東方霊想録   作:祐霊

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#62「祐哉はイチャイチャするらしい」

「霊夢霊夢っ!! 可愛い子見つけたの! 飼ってもいい?」

 

 朝から出かけていた霊華が動物を連れて帰ってきた。

 

「その前にどこから連れてきたのよ?」

「人里から神社までの道で会った。この子、私が幻想入りした日にも会ったんだよ」

「どうして同じ犬だってわかるの?」

「声が聞こえるからね」

 

 そういえば霊華には動物の声が聞こえるんだっけ。なるほど、それなら同じ子だということもわかるはずだ。

 

「それと、この子は犬じゃないよ」

「え? じゃあ狼?」

 

 霊華が抱き抱えているのは、フワフワとした白い毛を持った子犬だ。これが犬ではないという。

 

「……へえ。──この子が言うには、()()だって」

「ぬえ? 何処かに同じ奴が居たわね。まさかアンタ、命蓮寺のぬえじゃないでしょうね?」

 

 人里の近くにある命蓮寺によく居る妖怪、封獣ぬえの可能性を考えて大幣を突きつける。ぬえの力は正体をわからなくさせるというもの。

 

「やめてよ霊夢。この子は悪い子じゃないよ? 声と気持ちがわかる私が言うんだから心配ないと思う」

「うーん……まあいいわ。何かやらかしたら退治すればいいもんね」

 

 私がそう言うと、霊華は抱いている小動物に話しかける。

 

「悪いことしたらお仕置きされちゃうって。わかった?」

 

 小動物はこくりと頷いた。もうすっかり懐かれちゃってる。これを引き剥がすのは無駄ね。密会するに決まっている。それなら私も一緒に監視した方が安心だろう。

 

「ペットを飼うんですか?」

 

 狛犬のあうんがひょっこりと出てきた。

 

「2匹目の犬になるわね」

「あう……私はペットじゃないですよぅ」

 

 飼い犬と同じ扱いを受けるのは狛犬としてのプライドが許さないのだろう。私があうんの頭を撫でてやると、彼女は嬉しそうに擦り寄ってきた。

 

 ──その反応はペットでしょ

 

「その子に名前はあるの? 『ぬえ』って呼ぶと昔見た別のぬえを思い出すんだけど」

「『コロ』だよ。私が名付けたの。この子も気に入ってくれたよ」

 

 何よ、最初から飼うつもりだったんじゃない。

 

「餌は? 人間とか言ったら封印するからね?」

「待ってね、聞いてみる。──なんでも食べられるって」

 

 雑食か。見たところ、人型になれない程度の、力の無い妖怪ね。ああもう、どうして博麗神社(ここ)は妖怪が集まるのかしら? 

 

 妖怪の面倒を見たことは何度かある。小人や月兎と言った小動物系の妖怪だ。

 

 ───────────────

 

「はい、今日はここまでにしましょう」

「ありがとうございました!」

 

 今日の修行を終えた俺達は風呂場へ直行する。風呂は大きいので、基本的に俺と叶夢は一緒に風呂に入る。汗を流してのんびりと湯に浸かりつつ話すのが楽しいのだ。

 

 風呂から上がり、濡れた髪を拭きながら廊下を歩いていると何となく博麗神社を思い出した。

 

「たまには博麗神社に行こうかな」

「いいんじゃねーの? 霊華ちゃんとイチャイチャしてこいよ」

「別にイチャイチャはしないけどな?」

「妖夢ーいるかー?」

 

 叶夢は俺の返事を無視して部屋の障子を開ける。

 

「どうしたの?」

「祐哉が霊華ちゃんとイチャイチャしに行くってよ。明日の朝帰るつもりらしいけどいいよな?」

「あらまぁ。楽しんできてね」

「なんか誤解されてそうだけど……楽しんでくるよ」

 

 妖夢の口調が砕けているのは、今がオフだからである。俺達に対して敬語を使うのは修行の時だけである。俺も妖夢に合わせて、修行の時は「師匠」、普段は「妖夢」と呼んでいる。

 

 ───────────────

 

「御免ください」

「ん? あらおかえり。修行は終わったの?」

「とりあえず今日は終わり。たまには帰ろうかなって」

「じゃあ今日はお酒開けちゃおうか」

 

 ──本当にこの人は同世代か? 

 

 友人が久しぶりに帰ってきたことを口実に保存していたお酒を開けようとするとは、俺のおじいちゃんと同じだ。それとも、年齢は関係ないのだろうか。と、どうでも良いことを考えていると、あうんがお茶を用意してくれた。

 

「ありがとう」

「どういたしまして。霊華さんは今お風呂に入っているのでちょっと待ってくださいね」

「そうなんだ。……もしかして、霊華に会いにきたと思ってる?」

「違うんですか?」

「違うの?」

 

 霊夢とあうんは全く同じ反応を返す。……なんか俺、「霊華大好きキャラ」になってないか? どうしてこうなった。

 

『嫌いなんですか?』

『いや……好きだけど……』

『何も間違っていないじゃないですか』

 

 いや、うん。そうだけど違うんだよ。霊華のためなら命をかける人間とか思われてそうだなって。さすがにそんなことは……あれれれれ? 

 

『大好きじゃないですか』

『うっそだろ反論できねぇ……』

 

 アテナとの会話を終わらせ、霊夢達に返事をする。

 

「霊夢にも会いにきたんだけどね」

「私には!?」

 

 あうんが返事によっては泣き出しそうな表情を浮かべている。申し訳ない。

 

「あうんちゃんにも会いにきたよ。魔理沙もいると思ったんだけどいないんだ?」

「さっきまでいたけど今日は帰ったわ」

 

 ふーん。魔理沙が家に帰るなんてあまりないよな。「私だけ仲間外れにしないでくれ」と言ってよく泊まっていたんだけど。

 

「お風呂気持ちよかったね〜」

「クゥン……」

 

 風呂から帰ってきたのか、霊華の声が聞こえる。うわ、なんか緊張してきた。霊華に会いにきたのに緊張してどうすんだ! 

 

『なんだ。やっぱり霊華に会いに来たんじゃないですか』

 

 俺は思わず机に顔を伏せた。その直後に部屋の障子が開かれた。数秒経っても声はない。

 

「えっ!? 神谷君……ですよね?」

「お、おう。久しぶり」

 

 話しかけられてしまったので無視するわけにはいかず、顔を上げる。

 

 ──お風呂あがりの濡れた髪って良いよね。

 

『可哀想に。修行でストレスが溜まっているのですね……』

 

「おかえりなさい! 今日は朝までいますか?」

「うん。結構早くに出ていくけど」

「そうですか。あ、紹介しますね。今日から神社で飼うことになったコロです」

 

 霊華は四足歩行の小動物を抱き上げてこちらに向けた。

 

「えっ、超可愛いじゃん! フワフワな犬だね」

「神谷君は犬に見えますか? 私は猫に見えるんですけど、『ぬえ』という妖怪らしいですよ」

「妖怪を飼って平気なの?」

 

 ぬえといえば原作キャラの封獣ぬえを思い出す。正体を判らなくする程度の能力の持ち主。ぬえという生き物は正体不明の妖怪なのだ。見る者の知識や先入観によって見た目が変わって見えるとか。

 

 つまり、俺は犬に見えるが他の人が見れば違う生き物に見えるということ。実際はキメラのように複数の動物の特徴を持っていたはずだ。

 

「霊夢に許可は貰っています。それにコロはいい子ですから」

 

 霊華が「ね〜」と言ってコロに話しかける。可愛すぎかよ。

 

 ──いいな、霊華に抱きかかえられるとか羨ましいわ。

 

『ついに正体を現しましたか。さては正真正銘の変態ですね?』

『ち、ちがっ!?』

『心の中で思う分にはセーフでしょう。他の人にバレないように気をつけることです』

 

 く、くそう……アテナに弱みを握られまくってる気がする。思考が全部聞かれているとこうなるのか……。

 

「あれ? 俺が幻想入りしたとき見た犬とそっくりだな」

「そうなんですか? 実は私も、幻想郷に来た時に見た猫とそっくりに見えるんです」

 

 そういえば霊華は猫を追いかけていたら幻想郷に入っちゃったんだっけ。へえー、面白いな。

 

「もし同じ個体だとしたら、コロは2人を幻想郷に連れてきたってこと? 大結界を超える力があるってことになるけど……強すぎないかしら?」

 

 霊華とのやり取りをニヤニヤしながら見ていた霊夢が呟いた。

 

 コロが博麗大結界を超えるというのは即ち幻想郷と外の世界を行き来する力を持っているということになる。そんなに力を持っている程強力な妖怪には見えないが……。正体がわからないだけで実は凄い奴なのかな? 

 

「もし2人を連れてきたのなら、2人は運命の出会いを果たしたってことですね!」

「あ、あうんちゃん!? 何言ってるの!?」

「でぃすてぃにーか。感謝だな」

 

 うっとりしながら運命を呟くあうんに対し慌てふためく霊華。俺は霊華と会わせてくれた「運命様」に感謝をする。

 

 ──本当に運命だったら嬉しいなあ

 

 もっとも、霊華は俺のことをなんとも思っていないだろうが。

 

『告白すればいいじゃないですか』

『俺も貴方のことがわかってきました。アテナは面白いものを見たいだけなんじゃないですか!? 』

『7割はその通りですけど、6割は純粋に貴方の幸せを願っていますよ』

『もしもしアテナさん? 10割に収まってないんですがそれは……』

 

「助けてコロ。あうんちゃんが私を虐めるの……」

「キー!」

 

 コロの鳴き声は犬とも猫とも違う、よく分からない物だ。ぬえの鳴き声は正体をわからなくさせる要因の一つなのかもしれない。

 

 霊華に抱かれていたコロは彼女の腕から抜けると、あうんちゃんに飛びかかった。

 

「きゃうん!?」

「待って! コロ! 大丈夫だから、ね?」

 

 あうんちゃんを押し倒したコロはフニフニとした足で踏みつけている。本当に助けてくれるとは思わなかったのだろう、霊華は慌ててコロを止めた。

 

 ──霊夢の目……なるほど、いつ退治してやろうかとタイミングを測っているんだな。

 

「うちのあうんを虐めないでよ?」

「ごめんなさい……。コロ、本当に私を助けてくれようとしたんだね。ありがとう」

 

 ペットの散歩中に起きた乱闘を見ている気分だ。飼い主が相手に文句を言って、謝罪させているところをドラマで見たことがある。今目の前で繰り広げられていることがまさにそれだろう。

 

「俺も何か飼おうかな」

「祐哉も何か出してよ」

「そんな『お前もホケモン出せよ』みたいな言い方されても困る……」

 

 俺が出せるのは使い魔だけだ。だが落ち着いて考えてみろ。狛犬とフワモフボディの犬に混ざってサモトラケのニケという彫像が置かれていたら、それは不気味ではないか? 場違いにも程があるだろう。

 

 俺は世界的に有名な某電気ネズミのぬいぐるみを創造する。

 

「ンピカッチウ」

「すごーい! 喋った!」

 

 いや、ごめんよ霊華。興奮しているところ悪いけど今の鳴き声は俺の裏声だ……。

 

 俺はぬいぐるみを膝の上に乗せて抱き抱える。

 

 ──懐かしいなー。小さい頃は沢山のぬいぐるみに囲まれて寝てたっけ。

 

 大きなぬいぐるみをぎゅっと抱きしめると安心する。

 

「あれ、祐哉。使い魔変えたの?」

「変えてないよ。使い魔出そうか? お喋りもするペットだけどテレポートするし弾幕出すしめちゃくちゃだよ」

「あー、それは白けそうね」

「出す? 出そうか?」

「結構よ」

 

 ──よーし分かった。創造。

 

「どうしてよ! 空気が白けるって言ってるでしょ! 何で出すのよ!」

「うちの可愛い使い魔君になんて酷いことを……! 『結構よ』って言ったじゃん」

「ああもう、要らないって意味よ!」

「分かってますよーだ」

 

 一見すると口喧嘩だが、俺も霊夢も笑顔で言葉のドッジボールを楽しんでいる。お笑いコントのような会話はたまに繰り広げられ、霊華やあうんも笑っている。

 

「ふう。笑ったらお腹空いてきちゃった。そろそろご飯作ろうかな」

 

 今日の夕食当番は霊華らしい。霊華はコロを畳の上に降ろしてエプロンを付けた。

 

「俺も作りたい」

「じゃあ一緒に作りましょうか」

 

 やったぜ。霊華と夕飯を作るぞ。

 

「私達は呑んで待ってようか」

 

 霊夢は何処からか酒を持ってきて、あうんと飲み始めた。

 

 ───────────────

 

「便利な能力ですね」

「便利すぎて自炊スキルは上がらないけどねー」

 

 俺はほうれん草のお浸しを作ることにした。料理を早く作るには、同時進行で効率良く動くことが大事。かまどが3つあるのだが、1つは米を炊くのに使っているため2つしか空きがない。1つをお吸い物を作るために使いたいのでおかずを作るために使える釜戸は1つだ。

 

 これでは、作れる品数が減ってしまう。釜戸の数が限られているのに和食は品数が多い。昔の人はどうしていたのだろうと考えた時閃いた答えがコレである。

 

 ──釜戸増やせば良くね? 

 

『いえ、冷えていても美味しい物を作るのですよ』

 

 真の正解が聞こえたが無視だ。俺は思い付いたことを実践しなければ気が済まない。よって、今行っている奇行の詳細を語りたいと思う! 

 

『変なことをしている自覚はあるんですね』

 

 ──神谷君の3分間クッキング〜! 準備編

 

 まず、台所の端に適当な鉄板と鍋を創造します。この時、腰より少し高い位置に設置すると良いでしょう。

 

 次に、鉄板の下に【加熱機能】を付与した魔法陣を設置します。鍋に水を入れて沸騰するまで待ちましょう。

 

「……博麗さん、俺気づいちゃった」

「どうしたんですか?」

「端からお湯を創造すればいいんじゃない?」

「えー、そんなに急がなくてもいいじゃないですか。折角だしゆっくり楽しみません?」

「なるほど、分かったよ博麗さん。俺が間違っていた。常に最速で提供しろと言われていた時代の俺が前に出ていたようだ」

「バイトですか?」

 

 懐かしいな、飲食店。もう働きたくないよ。

 

「どんな手を使ってでも早く提供しなければならなかったんだ……」

「じゃあ、今日は存分にゆっくり作ってください。肉じゃがを作るのに40分くらいかかりますから」

「分かったよ」

 

 肉じゃがか。楽しみだな。では俺はゆっくりとお浸しを作ろう。

 

 ──とは言ってももう完成したんだけどね。

 

 サッと茹でるだけなので後は水で軽く冷やして切って盛りつければ完成だ。

 

「お待たせしました。シェフの気まぐれお浸しでお待ちのお客様」

「わーい! ツマミだ!」

 

 酒のつまみにもなると聞いて作ってみたが意外と好評のようだ。良かった良かった。

 

「肉じゃが作るの手伝おうか?」

「大丈夫ですよ」

「それじゃ玉子焼きでも作るか」

 

 俺は使い魔君を創造する。

 

「使い魔君、だし巻き玉子の作り方教えて」

「──次に述べる材料を用意してください」

 

 俺は白玉楼の料理担当さんにレシピを貰った。ずっと妖夢が作っているものだと思っていたがそうではなかった。勿論妖夢も料理はできるようで、彼女にも教わってきた。教わったレシピを使い魔に学習させたのだ。俺は覚えきれないからね。

 

「なんか楽しいです。いつも1人で作ってるからかな」

「話しながら作れるからいいよね」

 

 俺も久しぶりに霊華と過ごせて楽しい。修行で疲れた精神が癒されるようだ。

 

 おっと、料理に集中しなければ。卵が焦げてしまう。さあ完成だ。直ぐに提供しよう。

 

「ホイホイお待たせ。だし巻き玉子アルヨ」

「だし巻き玉子は和食よ?」

「──しまった! 何か気分で中国人になってたわ」

「祐哉もお酒飲んでるの? 酔ってるんじゃない?」

「空気に酔ってる。今日は久しぶりに楽しいからね」

 

 さてさて、次は何を作ろうかな? 台所と居間が直ぐ隣だから移動も苦じゃない。どんどん作って提供しよう。

 

 使い魔に学習させた料理目録を確認し、次に何を作ろうか考えていると霊華が話しかけてきた。

 

「修行は大変ですか?」

「想像の10倍はキツい。元々体力が無いからね。博麗さんも修行してるんでしょ? 霊夢はちゃんと教えてくれてる?」

「はい、今は近接戦闘と夢想封印を覚えるために頑張ってますよ」

 

 そっか。霊華も頑張ってるんだな。俺も負けていられないや。

 

「夢想封印かー。博麗さんが使えたら幻想郷のパワーバランス壊れるんじゃね?」

「いやいや、夢想封印を使えたとしても、使い手によって威力が違うんです。妖怪を強制的に封印する技ですが、未熟者が大妖怪を封印することはできないんですよ」

 

 なるほどね。一撃必殺の技が、自分よりレベルの高い相手に対しては効かないのと同じか。

 

「妖怪を封印する、か。……無理しないでね」

「……? 神谷君も、無理して身体を壊さないようにね」

 

 ……伝わってなさそうだな。霊華は妖怪と戦うことを嫌っていたから、封印することに抵抗を持っていると思ったんだけど。

 

 ───────────────

 

 夕食を食べ終え、酒に酔ったせいで熱くなった俺と霊華は縁側に出て風に当たっている。

 

「肉じゃが美味しかった。冥界に持ち帰りたいくらいだ」

「その言い方だと神谷君がお盆で帰ってきた人みたいですね」

「朝ごはんを食べられないのが辛いぜ……」

 

 そう言って酒を啜る。この前の宴会で飲んだお酒はアルコール度数が非常に高いものだったらしい。そりゃベロンベロンに酔うわな。初めて呑むにはキツいものだったようだ。それを証拠に今日の霊華は豹変していない。

 

 ──この前は……ヤバかったな。

 

『ドキドキしました?』

『ドキドキした。ビックリするくらい可愛い子が隣にいるんだよ? ドキドキしないはずがないだろう』

 

「朝早いんでしたっけ」

「うん。5時半に朝食を食べて、6時には階段登りが始まる」

「階段って、白玉楼前の階段ですか? 大変そう……」

「未だに全部登りきったことは無いけどね。それでも相当登っているよ。そろそろ駆け登るかもしれない」

 

 あの階段を駆け登るとか考えたくないけど、慣れた頃には凄い成長してそうだな。

 

「……また帰ってきてくれますか?」

 

 何だか寂しそうに髪を弄りながら訊ねてくる霊華に首肯したあと、どうしたのかと聞いてみる。

 

「神谷君が白玉楼に住んで帰ってこない夢を見たんです」

「ありえない話じゃないな」

「寂しいな……」

「……俺も寂しい」

 

 霊華と一緒にいたい。その為には強くなる必要がある。自分が無力なせいで霊華を失うのが怖い。昔と比べて幻想郷は人間が過ごしやすい環境になったと言うが、十千刺々のような妖怪も沢山いるだろう。そんな妖怪から霊華を守れなければ、一緒にいることだって叶わなくなる。

 

「大丈夫。剣術を極めようとしているわけじゃないからね。ある程度マシになったら戻ってくるつもりだよ」

「約束ですよ? あ、今度は私から泊まりに行こうかな」

「それは楽しみだ。待ってるよ」

 

 そう言うと、霊華は微笑んだ。

 

 ──この子の笑顔さえあれば、俺は頑張れる。


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