東方霊想録   作:祐霊

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どうも、祐霊です。

今回の霊夢の様子が気に入っています。

楽しんでいってください。


#75「来訪者」

 幻想郷の巫女に頼んで元の世界へ返してもらった後、研究所の仲間達に幻想郷について話した。

 

「本当か? 菜乃花(なのか)。働きすぎでリアルな夢でも見たんじゃないよな?」

 

 この人の疑問は私を哀れんでいるのではない。その証拠に、彼は笑みを浮かべている。この人が嬉しそうにしているのは、私が見たものが真実なら、研究に希望が見えるからだ。

 

 私自身、ここまで心が踊っているのは数年ぶりだ。研究所に入って以来、喜ぶことはなかった。単純に、私たちの研究、幻想構築計画(Phantasm Construction Project)は難航しているのだ。

 

 プロジェクトの内容は名前から分かる通り、科学が発達したこの世界で失われた幻想を生み出すことを目的としている。幻想郷に存在した妖精や妖怪の類がまさにそれである。実在しないと証明されているため、資料は極端に少なく、中々歩みを進められずにいた。

 

「本当よ。疑う前に調べてみればいい」

「それなら私に任せてなの」

「うん。最初からそのつもりよ。菜乃葉(なのは)

 

 私たちの会話を聞いていた菜乃葉は、作業を一旦止めて作業用の椅子に深く座って()()。菜乃葉が突然眠る仕草を取ることは、この研究チーム内ではお馴染みの光景であるため、誰も指摘しない。数分の間待っていると菜乃葉は目を覚ます。

 

「あったの。幻想郷。ただ、存在が認知されているのは21世紀が最後みたいなの」

「27世紀の技術で幻想郷に行くには、21世紀にタイムスリップしてから捜索する形になるわけだが……菜乃花はどうやったんだ?」

「さあ、眠っていて、起きたらそこにいたわ」

「……まあ良い。上への推薦は俺の方からしてみるよ。菜乃花は一度休め。菜乃葉もだ。2人とも()を使ったんだ。疲弊していては効率が悪いからな」

 

 ───────────────

 

 私が幻想郷に行ってから二ヶ月の時が経った時、PCP(幻想構築計画)遂行のため、幻想郷に行く計画が発案された。綿密に計算し、あらゆる状態を想定して何度も試行錯誤を重ねた末に漸く出発の時が来た。幻想郷から戻ってきてから約半年経った頃だ。

 

 幻想郷に行くのは簡単だ。まずは21世紀にタイムスリップする。そして、幻想郷の位置情報を頼りに探し当て、結界に穴を開ける。時間移動の技術は既に開発されているため、そう難しいことではない。強いて言うなら、書類関係の手続きが面倒で、申請が認められるのに時間がかかる程度だ。

 

 

 

 私には幼少の時からとある能力を持っている。それが『解析(Analyze)』だ。解析したものは脳内に概念として出現し、それを文章化して読み取る。

 

 解析結果は私の知識には関係ないので、全く知らない単語やアルゴリズムが出てくることがある。その際は、双子の妹である菜乃葉の能力──『検索(Search)』を使う。妹の能力は解析と同様、本人の知識は影響しない。専用のデータベースにアクセスできる能力だ。

 

 27世紀の世では、能力が()()()()()。幼少の時に手術を行い、任意の能力が使えるメモリーチップを脳に接続する。購入するということから分かる通り、『解析』や『検索』は私や菜乃葉固有の能力ではない。

 

 ───────────────

 

 遂に幻想郷に足を踏み入れた。今は昼間のようだ。太陽の位置から時間を計算すれば、時刻は12時05分であることがわかる。

 

「この辺でいいかな」

「ええ。早速取り掛かりましょう」

 

 私は白衣のポケットから掌サイズのキューブを取り出し、天に放り投げる。するとキューブは強い光を発し、格納していた物を吐き出す。発光が終わると目の前に研究所が現れていた。

 

 計画の第一段階はこれで終了。

 

「さあ、客人が来るまでミーティングをしよう」

 

 私は新鮮な空気を身体いっぱいに取り込んだ後、研究チームのメンバーの後をついていく。

 

 ───────────────

 

 ──暇だなぁ

 

 霊華が祐哉と太陽の畑で逢引(デート)に出かけていった。やっと進むところまで進んだのかしら。二人の仲が単純な友情ではないことは前から気づいていた。この前の宴会に参加していた者の多くは勘付いたんじゃないかしら。

 

 魔理沙も来ていないため、博麗神社には私とペット二匹しかいない。元々一人で暮らしていたけど、他人と暮らし始めて半年も経つと流石に一人は寂しくなる。

 

 やることもないし……あうんはコロと遊んでいるけどまさかあの中に入る訳にもいかないしねぇ。

 

 突然、何か違和感を覚えた。

 

「この感じ……博麗大結界に何かあったのね」

 

 博麗の巫女である私は、幻想郷と外の世界の境界である博麗大結界の管理をしている。そのため、何か異常があると認知できるようになっている。

 

 ──丁度良いわ

 

 私は立ち上がって自室へ行き、陰陽玉に大幣と針、お札を準備する。

 

「あうん。今から出かけてくるから、コロを宜しくね」

「わかりましたー! お任せください!」

 

 ───────────────

 

 結界の穴は思っていたよりも小さく、私一人で修復できた。あまり大きなものになると紫の力を借りなきゃならないから助かったわ。さて、結界に穴を開けた犯人だけど……

 

「どう見たってこれでしょ。紅魔館の隣にあんな建物なかったもん」

 

 霧の湖の畔には元々紅魔館が建っていた。紅魔館の反対側に新しく灰色の建物が建っている。若干古びた見た目が「ずっと前から建っていますが?」と言っているようでムカつく。

 

 呼び鈴はどこにあるのかしら? もういいや、面倒臭い。

 

 私はふわりと浮いて門を越える。「ごめんくださーい」と、一言言えば()()()()()()()()()()。声はかけた。返事をしなかったのは向こうだ。

 

 庭と呼ぶにはあまりにも何もなさすぎるが、とにかく庭を抜けると扉までたどり着いた。呼び鈴が見当たらないため拳でノックしてみる。

 

 ──硬すぎでしょ。

 

 叩いた拳が痛い。うーん……困ったわね。いっそ夢想封印しちゃおうかな? これは何かしら。

 

 私は扉の横にある物体に気がつく。

 

 ──これは月に行ってアチコチ連れ回された時に見たものと似ているわね。10個ある小さな板(ボタン)を押せば自動で開く扉ね? 

 

 私は適当に板を押してみる。ビーッ! という不快な音がなる。

 

「ああもう! 面倒臭い! 開けなさいって入ってるのよ! 聞こえてんでしょ!? 早く開けないと無理矢理こじ開けるわよ!?」

 

 怒鳴り上げるが返事はないし人の気配もない。

 

「いいわ。──夢想封印!!」

 

 袖口から陰陽玉を取り出して夢想封印を使うと簡単に扉が開いた(壊れた)。凄まじい破壊音と共に埃が立つ。

 

「──本当はこんなことしたくないのに……そう。仕方ないのよ。だって開けてくれないんだもん」

「キミキミキミィ! ちょっと困るよ!」

「あー? アンタがここの管理人? いるなら返事しなさいよ」

「何なんだキミは! 突然人の敷地に入り込んできて。エントランスを壊して挙句の果てには文句を言ってくるとは……まさか幻想郷の住人は皆()()なのか? ったく、先が思いやられるなぁ! もう……!」

 

 中から現れた男性が頭を抱えている。

 

 ──やだ。この人、人間じゃない。ここは人間が住んでいる建物だったの? 壊しちゃった……。

 

「外の世界から来たのかしら? それなら八雲紫ってヤツに損害賠償請求してくれる?」

「クソガキがぁ! 調子乗ってんじゃないぞ! こっちは忙しいってのに邪魔しやがって!」

 

 男性は私の腕を掴もうとしてきたのでそれを避けた後、大幣で首を叩いて気絶させる。

 

「舐めないでよね。私が人間なんかに負ける訳ないでしょ」

 

 倒れた男性を床に寝かせ、奥に進む。

 

 ───────────────

 

 夜が更けて私の時間になった。昼間に騒いでいた蝉の代わりに鈴虫が鳴いている。

 

「あれかい? 咲夜。美鈴が言っていた不審な建物ってのは」

「左様でございます。門番によると、眠っている間に現れたとか……」

「出現の瞬間を見逃したということね。あとで仕置き確定だよ」

 

 建物の前に着くと咲夜が呼び鈴を鳴らした。幻想郷にはないタイプの呼び鈴だ。詰まる所()()は外の世界から来たという訳ね。

 

 呼び鈴から返事が聞こえた。咲夜が挨拶をして要件を伝えると門がひとりでに開いた。私たちは中に入って建物の入り口を目指す。

 

「ところで咲夜。霊夢はもう来ているのかしらね」

「どうでしょうか。案外、魔理沙かもしれません」

「どっちもやりそうだよねぇ。良くないよ本当に」

 

 建物の構造上、私たちは扉を潜る必要がある。だが、そんなことはしないで済むようだ。

 

「うん。実に開放的な家だね」

「斬新ですわ」

 

 この建物の扉があったと思われる場所には()()()()()()()()()()。どう見たって破壊された後だ。何故普通に入れないのだろう? 

 

 私の頭には犯人候補である、大幣を振り回している博麗の巫女と、帽子を押さえてニカっと笑っている白黒魔法使いが、目に格子縞(モザイク)がかけられた状態で浮かんでいる。

 

 魔理沙に至っては箒に跨ったままマスタースパークを放ってダイナミックエントリーを決めているシーンが様になりすぎる。ショートカットをするな、ショートカットを。

 

 やがて奥から、緑色のボサボサ頭で眼鏡をかけた青年が現れた。

 

「こんばんは。ようこそおいでくださいました。

 中へご案内します」

 

 青年に着いていくと応接間に到着する。席に掛けると随分と安物なカップに入った珈琲が出てきた。

 

「不味い珈琲しかないですが……すみません」

「本当に不味そうですわ」

「やめなさい咲夜」

「──! お嬢様! こんなもの飲んではいけません」

「大丈夫大丈──ぶっ!?」

 

 不覚。まさかこの私が人様の前で飲み物を噴き出すとは。想像していたよりも数倍不味い。味が薄いならまだ飲めるが、これは何だ、濃いではないか。それも濃厚という訳ではなく、粉が溶けきっていないような感じ……どんな豆を使えばこんな珈琲が作れるのだろう。

 

「咲夜。明日にでも美味しい珈琲という物を教えてやりな」

「畏まりました」

 

 ───────────────

 

 今度の客人はメイドと蝙蝠か。容姿からして()()()()のように話が通じない奴なのではないかと不安に思っていたが、比較的常識が通じるようだ。インターホンを押して正面から入ってきてくれるだけで十分である。あの巫女は無断で門を超えた挙句ドアを壊してしまった。ヤバい人は巫女だけだと信じたい。

 

 さて、客人の蝙蝠の方は吸血鬼のようだ。これについては簡単に教えてくれた。僕は仲間を呼んで研究チームの皆で観察させてもらった。興味津々に眺める仲間は感嘆の声を漏らし、自然な形で吸血鬼について情報を集めることができた。

 

「吸血鬼についてもっと知りたい。我々に血液を分けて頂けませんか?」

「ふふん、存分に調べるといいわ」

「お嬢様?」

 

 咲夜の止めが入るが、そう気にすることも無いだろう。私はメイドを無視して血を分けてやる。

 

 結局今日分かったことは何も無く、研究者の正体や目的は後日マスコミを通じて話すと言われた。まだ準備ができていないとのことなので、私達は一度撤退することにする。

 

 ───────────────

 

 二人が帰った後、僕達は床を睨んで吸血鬼の髪を探した。その結果、二本の髪とコーヒーから唾液を摘出することでDNAを入手した。うちの研究室の珈琲は不味いが、それを更に不味くし、敢えて吐き出させるように仕組んだ。

 

「さあ、今日も徹夜だよ」

「念願の幻想構築計画(PCP)成就の為だ。皆、頑張ろうぜ!」

 

 

 

 

 作業に取り組み始めて数時間後、()()()は突然現れた。

 

「こんばんは」

「うわっ!? なに!?」

「どこから入ってきたんだ!?」

「いつの間に?」

 

 金髪に見たことも無い派手な服装に身を包んだ女性。見た目は若そうだが何処か雰囲気が大人びている。

 

 ──この人はどうやって現れた? これが妖怪なのか? 

 

 テレポートだろうか。いや、もしかしたら、科学で証明できない力を持つのが妖怪なのかもしれない。解析してみたい……だがそれは菜乃花がやってくれる。僕の仕事は別にある。

 

「私は幻想郷を管理する者の一人、八雲紫。貴方達を招待した覚えはないのだけど、どういった御要件かしら」

 

 幻想郷の管理者だって? 思ったよりも早くに現れたな。交渉部隊の準備はまだできていない。どうするか。

 

「21世紀の世と繋がっている幻想郷に、近未来の技術が幻想入りするはずがない。そういえば、今日は大結界に綻びが生じたのよねえ。貴方たちがここに来たのも今日。……何か知らないかしら?」

「ここへは、ある目的があって来ました。それについては我々の上司からご説明致します。少々お待ちください」

 

 準備が完了していないと言っても、9割型完成しているという話だ。それならば交渉は不可能ではない。

 

 僕は棚から端末を取り出す。これは27世紀と交信する機器だ。機器を起動して数分後、通信が安定し始めた。

 

「お疲れ様です。現地の村田です。聞こえますか」

「こちら27世紀。お疲れ様です。聞こえます。どうしましたか?」

「幻想郷の管理者がお越しになられました」

「畏まりました。只今繋げます」

 

 ───────────────

 

「初めまして。私は『Institute of Life Science』、幻想生命科学部のリーダーであるエシックス・シディオと言う。ILSは日本語に訳すなら生命科学研究機構と言ったところだ。突然だが、我々は27世紀の者であることを告白しよう」

「初めまして。幻想郷の管理を務めている、八雲紫と申します。無理に日本語の通訳を使わなくても構いませんわ」

 

 リーダーのエシックスは21世紀でいうとイギリスに当たる国出身だ。今は2()1()()()の日本語に翻訳できる機械を用いて会話している。

 

「いや、構わない。どちらにせよ翻訳機を使わなくてはならないからね。21世紀と27世紀では言葉の訛りが生じる」

 

 因みに、幻想郷に派遣されたメンバーは皆、日本語を使える。留学する条件に世界共通語である英語の知識が必須になるのと同じ理屈だ。話せなければ現場へ行くことはできない。やっと掴んだ研究の手がかりという事もあり、皆、急いで日本語を勉強し始めた。結局、180名いる研究チームの中で僅か27名のみが採用された。そのうちのほぼ全員が日本出身である。

 

 21世紀と27世紀では微妙に世界が異なる。600年という期間は、江戸時代が始まって明治時代になってもまだ余る程に長い。そうであれば世界大戦は数度行われるし、世界地図を見比べてみれば所々違ったりする。また、国名が変わっていることもあれば、同じ英語でも微妙に異なることもある。同じ理屈で我々は「21世紀」の日本語を覚える必要があった。

 

 僕達の世界では日本はまだ存在している。だがこれは数ある平行(パラレル)の中の1つであり、全ての世界線に通ずることでは無い。つまり、日本が滅亡している世界線が存在する可能性があるということだ。まあ、それはどの国にも有り得る話だが。

 

「先ずは無断で立ち入ったことに対して謝罪を申し上げたい。結界に必要最低限の穴を空けさせてもらった」

「二度としないで頂きたいですわ。大結界(アレ)はそう簡単に穴を空けられるものでは無いのだけど」

「我々の時代では所謂『魔法』や『空想上の存在』を科学で再現できる。結界を感知し、穴を空けることはそう難しいことではない」

 

 それから、二人の会話が本題に入った。

 

 リーダーは自分達の目的──幻想郷の生態を調査すること──を伝えた。そして、幻想郷に派遣したメンバーを殺害等によって始末しても、別の部隊を送り込むと明言した。

 

 それに対し管理者は、三つの条件を提示した。

 

 まず、幻想郷から留学生を送り込む事を認めるなら相応の待遇を約束する。これはつまり、交換留学生だ。第二に、幻想郷に知識を与えないこと。ここまで聞くとリーダーは口を開いた。

 

「こちらに留学生を送るのは構わないが、それは知識を与えることにならないのか?」

「派遣するのは私が選んだ者。そして、その知識は本人と私だけが知る」

「成程。必要最低限の者にしか知識を持たせたくない、と。三つ目は?」

 

 リーダーが三つ目の条件を聞くと、管理者は少し間を空けた。

 

「交換留学期間はひと月。これを過ぎれば直ちに帰還すること。それでもいいかしら」

「心得た。契約書は紙面の方がいいかね」

「必要ありませんわ。契約違反が見つかれば直ちに送還しますので」

 

 その後、二人は細かい契約内容を話し始めた。幻想郷を調査するに当たっての注意点や、幻想郷側にも相応の情報を渡す事を約束させた。

 

 ──計画第二段階は終了だろう。順調だ。これで幻想郷で作業ができる。

 




ありがとうございました。
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