東方霊想録   作:祐霊

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#65「剣に慣れよう」

「さて、これで基本の斬撃は全て教えました。あとはひたすら素振りをして身体で覚えましょう。最初は力を込めず、真っ直ぐ振れるように意識してください」

 

 唐竹、袈裟斬り、右薙、右斬り上げ、逆風(さかかぜ)、左斬り上げ、左薙、逆袈裟(さかげさ)、刺突の9つの斬撃を教わった。次は教わったとおりに使えるよう練習する。因みにこの9つの斬撃を同時に繰り出すと某漫画の技になる。全く同時に9つの斬撃を繰り出すなど不可能だが……9つの刀を創造すれば擬似的に繰り出すことができそうだ。

 

 各斬撃を1000回ずつ素振る。全部合わせて9000回刀を振るので終わった頃には腕が動かないだろう。

 

「祐哉君、剣筋がブレていますよ。ある程度は体幹で補えますから、最優先で鍛えましょう」

「はい!」

 

 刀を実際に振ってみると判るのだが、剣筋が真っ直ぐになるように斬るのは難しい。真っ直ぐに斬ることができなければ、斬れるものも斬れない。あと、腕の振り上げと振り下ろしを交互に続けるのがこんなにしんどいとは思わなかった。唐竹の素振りを50回程して既に疲れてきた。毎日筋トレは欠かしていない。多少は鍛えられているはずなのに全然ダメだ。もっと鍛えなければならない。

 

「必要以上に力を込めないことが大切です」

「はい!」

 

 力を抜いて真っ直ぐに振り下ろせばいいのだろう。頭の中ではわかっているが身体が覚えていない。3回に1回くらいはブレていると指摘される。本当に難しい。何故真っ直ぐ振り下ろせないのか自分でもわからない。理由がわかれば直せるだろうに。

 

 100回の素振りをしても感覚を掴めなかった俺は、目の前に姿見を創造して自身の素振りを見ながらやることにした。

 

「手首で振れば比較的真っ直ぐになりやすい気がする」

 

 手首を使うと剣速も飛躍的に上がる。これは掴んだ! 

 

「手首で振ると痛めますよ。かと言って腕力で振っても無駄に疲れるだけです。ヒントは与えますから考えてみてください」

「じゃあ、仮説を口にしながらやるのでダメだったら教えてください」

 

 俺は素振りの手を止めて考える。手を止めるなと言われそうだが、素振りしながら考えては剣がブレて意味がない。そして、無闇に素振りをしても効率が悪いと考えた結果である。

 

 ──力を入れるタイミングを変えてみようか。

 

 目の前に柔らかい素材でできたサンドバックを2つ作る。サンドバックを横にして宙に浮かせ、終始力を抜いて剣を振るう。

 

 剣速は遅い。しかし真っ直ぐに振り下ろすことはできた。結果は──サンドバックにめり込んだだけで斬ることはできなかった。

 

 次は切っ先がサンドバックに触れる少し前に握る力を強くする。

 

「ふっ!」

 

 速度を意識して振るとサンドバックは両断できた。

 

「力を込めるのは、物体に触れる少し前で十分ということか」

「そうです。強いて言うなら、上段から振り下ろす腕が胸の位置を越したくらいから力を込めます。そうすれば十分加速させることができますよ」

「……剣速が十分に加速する前に間合いに入られたらどうすればいいんですか?」

 

 素朴な疑問を妖夢にぶつける。俺が言ったケースでは大した威力を出せずに斬られてしまうだろう。

 

「あなたの考えは?」

「斬撃を変える、或いは距離をとって体勢を立て直しますかね」

「なんだ、わかっているじゃないですか」

 

 そうなのか? 何かいい方法があると思って尋ねたのに。

 

「上段から瞬時に別の型に切り替えるのってすごく大変ですよね」

「それは修行あるのみですよ。全ての斬撃を満足に振れるようになったら実践稽古をします。その時に訓練しますよ」

 

 そうか。それならまずは素振りを極めないとな! 

 

「上段の構えを取る時、肩を開いてください。肩甲骨が動くのが開けている証です。そこから振り下ろしながら締めます。こうすることで無駄な力を使わずに振ることができますよ」

 

 妖夢の指導を耳に入れて脳内で咀嚼する。聞き取った内容を自分なりに解釈して行動に反映させていく。解釈が違ったり、うまくできていない時は徹底的に直される。間違ったやり方が癖がつく前と修正するのが大変になるからだ。

 

 ノルマの半分が経過した頃には殆ど指摘されなくなった。とはいえ、調子に乗るとブレてしまうのでまだまだだ。段々と剣速も上がってきて、1000回の素振りを終えた時は上出来だと褒められた。「初めてにしては」というコメントがついたが……

 

 ───────────────

 

 9種類、計9000回の素振りを終えた俺たちは予想通り腕が上がらなくなっていた。だが、今刀を握れば無意識に斬撃を繰り出せる自信はある。これだけ刀を振れば嫌でも体が覚えると言うもの。ダメなところは妖夢が徹底的に指摘してくれるので、なんとなくだが感覚を掴めた気がする。修行開始前は無理矢理振っていたので体の余計なところに負担がかかっていたが、今ではだいぶマシになったのではないだろうか。

 

「明日までに腕回復するかね」

「もう腕パンパン……。握力も使うからな、箸すら握れそうにないよ」

「取り敢えず今日はもう刀は使いません。次は妖梨に教わってください」

「やぁ、二人ともお疲れ様」

 

 縁側に腰を下ろしてプルプルと震える腕を押さえていると妖梨が来た。

 

「僕からは霊力の扱い方を教えるよ」

「妖梨は霊力操作に長けています。剣術とはあまり関係ありませんが、学んでおくと役に立つと思います」

「えっと、まず霊力操作って何するんだ?」

 

 叶夢が二人に疑問をぶつける。俺もよくわからないので妖梨の返答を待つ。

 

「そうだね。それを答える前にまず二人の認識を確認したい。君たちにとって霊力とはなんだい?」

「考えたこともないな……弾幕を作るためのエネルギーかな?」

「祐哉は?」

「なくてはならないエネルギーかな。俺は霊力がないと何もできない。創造の能力には多大な霊力を使うからね」

 

 霊力がなければいよいよ唯の人間となるだろう。霊力無しでできることと言えば、今習得中の剣術や空を飛ぶことだろうか。──訂正。「唯の」ではない。ちょっと背伸びした人間だ。

 

「二人は霊力を能力発動や弾幕生成にだけ使っているみたいだね。恐らく、多くの人がそうだと思う。でも実はかなり優れた力なんだよ」

「俺たちは霊力を使いこなせていない……霊力にはまだまだ可能性があるってこと?」

「その通りだよ。身体能力を強化したり、霊力を変形させて武器を作ったり……刀の周りを霊力で覆って切れ味を上げることもできる」

「変形させて武器を作る? 祐哉みたいなことができるってことか?」

 

 嘘だッッッ!! そんなことがあってたまるか……! 

 

「流石にそこまではできないかな。霊力は自分の体から離れると形を維持するのが難しいんだ。その点祐哉の能力は不思議なんだよね。……話を戻そう。僕らでも刀の形を作って斬りかかるくらいはできるよ」

「危ねぇ。一気に萎えそうになった」

 

 俺だけの個性を失いかけた。「お前が得意げにやってること、実は誰にでもできるんだぜ?」と言われたら誰だって衝撃を受けるだろう。

 

「今の君たちは霊力を体から垂れ流している状態なんだけどね、これを纏うことで防御力を上げることができるよ」

 

 ──念能力四大行『纏』かな? 

 

「まずは霊力を感じ取ることから始めようか」

 

 俺と叶夢は禅を組んで瞑想する。目を閉じて徐々に頭の中を空にしていく。素振りの試行錯誤をしていたときはずっと頭を使っていたため何も考えないというのは結構難しい。

 

 身体の周りに霊力の膜があるイメージで霊力の流れを感じ取る。

 

「──分かったかも」

「本当?」

「触れそうで触れない膜みたいなイメージ?」

「まさにそれだね。後は叶夢だな」

 

 意外と簡単にできてしまった。というより、実は既に会得していたのだ。

 

「……俺には全くわからん」

「焦ることは無いよ。むしろ、焦るのは良くない。落ち着いて自分の周りに漂う霊力を捉えるんだ」

 

 ──ふっ! 

 

 少し気合を入れて見ると、俺の身体から漏れる霊力量が増えた。

 

「えっ!? もしかして祐哉は既に霊力を使いこなせたのか?」

「使いこなすって程じゃないけど、ちょっとは使えるかな」

 

 そう言って俺は右手に刀を握り、霊力で刀を包んでみせる。こうすることで刀の切れ味が上がるのだ。この方法は妹紅や刺々と戦った時に使った気がする。

 

「凄いな。自慢じゃないけど僕が幻想郷で一番の使い手だと思っていたんだけど、そんなことはなさそうだね」

「いやいや! 俺が使えるのはこの程度だからね。妖梨の方が使えるんじゃないかな?」

「霊力操作はいつからできるようになった?」

「数ヶ月前かな。創造の能力を使いこなせるように、霊力を自在に使えるように修行したんだよ」

 

 もう少しあやふやな教え方をされたが、霊力を使う為の修行は幻想入りして直ぐに始めた。俺が創造の能力を持っている事を、とある子に教わった後、霊夢に相談した。俺の能力が『発動型』だと予想を立てた霊夢は、霊力について教えてくれたのだ。

 

 因みに程度の能力には『発動型』の他に『技術型』がある。前者は俺の創造や支配、咲夜の時間操作能力等を指す。任意のタイミングで能力を使用するタイプである。また、発動型の多くは霊力や妖力を消費する。

 

 後者は永琳のあらゆる薬を作る能力(技術)、妖夢の剣術を使う能力が挙げられる。魔法使いの能力も技術型だろう。

 

 不老不死や重力無視などは『体質型』と捉えても良さそうだが、これ以上分類する必要も無いのでこの辺で切り上げようと思う。

 

 霊力を感じ取るのに費やした時間は2ヶ月とちょっと。それからは能力の発現の修行をした。能力の内容が分からなかったり、イメージしづらい物だったらもう少し時間がかかっていたかもしれない。

 

「──これか? このブヨブヨした膜が霊力か?」

「そう! 叶夢も分かった?」

「早すぎないか」

「へへっ! 俺ってば天才だからな!」

 

 マジか。俺が2ヶ月かけて習得した内容を一瞬でやってのけたというのか……。凹むわ。

 

「2人とも霊力を感じ取ることができた事だし、次は自在に操れるように訓練しようか。これをマスターすると身体機能を強化できるよ」

「足から霊力を放出すると加速できるよね」

「もしかしてそれもできるの?」

 

 どうだろうか。記憶に残っている限りでは一度しか使っていない。これも十千刺々と戦った時に使った。あの時は命懸けだったから無我夢中で色んな事をしたな。

 

 俺は庭に出て試してみることにする。軽いジョギングをして、成功しそうなタイミングで霊力を放出する。

 

 ──? 

 

「あれ、できないや」

「多分霊力を放出しているんじゃなくて、霊力を込めて地面を蹴っているんだ。勿論それでも加速はできるけど、祐哉の場合はタイミングが合っていないね」

「マジか。練習しなきゃな」

「落ち込むことは無いさ。むしろ、ほっとしたよ! 教えることが無いかと思っちゃったからね」

 

 ──なんか、なんでもできる人と思われてそうだな。

 

 俺はできないやつだと認識してもらいたい。その方が学べる物も多いだろうから。

 

 伸び代はある。斬撃だけでなく、霊力操作も極めて見せるぞ! 

 




ありがとうございました。
理屈の祐哉、感覚の叶夢です。感覚派の方がチート臭いですよね。なんなん?

【魂魄妖梨(こんぱく ようり)】
能力:霊力を操る程度の能力
弾幕を生成する為だけ出なく、身体機能の強化や武器の切れ味を上げるという風に応用して使う能力。分類するなら【技術型】。

霊力操作の天才で、幼少の頃から使っている内に新たな使用法を開発した。彼は霊力を使いこなすことによって妖怪と渡り合う力を得る。

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