──この調子じゃ夕飯は抜きかな?
祐哉君の修行には叶夢君を使えと、紫様から頂いた指南書に書かれていた。ライバルと共に切磋琢磨することで成長速度が飛躍的に伸びるからだ。
二人はよく喧嘩をするから、敢えて協力せざるを得ない状況を作った。嫌悪による競いはして欲しくない。
私は二人から一旦距離を取り、彼らが呼吸を整えている間に屋敷の見回りをする。
「あ、お姉ちゃん。お疲れ」
「妖梨……。私はあまり疲れてないよ」
「そう? なんだか難しいことを考えているように見えるけど」
私は妖梨に今行っている修行内容を話す。
「へぇー面白そう。僕も混ざっていい? 久しぶりにお姉ちゃんと稽古したいな」
「あのね、これは2人に協力させなきゃ意味が無いの。だから今度ね。そのうち妖梨にも教えてもらうつもりだから」
「そっか、どんなことを教えようかなー?」
妖梨は楽しそうに笑った。
「そろそろ行ってくるね。多分今日はご飯抜きだよ」
「加減はしてあげてね」
加減はしている……つもりだ。少なくとも、私の師匠の教え方と比べれば何倍もマシ。私はいきなり斬られそうになったから……。剣の技術も体で覚えるまで叩き込まれた。
私はふわりと宙に浮かんで2人を探す。2人はすぐに見つかった。
──枯山水に入り込まないで欲しいんだけどな……折角整えたのに
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「もしもし二人共? この庭に立ち入らないでください。庭のお手入れ大変なんですよ」
「へぇ? じゃあ俺達が鞘を奪えなかったら元に戻してやるよ」
「素人に務まる仕事じゃないのです。ですが、手伝って貰いますよ」
私は背中に手を伸ばし、楼観剣を引き抜く。
「分かってるな? 叶夢」
「ああ。バックアップは任せるぜ」
どうやら遂に協力する気になったみたいね。
バックアップが祐哉君ならメインは叶夢君か。私は楼観剣を構えて様子を見る。
──できれば庭に足を踏み入れたくないな。上手く立ち回ってこちらに誘き出そう。
「確認だけど、俺たちが奪う鞘は背中に背負っている黒いヤツだよな?」
「そうです。間違えて楼観剣の鞘を取らないでくださいね」
「念の為もう一度見せてくれないか」
なるほど。その手には乗らないよ。
「そうはいきません。見せたら能力で操作するでしょう?」
「あら? バレちった」
「うわマジか……バレないと思ったのに」
二人はショックを受けているようだ。私も舐められたものね。弟子の能力くらい把握できないようでは師は務まらない。
なにか作戦を立てていたみたいだけど、失敗に終わったようね。ここからどう立ち回るのか見てみよう。
「──油断したな! 今だッ!」
突然叶夢君が叫び、それを合図に十数本の刀が向かってくる。弾幕は散弾し容易に避けることはできないので、楼観剣で飛来する刀を弾く。
──脆いな
私が弾いた楼観剣には傷一つついていないが弾き飛ばした刀は砕かれている。彼が造る刀は不完全な物なのだろう。
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俺が投擲した刀は全て弾かれてしまったが想定内の結果だ。妖夢が刀を弾き終わり、安堵している隙を叶夢が突く。
「きゃっ!」
叶夢が腕を振るった後、妖夢は不自然に浮かび上がって枯山水の上まで平行移動した。妖夢の意思で移動した訳では無いことは動揺した様子から伺える。叶夢が腕を振り下ろすと同時に妖夢は地面に落下し、砂利に足を付けた。砂利を踏む音を合図に、俺がスペルカード──創造『
「──な!? 足が……」
妖夢の足にまとわりつくように砂利の山が作られている。
──叶夢の能力で妖夢の服を操作して庭に引っ張って、操作した石で妖夢を地面に固定する。
彼女が動揺している今なら抜け出すことはできないだろう。これで妖夢から鞘を奪える。
「足が使えなくても、私には剣がありますよ!」
「──分かっています。だから俺はこのスペルカードを使ったんだ」
そう言って俺は妖夢の元へ駆け出す。
先刻の創造『
妖夢は数十本の槍を弾いてみせた。彼女は刀の何倍も重い槍を弾いて疲弊している。俺は彼女の背後に駆け──
「──取った!!」
「いよっし!」
見事、妖夢から鞘を奪い取ることに成功した。
「よっしゃー! 貰った刀使ってないけど取り返すことはできたぞ!!」
「やったな! 祐哉!」
叶夢は嬉しそうに笑みを浮かべて拳を向けてくる。
「能力の使い方、完璧だったぜ! 叶夢は凄いよ」
互いの拳を当て、喜びを分かち合う。
「お前のアシストも完璧だったよ。妖夢を油断させてくれたから成功したようなもんだ」
刀を納刀して妖夢を見る。既に解放されている妖夢はこちらに歩み寄りながら納刀している。
「驚きました。まさか取られちゃうとは……」
「へへっ、俺と祐哉のコンビなら無敵さ」
「確かに、二人の能力は相性が良さそうですね。この作戦はどっちが立てたのですか?」
俺が手を挙げると、解説を求められたので説明する。
この作戦の要は枯山水の砂利。よって、妖夢を庭に誘き寄せる必要があった。注意を引くため意図的に庭を荒らしたと言うと怒られてしまった。──仕方ないんだ。
俺が弾幕を飛ばして妖夢を牽制し、俺に意識を集中させる。こうすることで、叶夢は自分のタイミングで能力を発動しやすくなる。叶夢の能力は人間を操作することはできないが、衣服を操ることで強引に引き寄せることが可能だ。
余談だが、この作戦を立てた際の実験体は俺である。数十キロの人間を引っ張るので、半端な力では動かせないと知った叶夢は雄叫びをあげながらフルパワーで俺の服を操作した。物凄い力で引っ張られた俺は首と腰を痛めかけた。首の骨がボキボキと鳴った時は死ぬかと思った。
妖夢を砂利の上に立たせたら、直ぐ様砂利を妖夢の足にまとわりつかせる。これだけでは砂利を払われてしまうので、俺が創造『
「私が槍を弾かなかったら祐哉君も当たっていたということですか? 危険な賭けをしましたね」
「貴女なら弾けると信じていました。師匠ですからね」
「そうですか? ふふ、師匠らしいところを見せられたなら良かったです」
妖夢は照れくさそうに微笑んだ。
そもそも、妖夢が攻略できると確信していたからあのスペルカードを使っている。戦闘慣れしていない者に使えば1撃目で殺してしまうだろう。それこそ、黒ひげ危機一髪のように。
如何に妖夢が優れていようと、数十本の槍を払い続けるには体力を消費するはずだ。槍は刀の数倍も重い。それが高速で飛んでくるのだから、弾いて軌道を逸らすには相当なパワーを要するのだ。
疲れていれば、注意力が失われる。あとは妖夢が俺の存在に気がつく前に鞘を奪えばいい。
「へぇ、考え尽くされていますね」
「問題は作戦通りに動くことができるのかという事だったんですが、何とか成功しましたね」
「祐哉君の作戦も素晴らしいですが、叶夢君の立ち回りが完璧でしたね」
宴会準備の際、叶夢がテーブルの操作を失敗した事もあり、不安に感じていたが、どうやら大まかな操作なら問題なくできるらしい。
「ところで、俺達は自分の刀を使いませんでしたけど、大丈夫ですか?」
「問題無いですよ。できれば使って欲しかったですが、目的は違いますから」
「目的?」
「ええ。二人共、仲がいい様で良かったです」
妖夢はにっこりと笑って言った。
今回の鞘取り合戦は俺と叶夢にチームプレイをさせることが目的だったとか。妖夢の前で喧嘩しすぎたらしい。今はもう叶夢のことは嫌いじゃない。ただ、喧嘩を売買するような会話は治る気がしない。
ありがとうございました