東方霊想録   作:祐霊

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#46「vs レミリア・スカーレット!!」

『祐哉、怖くはないですか』

『怖いに決まってる。レミリアは刺々とは違う。本気の吸血鬼相手に勝てるはずがないんだよ』

『それでも戦うのですか』

『勿論。誰かを見捨てて自分だけ逃げるなんて選択肢は無い!』

『良く言いました。私も最大限のサポートをします』

 

「では、始めようか」

 

 レミリアが拳を突き出すと周りから紅い妖気の奔流が起こり、瞬く間に槍となった。

 

 ──開幕直後にあの槍をどうするだろうか

 

 1.こちらに投げてくる。

 2.肉薄して穿ちに来る。

 3.様子見をしてくる。

 

 ま、分かるはずもないな。

 

 俺は動体視力強化の眼鏡を創造し、身の回りに刀を待機させる。

 

 ──相手が止まっているのなら簡単だ。タイミングはフライング気味に……

 

「合図は俺が」

 

 創造したナイフを天井から落とす。ナイフが床に刺さった瞬間、戦いが始まる。

 

「開始!」

「──内部破裂(バースト)!」

 

 開幕直後、俺はレミリアが持っている槍を暴発させようとした。先程霊華の拘束を解いたときと同様、対象が動いていないのなら、強引に集中力を強化する必要も無い。

 

 ──流石に速すぎる。俺を殺す気か? 

 

 レミリアは俺が『内部破裂』を使うよりも数瞬速く動き出した。だがそれでも槍の6割は破壊できた。それだけ壊せたら十分。妖気を凝縮して槍を形成しているのであれば、緊張している部分が失われることで形が崩れる。

 

 レミリアは槍を投げることも、穿つこともできない。レミリアは再び槍を形成するだろう。それだけの時間を稼げるなら上出来。生じた隙を活かして部屋の出口に駆け込む。

 

 だが、まだ部屋からは出ない。

 

 ──使い魔を10体ほど創造し、外に移動させる。

 

 不幸な事に今の天気は雪。外に誘い出して日光を利用することはできない。

 

 晴れていないので使い魔のエネルギー補充にも時間がかかる。太陽光から得られる力は霊力だ。よって、魔力を使うアクアバレットは使えない。

 

『アクアバレットが最も効果的なのに使えないとはな』

『魔力は月光と星の光から補給できましたね。他の手段としては魔法の森で蓄えることですか』

『現実的じゃないですね。あの森は自然の光を利用するのと比べて時間がかかる。溜まりきる前に俺が負けますよ』

 

 今の時間はもうすぐ正午というところ。日が沈むのも待てない。

 

『一応、他のアイデアはあります』

 

「──まずは弱点を確かめる」

 

 霊華のすぐ隣にいるレミリアを離れさせるように、純銀製ナイフを投げる。狙い通り離れさせたところで巨大な十字架を4つ創造してレミリアを閉じ込める。そして、ありったけの純銀製ナイフを投擲。

 

「十字架とナイフ、どちらも銀か。相手の弱点を創造できる能力。使い方も申し分ない。──が、甘い!」

 

 吸血鬼に銀が効くというのは本当のようだ。それならレミリアは銀に直接触れることができないはず。

 

 レミリアは再び紅い妖気を凝縮する。

 

 ──読み通り! 内部破裂でチェックメイトだ! 

 

「勝った。──内部破裂(バースト)!」

「だから、甘いと言っている」

 

 突然レミリアが消えた。霧散したように見えた。

 

『よく見なさい。アレは蝙蝠です。吸血鬼が分裂しました』

『チッ、とんでもないチート種族だな』

 

 部屋中を沢山の蝙蝠が飛んでいる。これが全てレミリアだと言うのか。こんなに小さくなってしまっては、弾幕は当たらないだろう。

 

 攻め手を失っていると、徐々に蝙蝠が集まりだした。集まった場所は俺の真上。嫌な予感がした俺は横に跳ぶ。その直後、元の姿に戻ったレミリアが虚空を切り裂いた。

 

「よく避けたね」

「たまたま、直感で」

 

 ──こっわ。避けられなかったら切り裂かれて肉片が飛び散っていたぞ

 

「さっきから、俺を殺す気なんですか?」

「安心しな。これでも力を抑えているよ」

 

 あの「ひっかく攻撃」で力を抑えているって? これはLv1とLv100が戦っているようなものだぞ。

 

「そんな尖った爪で切り裂かれたら死にますね」

「でもお前は避けられた。さあ、続けよう」

 

 避けられたのはたまたま、レミリアが予測しやすい動きをしていたからだ。

 

 ──戦いの中フェイントをかけてこない分、手加減されているってことか

 

 ───────────────

 

 祐哉の動きはまだまだ甘いがそれでも悪くは無い。出会って間もない頃、咲夜と戦わせた時と比べて格段に成長している。何度か力の差を見せつけたはずだが、祐哉の目には未だ光が篭っている。

 

 ──私達が手伝っているのだから、当然の結果ね

 

 グングニルの投擲には流石に反応できていない。咲夜によると、あの眼鏡は伊達ではなく動体視力を強化するものだという。ほんの僅かでも槍の軌道を線としてとらえることができれば十分躱すことが出来るはずだ。

 

 現在進行形で槍を投げ続けているが全て躱している。もちろん、まともに当たれば無事で済まされないので当てる気は殆どないのだが、段々と投げづらくなっている。

 

 これは槍を投げすぎたせいで疲労し、腕が上がらなくなってきた訳では無い。祐哉の位置取りがそうさせているのだ。

 

「私が槍を投げるタイミングを掴んだみたいだね」

「10数発も投げられたら流石に気づきますよ」

 

 ──14発。

 

 全て、一度破壊したドアを狙っていた。いや、もうドアは跡形もなく消し飛んでいるのだから、今や開放的になってしまった大穴を狙ったと言うべきか。

 

 館の崩壊を避けるため、破壊の規模は最小限に抑える必要がある。よって、自分と大穴の直線上に祐哉が入り込んだ時にのみグングニルを放っていた。

 

 ──成長速度、分析能力共に優秀。さて、そろそろ室内で戦うのも限界かしらね。

 

 祐哉の対応力、反射速度、能力の使い方を測るなら狭い空間で戦うのがいい。限られた空間でどう対処できるか。それをテストした。

 

 結果は上々。異変解決を行う者に必要最低限な素質はあると見た。

 

 ───────────────

 

「ひとつ聞きますけど、これは弾幕ごっこじゃないんですよね」

「ええ。私は試合での貴方ではなく、本気で戦った貴方の力を見たい。でも安心しなさい。貴方()殺さないから」

 

 それでは困るのだ。寧ろ、俺が狙われる方がマシかもしれない。他人の命の行方が自分の行動に委ねられるなど耐えられない。

 

「俺は貴方に本気を見せればいいんですか? ──勝つ必要は無いんですよね」

「そう。でも、1度でも被弾させることができたら私の負けね。そのくらいのハンデはあげないと」

「弾幕ごっこでは無いのなら、全力で当てにいってもいいんですか」

「ふふ、どうぞ」

 

 ニヤリ、と不敵な笑みを浮かべる。浮かべたのは俺だ。言質がとれたからだ。

 

 ──使い魔達の準備も頃合だ。

 

 ──()()()()()!! 

 

 使い魔の現在位置と状態はコミュニケーションをとることによって把握できる。彼らに言語知識を身につけさせたのは、こういうことができるからだ。

 

 使い魔の霊力は数値化するなら1200程度。今の俺の五分の一にも満たない量だ。10体の使い魔がいるため、総合的に考えるなら俺の2倍の力があるということだ。しかしこの程度ではレミリアを追い詰めることができる程度のスペルカードは使えない。

 

『アテナ、俺の作戦はどうですか』

『吸血鬼の力が測りきれていないので言い切ることはできません。が、やってみる価値はあると思います。貴方の消耗は大きいでしょうが、2つ目の力を使うよりも安いはずです』

『これ以上()()()()をする必要は?』

『ありません』

 

 ──OK! 

 

 俺は壁の大穴へ駆け出す。モタモタしているとレミリアがグングニルを投げてくる。その前に穴の近くに移動する必要がある。

 

 ──背後から殺気。この感覚はグングニルを作ったな! 

 

 10数発も間近で見てきたのだ。この程度のことは嫌でも分かる。

 

「──ありったけの刀をっ!」

 

 レミリアの位置を正確に感知できるアテナの力を借りて、振り向くことなく刀を創造する。創造してきた数が最も多い物体。これが刀だ。

 

 物体の創造にかかる時間は、経験量に反比例する。今はレミリアの投擲を妨害することが目的なので沢山の武器で囲う必要があるのだ。

 

 レミリアは槍を使って己を滅多刺ししにかかる無数の刀を払うはずだ。

 

 なんとか穴の空いた壁まで辿り着いた。

 

 俺が振り返った時、レミリアは丁度刀を払い終えていた。彼女の足元には直接砕かれた刀や風圧で吹き飛んだ刀が沢山落ちている。

 

 ──あの槍に触れたら死ぬ。だから俺は、それを利用する。

 

「はっ、はっ……こりゃ死ぬかも」

「もう終わり? こんなにすぐ諦めるようじゃ異変解決に向いてないよ。あれは実力と経験はもちろん、諦めない心がないとやってられないだろう」

 

 正論だ。異変を起こすのは大抵大妖怪クラスか神様だから一度や二度で勝てる事はあまりない。それは霊夢達であってもそうらしい。大事な事は諦めないこと。

 

「……それが欠如しているのなら活を入れてあげる」

 

 断っておくが、俺は1ミリも諦めてなんかいない。弱音を吐いてみせたのは演技だ。

 

 ──死ぬかもしれないってのは事実だけど

 

 宙に浮いているレミリアは拳を天井へ向け、グングニルを逆手に持った。左手を俺に向けて狙いを定めている。

 

 ──あの槍を躱すことは俺にはできない。それなら、アレに太刀打ちできるものを()()()創造すればいいだけだ。 

 

 俺の意識は能力を発動させた。

 

「今度は少し本気で行くよ。──()()()()()()()()()()()!!」

 

 刹那──実に10のマイナス18乗、100京分の1秒という途轍もなく短い時間が経過した後に放たれた。

 

 少なくとも、技を食らう俺にとってはそう感じられた。

 

 ──速ければ速いほど良いんだ。

 

 ───────────────

 

 グングニルを投げて地面に着地した後、凄まじい爆音が紅魔館中に響いた。部屋には砂塵が広がって何も見えない状態だ。

 

「ん"〜〜〜!!」

 

 後ろから、叫び声が聞こえる。

 

「咲夜」

 

 一言。従者の名を呼んで、大穴に背を向ける。ゆっくり歩いて()()の所まで辿り着く頃には、視界が元に戻っていた。

 

 そして、咲夜が彼女を拘束していたタオルを外し終わった。口を覆う物が無くなった瞬間、彼女は叫んだ。

 

「何をしているんですか!!」

 

 紅魔館には似合わない、何の変哲もない椅子に座らされ、腕を後ろに組んで縛られている彼女は立ち上がることができない。今回はそれが幸いした。『今すぐ退治してやる』という表情をしているからだ。

 

 拘束があるから、霊華は私に攻撃できない。ラッキーなのは私ではなく霊華の方だ。彼女の表情は、霊夢が妖怪と対峙している時の表情と似ている。それを見ると、興味が湧いてくる。霊華の実力に。私を楽しませることができるのかどうか、見てみたくなる。

 

 もしも霊華が未熟なら、不本意だが彼女を傷つけてしまうかもしれない。そうなれば祐哉は激怒するだろう。

 

 ──それはそれで、祐哉が()()本気を出してくれるだろうからいいけどね

 

 祐哉はあの──()()()()()()()()()を使うつもりがないらしい。様子からして私を舐めている訳では無い。それでも使わないのには、相応の理由があるのだろう。まあいい。

 

「──落ち着きなさい。祐哉はちゃんと生きているわ。ねえ、咲夜?」

「はい。……私は万が一に備えて外で見守っていたのよ。お嬢様の槍を避けることができないようなら私が助け出す。そういう手筈よ」

 

 咲夜は私の問いを肯定した後、霊華を諭した。どういうことかと、イマイチ理解できていない様子。咲夜は霊華の目の前に座って目を合わせる。

 

「私の力は時間を止めるのではなく、流れを操ること。時間の流れを極限まで遅くすれば十分彼を助けられるわ」

「そんなことできるはずが──」

「あら、心外ね。どうしてそう思うのかしら」

「非現実的過ぎます。自分以外の時間を遅くするということは、超スピードで動くのと同義。人間の身体が耐えられる速さには限界がある。そんな事を、本当にできるんですか?」

 

 なるほど。霊華の疑問ももっともなものだ。客観的に見た咲夜の動きは電光石火そのもの。そんな動きをしては身体の方がもたない。故に非現実的だと言うのだ。

 

 咲夜の時間操作を超スピードという単語を用いて説明するなら、()()()の超スピードと言うべきだろう。

 

「周りから見ればそうなるわね。私から見れば周りを遅くしているのだから、どうということも無いのだけど」

「そんなのおかしいです! 何か、矛盾しているようにしか思えません」

「霊華。貴女がいた世界の常識は幻想郷には通じないわ。私が元にいた世界には貴女の言う非現実的な物も存在していたけどね」

 

 私も別の世界から幻想郷にやってきた。私がいた世界には、魔法があるのは当たり前。そもそも私自身が非現実的な存在だ。

 

 世界が変われば常識も異なる。それを混同するからこうなる。別の世界の常識を己の世界の常識として見るというのは、例えるなら単位であるメートルとセンチメートルをそのまま比較するのと同じ。

 

 単位は揃えなければ正確には測れない。今の霊華は1mが100cmであることを知らずに1m=1cmとしているようなものだ。

 

 ──モノサシの調整は大事ね

 

「まあ、咲夜の力が信じられないのなら、後で存分に闘えばいいわ。それと、特殊相対性理論の勉強もする事ね。とにかく祐哉は生きている。咲夜、彼女を見ていなさい」

 

 さて、祐哉は体勢を整え終わったかな? 

 

 グングニルは祐哉に当たる寸前に霧散した。さっきから隙を見せると私の槍にイタズラをしてくるのだ。

 

 ──会う度に成長を見せてくる。

 

 成長速度もそうだが、彼の応用力と機転を特に気に入っている。

 

 祐哉は他の者にはできない戦い方ができる。その個性的な戦い方は退屈していた日常を少しだが変えている。

 

 祐哉と戦ったのは今回が初めてだが、ずっと前から見ていた。咲夜やパチュリーと弾幕ごっこをしていた時はもちろん、あの不老不死との決戦も覗いていた。直接見ていたわけではないが……。

 

 ──グングニルさえも対処してみせるとはね

 

 更に本気を出してもいいかもしれない。()()なことに、今日は雪だ。直射日光に当たらなければ外に出ることができるから、気が済むまで遊ぶとしよう。

 

 ───────────────

 

「──ふぅぅぅぅ…………こっっっっわ!!」

 

『お疲れ様です。良くやりました』

 

 なんとかギリギリグングニルに当たらずに済んだ。それでも風圧で思いっきり吹き飛ばされたが、槍で刺されるよりは何億倍もマシだ。

 

 ──便利すぎるな、内部破裂(バースト)

 

 動く物を正確に捉え、破壊するにはとてつもない集中力と動体視力が必要だと思っていたがそうでも無いようだ。

 

 いや、刺々に対して使ったように、何かを守る時は別だろう。

 

 だが、対象が止まっていたり、逆に()()()()()()()()()()()()()()何も必要ない。強いて言うなら、失敗すれば絶対に死ぬと理解していながらも一歩もその場から動かず、物体を創造できる度胸が必要だ。

 

 結局、疲れることには変わらない。今だって立ち上がっているのも辛いのだ。

 

 ──内部破裂は便利だけど、どうしても疲れるな。主に精神的に

 

 真紅の妖気で生み出された大きな槍を物凄い速さで投げられてみろ。ストレス凄いたまるから。

 

 精神的疲労というのは軽視されがちだが、何をするにしても無視できない要素だ。もちろん能力を使う時も同じ。物体を創造する程度の能力は創造物のモデルを三次元的にイメージした物をトレースする。集中してモデルを思い描かなければ望んだ通りのものを作れない。

 

「疲れた……。レミリアは来ないのか」

『…………。そうですね、寧ろ、遠ざかっていますよ。恐らく霊華のそばにいますね』

「くっ」

 

 ──まさかレミリアめ。再び霊華を利用するつもりか! 

 

 溜まってくる気だるさを無視して、紅魔館へ駆け出そうした時、アテナは強く言い放った。

 

『目的を見失ってはいけません。貴方は、吸血鬼を倒すことに専念するべきです』

「レミリアは霊華を殺さない。そう言いきれるのか?」

『言いきれますよ。少なくとももう暫くのは平気です。人質という物は利用するためにあるのです。殺すのは最終手段。あの吸血鬼も弁えているはず。それとも、レミリアという吸血鬼は狂気に染まっていますか?』

 

 ──知らない。が、妹のフランドールよりはマシだろうな

 

「分からない。俺はレミリアを信じていいのか、もう分からないんだよ……。俺が知っているレミリア・スカーレットの『設定』も、この世界に通用するのかわからない」

 

『……祐哉、こんな時ですがこっちに来てください』

 

 ───────────────

 

 突然真っ白な空間に飛ばされた。目の前には美しい女性がいる。ここは精神世界か。

 

「一体どうしたんですか。ゆっくりしている暇はないんですが──うわ!?」

「分かっています。ですが、感情のしこりは早々に消さなければ、この先貴方は一生苦しみ続けるでしょうね」

 

 突然、アテナは女性とは思えない力で俺を引き寄せた。左腕は俺の背中に回し、右手を頭に乗せてきた。

 

「信じていた者に裏切られたのです。疑心暗鬼になるのも無理はないです。一度疑うと、あらゆる物が疑わしくなります。私はそうなった者を何人も見てきました。放置してはならないのです」

 

 アテナは台詞の内容に似合わない程温かく、愛に溢れた神の声で囁く。

 

 頭を撫でられている状況で感じたのは興奮ではなかった。幼少の頃母親に撫でてもらったように、包容力に満ちていた。

 

「特に貴方はまだ若い。心の傷は深くなりやすい。──大丈夫。私はずっと、貴方の中で見守っています。いつでも味方です。こうやって慰める事もできます。今は戦いに集中しましょう。ね?」

「ありがとう……ございます」

「もう、大丈夫ですか?」

「……はい。行けます」

 

 ───────────────

 

 ──雪が冷たい

 

 目を覚ますと身体に雪が積もっていた。立ち上がって雪を払う。身体は冷えているが、心は温かい。アテナのおかげだ。

 

 直ぐに頭を切り替えた。紅魔館までの距離は100メートル程だろうか。冷静に考えてみると相当飛ばされていたことに気づく。

 

 空を飛ぶために宙を浮く。そして、Y座標の加速度の変数のみを変更する。50メートル程度浮かんだ後、少し考えて20メートル程高度を下げる。

 

 ──創造、眼鏡──望遠機能付与

 

 使い魔の霊力は1800〜2050か。まあ、()()()()()()。深呼吸をして、気合を入れる。

 

「行くぜ、スターバースト!!」

 

 天に向けて魔法陣を創造して霊力を込めて巨大なレーザーを放つ。質量を持ったレーザーはコンコンと降る雪を飲み込みながら雲へ突き刺さる。

 

「──やった! 意外と行けるもんだな!」

 

 スターバーストは一気に雲を蒸発させ、空に穴を開けた。開いた穴からは久方振りの日光が降り注ぐ。

 

「これだよこれ。雲越しに差し込んでくるヤワな光なんかいらないんだ。俺が欲しいのは、生の光なんだぜ」

 

 ──太陽光、全機フルチャージ

 

()()鏡を創造して光の反射角を調整する。

 

「やるぞ使い魔君。『素敵で有難い浄化の光(サンピラー)』!」

 

 使い魔は蓄えた太陽光を収束させて強化する。先程創造した鏡に当てればおしまいである。

 

 創造した鏡は紅魔館にできた大穴へ向かい、予め設置しておいた鏡に当たって角度を変える。部屋の中に入り込んだ太陽光は部屋の壁に当たる。壁の位置は計算してある。半径30m。それが創造する際に設定できる範囲だ。30m以内であれば()()()()()()()()()()()()()()()

 

 部屋の中に創造した鏡には細工した。鏡に当たった光は乱反射して部屋に広がるはずだ。

 

『レミリアには当たるでしょうか』

「当たると思いますよ。部屋の中に鏡を沢山置いておいたし」

『完全に殺る気なんですね』

「東方の吸血鬼はコウモリ1匹分身体が残れば再生するらしいですし、死にゃしませんよ。──誰であろうと霊華を人質にすることは許さない。用があるなら直接仕掛けろってんだ!」

 

 最近、暴言を吐きすぎている気がする。だが、それだけ許せない事が多い。

 

 ──俺は霊華を守ると決めたんだ。無駄に危険を煽ることは許せない

 

「どうせ大して当たってないんだろ? 鏡増やしてやろうか?」

 

 悪態をついたその時、咲夜が部屋から出てきた。

 

『……あらら、流石に止めてあげたらどうですか?』

「チッ」

 

 望遠機能が付いた眼鏡のおかげで良く見える。咲夜は両手を上げて降参のポーズを取っていた。

 

「……貴方の敗因はたった一つ。『貴方は俺を怒らせた』」




ありがとうございました。戦闘描写を書くのも慣れてきましたが、読者方にはちゃんと伝わっているのでしょうか。なるべく細かくイメージして、細かく描写する事を心がけました。楽しんで頂けたらとても嬉しいです。

さて、──なんか勝っちゃった(汗)
レミリアの敗因は明日、次の回で分かります。

良かったら感想ください。それではまた!

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