「俺たちいつになったらこの階段を上りきれるのかね」
「5年くらい?」
「重りをつけなければ既に上れると思いますよ。試してみますか? 多分吃驚するほど楽ですよ」
今背負っている重りは十数キロ分。その重りがなければ確かに楽だろう。でもなあ……
「仮にそうだとしても、時間の無駄だよな」
「効率悪いよな」
「そうなんです。飽くまでも足腰を鍛える為の階段登りですからね。重りを背負って登りきるなら別ですが──二人とも目を逸らさないでください? 流石にやらせませんから。……まだ」
「聞いたか叶夢。『まだ』って言ったぞ。そのうちやるんだよきっと」
「俺たちの墓は冥界にあるんだ……」
好きだなそのフレーズ。いつも言ってるよな。俺も遺書を書いておこうか。
『愛しの霊華にですか』
『…………』
気のせいかな? アテナの声が聞こえた気がする。まあいいや。
「ん? おい、祐哉。アレって霊華ちゃんじゃね?」
「うっせぇなぁ! お前まで俺をからかうんか?」
「は? からかうも何もどう見たってそうだろ」
叶夢が指差す方をキレ気味に見ると確かに青い巫女服を着た女の子がこちらに向かってきていた。
──どうしたんだろ?
「こんにちは」
「よお霊華ちゃん! 祐哉に会いに来たのか?」
叶夢に問われた霊華が頷いた。
「……元気?」
「ええ。神谷君は?」
「俺は元気だよ」
俺はじっと霊華を見つめる。
『惚れ直しましたか?』
『ちょっと黙って貰えますか? 何となくいつもと様子が違うような気がするんですよね』
振る舞いが違うのかな? うーん。
「コロは元気?」
「はい。今は霊夢が面倒を見てくれていますよ」
「そっか。博麗さんは犬に見えるんだっけ」
「そうですね」
──馬鹿め、引っかかったな
「なあ霊夢」
「なに? ──あっ!」
「やっぱり霊夢か。何か変だと思ったんだ」
傍で見ていた叶夢と妖夢は理解するのに時間がかかったようだが、今目の前にいる青い巫女服を着た女の子は
「どうして分かったの? 私達ですら違いが分からないのに……」
「霊華からはコロは猫に見えたはずだからね。後は……雰囲気かな? 正直たまたま当たっただけな気がする」
何となく強そうな雰囲気を感じたのだ。筋肉の締まり方とかかな。違いが分かるほど観察したことないし、素人に判別できるとは思えないけどね。
俺は何故霊華の服を着てきたのか霊夢に問う。
「この前、私と霊華とペット2匹でお風呂に入ったんだけどね。コロとあうんは裸でも私達を見分けられることがわかったの」
「それは凄いな。飼い主特有の匂いでもあるのかな?」
「お、カンが冴えてるわね。……それでね、服を着ていなくても見分けられるなら、服を入れ替えても分かるんじゃないかと思って試したのよ。どうなったと思う?」
その様子だと見分けられたのかな?
「見分けられなかったわ」
「……嗅覚というものがありながら視覚情報に惑わされたか。愚かな……」
「まあ落ち着いて聞いてよ。実は私達が交換した服はお風呂に入る前に着ていたものだったのよ」
「なるほど! やっぱり嗅覚か!」
紅白巫女服には霊夢の匂いが、青白巫女服には霊華の匂いが付いている。服を入れ替えて着たということは、2人から両方の匂いがするはずだ。
だから混乱したのだ。
「犬の嗅覚ってもっと賢いんだと思ってた」
「こんな物じゃない? ……それでね、祐哉は引っかかるかなって話になったの」
「ほほう。つまり俺は犬を超えたということだな? 同じにしてもらっちゃあ困りますよ」
優れた嗅覚だけを使う犬に対して、
視覚と経験と推論力を使えばそりゃ勝てるわな。
「で、2人は俺が当てると思った? 外すと思った?」
「私も霊華も外すと思っていたわ」
「魔理沙にも試してみようよ」
「いいわね! 暇だしやってこよ」
霊夢は「じゃあねっ!」と言って帰って行った。
何故か呆けた顔をしている叶夢が話しかけてくる。
「あの巫女さんは何しに来たんだ?」
「俺を試しに来たんじゃないの?」
「それだけ?」
「多分」
まあ、霊夢がそれだけの為にわざわざ白玉楼まで来たのだから、珍しいとは思うが。
「祐哉君に会いに来たんじゃないですかね」
「そうなんですかね。それなら嬉しいな」
十分休憩したし修行を再開しようとすると名前を呼ばれた。青い巫女服を着た霊夢が戻ってきている。
「忘れ物?」
「うん。今日霊華がここに泊まりに行くから宜しく」
またね、と言って帰っていった。
「……叶夢」
「ん?」
「気のせいか? 霊華が泊まりに来るって言ってた気がするんだけど」
「良かったな」
「良かったですね」
『良かったですね』
叶夢と妖夢とアテナよ。いい加減弄るのを止めてくれないか。
「さあ、今日の楽しみはできましたね! 今日は重りをつけて階段駆け登りです。地獄を見せますよ!」
「もう何言ってるのこの人……怖い」
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「し"ん"し"ゃ"う"よ"ぉ"〜!」
重りを3キロ背負った状態での階段駆け登り。この程度の重りなら大して変わらないと思うだろう。実際、数分は難なく登れた。だが俺たちは20分間ノンストップでかつ一定の速さで登り続けなければならない。勿論霊力を使用していないのだから、これが楽だと思うなら実際にやってみればいい。外の世界でも直ぐに試せる。ほら、一緒にやろうぜ! ほら! 早く重りを背負って外に出るんだよっ!!
『誰に話しかけてるんですか? ああ、遂におかしくなってしまったのですね。可哀想に……』
───────────────
「エイイイイ!! 素振りィー!! 唐竹ェ!! 1! 2! 3! 4! 5──」
「祐哉君はやる気に満ちていますね。叶夢君も頑張って下さい」
「こいつは楽しみがあるからこんなに頑張れるんだよ。俺に楽しみは……無い」
「……頑張ったら頭を撫でてあげましょうか?」
何やら面白そうな話をしているな! 俺も聞きたいけど集中を途切れさせたく無い。後でアテナに聞こう。
『私を録画機器みたいに使わないでください』
「30! 31! 32! 33! 34! 35!」
「まじで? 期待しちゃうよ? 俺頑張っちゃうよ?」
「それでやる気が出るならいいですよ」
「ヒャッホーウ! ──1! 2! 3! 4!」
刀は真っ直ぐに、刃が向いている方向と同じ向きに力を加える。これができないと刃こぼれしたり最悪折れてしまう。
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素振り9000回を終えた後は妖梨と修行をする。
今日からは体に纏う霊力量を増やして身体能力を強化する修行を開始した。これを動きながら行うとすぐに疲れてしまう。そのため持続時間を伸ばす訓練もしている。霊力操作を行うにはかなりの集中力が必要で、1日に長時間の修行ができないのが難点だ。
2時間ほど休憩を取ってからは、足から霊力を放出して跳躍する技術を用いて階段を駆け上る。放出するタイミングを誤ると失速したり、明後日の方向に跳躍してしまうこともしばしばある。
「むっず!」
「二人とも中々できないね……」
最早階段を駆け上るどころでは無い。真っ直ぐ狙った方向に跳躍することができない。角度の計算を毎歩するのは疲れる。感覚で覚えるしか無いのだろう。今日1日では習得できそうに無いな。
「今日はもうやめて次に行こうか。二人とも、刀を霊力で覆って」
俺たちは妖梨に言われた通り、霊力を纏わせて構える。
「その状態を維持して素振りしよう。斬撃を飛ばさないよう、霊力を刀に固定したまま振るんだよ」
──そろそろキツイな。
キツイといえば階段上りの時点でキツかったのだが、もうまともに霊力を操れなくなってきた。刀身を覆っている霊力量が疎らになっている。
「──54! くっ……」
フッと霊力が消えた。遂に霊力が尽きてしまった。根性で捻り出そうとしても足りない。
「うん。今日はここまでだね。お疲れ様」
「久しぶりに霊力が空になった……」
「完全に空になると回復が遅いからね。少し分けてあげるよ」
妖梨は膝から崩れ落ちている俺の肩に触れた。すると不思議なことに霊力が体に入り込んできた。
「少し楽になった」
「霊力は精神力だからね。ちょっと分けたからマシに感じるんだよ」
「分けられるものだったんだ」
「多分僕にしかできないよ。お姉ちゃんにも教えたけどできないからね」
俺の「MP回復」も他人に分けられるのだろうか。”混ぜるな危険”っぽいから試したことがない。まあ、妖梨にしかできないなら俺は真似しないようにしよう。他人の固有能力をパクる気にはなれない。やらなきゃ誰かが死ぬ状況になったらそうも言ってられないけどね。
今日の修行はこれにて終了。俺と叶夢は木の棒で身体を支えて屋敷へ向かう。妖梨に霊力を分けてもらったとはいえ、なんとか歩ける程度にしか回復していない。風呂で体を癒し、なるべく安静にして回復を待つ必要がある。
「御免ください!」
白玉楼の門から声がした。門は空いているので、誰が来たのかはここからでも見える。まあ、姿を見るまでもない。声からして霊華である。俺は霊華に手を振って、入ってくるよう促す。
棒の先端に顎を乗せながら彼女が来るのを待つ。
──歩くの早いな。それに何だかオーラを感じる。
強くなったんだろうなぁ。
「こんばんは」
「こんばんは。今度こそ博麗さん本人かな?」
「そうです。違いが分かったみたいですね! 凄いなぁ」
「祐哉は霊華ちゃんが泊まりに来るって聞いて修行頑張ってたんだよ」
止めろ叶夢。余計なことを言うんじゃあない。
「お前は妖夢に頭を撫でてもらう為に頑張ってたんだろ?」
「う、うるせぇ! あんなの冗談に決まってんだろ」
なんだ、冗談だったのか。面白くなると思ったのに。
「さあ、中に入って。俺達はゆっくり歩くから……」
そう言って歩き始める。
「だ、大丈夫ですか?」
「大丈夫。ちょっと全身がボロボロなだけだから」
霊華の為に用意された部屋まで案内して、暫く待機しているようお願いした。俺は汗を流すため風呂場へ向かう。
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湯に浸かりながら考え事に耽ける。叶夢は一足早く上がったので風呂場には俺しかいない。
──この数ヶ月でMP回復の貯蓄はそれなりに溜まった。
MP回復とは、竹林異変の時、十千刺々との戦いで使った霊力回復である。
毎日寝る前に、余った霊力を貯蓄しておいて、任意のタイミングで貯蓄を崩す。銀行から口座に預けたお金を引き下ろすのと同じ仕組みだ。
今の貯蓄は、一度だけなら霊力が無い状態からMAXにできる程度。
──あの能力を使う時のために残しておかないとなぁ
支配の能力の扱いは難しい。支配する規模を誤れば代償が霊力だけでは足りず、何かを失うかもしれない。実際、霊華を助けるために使った時は霊力が足りずに内臓を痛めている。
──もしも脳とか心臓が破裂したら死ぬ
どのくらいの規模なら霊力消費だけで済むのか検証しようにも、危険すぎる。
『あの能力のトリガーは並の思いでは引けませんよ。文字通り命を賭けるような気持ちで発動の意志を持たなければ使えません』
『詳しいですね』
『話していませんでしたっけ?
『へえ』
この能力は生半可な気持ちでは使えないらしい。この能力だけは研究できそうにない。
『あの能力に頼らなくてもいいように頑張りましょう。創造の力の扱いも上達していますから、問題ないと思いますよ』
確かに、創造の力があれば支配の力は要らない気がする。
──本当に、何で俺がチート能力を持っているんだろう。
こんなことを考えて悩むのだから、自分は俺TUEEEE系の主人公に向いてないなと思い苦笑する。
「いけない。長くお湯に浸かりすぎたな」
霊華を待たせているしそろそろ出よう。
ありがとうございました。
明日休みだったのに出勤しなければなりません。
感情がなくなりつつあるので一旦毎日投稿をお休みさせていただきます。