今回から第4章です! 話の雰囲気も変わってくると思います(タブンネ)
楽しんでいってください!
#74「解析する者」
これは神谷祐哉が幻想郷に来てから1週間後の話。
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ふう、やっと休める。
今日で5徹目の私は満身創痍。トイレで用を済ませた後、自動洗浄機に手を翳しながら、ぼうっと鏡に移る自分を見る。
自動洗浄機とは、虚空に手を翳すと菌を除去するレーザーを当て、その後アルコール消毒をしてくれる機械のこと。技術自体は半世紀ほど前から存在し、自動洗浄機が開発されたのは30年ほど前の話だ。
26××年。──国名「???」
私は12歳の少女であるが、とある研究機関で働いている。幼少の時からピアノやバイオリン等の楽器や英語、フランス語、中国語といった語学等の教育を受けていた。所謂英才教育というものだ。
6歳の時には既に高等教育レベルの知識と技術を身につけており、翌年の7歳の時には世界でトップの大学へ留学という形で進学した。飛び級制度を利用し、私はあっという間に
27世紀の今、私のような事例は珍しくない。21世紀頃に教育方法を誤ったことに気づいた祖国は、試行錯誤を繰り返し23世紀頃に漸く教育方針が完成した。実力を証明すれば相応の教育を受け、試験に合格すれば大人と同様に働くことができる。勿論これは義務ではない。同世代の者達と共に年相応の教育を受ける権利もある。しかし、そういった者は稀で、大体の人は働き始めたり、更なる勉学に励んだりする。私達のように英才教育を受けた者からすると、同世代の者等幼稚過ぎるからだ。
私が自動販売機の前に立つと、自販機の画面に「あなたへオススメ!」という文字列と共にオレンジジュースが浮び上がる。私はそれをキャンセルし、ブラックコーヒーを選択する。支払方法は虹彩認証だ。データベースに格納されている各々の情報の中には口座預金額も含まれており、虹彩認証はデータベースへアクセスするための鍵である。
今の時代では、数世紀前に流行したというカード払いは利用されていない。今やったように、虹彩認証を用いて本人のデータベースへアクセスし、自動で引き下ろされる。
私は自販機のそばに置かれた椅子に腰掛け、よく冷えた珈琲を飲む。珈琲に含まれているカフェインを摂取することで眠気を払うというやり方は数世紀前から変わらず続いている。
だが今の私は疲弊しすぎているのだろう、私の意識は次第に薄くなり、やがて眠りについた。
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そこは余りにも開放的な世界だった。
気がついたら私は違う世界にいた。何故そのようなことがわかるのか? 簡単だ。私はさっきまで研究所にいたのだ。時計は深夜を指していたはず。だが今は快晴で太陽が天辺にある。それだけでは無い。人々の服装は祖国の歴史に残る江戸時代後期、若しくは明治時代初期の物に該当する。
此処には科学の気配がない。必要な物は、発注すれば指定した場所に配達されるのが普通であり、それが世間の常識である世界にいる私からすれば、人が自分で野菜や肉を売るなど圧倒的未知の領域だ。
ところで、先刻から気になっているのだが、アレはコスプレだろうか?
背中から氷の結晶の羽を生やした少女や、精霊のような服装をした少女。大きな舌を垂らした傘を差して歩いているオッドアイの少女など、雰囲気的に浮いた者がチラホラ見受けられる。
「おー? お前見かけない顔だな! 新入りか?」
「うん?」
周りの人々を観察していると、誰かに声をかけられた。そっちを見ると、先程の氷の羽を生やした少女が居た。
「やあ、済まないが此処が何処なのか、位置情報……住所、緯度経度……何でもいいが教えてくれないかね」
「いちじょー? 住所……ここは人間の里だよ。記憶喪失か?」
「そうか。ありがとう。ところでキミのそれはコスプレか? 実に可愛らしい、まるで妖精のようだよ」
「あたいは妖精だよ。お前を氷漬けにすることだってできるぞ!」
ううむ。状況的に考えて、必ずしも嘘とは言いきれない。妖精になりきっている少女の線は捨てきれないが、意外と真実かもしれない。
「──遠い過去にいる」
「大丈夫かー? お前はヘンテコな服を着ているし、喋り方も変だなー」
「──なにっ!?」
「見たところ人間の子供なのに。天才に見えるぞ。まっ! あたいには遠く及ばないがね!」
私からすればキミは相当のアホだが。まあ、指摘する必要は無いだろう。それにしても話し方、か。ここでは子供らしさを見せた方がいいのだろうか。それならば私には演劇の経験もある。振る舞いを変えることなど造作もない。
自称氷の妖精と別れたあとも私は「人間の里」を散策する。「人間の」と言う割には非人間的な者が入り混じっているのが気になるな。服装は人間達と似ているが、雰囲気が浮いている。
──おお!
私はあるものを見つけて歓喜した。こんなにも心が踊ったのは何年ぶりだろう。店の前まで駆け寄り、入ろうとした時、あることを思い出す。
──この世界の通貨はなんだろうか? それに、さっきから人々は硬貨でやり取りしている。恐らくアレが現金払いというもの。困った。
私の世界では、IOT技術が進歩を遂げた結果硬貨は無くなっている。全て電子化されているのだ。
つまり私は一文無しということだ。口座には数千万の預金があるというのになんという事だ。
科学に慣れきった私がこの世界で生きていくのは非常に困難。一刻も早く元の世界に戻らなくては。
「君、どうしたの? 親とはぐれちゃったの?」
また誰かに話しかけられた。──こいつの服装も中々浮いている。何故ブレザーとズボンを身に纏っている。これは学生服だろう。
私は俯いて首を振ってみる。
「1人? どこから来たの」
「……おなかすいた。そこのお団子を食べようと思ったんだけど、お金持ってくるの忘れちゃったんだ」
「そうか、奢ってあげるよ。おいで」
本当にいいのか? よく考えろ。私の行動次第ではお前は誘拐犯になるんだぞ? 全く、考え無しの阿呆はこれだからダメなんだ。
──とはいえ、久しぶりに団子を食べられるのだから、感謝しよう。
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「お兄ちゃん、不思議な力を持ってるね」
「ええ? どうしてそう思うの?」
「隠さなくたっていいよ。私、頭良いから分かっちゃうんだ」
店に入り、団子を食べている間に私は青年に宿る力を感じた。間抜けそうに首を傾げているところから惚けているのではなく、自覚が無いのだろう。
──団子の礼に教えよう。
「お兄ちゃんの中には何か、凄い物が宿っているよ。それが何かまでは分からない。でも、とにかく凄い物!」
「そうだといいなあ」
──っ!
此奴、私を信じていないな。流石に他人の言葉を鵜呑みにする程阿呆という訳では無いのか。ならば。
──
「信じてないでしょ? 私が凄いってところ、見せちゃうんだから!」
──
解析が終わった時、結果が脳内に文章として浮かびあがる。
「お兄ちゃんの誕生日は8月8日。しし座。身長は170cm。体重は45kg……軽いね。恋人は居なくて、つい最近
へぇ。ここまで合ってる?」
何だ。オタクか。
「な、なんで……そんなことが……うわあああああああ!!」
「しぃっ! 声が大きいよお兄ちゃん!!」
青年は、黒歴史を暴かれた人の様に頭を抱え、悶えている。いや、こっちだってまさかオタクだとは思わないじゃない。確認しないで読み上げちゃったよ。でも、信憑性は上がったのではなかろうか。
「わ、分かった。信じよう。俺に何か凄い物が宿っているんだね?」
「そう。それと、お兄ちゃんは気づいていないけど特別な力を持っているよ」
私が「特別な力」という単語を口に出した瞬間、彼の目の色が変わった。真剣に、だが疑いの目を忘れずにこちらを見定めようとしている。そんな所だろう。
「お兄ちゃんの能力はね、物を作り出すものだよ。自分の力を消費して生み出せるんだって。凄いや」
「──ありがとうっ!」
青年は突然私の手を握ってお礼を言ってきた。何か悩んでいたのだろうか。役に立ったのなら嬉しい。
「お団子のお礼だよ。美味しいお団子を食べさせてくれてありがとう!」
これは誠の言葉。私が今まで食べたどの団子より
お兄ちゃ……青年と別れた後私は次の行動を考えた。どうやらここは
此処は人間と妖怪が住む世界。幻想郷。私は嬉しく思った。ここならば、
一先ずは「博麗神社」に行って元の世界へ帰ろう。
ありがとうございました!
前に、祐哉が「とある子」にアテナの存在(正確には、何者かの存在)と創造の能力の事を教えて貰ったと言っていたはずですが、漸く書くことができました。