東方霊想録   作:祐霊

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#5「紅き悪魔の妹」

「それじゃあお兄さん、外で遊ぼう?」

「うわぁ!?」

 

 フランは俺の手を引っ張って外まで猛スピードで走る。速い、速すぎる。気持ち的にはオリンピック100m走最速の()()()に引っ張られてるみたいなものだ。ギャグ漫画で見る暴走した犬の散歩のように、全力で走らされてます! 因みにリードは俺の腕。

 

「はぁ、はぁ、走るの……速すぎ……」

「お人形持ってくるね!」

 

 外に着いてすぐに部屋へ向かうフラン。お、おう……あんな速く走ったのに息が乱れてないのか。これが若さって奴? 俺ももう歳だな。……いやいや、種族の差だよね? まだピチピチの17歳だよ?

 

 右腕を触る。良かった、もげてない。こんな調子じゃこの先不安だな。フランは少々気が触れているからもし途中で遊びに飽きたら俺を殺そう(壊そう)とするかもしれない。狙われたら最期。俺は黙って壊されることしかできない。

 

「お兄さーん! お人形持ってきたよ。今からこれを壊して、どっちが多く壊せるか勝負しよう?」

「えっ」

「行くよ〜 よーい、ドン!」

 

 フランは両手いっぱいに持ってきた縫いぐるみを並べるとスタートの合図をする。唐突に始まった縫いぐるみ破壊ゲームに俺は付いていくことができず、あっという間に負けてしまった。

 

「すっげえ……」

 

 フランは両手を開いた後握りこぶしを作った。たったそれだけの動作で縫いぐるみは内側から破裂してしまった。これが『ありとあらゆるものを破壊する程度の能力』か。

 

「あ……お人形もう壊れちゃったね。つまんない。次は、()()()()()()()()?」

「ッ!?」

 

 俯いて小さな声で呟く。その瞬間、全身に寒気が走る。決して今が冬だからではない。空気が身体にまとわりつくように重くなり、心臓の鼓動が早まる。

 

 ──怖い。

 

 視界が狭まり、呼吸が荒くなる。頭では逃げようとするが、心臓を握られたような錯覚に陥って指先ひとつ動かすこともできない。

 

 このままここに居ては例の()()でさっきの縫いぐるみと同じ末路を辿ることになる。……待てよ、その手があったか。

 

 ──()()()()

 

「あれ? お人形がたくさん……どうして?」

「ふぅ……」

「お兄さんがやったの?」

「ま、まあね……」

「すご〜い! お兄さんどうやったの?」

「俺の能力だよ」

 

 俺は能力を発動して縫いぐるみを()()()()()。壊したはずのモノが再び目の前に現れたことに気づいたフランは笑顔になった。これで一先ず難を逃れたか。

 

 さて、あまり隠しても仕方ないしそろそろ俺の能力を紹介するとしよう。

 

 俺は幻想入りしてから三ヶ月の間に『物体を創造する程度の能力』に目覚めた。先刻チルノと弾幕ごっこをした時に使った──創造『 弾幕ノ時雨・針(レインバレット)』は能力で創造した針を放ったのだ。

 

「お兄さんは物が作れるんだ! ……私とは逆なんだね」

「…………」

「私の能力は『ありとあらゆるものを破壊する程度の能力』。このチカラのせいで色々あってね、最近まで誰も私と遊んでくれなかったんだ」

 

 彼女の声と、ギュッと縫いぐるみを抱きしめる背中からは純粋な寂しさが伝わってくる。吸血鬼で495年以上生きていると言っても、子供なのだ。寂しくないはずがない。

 

「オモチャもすぐ壊れちゃって……」

 

 そうか、確か原作の書籍に『折角作った物もすぐに壊すから誰も遊んでくれなくなった』的なことが書いてあった気がする。

 

 ──そんなの、辛すぎる……。

 

「え、お兄さん?」

 

 気づくと俺はフランの頭に手を置いていた。

 

「……大丈夫。これからはたくさん遊べるよ。壊れちゃってもいい。俺がいっぱい作ってあげるから──」

 

 だから、もう寂しくないよ。

 

 破壊と創造。相反するこの力は相性が悪い。だがそれは対立した時の話であって今回はそれに当てはまらない。

 

壊れてもいい物(オモチャ)はいくらでも作れる。フランが全て壊してしまっても、寂しい思いをさせることもなくなるんだ。

 

 ───────────────

 

「さあ! お兄さん、行っくよー! 禁忌『クランベリートラップ』!!」

「ひえっ!」

「あはは〜! 楽しいわお兄さん。壊れないでね」

 

 そう思うなら手加減してくださいお願いします、死んでしまいますから!

 

 あの後何やかんやあって弾幕ごっこをすることになった。ルールはスペルカード一枚、被弾一回だ。

 

 フランにとっては遊びでも、俺にとっては命懸けだ。人間でも妖怪に対抗できる手段が弾幕ごっこなのだが、俺があまりにも弱すぎるから正直殆ど変わらない。

 

 クランベリートラップは『東方紅魔郷』に登場したスペルカード。当然見覚えがある。でも……避け切ることはできるだろうか? 二次元の画面で見ていた通り、平面で襲ってくる訳では無い。即ち、定石通りに避けられるとは限らない。

 

 左右から壁のように迫ってくる光弾を避け、様子を伺う。今のところは順調。しかしそんな余裕もすぐになくなって、いつの間にか全方位を囲まれてしまう。気づいたら(トラップ)にかかっていたようだ。だがその罠も暫くの間凌げば再び解放される。

 

「詰んだ。──星符『スターバースト』!!」

 

 突破口が見えず、あのままでは一気に被弾するところだった。光線は轟音と共に広がってフランと()を容易く呑み込んだ。

 

 ──ん?

 

 だが、彼女にダメージは入っていないようだ。なんだろう。今コウモリの翼みたいなのが見えた気が……。まあいい、目的はフランを攻撃する訳ではなく弾幕をかき消すことだ。クランベリートラップの持続時間は残り十秒程だろう。ここをなんとか生き残れば引き分けに持ち込める。

 

 ───────────────

 

「お兄さん大丈夫?」

「な、なんとか……」

 

 俺は残り十秒程でもう一度死にかけた。周りから囲んでくるタイプのスペルカードは初めて見たから上手く避けられず、気づいた時には詰んでるのだ。運良く被弾する前にカードが時間切れで終わったが、戦いがあと一秒でも長引いていたら死んでいたかもしれない。

 

「楽しかったわお兄さん。ありがとう! また遊んでくれる?」

「勿論、次はもっと強くなってからがいいな」

「そしたらもっと遊べる?」

「うん」

 

 そう言うと、フランは嬉しそうに羽を揺らす。可愛い。──おっと、俺はロリコンじゃないぞ? フランは普通に可愛いからな。妹に欲しい。

 

「そろそろレミリアさんのところに行かなきゃ」

「うん、一緒に行こう!」

 

 フランにレミリアの部屋まで連れていってもらう。さっき咲夜に案内されたがイマイチ覚えていない。この洋館、広すぎるんだ。

 

「ところでさ、フランドールちゃん」

「フランでいいよ。長いでしょ?」

「じゃあ、フランちゃん」

「なーに?」

「その羽、空飛べるの?」

 

 その言葉に羽が反応し、色とりどりの結晶がカランと鳴る。ガラスか何かでできてるのかな?

 

「えー、内緒」

「えっ」

「弾幕ごっこで私に勝てたら教えてあげる!」

 

 うーむ、そうきたか。気になるなぁ。フランの羽は木の棒のような骨に結晶が付いているのだ。それだけである。俺には飾りの羽にしか見えない。

 

「着いたよ。お姉様、お兄さんを連れてきたよ!」

 

 フランが部屋のドアをノックしてレミリアを呼び出す。部屋を出て俺の顔を見たレミリアは微笑んだ。なんだろう?

 

「それじゃあ案内するから付いてきて」

 

 道中レミリアの「無事だったようね」という言葉に対し俺は苦笑いを浮かべる。そんな俺を見てさっきと同じように笑みを浮かべるレミリア。何だ何だ。怖いぞ。

 

 暫く紅い廊下を歩くと地下への階段に辿り着いた。そういえば紅魔館の図書館は地下にあるんだっけ?

 

「さあ、ここが図書館。私の親友を紹介するわ」

 

 レミリアは重厚な扉を押し開けた。


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