東方霊想録   作:祐霊

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#54「語り」

 ──神谷君、楽しそうだな……

 

 さっきから、彼の周りに多くの女の子が集まっている。……宴会の参加者の男女比は絶望的。チラホラ男性を見かけるが殆ど女性だ。だから、彼の周りに女性が集まっても何もおかしくない。それはわかっているのだが、何だか少し寂しい気持ちになる。

 

 別に、楽しくないわけでは無い。霊夢と魔理沙に、華扇さんに()()()()()()もいるので楽しく話せている。

 

「──華。おーい、霊華?」

「ん、はい!?」

 

 私の名前を呼ぶ声に気づき、顔を上げると鈴仙さんが私を見ていた。

 

「妖夢と祐哉ってさ、そういう関係なの? 私全然知らなかったんだけど……」

「そういうって、恋仲ってこと?」

「そうそう。さっきの様子だとまるで祐哉が妖夢に告白でもしたように見えたから、霊華なら何かわかるかなって」

「……違う、と思う」

 

 そんなこと、私が知るはずがない。私だってずっと神谷君と一緒にいるわけじゃないもん。好きな子がいるという話も聞いたことがない。

 

「不安になっちゃうね」

 

 早苗の言いたいことはなんとなくわかる。理解した上で私はこう言った。

 

「よくわからないよ」

 

 ───────────────

 

 よくわからない。一見無関心にも聞こえる言葉。だが、表情を見ればそれは違うということがわかる。正座して少し俯いている彼女からは寂しげな空気を感じる。

 

 私は鈴仙と目を合わせたあと、霊華に問う。

 

「彼のこと、好きなの?」

「えっ!?」

「嫌いなの? そんなわけないよね」

「……好きといえば好きだよ。だけど、()()()()()()で好きなのかと聞かれるとよくわからない」

 

 へえ、自分が彼のことを異性として見ている可能性は否定しないのか。

 

「かーっ! 悩める乙女って感じがしていいねー! 幻想郷にこんな子がいるなんて!」

「からかわないでよ……」

 

 酔っている鈴仙にからかわれて、恥ずかしそうに顔を伏せる霊華を見て私は追い討ちをかける。

 

「いやー。羨ましいなー。好きな男友達と一つ屋根の下で暮らしているなんて。それでまだ何も発展していないんでしょ? つまりこれからって事ね! んーワクワクしちゃう。ふへへ……」

「早苗まで! もう……好きかどうかはわからないんだってば!」

 

 霊華は顔だけでなく耳まで真っ赤にして抗議する。あらあらーお酒飲んでないのに酔っちゃったの? 

 

「わかった。友達としては好きなんだよね? どういうところが好きなの?」

「神谷君はね……かっこいいんだよ」

「「ヒュゥ〜!!」」

「やめてってば! ……顔の話じゃなくて、言動の話ね。神谷君はいつも、私が危ない時に助けてくれるの」

 

 なるほど。吊り橋効果というものか。弱っているところを助けてもらったり、恐怖や不安を共に体験すると、相手が素敵に見えるというもの。

 

「それだけじゃない。二人とも知っていると思うけど神谷君は凄い力を持っている。なんでもできるように見えるかもしれないけどね、凄い努力しているんだよ。朝早くから、夕方暗くなるまでずっと修行してた」

 

 うんうん、それでそれで? と相槌を打つ。茶化したりはしない。今の霊華は、第三者の方がニヤけてしまうような、恋する少女の表情をしているからだ。鈴仙の酒が進む。私はお酒に強くないのでお茶をグビグビと飲む。

 

「迷いの竹林の近くに住んでいる妹紅さんって知ってる? あの人に勝つんだって言って、紅魔館で修行してたの。神谷君は弾幕があまり作れないことに悩んでた。それを解決するために使い魔を作るの」

「さっき披露していた彫像ね?」

 

 私がそう言うと、霊華はこくんと頷いた。

 

「あの使い魔を作るのにも苦労していたの。一度暴走しちゃって、私が攻撃されそうになった……」

「それを助けたのが祐哉?」

「そう。レーザーに飲まれそうなところで駆けつけてくれた」

「あ、祐哉ならレーザーを跳ね返せるよね」

 

 私は鈴仙の言葉に驚いた。そんな人間を見たことがないからだ。妖怪ならともかく、彼は人間。とても器用なのね。冗談かと思ったが霊華も「凄いよね」と笑っているので本当のことなのだろう。

 

「そのときね、神谷くんに抱き寄せられて、『大丈夫、俺に任せて』って言われたの」

「きゃー!!」

「いいね! そう言うのもっと頂戴!」

 

 霊華は恥ずかしそうに手で顔を隠した。そして暫くして、語り始めた。

 

「神谷君は使い魔とは別に、秘策のスペルカードを作った。ビックリするくらい完成度が高くて、霊夢も関心してたんだよ!」

 

 まるで彼氏を自慢するみたいに、意中の人の魅力を語る。

 

「遠くから見ていたけど、どのスペルカードも迫力があってカッコよかったし、綺麗だった」

「弾幕に惚れたのね」

「神谷君の弾幕は武器を使う怖い物もあるけど、レーザーと使い魔で作る銀河は凄く綺麗なんだよ」

 

 さっきまでの寂しそうな表情はなく、今はとても楽しそうに話している。とても幸せそうだ。

 

 ──祐哉のことなら霊華が一番詳しそうね

 

 

 ───────────────

 

「この辺でいいと思います。改めてお久しぶりです。祐哉くん」

「お久しぶりです」

「この前の、剣術についてのお話なんですが……」

 

 おお、あの話を妖夢は覚えていてくれたのか。あれから随分と経っているから忘れられているものだと思っていた。楽な姿勢で立っていた俺は姿勢を正す。

 

「私で宜しければ、お教えします」

「ありがとうございます!」

「いえ、最近弟子ができてしまったので、一緒に教える形になりますがそれでも構いませんか?」

「勿論です」

 

 その弟子というのは恐らく叶夢のことだろう。

 

「お弟子さんは何人いるんですか?」

「一応2人ですかね。白玉楼に住んでいますよ。貴方は3人目です」

「え、白玉楼に? 一度も見かけたことがないですが……」

 

 これは驚いた。白玉楼に住んでいるのは幽々子と妖夢のみだと思っていた。原作ではそうなっていたからだ。

 

 叶夢が妖夢の世話になっていることにも驚いたが、まさか白玉楼で暮らしているとは。あと一人は一体誰なのだろう。

 

「別室で修行していましたよ。お屋敷は広いですから、会わなくても不思議ではないのです。良かったら今紹介しますよ」

 

 ついてきてください、と言って妖夢は歩き出した。妖夢が進む先に目をやると、幽々子の近くに男がひとり居た。

 

「あれ、()()。叶夢君は?」

「彼は他の人に挨拶をしに行ったよ。「ナンパ」がどうとか……よく分からないけど」

 

 ──お兄さん、それ、挨拶じゃないと思う。ナンパだもん

 

 妖梨と呼ばれていた男は顔付きからして俺と同い年くらいだ。真っ黒な短髪に袴姿。服の色は妖夢と同じ緑色だ。顔はパッと見()()という感じだ。女の子にモテそう。少し苦手なタイプである。

 

「妖梨、彼がもう一人の弟子になる人よ」

「神谷祐哉といいます。外来人です。宜しくお願いします」

()()妖梨(ようり)です。よろしく! 歳近そうだし、お互い楽に話さない?」

 

 ──()()だって? 誰だこの人は

 

 俺は頷いて妖梨から差し伸べられた手を握る。

 

「──驚いた。何か武道でもやっているのか? 意外と握力強いね」

「何もやってないよ。強いて言うなら筋トレくらいかな。妖梨こそ、刀を使っているからか、凄い握力だな」

 

 俺達は笑顔を保ったまま睨み合い、握る力を強めていく。割と既に限界なので今すぐにでも手を振りほどきたいが負けたくないものだ。

 

「待ってくれ、別に喧嘩する気も、力比べをする気もない。手を離そう」

「わかった」

 

 妖梨の提案のおかげで助かった。互いに握る力を弱めていき、手を離す。右手が砕けるかと思ったぜ。手を振って硬直した筋肉を解放したいところだが、なんともなさそうな妖梨の顔を見て悔しく思い、我慢する。

 

「2人とも負けず嫌いなのねぇ。あんなに強く握っていたら痛いでしょうに」

 

 傍で見ていた幽々子にはバレバレだったらしい。妖梨も我慢していたようで、苦笑いを浮かべた。

 

「僕さ、男友達は叶夢──えっと、ひとりしかいないんだ。仲良くして貰えると嬉しいな」

「叶夢って人にはさっき会ったよ。俺も男友達はいなかった。知り合えて嬉しいよ」

 

 幻想郷に男がいないなんてことは勿論無いのだが、里の外にいる妖怪──今まで出会った妖怪──は皆女の人だ。探せば男性の妖怪も居るだろうが原作には殆ど居なかったな。

 

 ───────────────

 

 白玉楼にいる人達との会話を楽しんだ後、元いた席に向かう。その間、知っているけど()()()の人達を眺める。

 

 ──凄いなあ。皆本物かあ

 

「おや、二人共こんにちは。楽しんでもらえてますか?」

 

 わいわいと騒いでいる人達を眺めていると、座っているレミリアと傍で日傘を差す咲夜がいたので挨拶をする。

 

「こんにちは。今年の宴会はいつも以上に賑わっているわね。ところで、楽しそうに騒ぐ者を眺めているうちに気持ちが昂ってしまったのだけど、御相手してもらえるかしら?」

 

()()()笑顔を浮かべるレミリア。俺も笑顔で答える。

 

「ではジャンケンで勝負しましょうか。貴方が勝ったらお望み通り戦います」

「いいわ。普通に相手してあげるから安心しなさい。この程度の勝負、運命を操る程でもないわ」

 

 相手をしているのはこちらなんだがな、という気持ちを押し殺してニコリと笑う。

 

「では勝負といきましょう。じゃーんけーん──」

「ぽん──って、何よそれ」

「知らないんですか? 俺の故郷では有名なんですが……」

 

 握り拳(グー)を出したレミリアに対し、俺は親、人差し、中指を開いて出した。グーとパーとチョキ、全てを兼ね備えた最強の手だ。これに打ち勝つには、同じ手を使うしかなく、同じ手を使った場合相子となり永遠に決着がつかないという、途轍もなくガバガバなローカルルールである。

 

「俺の勝ち! なんで負けたか明日までに考えといてください」

「……ふふ、この私に対してそんな姑息な手を使うなんて、いい度胸しているじゃない」

「いやー、()()()レミリアさんならば()()()()許してくださると思いまして……」

「フン……」

 

 何かを言おうとしたレミリアは不服そうに鼻を鳴らし、黙ってしまった。傍にいる咲夜が、上手いことレミリアのお誘いを躱した俺に賞賛の眼差しを送ってくれる。

 

 ──戦いのお誘いじゃなければ喜んで受けるんだけどねえ。

 

 俺はレミリア達に別れを告げ、今度こそ元いた席に戻る。

 

 ───────────────

 

 早苗と鈴仙と霊華の3人が楽しそうに話している。俺がいた席には早苗が座っているが、霊華の隣の席が空いているのでそこに座ろうとする。

 

「神谷君は竹妖怪に捕まった私をまた助けてくれたんだよ」

「おおー!」

 

 ──げげっ……竹林異変の武勇伝か! 

 

 不味いタイミングで戻ってきてしまったようだ。霊夢と魔理沙には既に話してあるので何となく聞いているだけのようだが、華扇とあうんが早苗と鈴仙に混じって傍聴している。

 

 まだ誰も俺が来たことに気づいていないようだ。今のうちに撤退だ。

 

「本当に、神谷君は私のヒーローかも……」

「「きゃー!」」

「うわあああああー!!」

 

 待ってくれ。今霊華はなんて言ったんだ? 俺が霊華にとってヒーローなの? 待って、どういうことなの。よく分からないけどめっちゃ恥ずかしい。

 

 うっかり叫んでしまったせいで俺が戻ってきていたことに気づかれてしまった。

 

 俺に聞かれていたことに気づいた霊華はみるみるうちに顔を赤くし、叫びながらテーブルに突っ伏した。更にブンブンと頭を振る。

 

「あー、えっと……は、博麗さん。そんなことしたら髪がボサボサになっちゃうよ」

 

 激しく動揺している彼女に若干引き気味に声を掛ける。傍から見れば俺も動揺しているのだろう。

 

 ──まあ動揺しているんですけどもね! 

 

 ただ硬直状態を長引かせては俺と霊華の間に気まずさが生まれてしまう。それは俺にとってはとても寂しいことだ。だから、早めに声を掛けた。正直俺も今顔が赤くなっていると思う。

 

「髪なんてどうでもいいんです!」

「いや、良くない。折角の綺麗な髪が台無しになってしまうよ」

 

 霊華は顔を伏せたまま、ビクッと反応した。いや、結構恥ずかしいことを言っているのは自分でも分かっている。

 

 視界の端で外野がニマニマ笑っている。

 

「あー、その……ごめんね。盗み聞きするつもりはなかったんだけど聞いちゃった。できたら顔を上げてくれないかな」

「……いつからいました?」

「俺が博麗さんを助けたってところから」

 

 はあ、と溜息をつく音が聞こえた。暫くして霊華は顔を上げてくれた。

 

「そこからならまだマシかな……」

「え、マジで? その前は何を話してたの?」

「嫌です! 絶対に言いませんよ!?」

「気になるな……」

 

 俺は乱れてしまった髪を整えられるよう、櫛を渡す。長い髪をブンブンと振り回したのだから絡まったりしてそうで心配だ。

 

 ───────────────

 

 ──え、私達の目の前でイチャつきます? 

 

 隣の鈴仙は霊華と祐哉のやり取りを見ながら酒を飲んでいく。日本酒をビールのように──いや、水を飲むように飲むその勢い。流石は妖怪か。人間ができる芸当ではない。

 

「うへっうへへへへへ!」

 

 不気味な笑い声を上げたのは私ではない。鈴仙だ。

 

「ほら、この櫛を使いなよ」

「ありがとうございます」

「……まあ、乱れていても可愛いけど」

「ふぇ……?」

 

 ──あらあら。あらあらあらあら!! 

 

 祐哉は酔っているのかしら。それとも、霊華の反応を楽しむ為にわざとやっているの? 次々と襲いかかる口説き文句に霊華のキャパシティは崩壊している。折角2人が顔を見合わすことができたというのに、余計なことを言うんだから。霊華がどっか行っちゃったじゃない。

 

「ブー! ブー!」

「なんすか? なんで外野からブーイングが飛ばされてるの?」

「それは……」

 

 私が言うべきかどうか迷っていると、酔っ払った鈴仙がズバリと言った。

 

「──もっとイチャつくところが見たかったんだよちくしょーう!」

「え、鈴仙……さん? 性格変わってない? いや、言う程知らないけど……」

 

 鈴仙の態度に祐哉は引いているようだ。

 

 ──さて、追いかけさせるべきか否か

 

 私は頬杖をついて祐哉と、遠くで髪を梳いている霊華を見比べる。

 

「祐哉、お酒は飲んでるの?」

「飲んでないよ」

「いつも霊華をああやって弄っているの? 具体的には、口説いているの?」

「あんまり言わないよ。口説いたつもりは無いけど……そんな風に見えた?」

 

 決まりだ。祐哉は酒に酔っているのではなく、宴会という空気に酔っている。だから暴走しているというわけで、普段はこの光景を見ることができないというわけだ。

 

 個人的な()()()を優先させるのであれば、追いかけさせるべき。今日なら祐哉に弄られてオロオロする霊華が見られるのだ。

 

 二人の関係を考慮するなら、一旦祐哉を落ち着かせた方がいいだろう。霊華の可愛い反応を愉しみたいところだが、虐めすぎて二人の仲に亀裂が生じてしまったら二度と見ることができない。

 

「どう見ても口説いてるようにしか。そういう事をスッと言っちゃう紳士には見えないからね」

「……霊華に迷惑だったかな」

 

 ──ん? 

 

「どうかなぁ、霊華がグイグイ来られるのに慣れていないのはまず間違いないよね。迷惑と思うかどうかはわからないよ。──ただ」

「ただ?」

「「ごちそうさまです!!」」

「やかましいよ!?」

 

 どこかおかしくて3人とも笑う。落ち着いた時鈴仙が祐哉に訊ねた。

 

「祐哉は霊華のこと好きなの?」

「そうかもね」

「霊華って霊夢とそっくりだけど、何か違うの?」

 

 なかなか意地悪な質問だけど、それは私も気になる。

 

「確かに容姿と声はそっくりだ。見た目の話なら2人とも好きなんだけど、中身を考えれば勿論別人で、それぞれに魅力があるんだよ。語ってもいいけど引かれそうだな」

「大丈夫大丈夫! 酒の席で話したことは皆無かったことになるんだから!」

 

 この場においてそれは、飲みまくっている鈴仙しか該当しないのだけどそこは置いておくとしよう。

 




ありがとうございました。
妖梨もオリキャラです。彼の名字が魂魄な理由はちゃんとありますが書くかどうかはわからないです。書いたら文字数と話数が膨らみそうなので決めかねています。(多分短編ひとつ書ける)

次回は宴会編最終話です。
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