東方霊想録   作:祐霊

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おっす、祐霊です。

春奇異変最終回です。彼らは既に「異変なんかほっといてバトルしようぜ!」的なノリです。


#49「守矢の巫女 vs ()()の巫女」

「スペルカードは1枚。先に被弾させた方が勝ち。準備はいいかい?」

 

 審判を引き受けた神奈子が言った。

 

『二人共、いい表情をしています』

 

 霊華と早苗が向き合い、それぞれが大幣を構えた。2人とも凛々しい顔をしている。

 

「始めッ!」という鋭い声が境内に響いた。先に動いたのは早苗だ。大幣を振りながら詠唱している。一歩も動かない早苗に対し、霊華は針を投げた。無防備に見えた早苗は、詠唱を保ったまま余裕で針を払った。

 

 一回目の攻防が終わった時早苗のスタンバイは完了した。霊華はそれに構わず、針を凡そ十本投擲した。これは上手い。闇雲に投げるのではなく、空間を敷き詰めるように投げてみせた。5本と5本の2層構造の弾幕。1層目の隙間を通ると、2層目の針が目の前にやってくるというわけだ。

 

「はっ!」

 

 早苗は針の弾幕に対して大幣を大きく振り下ろした。すると前触れなく風が吹き出す。針の位置はそのままに、運動ベクトルだけが逆になった。自分の元に戻ってきた針に一瞬動じるも、大きく宙に浮く事で回避。その後ノータイムで御札をばらまいた。

 

「風よ──!」

 

 早苗は再び風を起こすが、御札は構わず進み、早苗に当たりそうになる。彼女はギリギリのところで避けてみせた。

 

 雪は今も降っている。普通なら御札を投げても思うように飛ばない。これは博麗の巫女である霊夢であっても変わらない事実。だが、霊華にはスキルがある。

 

「まるで空気抵抗を無視するように御札を投げられるなんて……私にはできないかも」

「むしろ、()()()()()()()まともに投げられないんですよ」

 

 早苗の賞賛を受け、霊華は御札を人差し指と中指で挟みながら返事をする。

 

 霊華は御札に霊力を纏わせることで多少の障害を無視して投げることができる。多少の雨が降っていようが、風が吹いていようが、無視して飛ばすことができる、霊華だけのスキル。

 

『覆っている霊力に無駄がない。繊細な霊力操作能力が求められますよ。見た目以上に難しいはずです。貴方が真似をしようとしても、数年はかかるかもしれませんね』

『要するに、あの子は器用なんですね』

 

 2人とも、まだスペルカードを使う気はないようだ。霊華はもう一度御札を投げて、早苗が対処している隙に境内に落ちている針を回収した。

 

 回収を終えた頃、早苗は既に詠唱を開始していた。早苗が起こす奇跡のバリエーションがわからない以上、近づくことはできない。霊華としては彼女の詠唱を邪魔したいところだ。

 

 御札を5枚投げた。札はゆっくりと早苗の元へ向かっていく。それに対し早苗は余裕の笑みを浮かべた。これなら風を起こして対処できる。そう思ったのだろう。

 

 御札は早苗の元へ辿り着く前に勢いを失った。

 

 ──ミスか? 

 

『でも、御札には霊力が覆われたままです』

 

「あまり近づきすぎると怪我しますよ」

 

 霊華は針を両手で5本構えて投擲。針は宙を舞う御札を正確に穿った。

 

「きゃっ!」

 

 ──霊華って意外とやる時はやるんだな

 

 針が御札を貫いた時、小爆発が起きたのだ。攻撃力は皆無だが、牽制の効果が期待できる。

 

 狙い通り早苗が怯えた隙に駆け出し、霊華は大幣を叩きつけた。

 

「終わりです」

「くっ!」

 

 戦いは終わらなかった。

 

 間一髪。早苗はなんとか防いだのだ。そこから大幣を使った打ち合いへ移る。体術はほぼ互角。──いや、霊華が押され気味か。早苗は霊華に切り込む内に生まれた僅かな隙──大幣を持つ手が緩んだのを見逃さなかった。

 

 早苗が間髪入れずに大幣の下端同士をぶつけると霊華の手から木棒が離れた。

 

 武器を失った霊華。早苗にとって絶好のチャンスだ。今度は早苗がトドメを刺しにかかった。

 

「まだ、負けないですよ!」

 

 早苗の大幣は霊華ではなく、不思議な壁に当たった。

 

 ──あれは、御札か? 

 

 4枚の御札を角に障壁を構成している。

 

 強力な障壁のようだ。早苗が数度叩きつけてもヒビひとつ入っていない。

 

 霊華は後ろに跳んで、障壁に向かって針を投げる。

 

「──!」

 

 ──恐ろしい子。俺だったらもう負けてるかも

 

 針が当たった障壁には亀裂が走った。その後4枚の御札が爆発したのだ。

 

 器用で凄いんだけど怖いわ。敵に回したくないタイプだ。

 

「このままやっても消耗するだけですね。これで決めます。──秘術『グレイソーマタージ』」

「望むところです! ──夢符『夢想雪華』」

 

 遂にスペルカードが放たれた。早苗は自身の右肩辺りに大幣を構えると、俺の方から見て右、左斜め下、右斜め上、右斜め下、左斜め上の順に大幣を振ると大量の弾幕が現れた。

 

 丸い弾幕はドット絵の様に五芒星を描いている。暫くすると弾が内側に凝縮され、炸裂する。炸裂した衝撃波は彼女を中心に広がっていて隙がない。

 

 霊華はふわりと浮かび上がると袖口から丸い玉を一つ取り出した。

 

 ──あれはまさか、陰陽玉!? 使えるのか? 

 

 陰陽玉は妖怪を祓う武器の一つで、玉の力を引き出すのは博麗の巫女にしかできないと言う。霊夢から借りたのかな。

 

 霊華が詠唱を始めると陰陽玉が人工衛星のように彼女の周りを廻る。詠唱が終わったとき、白い弾幕が放たれた。

 

 霊華のいる位置から6本の枝を描き途中で枝分かれしていく。

 

『なるほど。彼女の技「夢想雪華」。雪華とは雪の華。即ち雪の結晶を表しているのですね』

『霊華のオリジナル技か』

 

 白い弾で形成された弾幕は雪の結晶の形をしている。6本の枝からは新たに6本の枝が生まれ、空間を三次元的に埋めつくしていく。イメージ的には霊夢の八方鬼縛陣と似ていて、敵の動きを抑制するタイプのスペルカードのようだ。

 

 霊華が十分な実力を持っている事を理解したのだろう。早苗は同時に5つの五芒星を描き、先程と同じように炸裂させる。炸裂して飛んでくる弾は霊華が放つ雪の結晶に阻まれている。時間が経つにつれ雪の結晶の隙間が狭くなっていく。

 

 ──結晶が持つフラクタル構造を表現できるほどの弾幕量。ここまでするのに一体どれだけの霊力を使うんだ? 

 

 俺は目の前で展開されている五芒星と雪華をとても美しいと思った。ゾクゾクするし、鳥肌も立つ。この感覚は打ち上げ花火を見た時と似ている。

 

 

 

 

 

 ───────────────

 

「まだ幻想郷に来たばかりなのだろう? 早苗とあそこまで渡り合うとは大したものだよ」

「ありがとうございます」

 

 試合終了後、神奈子が霊華に称賛を送る。神様に褒められるとは凄いな。

 

 試合の結果は()()()()。正直驚いている。霊華があそこまで成長しているなんてな。もしかしたら俺より強いかもしれない。

 

 あの綺麗な弾幕を作るセンスといい、落ち着いた立ち回り。障壁を使うタイミングも良かったし、守るだけで終わらず相手を牽制することができる仕掛けを用意しておく。

 

 ──ほんと凄いな。

 

『これを機会に貴方も障壁を作ってみてはどうですか?』

『んー、なんか防御は性に合わないと言いますか、気が向かないんですよ。レーザーはどうしようもないから跳ね返しますけどね』

『普通、レーザービームははね返せませんよ』

 

 そこだ。俺はレーザービームを跳ね返す物体を作れる。周りから狡いと言われてしまいそうだ。その分物理攻撃の対策をしていない。その気になれば他の人が障壁を作るよりも早く、簡単に創造できるからだ。物理攻撃、レーザー攻撃共に死角なしでは弾幕ごっこにおいて無敵になってしまう。

 

『そういうものですかね。幻想郷の人間や妖怪は、アッサリと崩してきそうなものですが』

『確かに。まあ、死にそうになったら作りますよ』

『レミリアという吸血鬼と戦った時、貴方は当たれば死ぬ槍を前にしましたが……』

『……あれ? 障壁要らなくないですか。内部破裂使えばいいじゃん』

 

 既に死角なしとは。しかし、「今のお前は既に死角が無い」と言われても喜べない。何故なら、死角無しにしては危なっかしい戦いが多すぎるからだ。

 

『内部破裂。あれは強力ですが相当疲労するのでしょう? 障壁を作った方が精神衛生上望ましいのでは?』

『ふむ。帰ったら霊夢に付き合ってもらおうかな。調整をしたい』

『また告白と勘違いされますよ』

『今度はフラれるかもね。そんなんショック受けるわ』

 

 ──と、いけない。考え事に夢中になりすぎた。

 

 気づくと霊華は早苗と神奈子、諏訪子の3人に囲まれて談笑していた。これは今更行っても入り込めないな。

 

 今回の異変は自然解決が見込める。帰ったら霊夢に報告して、風呂に入って寝よう。

 

 雪が降り止んで、桜が花を咲かせ始めたら宴会をやるそうだ。とても楽しみだ。




ありがとうございました。

へ、ガンダムはどこに行ったって? 遠い過去の話は忘れましょう。思い出したくなったら東方放浪録をご覧下さい。

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