せていればいいの。どう?」
「……あまり虐め過ぎないであげてくださいね」
「ふふ、交渉成立ね」
私の決断が正しいのかわからない。もしかしたら神谷君に嫌われてしまうかもしれない。そうなったら嫌だな……。
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「ところで祐哉。吸血鬼の弱点って知っているかしら」
「はい?」
積もっていく雪を眺めて時間を潰していると、唐突に質問された。質問の内容に驚いて思わず聞き返してしまう。
吸血鬼の弱点か。
「結構多いですよね。流水とか、鰯の頭や炒り豆といった鬼が持つ弱点。あとは銀。日光もダメですよね」
「……貴方はそれらを創造できるの?」
「食べ物は無理ですが、銀は作れると思います。──いや別に、レミリアさんに危害を加える気は無いですよ!? 戦う理由もないし、何より恩人ですからね」
「──私の使命はお嬢様をお守りする事。でも、今回は黙視するわ。念を押されているからね。だから遠慮せず戦うべきよ」
なんだか今日の咲夜は様子がおかしい。突然
「待たせたわね。私に用があるんだって? 祐哉」
「ああ、レミリアさん。お邪魔してます」
レミリアが部屋にやってきた。という事は霊華との話も終わったのだろう。
──霊華は一緒に来ていないようだ
「俺達は今起きている異変の調査をしています。原因を作っている者の予想がつかないので放浪していまして……そこでレミリアさんの知恵を貸してもらえないかと」
「異変ならこの前解決していたじゃない。全部見ていたわ。頑張ったわね」
「そうでしたか。実は異変は二つ起きていて、今調査しているのは天候の件です」
「──私は今回の異変には関わっていないし心当たりもないわ。あの子の勘に頼ったら? 貴方の大切な
うーん、ここに来ても収穫は無かったか。まあ、元々挨拶と休憩が目的で来たからな。恐らくこの異変の関係者がいる所は紅魔館の先だ。
俺達は白玉楼から紅魔館まで真っ直ぐ飛んだ。この2点の外分線を引いた先にあるのは妖怪の山。
霊華の勘が当たっているのなら、山までの間に何かがあるだろう。
「分かりました。ではそろそろ出発しますね。──それで、あの子は何処に?」
「ふふ……貴方。やってしまったわね。油断しすぎよ」
「レミリアさんも様子がおかしいですね。一体どうしたんですか?」
俺がそう言うと、レミリアが指を鳴らした。彼女の横に椅子が現れ、次の瞬間に霊華が座らされた。そして瞬きをする間に縄で縛られた。
「……穏やかじゃないですね。一体、
返答の内容によっては……。
レミリアはいつかのように低い声で、凄みのある話し方をするようになった。
「
戦う? 全力? 見ていた?
あまりにも予想外の出来事。頭がパニックに陥っているのがわかる。思考が鈍っていく中レミリアは容赦なく語り続ける。
突然レミリアの前に人形が現れた。それはヤケにリアルな人形。まるで本物の人間なのでは無いかと思わせる程の完成度。彼女は軽々と人形を宙に放り投げる。
「──ハァ!」
「──!」
レミリアの右手に紅い槍が生成され、怒号にも聞こえる鋭い声と共に投擲した。串刺しとなった人形は紅槍と共に俺のすぐ横を通った。
激しい破壊音と爆風が後ろから迫ってくる。
──後ろにあったドアが壊れている!
『それだけではありません。あの紅い槍があんなにも遠くに刺さっています』
アテナの言う通り、レミリアが投げた紅槍は遠くの地面にクレーターを作っていた。
──これがレミリアの
「手を抜けば、お前の大事な娘が串刺しになる」
投擲された槍を目で追うことができなかった。速すぎる。こんな正真正銘の化け物相手に適うはずがない。
「……博麗さん! 今すぐ立ち上がって
──
霊華を拘束している縄と同じ位置に物体を創造し、破壊する!!
霊華が俺の言葉を聞き、行動を起こす頃には既に拘束が解かれた。立ち上がった彼女は俺の元へと走ろうとする。──が、1歩踏み出す事さえ許されなかった。
「どうなってやがる……嫌、考えるまでもないか」
霊華は確かに立ち上がって、走り出そうとしていた。だがほんの少し。
何を言っているのかわからないと思うが、目の当たりにした俺にも何が起きたのか分からなかった。
──これが、ポルナレフ状態って奴か。
「咲夜の仕業だな。霊華が逃げ出す前に時間を止めて
「今ので解っただろう。この
「こんな御芝居をして、何が目的なんですか。俺と戦いたいって理由だけだとしたら、流石に怒りますよ!!」
「芝居だと? 現実から目を逸らすな。戦わないというのなら、お前は大切な物を失う事になるが」
訳が分からない。だが、大事なことは理解した。
──俺はレミリアからは逃げられない!
──そして、レミリアの目を欺いて助け出し、逃げることもできない!
咲夜を倒しても無駄。俺の敵はレミリア・スカーレットのみ。俺が
レミリアと霊華が会ったのは知る限り2回だけだ。レミリアにとって、霊華の事などどうでもいいのだ。
生かすも自由。
殺すも自由。
全ては、レミリアの気分しだい。
「チッ、タチが悪い。俺は、貴方に感謝している。貴方達の助け無しにここまで成長することはできなかった。だから、貴方とだけは戦いたくなかった」
「……フン」
「だが! 霊華が人質に取られた今! 私情を持ち出すことはできない! どんな手を使ってでも霊華を返してもらう!!」
俺は力強く、己の決意を突き立てた。
ありがとうございました。よかったら感想ください!
フラクタル構造の解説が難しいです。あの解説は後で必要なんです。別に私が知識自慢している訳ではありません。分かりにくいまたは興味を持ったら「フラクタル構造 ブロッコリー」や「フラクタル構造 雪の結晶」とググッてください。