東方霊想録   作:祐霊

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お疲れ様です。祐霊です。

途中からめちゃくちゃ難しい話になります。理解できるように意識しましたが、頭が痛くなりそうだったら流し読みしてください……。今後の話にはあまり影響しません。


#76「27世紀までの年表」

「知ってるか? 紅魔館の隣に研究所が立ったらしい」

「ああ、噂では夜中ずっと電気がついているらしいな。昼間も活動していて、不眠不休かって騒がれてるとか」

 

 日課の階段駆け上りと素振りを終えた俺と叶夢は昼休憩を取っている。話題はつい最近現れた研究所について。“文々。新聞”によれば、霊華とデートに行った日に現れたらしい。

 

「挨拶代わりに異変でも起こすのかなー」

「いや、お前、そんな軽い感じに言うことか?」

 

 俺がボーッと空を見上げながら呟くと、叶夢にツッコまれる。

 

「建物自体そんなに大きくないし、何かあっても俺がレーザーを撃って破壊できる」

()()()()()()()()()ってか?」

「研究所から住民を守る党。略してK住」

「落選しろ」

 

 まあ、基本的には霊夢に任せておけばいい。あの子には解決の義務があるが、俺にはない。面白そうだったら首を突っ込むのは魔理沙や他の勢力と共通している。

 

「その研究所ですが、近いうちにイベントを開催するらしいですよ」

 

 妖夢が話に参加してきた。イベントを開くということは異変を起こす気は無いのかな? 随分と平和主義な勢力だな。皆取り敢えず異変を起こして注目を集めるイメージなんだけど。

 

「なんだよつまんねえな。今度の異変には俺も首を突っ込もうとしてたのによ」

 

 その発言では、異変解決側に回るのか、主犯側に加担するのか判断しづらいな。まあどちらにせよ、だ。

 

「下手に首を突っ込むと最悪死ぬぞ。俺達と向こうでは実力差が違いすぎる。向こうにとっての遊びは俺たちからすれば命懸けの戦いだ」

 

 “向こう“というのは、異変を起こした者たちと異変解決側の人間を指す。幻想郷の強者と何度か戦ったことがある俺が言うのだから間違いはないと思う。これまでの修行や戦いは全て叶夢にも話している。暇潰し感覚にこれまでのことを聞かれたことがあったからだ。というわけで、

 

「お前がそう言うならそうなんだろうな」

 

 こういう反応を示した。

 

 ───────────────

 

 一週間後、研究所主催のイベントが開催された。今日から7日間開かれるという大きなイベントである。内容は研究所の見学、一部成果の閲覧等ができるらしい。

 

 噂通り、研究所は霧の湖を挟んで紅魔館の反対側に建っていた。大きさはそれなりだが、なんせ比較対象の紅魔館が隣に建っているせいでそれほど大きくないように見える。とは言っても、博麗神社よりは大きい。

 

 ──白玉楼と比べたら可哀想だもんなぁ。

 

 外壁も灰色という、大きさも色も微妙な見た目であり、初見の人たちは皆一度立ちどまるのだ。「これ、思ったよりつまらなそうだな」と、連れと話し、「でもここまで来たのだから行こう」と言って中に入る。

 

 幻想郷の常識に慣れてきたとは言っても俺は外の世界の者。そんな俺からすれば寧ろコレ(何の変哲もない建物)こそが普通であり、常識なので何とも思わない。それは隣にいる霊華も同じらしい。

 

「普通って感じがして安心しますね」

 

 同感である。因みに今日のイベントはデート目的で来た。最近デートしすぎじゃないかと思うが、きっとそれは非リアの発想であり、リア充にとってはなんてことも無い普通のことなのだろう。──ちくしょう……! 

 

「どうかしましたか?」

「いや、入ろうか」

 

 今日の霊華はいつもの巫女服を着ている。ワンピースもいいけど、結局巫女服が一番似合うのかもしれない。

 

「ようこそ。列に沿ってお進み下さい」

 

()()()()()()()()()()()()()()()を潜ると案内人に従って並ぶ。どうやらグループ見学形式のようで、前のグループが部屋から出てくるのを待っているらしい。廊下は空調が効いているので、待つのは苦痛ではない。他の見学者も皆「涼しいね」と話している。

 

「ここって何の研究をしているんだろうね」

「気になりますよね。広告には何も書かれていなかったし……」

「建物ごと幻想入りする事なんてあるのかな?」

「早苗のところの神社は湖ごと来たんですよね?」

「でもあれって多分紫の力を借りているはずだよ。近未来の技術を研究している建物が自然にやってくるものかね?」

 

 霊華は首を傾げて少し考える。そして、周りを気にするように声を抑えて問うてきた。

 

「まさか、意図的に来たと考えているんですか?」

 

 俺は首肯して自分の考えを話す。

 

「まあ、目的が分からないし、紫がこんな建物の存在を許すとも思えない。俺の考えは多分間違っているよ。ありとあらゆる事象に意味があると思っているとドツボにハマる」

 

 くだらない会話をしている間に順番が回ってきた。10人グループで研究室に入る。中には見たことも無い機材で溢れており、それだけで客の心を揺さぶった。

 

 ──凄いなぁ、21世紀の技術を超えてないか? 

 

 学校の教室のように机が並べられていて、前面の壁にはホワイトボードが張り付いている。

 

 タブレットのような端末を操作している者もいれば、空中に浮いたディスプレイを眺めている者もいる。

 

 後ろから部屋全体を観察していると突然目の前にSFファンタジー系で見るような透明ディスプレイが現れた。スライドショーが始まり、研究所の解説を開始した。

 

「ここは生命科学研究機構、幻想生命科学科の研究所です。研究の目的や内容を解説します。また、これまでの成果を別室で紹介しておりますので、是非ご覧になってください」

 

 驚いた事に彼らは27世紀から来たらしい。なんてことも無いように語り出したため危うく聞き逃すところだったが、確かにそう言っていた。

 

 幻想生命科学科は、架空の存在を科学の力で生み出す研究をしているようだ。彼らは妖怪の生態を調べる為に幻想郷にやってきたという。そんな簡単に来れるようなところでは無いはずだが、6世紀も違うと簡単なのかもしれない。

 

 ──タイムスリップとかしてきたのかなあ。時間警察とか居ないのかな? 手続きが面倒くさそうだなあ。

 

 こういった、最新技術系の話は大好きなので、スライドショーはとても楽しかった。しかし、見学者全員がそうとは限らない。実際に多くの人は何を言っているのか理解できていない様子だった。

 

 幻想郷の文明は明治初期で止まっているはずだから、19世紀後半から数えれば7.5世紀先の技術を紹介されているのだ。理解できないのは当然だろう。実際、俺も全てを理解できたわけではない。

 

「何だか分かったような、分からなかったような……難しい話でしたね」

「でも凄いってことは分かったよね。まさか幻想郷で未来の技術を見ることができるとは思わなかった。外の世界に帰っていたら体験できなかったと思うと興奮するなあ」

 

 実は俺も開発者になりたいと思っていた。今では叶わない事だが。いや、ある意味では叶っているのだろうか? 創造の能力で色々造っているからね。

 

 スライドショーを見た後は研究成果の展示を見に行った。

 

「あれ、彼処だけ妙に妖怪が多いですね。なんだか賑わっているみたい」

 

 霊華の言う通り、展示物が並べられた部屋の一角に、まるで人間に餌を要求する鯉の様に集まっている。

 

 いや、そもそもこの展示室に人間が居ないな。言うまでもなく、彼処で盛り上がっている妖怪達のせいだろう。ここは安全が約束された場所ではないから、襲われても可笑しくない。

 

 不用意に妖怪に近づくことはせず、部屋の入口付近に置かれた物とパネルを眺めることにする。どうやら、今俺達がいるコーナーは21世紀から27世紀までに流行った物が展示されているようだ。そして、妖怪が集まって賑わっているコーナーには研究所の成果物が並んでいるのだ。

 

「これ、春の宴会で鈴仙さんが言ってたやつじゃないですか?」

 

 後ろから話し掛けてきた霊華の方を見ると、ショーケースの中に緑色の携帯電話が展示されていた。

 

「これは……自在に折り曲げられるケータイ? そういえば言ってたね。月でも開発されているんだっけ?」

 

 パネルには「22世紀に流行した端末」と書かれている。新しく開発された物質を採用する事で自在に形を変えられるようになったらしい。集積回路の更なる小型化に成功した為、余程のことがない限り大事な部品が折れることは無かったと書かれている。

 

「──だが、自在に変形できる機能は想定よりも需要が無く、三年程で姿を消した──。なんか、私達の時代にも有りましたよね」

「昔さ、ガラケーの画面を回転させられる奴あったよね。ケータイでもテレビを見られるようになった時代」

「懐かしいですね! あの後すぐにスマホが出てきて無くなっちゃいましたね」

 

 スマホが出てきてからもガラケーは発売されていたが、画面を回転させられる機能は廃止されていた。やはり需要がなかったんだろうな。だって、ケータイでテレビを見る必要が無いもの。N○Kに集金されるだけじゃん。

 

「あ! さっきの、宙に浮かんでいた画面は22世紀後半から普及したらしいですよ!」

 

 空中に映像を投影する技術は21世紀から開発されている。最終的に完成した物は小型の端末を置くと、指定した位置、大きさで投影してくれるらしい。パソコンのモニターを好きなところに置けるし、出力装置自体が小型端末なのだから、持ち運ぶことができる。プロジェクターとして利用することもできるだろうから、営業マンとかが使いそうだ。

 

「22世紀後半には、ノートパソコンが無くなったのか」

 

 いや、もしかしたら21世紀の中盤頃から無くなるかもしれない。タブレットが段々パソコンじみてきているからね。

 

 22世紀に仮想画面(ヴァーチャル・スクリーン)が普及したことから、身の回りの物が視覚的に大きな変貌を遂げた。

 

 家電ではテレビやパソコンが。また、防水加工の仮想画面端末が発売された為、庶民も比較的簡単に()()()()()()()()()()()()()()()()()。個人的にどうでもいい事だが、技術自体は素晴らしい。

 

 集積回路の更なる小型化に成功し、より性能を上げた()()()()()が普及したことにより、パソコンの性能も飛躍的に上がったようだ。

 

「RAMが4TB、ストレージが128TBのパソコンが15万円だって? ──因みに消費税は32%……!? 日本人大丈夫か!?」

「消費税凄いですね……。パソコンの方はどのくらい凄いんですか?」

「俺の世界の()()と比べると、1000倍以上の性能かな? 多分ね」

 

 この調子ならインフラ関連も成長しているんだろうな。『第5世代移動通信システム』──5G──なんてものじゃないだろうね。7Gくらいまで進んでいるかもしれない。そこまで来るともう訳が分からない。

 

「次は自動運転車か」

「完成したのは21世紀中盤なんですね。そのうち空を飛んだりするのかなぁ」

 

 自動運転車は2()0()1()8()年の時点でも高速道路を走る程度はできたはず。問題なのは、一般道路で歩行者が突然道路に飛び出してきた時等の緊急時の対応が難しいとか。それらの問題を解決できたのが2043年。43歳になったら外の世界に行きたいな。

 

 ──でも消費税高そうだな

 

「自動運転車、500万円ですって! 高すぎないですか?」

「マジか。買うのはお金を持っている高齢者かな? まあ、車が暴走したとかいう言い訳ができなくなるなら良いね」

「事故を起こしやすい世代が自動運転車に乗れるなら、確かに良いですね。免許返納もしづらい状況でしたし」

「言っても、免許取り立ての若い世代も事故率が高いんだよね。まあ、彼等はまだ成長するから多少はマシか?」

 

 何故22世紀の話から21世紀の話になっているのかと言うと、21世紀から27世紀までの発展歴史が展示されているところを22世紀から見てしまったからだ。21世紀の年表を抜かしていることに気づいて最初から見直している。

 

 残りの21世紀は「新幹線の最高時速が400キロに到達」くらいか。

 

 ──うん? 

 

「24世紀、脳内挿入型記憶装置の開発?」

 

 気になったので、解説の文章へ目を走らせる。

 

 ──高齢化社会が進むにつれ、認知症患者の数も急増した。平均寿命を伸ばす為の研究を辞め、記憶維持の研究を開始した。脳内挿入型記憶装置は、数種類ある記憶維持方法の一つである──

 

 解説を真剣に読んでいる俺を見て気になったのか、霊華も隣にやってきた。

 

 ──手術により、脳に小型機器を接続する。脳の神経細胞(ニューロン)から伝達する電気信号を用いて記憶情報(データ)を保存できる──

 

「遂に人間そのものをIOT化し始めたんですね」

「何だかなあ、そこまでして生きたくないな」

 

 技術は凄いけどねぇ。と続きを眺めていると、26世紀のコーナーに着いた。

 

 ここまで来ても、携帯電話のような存在は使われているらしい。仮想画面端末の軽量化や性能アップに力を注いでいるらしい。その為か、これといった新機器はない。あるのは、良く分からない機械が開発されたという情報のみ。

 

 ──そういえば、技術的特異点(シンギュラリティ)は来たのかな? 

 

 いや、さっきの研究を人間が行っていたのだから、到来していないのだろう。

 

「21世紀では自動運転、22世紀は仮想画面端末(ヴァーチャル・スクリーン)、23世紀から24世紀にかけて脳内挿入型記憶装置の開発をしているんですね」

「段々人間らしくなくなってきたね」

「まあ、私達から見ればそうですけど、逆もまた然りだと思いますよ。不便で不完全で愚か、とか」

 

 こちらからすれば、便利だが「そこまで生き長らえたいか? 人間!」だな。

 

「段々頭痛くなってきたな」

「未知の世界ですからね……情報が多すぎますよ」

 

 でも、未来を想像しながら年表を辿るのは楽しい。

 

「“25世紀では超能力の開発が開始された“」

「遂に来ましたね。でも、能力って開発する物なのかな?」

「“『脳内挿入型記憶装置(BISD)』を改良して、人間の演算処理速度を向上させる実験が行われ、良好な結果が得られた。ウイルス感染による『奇行や昏睡等(バグ)』が起こることを防ぐ為、全てのBISDはオフラインである“」

 

 そんなことしたってなあ、悪意を持った人がBISDを開発したらどうするのだろうか。

 

「“26世紀では、BISDが十分に浸透した為、比較的安価で手に入るようになった。これにより、自身の子供にBISDを挿入することが()()()()()()()()“」

「それってつまり、機械依存ですよね。何でもかんでもスマホに頼ればいいって言っている人と変わらないですよ」

 

 確かに。ヒトとして退化しそうだ。

 

 BISDを搭載することが当然になったということは、搭載していない世代との間に明確な処理速度の差が生まれる。安価とはいえ、全員がBISDを搭載できるとは限らない。貧困層は完全な劣等扱いをされるのだ。いよいよ嫌な世の中になってきたな。

 

「“27世紀では知識は買うものとされた。あらゆる知識はBISDにインストールすることによって、実質的に不滅なものとなった。受験生に人気が出た“」

「学校に行く必要あるんですかね?」

「書いてあるよ。──“BISDを使用した者と、しなかったもので区分分けが行なわれた。使用者は基本的には高等教育で修了し、未使用者の中で希望する者は大学に通うことができる“」

 

 BISD使用者は負け組か。成程、「貴方は知識をインストールできるのだから、勉強する必要は無い」という事だ。実際、学ぶ気がない者が学校に通っても、意欲のあるものにとって邪魔者でしかないのだから、間違いではないだろう。

 

「年表はこれで終わりですね。なんだかモヤモヤします。これからどうなっていくのかな」

「出来るかわからないけど、タイムマシンでも創造してみる? 時間警察とやらが本当にいるなら面倒くさいけど」

「流石に怖いのでやめておきます」

 

 良かった。流石に俺もタイムマシンの創造はしたくない。一発で造れるとは限らないのだから、失敗すればどうなるかわからなすぎる。なぞのばしょに埋まるかもしれない。

 

「私、21世紀に生まれて良かったな」

「俺も思った。なんか怖いよね」

 

 技術が進歩して便利になったのはわかるが、段々人間ではなくなってきているではないか。自分を人造人間にしてまで生きたいとは思わない。

 

 




ありがとうございました! 27世紀から来た研究者の世界の歴史を描写しました。如何でしたか。

世紀ごとの歴史を纏めておきますね。

21世紀:自動運転車
22世紀:仮装画面(ヴァーチャル・スクリーン)
23世紀:脳内挿入型記憶装置(BISD)
24世紀:脳内挿入型記憶装置(BISD)
25世紀:超能力開発
26世紀:子供に脳内挿入型記憶装置(BISD)を接続するようになった
27世紀:知識はインストールする物

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