東方霊想録   作:祐霊

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どうも、祐霊です。昨日間違えて2話同時に投稿しました。先にこちらを読んだ人は1つ前を読んでください……

さて、添い寝ですよ! 添い寝ッ!!!!! 

放浪録と霊想録史上最高の甘々になったと思います。楽しんでいってください!


#69「霊華と添い寝」

「うわわっビックリした! なんだなんだ?」

 

 いきなり部屋の外から叫び声が聞こえた。心臓に悪すぎる。何だと思ってそちらを見ると、浴衣を着た髪の長い女の子が床にへたり込んでいた。

 

「大丈夫?」

 

 その子の肩に触れようとすると、女の子は震えながら手を払ってきた。

 

 ──何事なんだ。

 

「博麗さん? どうしたの。取り敢えず部屋の中に……」

「うっ……もうやだぁ……」

 

 霊華はどう見ても泣いていた。何で!? どうしたの? 頭の中がクエスチョンマークで充たされていくのが分かる。質問しても答えてくれないし、立たせようとすると手を払ってくるし……何か怯えているように見える。

 

 仕方が無いので俺は黙って彼女の目の前で座り込む。無理矢理部屋に入れるのは良くない。落ち着くのを待とう。

 

 1分くらいで我慢できなくなって声を掛ける。

 

「あ、あの……博麗さん? どうしたの? 何か怖い目にでもあったの? ──分かった。トイレに起きたら幽霊が居て怖くなったんだ?」

「違う……」

 

 霊華はまだ泣いている。……気になっている女の子が泣いているのを見るのは辛い。目の前にいるのだからそっと抱きしめて安心させてあげたい。助けたい。

 

「怖い夢を見たとか?」

 

 そう言うと霊華はコクリと頷いた。そうだったのか。怖い夢を見た時って、心細いよね。わかるよ。真っ暗で静かな部屋にいると気が狂いそうになる。

 

 俺は手を差し伸べて、彼女から手を握ってくれるのを待つ。

 

「部屋に入ろう。大丈夫。もう怖くないよ」

 

 できるだけ優しい声で声を掛けると、霊華は手を握ってくれた。背中に手を添えて彼女を立たせ、部屋に入れる。今度は手を繋いだ状態で歩き、畳に置きっぱなしの刀を納刀して刀掛けに戻す。布団の上に隣合わせで座る。

 

「神谷君……本当に神谷君だよね?」

「うん。俺は神谷祐哉だよ。どんな夢を見たの?」

「良かった……。私、神谷君が……死んじゃう夢をみたの」

「あらやだ。予知夢?」

「止めて!」

 

 オネエ風にボケをかまして落ち着かせようとしたが逆効果だったらしい。霊華はそんな不謹慎なこと言わないで! というように腕を力強く握ってくる。

 

「痛い痛い、折れる! 力強すぎるよ!」

 

 勿論ジョークだ。とはいえ八割くらいは本気で言っている。本気で握っているのかもしれない。折れる。

 

 霊華は俺の腕や肩を軽く叩いている。

 

「本当に良かった……生きてる……」

「良かったらどんな死に方をしたのか教えてくれないかな? 気をつけられるからね」

「多分階段で転んで落ちたんだと思う」

「あ、あーそうか……ははっ、洒落にならないな」

 

 だって俺、ついさっきまで階段駆け下りとかいう無茶をしていたからね。霊華の夢が正夢になる可能性もあったのだ。

 

 ──え、怖っ。

 

 ゾッとしてきた。加速することだけを意識して駆け下りるのは正気じゃないし、転んだときでさえ前受身で回転しながら受身を取り続けたからね。よくあんなことできたな。本当に人間か? 次は失敗するかもしれない。

 

「実は俺、さっき階段を駆け下りてきたんだよ」

「何やってるんですか? どうしてそんなことするの?」

「えっと……修行です。博麗さんの夢の中では失敗したみたいだけど、現実の俺は何とか生きて帰れたんだ。良かった良かった」

「よく、ないよ……夢を見ているって気づかなかったから、私……凄く怖かったんだよ」

 

 落ち着きを取り戻しつつあった彼女はまた泣きそうになる。俺は慌てて霊華の手を握って宥める。

 

「気をつけるから、泣かないで?」

「危険なことしないでね……死んじゃ嫌だよう」

 

 死ぬ気はないけど、階段から転落死は普通に有り得る話なので注意しないとな。霊華を守れる力を手に入れるための修行で命を落としてしまっては未練を残して亡霊になってしまう。

 

 少しずつ話題をずらして、夢の事を忘れさせていく。完全に落ち着いた霊華に部屋まで送ると言うと驚く様なことを言われる。

 

「一緒に寝てくれませんか」

「ふぁっ!? で、でも……それは色々不味いのでは?」

「神谷君が死んじゃう方が不味いです。……また怖い夢を見そうで心細いんです」

 

 いや、その、一応俺たちは年頃の男と女ですよ。あまり無防備でいられると俺が困る。もっと警戒して欲しいものだ。そうでなければ危険から守るのも難しくなる。

 

「妖夢と寝たらいいんじゃない?」

「神谷君がいいんです」

「俺は全然構わないというか……むしろ寝たいけど……本当に良いんだね? 朝になって『変態!』とか言って叫ばないでね?」

「そんなことしません」

 

 早く寝よう、と言って霊華は布団に潜り込む。俺は部屋の明かりを消して布団に近づく。

 

「本当に同じ布団で寝るの?」

「そうじゃなきゃ意味無いもん。早く来て?」

「……失礼します」

 

 これ、俺の布団なんだけどなあと思いながら布団に入り込む。その時、布団だと思って手を置いたところに不自然に柔らかい物体があった。

 

「やんっ……神谷君のえっち……」

「えっえっ!? ごめんなさいそんなつもりじゃ! 全然見えなくて……」

 

 何? 俺はどこを触ってしまったんだ。慌てて手を離したから分からん。

 

 何とか寝転がって落ち着くと、霊華が擦り寄ってきた。

 

「そんなに近づいたら汗かくよ」

「でも近づかないとお布団から出ちゃうもん……」

 

 暗がりの中僅かに見える霊華はニコニコと笑っている。さっきまで泣いていたのに、表情が豊かな子だな。

 

「……あの……神谷君って……好きな子とかいるんですか?」

「ええ!? えらく急だね。どうしたの?」

「お泊まりと言えば恋バナですよ。それで、どうなんですか?」

 

 お泊まりといえば枕投げの間違いじゃなくて? と思いつつも、女の子と恋バナをするのも面白そうなので真剣に考えてみることにした。

 

「いるよ」

「そうだったんですか!? 因みに、誰ですか? 幻想郷の人?」

「まあ待ちなよ。次は俺の番だ。博麗さんに好きな人はいるの?」

「え? 私? えっと……」

 

 質問されると思っていなかったのか、霊華は狼狽えてみせる。いけませんなあ。自分から話を振ったのだから、聞き返されるのも自然なことだろうに。

 

「いないですよ??」

「嘘をついちゃダメだよ。俺だって恥ずかしいのに本当のことを言ったんだから」

「うう、ごめんなさい。……いますよ、好きな人」

 

 霊華に好きな人がいる。そうわかった時、胸が傷んだ。締め付けられるように苦しくなった。霊華は誰が好きなんだろう……。

 

「今度は私の番。誰が好きなんですか?」

「黙秘権を使います」

「幻想郷にそれは通用しません。吐いてください」

「んな横暴な!? やだよ。何されたって言わない。当ててみてよ」

「んー、じゃあ、霊夢はどうですか」

 

 あれ? 言ってなかったっけ。霊夢は好きだけど、それは推し的な意味であって恋愛対象では無い。……ああ、それを言ったのは早苗だったか。宴会の時聞かれたっけ。あれからもう数ヶ月経つんだなぁ。

 

「違うよ」

「微妙に間を空けましたね。本当はそうなんでしょ?」

「いや、違う。霊夢は推しだからね。幸せになってくれたら嬉しいけど、隣に居るのは俺ではない。まあ、信じるか信じないかはあなた次第」

 

 結構上手い返しではないだろうか。霊華の疑問は解消するどころか増えた。

 

「次は俺。んーと、人里で知り合った殿方かな」

「へ?」

 

 霊華は素っ頓狂な声を出した。的外れだっただろうか。

 

「どうしたの?」

「いや、ちょっとビックリしました。全然違いますよ。人里で知り合った男性って八百屋のおじいさんとか精肉店のおじさんくらいですよ」

「んな馬鹿な! もっとこう……モテてもいいんじゃないの?」

 

 俺は人里で若い男二人が青い巫女について話していたのを聞いたことがある。容姿を褒めていて、声を掛けたがっていたので俺は彼らの足元に撒菱(まきびし)を創造しておいた。

 

『どうしてですか』

『なんか……あの人に取られたくなかった』

 

 取るだなんて、まるで所有物みたいな言い方になってしまったが、なんて言うのかね、独占欲が湧いてしまう。

 

『いいですね、そういう人間らしいところ。青春ですね』

 

 霊華は人里でも人気なんだけどなあ。

 

「ああ、でも何人かに声をかけられたことがありますよ」

「それってナンパってこと?」

「そんな感じですね。全部断りましたけど、15人くらいに言われています」

「モテるじゃん」

 

 よし、そいつらに釘を刺しに行こうか。文字通り『釘』を『刺』しになぁ! 

 

『やめなさい。嫌なら早く告白すればいいのです。この様子では知らない内に交際していますよ』

『嫌だ……嫌だよ……』

 

 告白する勇気がない。一緒に住んでいるのに告白して振られたらどうするんだ? 気まずいにも程がある。

 

『何度もアタックすればいいじゃないですか』

『高校の時、一回目で嫌われたことあるんですけど……それがトラウマなんです』

 

 嫌われて距離を置かれてしまった。あれは辛い。そんなことになるくらいなら今の距離感でいい。

 

「あの人達、誰でもいいんじゃないかなって。私である必要が無いんですよ。そういうの、嫌ですから。別にモテるわけじゃないんです」

「苦労してるんだね……」

「さあ、次は私ですよ。うーん、魔理沙は違う感じがするから……早苗はどうですか?」

 

 何故魔理沙が違うんだ? 可哀想じゃないか? 気になって尋ねると、

 

「魔理沙と話している時の神谷君って楽しそうにしてますけど、親友って感じがするんですよ」

「よく分かってるね。……早苗か。可愛いよね」

「やっぱり早苗が好きなんですか?」

「好きだけど推しよりの『好き』なんだよね。霊夢と同じだよ」

 

 霊華は困った顔をしている。ふふん、謎が増えて混乱しているんだな。

 

「人里の人じゃないなら俺が知っているのは叶夢と妖梨しかいないんだけど」

「その中にはいませんね。これ以上は内緒です」

「じゃあ博麗さんも次で最後ね。慎重に質問を考えて」

 

 俺がそう言うと霊華は真剣に考え始めた。「うーん」だの「待ってね」だの呟きながら考える様子を見て笑みが溢れる。俺の様子をよく観察すれば分かりそうなものだけどな。

 

「じゃあ聞きます。神谷君の好きな人、今日は会いましたか?」

「……なるほど。会ったよ」

 

 なるほどなるほど。これで俺の好きな人候補は霊夢、霊華、妖夢の3人に絞れた訳だ。中々上手い。俺が知り合った女性は紅魔館や永遠亭を考えると相当な人数いるから、一気に絞れるこの質問は正解と言えるだろう。

 

「じゃあ妖夢ちゃんだ」

「これ以上の質問は受け付けないよ。……叶夢の好きな人が妖夢だと思ってる」

「三角関係……?」

「まあ、そう思うのは自由だよ」

 

 話が一段落付いて互いに沈黙する。しばらく経って霊華は口を開く。

 

「そっか……好きな人がいたんだね……」

「意外だった?」

「うん。ずっと修行しているイメージがあるから、そういうの興味ないのかと思ってました」

 

 修行しているのは、君と一緒に居るためだよ。力をつけて、君を守りたいんだ。

 

 ていうか、バレてもおかしくないと思うんですが。でも、相手の好きな人が自分かもしれないって中々考えられないよね。そんなに自信があるなら回りくどいことしないで告白するだろう。

 

 ───────────────

 

 気がついたら添い寝する事になっていた! 誘ったのは私だけど、それは不安だったからで、それ以外のことは考えていなかった。実際に布団に入って初めて事の重大さに気づいたけど、開き直ることにした。神谷君に意識してもらうチャンスだ。

 

「あれ、神谷君。好きな人いるのに私と寝ちゃっていいんですか?」

「どの口が言うんですか。今からでも帰りますか? ここは俺の布団だからね、出て行ってもらおうか」

「ま、待ってください! ごめんなさい。寝させてください」

 

 そう言えばそうだ。私から言っておいて何を言っているんだ。なんなら神谷君は困ってたし……それをお願いして今に至るんだから今の言い方はない。

 

「神谷君は、私の事どう思っているんですか?」

「その質問は狡いねぇ。恋バナは終わったんだよ。2回戦に行ったら互いに心の内をさらけ出すことになるけどいいのか?」

「そういう意味じゃないんです。ねえ神谷くん、今緊張しているのは私だけなの? そんなに余裕そうに話して……私は……女の子として見られてないの?」

 

 何を言ってる。こんな質問、神谷君を困らせるだけだ。ほら、神谷君が驚いてる。この気まずい感じ、どうするの? 

 

 私自身も混乱している。私は神谷君のことが好きなのかどうかハッキリしていない。でも、今日会ってみて、好きなのかもしれないと思った。だけど、自分の気持ちを認めるのが怖い。好きだと思ったら緊張して上手く話せなくなりそう。そんなことになるくらいなら気が付かないふりをしたい。神谷君はどうなんだろう? 

 

 そう考えているうちに私の視界は滲んできた。本当に私は泣いてばかりだ。ここで泣くなんて卑怯だ。泣くな。神谷君を困らせるな。

 

 私の気持ちがぐちゃぐちゃになって苦しんでいると、神谷君は私の手を取って自分の胸に持っていった。

 

「俺も、凄い緊張してるんだよ。平気そうにしていたのは意識したらまともに話せなくなりそうだったから。博麗さんこそ、俺の事どう思っているの? ただの男友達? それならこんなことはやめて欲しい。一緒に寝るなんてするべきじゃない。人を信じすぎちゃったら痛い目に遭うから……何かあってからじゃ遅いんだよ」

 

 神谷君の心臓は私に負けないくらい早く脈打っていた。自分の脈が速すぎてちょっと触れただけでは気づかなかった。

 

 ──神谷君もドキドキしてたんだ

 

 そう思うと嬉しくなった。

 

「ただの友達だったらこんな事しないよ……自分でも分からないの。ごめんね……迷惑だったよね」

「迷惑じゃない! 迷惑じゃないんだよ。ただ……遊ばれているのかと思っていたから……」

 

 神谷君は私が困っていたり、怖くてどうしようもない時、いつも頭を撫でたり抱きしめてくれる。その度に私はドキドキしている。でも、神谷君は全然平気そうな顔をしているんだ。だから私は妹のようにしか思われていないんじゃないかって思う。

 

 そう思われるのは寂しい。私を()()()()()()()()()()()

 

 ──もうこれはどうしたって恋だよね

 

 最早、言い逃れはできない。胸がキュンと締め付けられる。

 

 胸といえば、私下着付けてないんだった! まさかこんな事になるとは。さっき事故で触られた時はびっくりした……。でも神谷君は気づいてなさそう。それならいいや。バレちゃったらちょっと困る。誘っていると思われたら嫌だから。そんな意図はないからね。それにだらしない子だと思われそうで怖い。

 

 かと言って離れるのは嫌。

 

 ──私、我儘だな……

 

「名残惜しいけど、そろそろ寝よう。明日早いからね」

「うん。おやすみ、神谷君」

「おやすみ、()()

 

 ──えっ!! 今私の名前を!? 

 

 何故か私に対してだけ名前で呼んでくれない神谷君が『霊華』って呼んでくれた……。嬉しいなぁ。

 

 私は歓喜のあまり目が覚めてしまった。だと言うのに、神谷君は寝息を立て始めた。目を閉じてスヤスヤと眠っている。可愛いな。

 

 私は彼の背中にそっと腕を回して抱きしめる。心臓がうるさいのは慣れてきた。

 

「おやすみ、神谷君。……好きだよ

 

 私は最後に気持ちを伝えた。神谷君は寝ているから聞こえていないだろう。それで良い。いつかちゃんと()()を伝えられたらいいな。




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